どんな小さなことでもいいから「ほんとうのこと」がしたい。
そういった気持ちが心の中にある人はたくさんいるのではないかなぁ。と感じる。
『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』という本のなかで、著者の渡邉格さんは会社員として働いていた頃の気持ちをこんな風に表現している。
いつかは、今いる世界の「外」に出て、小さくてもほんとうのことがしたい。自分が正しいと思えることをして、それを生活の糧にして生きていきたい。
でも、「外」への出口が分からない。それで僕は、会社を辞めたくても辞められずにいたのだった。
いまのわたしと同じような気持ちだ。。。
わたしも、「ほんとうのこと」をしたい。
今いる世界の外へ出たい。
でも、その手段はどうしたらよいのか?
わたしには何ができるのだろうか?
わたしは、まだ出口が見つかっていない。
渡邉格さんは、その後「外」へ出る手段をみつけ現在は田舎で素敵なパン屋さん、「タルマーリー」を営んでいる。
「タルマーリー」の特徴が不思議でおもしろい。
・利潤を生まない
・営業するのは週4日で、年に一度は一か月間の長期休暇をとる
・酒種パン
・食材は、その土地で採れるものをつかう
・パンに使う小麦の一部は、石臼の製粉機で自家製粉している
まず、利潤を生まないで、週4日だけの営業で経営は成り立つの???どういう事なんだろう?
わたしは、どうして経営が成り立っているのか全く分からなかった。
けれど、読み進めていくうちに「なるほど~!!!」となる。
大学生の時に勉強した経済学の知識や、パティシエをしていた頃に先輩に教わった原価の計算方法を当てはめたら「タルマーリー」の経営は”成り立たない”という答えが出るけれども・・・。
「タルマーリー」では、そういった知識をあてにせず、彼らは「ほんとうのこと」を追求して利潤を生まない経営の仕方をしている。
そして上手くいっている。
とっても不思議だけれど・・・本を読んでいくと、それこそが真っ当なやりかたなんだ。とハッとさせられる。
「腐らない」という現象は、自然の摂理に反している。それなのにけっして腐らずにむしろどんどん増え続けるもの。それがおカネ。そのおカネの不自然さが、僕たちを「小さくてもほんとうのこと」から乖離させていく。
そのことに気づいた僕らは、おカネを腐らせ、経済を腐らせ、地域とつながって生きはじめている。その輪は静かに広がっていて、いつかは日本を、世界を変えるかもしれない。
また、パンの材料にその地域で採れた小麦や食材を使うのは、本当の意味での地域を活性化させたいという思いからなのだという。
「田舎」に暮らして5年あまり、「まちづくり」や「地域活性化」の名のもとで、「腐る経済」と正反対のことが行われている現実を何度も目にしてきた。地域の「外」から引っ張ってきた補助金で、都会から有名人を呼んで打ち上げ花火のようなまちおこしイベントをやってみたり、地域の「外」から原材料を調達して、地域の特産品をつくったりする。
これでは地域には何も残らない。潤うのは、イベントを仕掛けた都会の人たちであり、販促やマーケティングが得意な都会の資本だ。使われた補助金も、都会からやってきた連中のところへ流れていく。
「タルマーリー」が目指しているのは、地域の富を地域に留め、地域の豊かさを生み出す資源である人間の技能や自然に、経済活動から生まれる豊かさを還元すること。
つくって売れば売るほど、地域の経済が活性化し、地域で暮らす人が豊かになり、地域の自然と環境が生態系の豊かさと多様性を取り戻していくパン―—。
僕らは、地域通貨の発想を、パン屋なりにアレンジして発展させ、「利潤」ではなく、「循環」と「醗酵」に焦点を当てた、「腐る経済」に挑んでいる。