電子書籍の機能を使用するには、記事を購入してください
「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。 前回に続き、9月5日(月)に行われた、UEI代表取締役 清水亮氏との対談をお届けします。
後編の今回は、清水氏が今熱中している人工知能、ディープラーニングについて。人工知能、そして意識の本質とはいったい何なのか? 社会にどんな変革をもたらすのか?
なお、次回のニコ生配信は、9月26日(月)20:00。SF作家、山本弘氏との対談を予定しています。お楽しみに!
■2016/09/05配信のハイライト(後編)
- 本当に学べる学校とは?
- いい高校、大学に通って何になる?
- 人工知能が、知識階級社会を破壊する
- 頭の良さが無価値な時代に、価値を持つのは?
- もう人間の女と付き合っている暇はない!
- 人工知能で人間の仕事がなくなるのは本当?
- 人工知能には「あの日」が必要だ
- 人工知能にはランダム性が欠かせない
- 意識とは何か?
- 最初に仕事を失ったのは、人工知能研究者
- 私たちも人工知能かもしれない
本当に学べる学校とは?
小飼:日本の学校は、図書館も充実していません。
清水:図書館といえば、東京の図書館は本当にひどい。田舎の図書館は素晴らしいけど、東京では人が育たないと思いました。東京の図書館にはろくな本がない。そうなると、金持ちしか本を読めません。僕は東京の子どものために図書館を作ろうかと思ったほどです。
―――プログラミング教育とは別に?
清水:プログラミング教育の根幹って、図書館なんです。僕が子供の頃に勉強できたのは、学校の隣に市で一番大きな図書館があったから。そこには大学生しか読まない数学や工学の本も含め、想像できるすべてのジャンルの本があった。東京に来てさぞかし図書館はすごいだろうと思っていたんだけど、読むべき本が何もない。しかも田舎だと大学の図書館に誰でも入れるけど、東京では国立大学も含めて部外者はシャットアウトですよ。
小飼:確かに日本の図書館はかなり見劣りします。米国の大学図書館は24時間使えて、ちゃんと警備の人もいる。
清水:東京の図書館は、子どもと老人の暇つぶしの場所になってしまっている。児童書とかはたくさんあるけど、プログラミングをやりたい子どもが読める本なんて何もありません。寄付して回りたいくらいだけど、ニーズがないと言われて断られる。
プログラミング教育のミソが何かと言えば、プログラミングは独学だけで充分勉強できるということ。つまり「知恵が身につく」ということです。学校で学問的背景があやふやな先生から一方的に押し付けられ、クイズ形式の期末テストで問われる「知識」ではなく、実際に自分の能力として獲得し、応用できる「知恵」を身に付ける方法が、プログラミングを学ぶということなのです。
小飼:結局、学校は学ぶところというより、「ここでは学びきれない」ことを自覚するためのところじゃないかな。
清水:僕は28歳になってから、東京大学大学院の履修生になりました。もともと全然期待していなかったけど、実際には東大の講義はめちゃくゃ面白かった。自分の通った大学でこんな講義があったら、もっと通ってましたよ。その時に学んだ5、6単位の講義は今でも僕の宝物です。 僕の通った大学では、それぞれの先生は自分の専門分野をざっと流して終わり。それじゃあその学問の面白さは伝わってこないですよ。
小飼:それはあるかもしれない。建前としては、どの大学の単位も同じことを学んだということにはなっているけど。いい大学とそうでない大学の差は、ちゃんと基礎を教えてくれるかどうかですね。
清水:東大くらいの学校だと、先生がちゃんと自分のやっていることをその学問の歴史の中に位置づけている。自分の功績の自慢も含めて、ちゃんと体系的に教えてくれる。そうなって初めてすべてが輝いて見えてくる。大学院の講義はちゃんと役立つことを教えてくれるから、みんなもっと大学院には行ったほうがいい。ただ、学部からそのまま大学院に行くと、ありがたみがわからない。一度社会に出てから、戻ってきて博士号を取るとか。世の中がどうなっているのか知らない状態で大学に残り続けてもちょっともったいない。
小飼:高校の次にいきなり大学というのは、文字通り10年早いのかもしれない。
清水:社会の理不尽さとか知ってから大学に入るとものすごくありがたみがあります。明治時代の大卒者は偉人がやたら多いけど、あれは社会で苦労してそこから大学に入っているからじゃないかなあ。
小飼:本来であれば、高校を卒業したら社会に出て働けるというのが建前になっている。だけど、進学校はそういう建前すらない。無条件に大学に進ませようとする。
いい高校、大学に通って何になる?
清水:僕がショックだったのは、こんなに勉強が嫌いな自分でも、いい高校に行きたかったということ。なんだろう、勉強する学校に行きたいと思った。大学にいかないといけないと思い込んでいた。僕でさえですよ。それは、日本が根本的に持っている病理かもしれない。
小飼:日本だけではないと思います。
清水:僕自身、中学2年生の時に勉強ができなくて泣いたことがあります。模擬試験の結果を見ると、その地域で一番下の高校にすら危うい。誰でも入れる高校にすら自分は行けないのかと思ったら、子供心に不安になったんです。でも、そういう不安を煽る環境が周りにあるんです。親とか。いい大学に行かないと、お前の人生はダメになると絶えず言っている家庭の子どもはすごいストレスを感じているし、それがはたして本当に子どもにとっていいことかどうかわからない。
小飼:「成績が悪い」と子どもを責める親が、子どものテスト問題を解けるわけではありませんしね。
清水:教育は社会全体の問題です。今コメントで「もっと勉強しろと言ってほしかった」と出たけど、「じゃあ、勉強をしたら何ができたのか」とも思います。成績を上げていい高校に通って、東大に行って、何になるんですか? 弁護士? 官僚? 医者? 医者になりたいなら、東大に行かなくてもなれる。医療の現場で働きたいなら、看護士になればいい。要は、もっとカネがもらえるとか、尊敬されるとか、モテたいとか、自分の欲しかないわけ。自分の欲と真剣に向き合った時、けっこう低いところでバランスって取れるもんですよ。
小飼:実際のところ、いい大学のいい卒業生は、いい会社の雇われになりますよね。中卒の人に顎でこき使われる立場になる(笑)。
清水:カドカワ社長の川上さんが前に言っていましたが、彼の欲望は月60万円あったらすべて叶えられるそうです。プラモデルとゲームを買って、友だちと飲んで、家に帰る。それ以上は過大だしいらないんだと。昔から彼のことを知っているけど、彼は基本的に贅沢をしません。移動も電車だし。彼は私利私欲がほとんどない。限定放送でわざわざ上司を褒めるのも気持ち悪いけど(笑)。
―――みんな過剰な教育投資をして、いらないことを学びに学校に通っていると。
清水:漸化式を覚えてどうするんですか。使っている人を見たことがない。
小飼:すみません、僕は数学のライブラリを何度も書いているんで、そこでは漸化式はマストです。
清水:99%の人の話をしているんです(笑)。僕もみんなにベクトルを覚えろとは言いません。要は、好きなことをやっていればいいんですよ。そのときたまたまベクトルを使ったほうが便利じゃん、ということが分かればそれでいい。
小飼:うちの娘たちは、ちゃんと学校に通っていて偉いなと思う反面……。
清水:お父さんを見ていて不安なんじゃないですか。不安の裏返しとしての手堅い人生の選択。
―――プログラミングだったらいいかもしれないですけど、その他の職業ではそうはいかないこともあるのでは?
清水:僕は何でもかんでも結局は練習量だと思うので。家でマッチ棒で姫路城を作っていても、それはそれで何かの役に立つかもしれないじゃないですか。
小飼:いいYouTuberになれるかもしれない。
―――今の時代、みんなと同じことをするのはリスクですよね。
清水:同じ山に登ろうとすると、そこにはたくさんのアリがたかっているから。違う山には人がいないから、簡単に頂上に行けます。
小飼:いわゆる「いい学校」は、最初からできる子を集めて卒業させているわけでしょう。それのどこがいい学校なんだと僕は思う。
―――美大もそうですよね。ものすごく絵がうまい人でないと入れない。
小飼:西原理恵子と同じ画力の人が、卒業する頃には安彦良和の画力になっているなら、それは正しい学校だと思う。
清水:学校に期待される幻想はそうですよね。
小飼:僕はまだまだ学校に幻想を抱きすぎなのでしょうか(笑)。
清水:僕は、頭の善し悪しと、顔の美醜とか運動能力とかは同じくらい遺伝的に決定されていると思っています。誰も大学に入ったらオリンピックに出られるとか思っていないけど、頭の悪い奴が生まれつきいるんだということはタブーで言ってはいけないことになっている。
小飼:それはあります。逆に、努力で何とかなるんだから、できない人は努力不足だと責めていいことになってしまっている。
清水:そういうピラミッドで社会ができてしまっている。
小飼:ブスやデブは言ってはダメだけど、バカと言ってもいいというのはおかしいよね。
人工知能が、知識階級社会を破壊する
清水:実は人工知能は、その壁を壊すんです。
―――どういうことですか?
チャンネルに入会して、購読者になれば入会月以降の記事が読めます。
入会者特典:当月に発行された記事はチャンネル月額会員限定です。
当月に発行された記事はチャンネル月額会員限定です。
-
次の記事これより新しい記事はありません。
-
前の記事2016-09-12 07:00:00小飼弾の論弾 #16「ゲスト対談:UEI清水亮氏(前編):落ちこぼれが天才プログラマと呼ばれるまで」