豊臣勢の中でも独特の存在感を放つ加藤清正。
新井浩文さんの作り出す空気感の背景とは?
『真田丸』において、清正は常に豊臣家のために行動をしています。第16回「表裏」で茶々のお気に入りであった馬廻(うままわり)衆の立花権三を暗殺しますが、これは秀吉を中心とした豊臣家のバランスを保つためには何が最善であるかを十分に考えたうえで、行動した結果です。秀吉の死後は反・三成派としての行動が目立ちますが、やっぱり暴走する三成を止めてあげたいという思いもあったからじゃないでしょうか。正則らと一緒になって三成を襲撃した時も、先頭に立つ正則とは違い、清正は一歩引いています。そんなに乗り気じゃないんですよ。寧から家康を守るようにと言われていたし、清正を取り巻く人間関係の中で、そうせざるを得ない状況になっていたのだと思います。
『三国志』は大好きで詳しいのですが、戦国武将はほとんど知らず、加藤清正については名前を聞いたことがある程度でした。演じるうえで、いろいろ調べてはみましたが、諸説あって、どれが正しいのかわかりません。でも、それが歴史の面白さなんじゃないかなと思っています。「あんなの清正じゃない」なんて飲み屋で言われたこともありますけれど、その人が思っている清正像から外れてしまっているから、そう言われたのでしょう。“自分の清正像がある”というのは分かりますから。
どんなに愛想なく対応されても、何度でも食い下がりますから、清正は三成のことが本当に好きだったんでしょうね。「飲もう」と誘ったり、「腕相撲をしよう」と持ち掛けてみたりと、三成に対して一方的に愛情をぶつけていますから。ただ脚本を読むと、そのような行動をする清正の気持ちも分かる気がします。第34回「挙兵」で、佐和山への蟄居(ちっきょ)を命じられた三成が、清正に話をしたいと耳打ちするシーンでは、2つの驚きを表現しました。ひとつは「こいつ、まだやるの?」という驚き、もうひとつは「それを清正に頼む?」という驚きです。三成に言われて豊臣家を守るという思いが一層強くなったかもしれませんが、清正の立場は最初から最後まで一貫しています。主君は秀吉であり、後継は秀頼だけで、家康ではありません。
『三国志』は大好きで詳しいのですが、戦国武将はほとんど知らず、加藤清正については名前を聞いたことがある程度でした。演じるうえで、いろいろ調べてはみましたが、諸説あって、どれが正しいのかわかりません。でも、それが歴史の面白さなんじゃないかなと思っています。「あんなの清正じゃない」なんて飲み屋で言われたこともありますけれど、その人が思っている清正像から外れてしまっているから、そう言われたのでしょう。“自分の清正像がある”というのは分かりますから。
初めての大河ドラマ出演でしたが、いろいろと難しさも感じました。年齢や土台、芝居に対するアプローチの仕方などが、俳優個々で違います。うちみたいにさらっとした現代的な芝居は、時代劇を数多く演じてこられた方や、ご覧になっている方からすれば、「下手だ」とお思いになるかもしれません。でも監督に相談したら、「新井さんは新井さんでいいです」と言ってくださったので、うちのスタイルで清正を演じさせていただきました。「演技って難しいな」って思いましたね。
芝居に関しては、まず脚本ありきで、監督と相談しながら役を作っています。「清正として役を生きる」なんてことは、全くありません。役を生きるタイプの人は憧れも含めて「ちょっと格好いいな」って思いますが、役にのめり込んで、実生活から変えていくような俳優にはなれません。そもそも時代劇で「役に徹する」なら、まず髪型を変えるところから始めなければならないだろうし(笑)。例えばボクサーの役が来たら、目に見えてわかるという部分でボクサーの体型を作ることはします。けれども内面的なものは、脚本や、監督が決める事です。うちは要求された人物像をそのまま表現するのが、俳優の仕事だと思っています。
表現のために人間観察をするかと問われれば、それはもう昔からやっているので、習慣的にしてしまっています。先輩方の話を聞いていると、行き着くところは何かといえば、“人間力”という話になってくるんです。そして、その“人間力”がどうやったら磨かれるのかといえば、“日常”なんですよ。だから、どんなに嫌な奴の役をやろうが、その人がいい人だったら、普段の空気感がどこかに出てしまう……そういうのってあると思うんですよね。
例えば、仲のいい俳優同士が仲のいい役をやると、ものすごくその空気感が出ます。逆に仲の悪い俳優だと、仲良い役のはずなのに嫌いな空気感が出てしまい、見ている方も「あ、絶対にこの人たち仲悪い」って、分かるんじゃないかと思っています。だから普段の空気感が大事だと考えているわけですが、何が正解かは分かりません。結局、自分が好きなことを、好きなようにやっています。
第一線で活躍している俳優さんは、人たらしというか、なんか魅力的な人ばかりですよね。やっぱり、魅力がない俳優は使われないと思うんですよ。色気や毒気、まっすぐさとか、何か引っかかるものがあるからキャスティングされるわけじゃないですか。たぶん、それが“人間力”なんだろうなと思っています。
『真田丸』でも、たくさん魅力的な俳優がいますが、中でも共演シーンが多かった石田三成役の山本耕史さんからは、所作をはじめ、たくさんのことを学ばせていただきました。主演の堺雅人さんは、2本の映画でも共演させていただいていますが、やっぱりすごい人です。「ついて来い」と口にするのではなく、無言で引っ張っていくタイプで、皆が動きやすいよう振る舞い、さりげなくアドバイスもしてくれます。きちんと周囲を見ている俳優さんです。
脚本の三谷さんは俳優のイメージに重ねた「あて書き」をすることが多いと言われていますが、うちに関しては清正との共通点は全くないです。そもそも酒癖は悪くないし、酒強いし、品のある飲み方をしていますから(笑)。
『真田丸』でも、たくさん魅力的な俳優がいますが、中でも共演シーンが多かった石田三成役の山本耕史さんからは、所作をはじめ、たくさんのことを学ばせていただきました。主演の堺雅人さんは、2本の映画でも共演させていただいていますが、やっぱりすごい人です。「ついて来い」と口にするのではなく、無言で引っ張っていくタイプで、皆が動きやすいよう振る舞い、さりげなくアドバイスもしてくれます。きちんと周囲を見ている俳優さんです。
脚本の三谷さんは俳優のイメージに重ねた「あて書き」をすることが多いと言われていますが、うちに関しては清正との共通点は全くないです。そもそも酒癖は悪くないし、酒強いし、品のある飲み方をしていますから(笑)。