挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
【ปรัชญา world's δημιουργία】 作者:うろちょろカブトムシ
16/23

16水色の少女

ブクマが1000件超えました!
感想も貰えました!
ありがとうございます!

あと、感想で誤解されそうだな、と思ったことがありましたので、書かせて頂きます。

《容姿・体型について》
・1話でも凄いさらっと書きましたが、容姿と体型だけは課金で直せることになっています。ただ、その場合は初期装備が課金アバター専用のものになるなどの、ランダムプレイヤーに比べてハンデにも似た制限を受けることになります。
・ランダムによってリアルより醜悪な人の顔になることはありません。


 貴族の儀礼にのっとって名乗ればS・W・ミーネミニチ。

 親しい関係同士で名乗ればシルル・ウォンレット・ミーネミニチ。


 これが俺に与えられたプレイヤー名だった。


 薄汚い外套に身を包み、フードを被りベンチに横たわる。なんでか知らないがゲームスタート時から体が全く動かない俺は、先程から周りのプレイヤーに奇異の視線に晒されていた。

 そりゃそうだ。俺だってこんなボロ雑巾みたいな奴がいれば嫌でも目が引きつけられる。

 体は動かないが腕は動く。外套の一枚下に入れられていた『設定手帳』を読み、俺はただひたすらに誰かを待っていた。

 こんな有様なのに、不思議とゲームを止めようと思うことはない。こんな設定なのに、何故か待ち続けることができる。

 誰を待っているのか、なんで待っているのか。

 俺にも分からなかった。ただ、その待ち人は今いる周りで俺を見ているだけのプレイヤーでないことは確かだった。

 ボロ布に身を隠す堕ちた蝶。

 なんと皮肉の効いた状況だろうか。ランダムだろうがなんだろうが知らないが、俺の現実を知っているとしか思えない。

 薄っぺらい個性に小さな身を押し込む脆弱な自分。



 ああ、早く来てくれ。救ってくれ。笑わせてくれ。

 おちゃらけてくれ、眠らせてくれ、慈しんでくれ。



 ────────誰か!!



「コノカさんよぉ、この子、プレイヤーだよな?」
「でしょうねえ。ギアリーは今日は床寝決定ですね」
「ファッ!?」


 上で声が聞こえた。

 俺は、

 決まり切ったことであるかのように、意識を失った。




 ー・ー・ー





 朝です。僕は多くのゴブリンをスプラッタにして、無事宿屋へと帰り、寝ることができました。つまり、僕はもう壁の中のオーパーツになる事はないということだ。



 あ、そうそう。賭金は同じ空間で寝ることと言ったな。あれは嘘だ。 ……いや、少し違ったと言い直そう。



 僕は、コノカと同じ布団で寝たのだ。


 ……勿論そこに色気だった意味はなく、背を向けあって添い寝しあっただけだが。だけ?いや、それは違うな。それでも嬉しいもんは嬉しいし、夜中の寒い時間に背をお互い向けたまま、布団を取り合うということをしただけで、もうテンションマックスだった。つーか、添い寝し合うことを『だけ』で済ませられる人生送っているわけがなかった。


 え?キモい?楽しんだもん勝ちだボケ。


 ここで、問題となるのは僕がキモいか否かではなく、何故僕らが同じ布団で夜を過ごしたか、ということだ。

 それは、昨日の帰り道、僕らがベンチで苦しむプレイヤーを拾ったことに起因する。

 体は震え、涙を流し、下半身が不自然に硬直している。
 そんな状態でボロ布に包まれたプレイヤーがベンチに横たわっていたというわけですよ。
 それを見過ごしたとあった日には夢見も悪いというもので、なにしろそれは、寧ろ僕らが通るまでよく他のプレイヤーは助けなかったな、というレベルの光景だったのだ。

 ということで、それを見た僕らは互いに目配せした後、僕の執事スキルで最高の抱っことお運びをして部屋へ連れ帰り、持ち帰ったはいいものの、夜も遅くどうしようもないので僕の寝る予定だった布団で寝かせたわけです。

 普通ならここで、じゃあ僕が床で寝るから、となるところだろうが、うちのコノカさんはそんじょそこらの二次ヒロインとは違う、安いっぽいエロゲもびっくりの発言をみせたのだ。……いや、エロゲなんてやったことないけどね。所謂、慣用表現というやつである。



「じゃあ、私たちも寝ますよ。ギアリーは私の隣でいいですよね」




 もちろん断らなかった。コノカが断ることを前提で冗談を言った可能性を全く考えなかった、というのは真っ赤な嘘であるが、僕は迷わずその提案にゴーサインを出した。出させていただいた。
 当たり前だよね。現実じゃまずありえねえ光景なんですよ? アメリカンドリームよりも僕はこっちを選ぶ自信があるね。


「ん……んぅ」


 今もなお隣で寝息を立てるコノカ。派手な和装もキャストオフし、ラフな白色の着流しを着ている。着流しという崩れやすい危なげな格好なはずなのに、残念ながら胸元を含め全くキャストオフしていないので、僕の僕はキャストオフしていない。

 流石に起きて尚同じ布団にいるのはまずいと思い、いそいそとベットから降りた。ここでも【気遣い】が働いたのか物音ひとつ立てずにベッドから出ることができる。このスキル、いろいろと有能すぎる。
 僕はそして、ベッドそばにかけてあったワイシャツ、ベスト、燕尾服を羽織ると布団の中でついたズボンのシワを軽く伸ばした。

 僕の寝る予定だったベッドを見ると、昨日と違わず黒いボロボロの外套に身を包んだプレイヤーが寝ている。顔まで外套で隠れて見えないそいつは寝苦しそうに体を動かそうとしたが、やはり上手くいかないのか辛そうにしていた。体の硬直のせいで寝返りも打てなかったらどうしようかと心配したが、若干、彼の位置と向きが変わっているところを見るとそこは大丈夫だったのだろう。僕はプレイヤーにそっと近づきプレイヤーの体反転させるとを話しかけた。

「おはよう。起きてたらコノカを起こさない程度に返事をしてくれ」
「……ぉはよぅ。……。……まなぃ。うまく、口が、動かな……んだ」
「あー、じゃあどっか動くか?動く部位の単語でいいから返事をしてくれ」
「……ょうぅで。口。お腹、上、辛いけど、ぃける」


 両腕と口は動く。上半身は全体的に辛いながらも動ける、と。難儀なプレイヤーもいたものだな。運営の悪意が僕以上に集まっているのではないか。

「そうか。じゃあベタだけど『はい』は指で1タップ、『いいえ』は2タップで答えてくれ」

 1タップ。

 ……うん。飲み込みが早い奴は好きだ。俺の顔を受け入れてくれる奴が多いからな。

「あなたはプレイヤーか?名前は分かるか?」
 1タップ。そして弱々しく聞こえるシルル、という名乗り。

「オーケー。シルル。あ、脳まで同じ状態ということはないと思っていいんだよな?」
 1タップ。

「じゃあ、質問を始めるよ。シルルは何も悪くないことは自分でもわかってると思うし、もしも僕の口調が責めているように感じたらそれはただの誤解だからよろしく。では。……シルルは何者かにあの状態にされたのか?シルルは昨日から始めたプレイヤーか?」
 2タップ。1タップ。

「じゃあ、ゲーム開始時点からあの状態?」
 1タップ。

「昨日の意識がある最後の時よりも、体は良くなってる?」
 1タップ

「そのうちに僕たちと同じ状態まで回復しそう?あと、自分のあの状態についてなんか説明できそう?」
 ともに1タップ。

「……そっか。おけおけ、じゃあ治るまでここで寝とけ。多分シルルも僕と同じで始まりにハンデがあっただけだ。その内楽しくプレイできるようになるから安心しろなー」

 僕は黒い外套を被ったままのシルルに近寄り、布団を被せ直す。

「んじゃあ、僕はシルルの分の朝食を持ってくるから、ちょっと待ってて。辛かったらコノカが起きても寝たふり通していいから」

 シルルから離れ、コノカが寝てるのを確認する。この宿では嬉しいことに賄いが出るがルームサービスと呼べるものがないので、朝食を取りに行くことにする。シルルのためにできるだけ食べさせやすい物がないか聞こう、と考えながら僕は部屋から出て行った。



 シルルと呼ばれるプレイヤーは始めたばかりなのに自分の境遇を知っていた。開始時点で腕以外が動けないのに、だ。……誰かに聞かされたのか。それとも……。

 まあ、戻って聞けばわかることだ。何の伏線にもならないことを考えている暇があったら何か食わせてやるべきだな。伏線をやたら立てるのはそれ自体が死亡フラグとなる。レトロゲーから最新のゲームまでこよなく愛する僕が悟ったことの1つだ。うん、気を付けよう。



 ー・ー・ー



 宿主さんに無理を言ってスープにふやけさせたパンのようなものを用意してもらい、僕が部屋を開けるとそこには、うつ伏せで動けないシルルを踏みつけるコノカの姿があった。


「……え?なにその趣味」
「あまり変なことを言いますと、今日からここに泊めませんよ?……おはようございます、ギアリー。私は忙しいので手に持った食料を置いたら手伝ってください」


 コノカは憮然とした姿でシルルの上に立っている。何が何だか分からないがここは言いたいことをぐっと抑えて、パンのようなものを置き、シルルのいるベッドへ近づいた。

「おはよう。……えーと、コノカさん?」
「何ですか?」
「なにをしていらっしゃるので?」
「実験です!」

 ほほう、実験ときましたか。弱った人を踏みつける実験って、一体何なんですかね?ちょっと、ギアリーからの株は降下気味ですよ?
 コノカは僕の攻めるような目線に気付き、慌てて弁明をする。

「……言葉足らずでした。ごめんなさい。私はこの子がどこまで感覚があるのかを確かめていたのです。今は腰に強く圧をかけたら感じるかの実験でした。因みに下半身の感覚は正常にありましたよ。こうして柔らかく圧をかけてくと、気持ちよさそうにしてましたし。おそらく神経系には何の問題もありませんね」
「なーんだー。ギアリーはてっきりコノカさんがついに本性を現したのかと思ったよー」
「いったいどんな本性を持っていると私は思われていたのでしょうか……」

 まあ、コノカのやりたいことはわかったが、シルルの中身がおっさんかもしれないのにようやるな、と思いました。いや、僕も同じことを思いついたら迷わずやるけど、コノカは女性プレイヤーだ。性差別という言葉はさておき、分別、適材適所ってものがあるだろうに。

「言ってくれれば僕がやったのに」
「え?僕がやるって、ギアリーはどこぞの変態さんですか。私の寝込みをどうこうしなかったので流石執事さんだなぁ、と思っていたのですが、がっかりですよ」
「ちょっと言ってることがわからない。なんで僕がやると変態さんになるんだよ」


「いや、だって、ねぇ。この子、女性プレイヤーですよ?」



 ピキ

 ……何かが固まる音がした。


 それは凝り固まった僕の固定観念が壊れた音だったのかも、知らない。


「え?え?シルルがですか?え?まじですか?」
「まじですよ。この、シルル?さんはどう見ても女性じゃないですか。いや、体つきからすると女子かもしれませんね。ギアリーは昨日だっこした時になにも思わなかったのですか?」
「……小さくて軽いと思ったけど、見るからに不健康だったからあまり食べてこなかったのかな……と」

 よく考えてみればそりゃそうだ。これはあくまでもゲームであり、キャラクターの体型・顔面はなるべくリアル準拠だ。こんな小さく柔らかい体の中身がおっさんなわけがなかった。
 本当になにを言っていたのだ僕は。

「……女性プレイヤーだったのか。ならもっと看病にかこつけて触っとけば良かったな」
「ギアリー、声に出てます。あとシルルさんの指が高速でタップを刻んでいるのはなんの意味があるのですか?」

 多分それは、絶対に嫌だ、という意味だと思う。

「コノカが起きたなら、コノカがやればいいか」
「何をですかー?」
「この子に食べ物を食べさせたいなと思ってね。ほらこんだけリアルなゲームでもゲームはゲームなんだ。ポーションとかじゃなくても栄養とったら体がすぐに良くなったりするかもしれないだろう?」

 スープでふやけさせたパンを渡す。
 コノカは嫌な顔一つせず、そうですね、というとシルルに食べさせ始めた。ええ子や。

 しばらくはやることがないので、公式ホームページでも見ることにする。ゲーム内で掲示板サイトが見られたら本当はいいのだが、公式で立ち上がってないので見たかったらログアウトするしかない。僕はしょうがないので近くに控える例の物騒なタイトルのイベント詳細を読むのだった。


 カチャカチャと室内に響く食器の音。甲斐甲斐しく世話を焼くコノカ。なす術なく受け入れるシルル。ウィンドウに表示された公式サイトを読む僕。まるで、新聞を読む夫と世話を焼く妻と赤ちゃんのようだ。

「はっ!これは夢にまで見た結婚生活、その優雅な朝食か?!」
「馬鹿言ってないで下さい。暇なら私の分の朝食も持ってきてくださいよ」

 尻に敷かれる感じもリアリティ。
 僕はウィンドウを握りつぶし消すと、コノカの朝食を取りに行った。一食、350円なり。
 部屋に帰り、執事のように優雅に配膳。

「コノカ様、口をお開けくださいませ」
「……無駄にイケメンだから似合っちゃうのが、なんだかなあ、ですね。……はい、あーん」

 嬉しい評価はしてくれたものの僕が持ったスプーンはガン無視でシルルに食べさせるコノカ。

「似合ってるなら食べてくれても良くね?」
「……ぅ、やだ。……はずかしいし」

 可愛いっ!狙ったわけじゃないのに可愛いっ!耐えられなくなったのかは不明だけど、さっきまでクールだった顔が急に赤くなっちゃったよ!

 間違いない。この娘(コノカ)、天然の男殺しや。



 結局、あーんはさせてもらえなかったものの、朝からいいものを見してもらった僕は艶々としていた。コノカは直ぐにそれに気付き、すねをげしげしとしてきたが、その必死な様子も、いとうつくしきことやんごとなし(適当)。



 ー・ー・ー


 それから数分後。コノカは無事食べさせ終え、僕への蹴りを終えると自分の朝食を取り始める。今日の賄いは、温玉が乗ったサラダに、スープ。そしてパンのようなものだ。


 それは、真っ赤な顔でそっぽを向いて、もっもっ、と口一杯にパンを頬張るコノカを見て僕がにこにことしていた時だった。


 突然、シルルがもぞもぞと動き出す。


 なんだ?と思いそちらを見ると布団をすっぽり被り、もぞもぞと動いている。まるで繭が破られる前みたいだ。……まあ、その動きがいかに奇妙であれど、体が動くようになったのは良いことだ、と思っているとスポン!という擬音が似合う調子で布団から顔だけが出てきた。


「あ、あの!……助けてくれて、ありがとぅ……」


 水色の髪の毛に整った顔。

 そし、尖った耳。


 また可愛いのが増えたよ、と苦々しい顔で僕は思った。



「苦々しい顔?ニヤニヤしいな顔の間違いですね、ギアリー」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ