クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.33562013年5月30日(木)放送
アフリカの成長をとりこめ “チームジャパン”の新戦略

アフリカの成長をとりこめ “チームジャパン”の新戦略

モザンビークに食糧基地を

先月(4月)、アフリカのモザンビークから農業大臣が来日しました。

「おいしいです。」

「これ全部大豆で作ってるんですよ。」

食用の大豆をモザンビークで栽培したいと訴えているのは、日本の大豆加工メーカー。

大豆加工メーカー
「モザンビークで収穫された大豆を原料に、(日本で)提供したい。」

モザンビーク パシェコ農業相
「ええ、ぜひモザンビークでお願いします。」




世界では、大豆の需要が10年間で3割以上も急増。
新たな産地として、広大な農地が広がるアフリカが注目されているのです。
日本政府は4年前モザンビーク政府の要請を受けて、北部を穀倉地帯に変える計画を打ち出しました。


日本企業がここで、大豆などを生産しようとしています。
港や幹線道路を整備し、日本へ輸出する計画です。
石炭や天然ガスなどの資源も豊富で、エネルギーから食糧まで得ようとしています。


先週、日本の商社や大豆加工メーカーの人たちがモザンビークを訪れました。
天野敏也さんです。
大手商社で長年、大豆の輸入を手がけてきました。
出迎えたのは現地のJICA=国際協力機構の宮崎明博さん。
大豆プロジェクトの日本政府側の責任者です。
去年(2012年)からJICAの農業専門家たちが中心となって、日本向けの大豆の試験栽培を始めています。
日本の消費者に好まれるのはどの大豆か。
プロジェクトに参加する15の企業が、秋ごろまでに品種を絞り込む予定です。

伊藤忠商事 天野敏也さん
「北米の大豆と比べて、全く見劣りしない。」




モザンビークでは今、イギリスやインドなどが大規模な農業経営に参入。
世界最大の大豆輸入国、中国も去年、農業支援センターを開設しました。


「ここでは野菜を育てています。
すべて中国から持ってきたものです。」

現金収入が得られる栽培方法を、農家の人たちに教えています。
収入がおよそ70倍に増えたという人もいます。

農家
「中国人への印象が変わって、彼らのことが好きになりました。」

“チームジャパン”で大豆を確保せよ

日本は、どのような戦略で大豆生産を始めるのか。
JICAの宮崎さんはスタッフを地元の農家に向かわせました。

JICA専門家
「どんな種類の大豆なら作りたいですか?」

農家
「どんな種類って言われてもね。」


モザンビークの農家は、ほとんどが家族経営の小さな農場を営んでいます。
彼らを味方につけるために考えたのが、日本政府と民間企業の役割分担です。
日本向けの大豆の栽培方法を農家に指導するのはJICAの役割です。
農家は自分の畑で大豆を栽培。
できた大豆を必ず買い取り、販売するのが商社の役割です。
農家は確実に利益を得られる仕組みです。

JICA専門家
「ノウハウを全部教えますから安心してください。」

農家
「畑の一部でなら植えてもいいですよ。」

商社の天野さんも交渉に乗り出しました。
農家を指導するリーダーに対し、まとまった量を作ってもらえるよう働きかけました。

伊藤忠商事 天野敏也さん
「農家とお互いに納得できる関係を築きましょう。」

地元の農業指導担当者
「確かにそのとおりです。」

伊藤忠商事 天野敏也さん
「よい豆を長い間作ってもらうのが大切ですからね。」

天野さんは、中国に対抗するためにも早く生産を始めたいと呼びかけました。

伊藤忠商事 天野敏也さん
「彼らもモザンビークは大豆の生産拠点として今後大きく開発するし、使いやすい種子を(農家に)早く持って行かないと本当に手遅れになってしまう。」


大豆加工メーカー
「試験とか帰国したらすぐに進めていきたい。」




日本政府側の責任者である宮崎さん。
この日、港を管轄する省庁の責任者と話し合いました。

JICAモザンビーク事務所 宮崎明博さん
「日本企業は大豆にかけているんです。」

北部の穀倉地帯につながる港は日本政府の援助で整備される予定です。
大豆を蓄える施設の建設など、日本の意向を反映させることができるのです。

「大豆の貯蔵庫なら、この辺りに建てることができます。」

JICAモザンビーク事務所 宮崎明博さん
「われわれもチーム日本の、いち営業マンだとは思いますよね。」

アフリカの成長を日本の成長に結び付けられるか。
政府と企業の連携がその鍵を握っています。

伊藤忠商事 天野敏也さん
「日本の伝統食品の原料を作りたい。
このモザンビークで作りたい。
このアフリカ市場に展開していくと、こういうことがこのオールジャパンでみんなが組んでいけばできると思ってます。」

“チームジャパン”でアフリカをねらえ

ゲスト平野克己さん(JETROアジア経済研究所 上席主任調査研究員)

●大豆をターゲットにした活動にはどんな意味があるのか

国内でもそうですが、アグリビジネスを作り出していくというのは、日本のチャレンジですね。
大豆というのは非常に重要な穀物で、これは油も取れますし、飼料にもなりますけれども、大豆を耕作の中に入れますと土壌の養分を引き上げてくれるんですよ。
これはブラジルなんかでも起こったことですけど、これで主食食物の生産性がどんどん上がっていくんですね。
大豆を生産すると、土壌が豊かになる。
豆類というのは空中の窒素を土壌に入れてくれる、それで栄養分が増えるわけです。
そうなるとモザンビークっていうのは、労働力の80%がまだ農村にいるんですけれども、実は食糧自給できてなくて、輸入してるんですよ。
これはモザンビークにとってみると、食糧自給化を図って、健全な経済発展の道筋を開いてくれるかもしれないという、期待がありますね。
日本にとってみると、日本の欠点だったアグリビジネスをここから始めていこうということもあります。
またVTRにもありましたけれど、日本はここでいろんな資源を開発しようとしてますが、こういった大きなプロジェクト間のシナジー効果で、資源を提供してくれる国を安定させて、それが日本にとってもプラスになるという、そういう非常にモデル的なプロジェクトが今、展開してるってことですね。

●安定したエネルギーの確保も期待できる?

そうです。
これは先進国、長年の課題ですけれども、資源を提供してくれる国は不安定な国が多いんですが、ぜひとも資源提供国には安定してほしいんですよね、政治的にも社会的にも。
ですからわれわれは、アフリカにぜひその安定した経済発展をしてほしいと、本当に願っているわけです。
その意味でいうと、資源を取るだけではなく、まさに農業プロジェクトを一緒に進めていくっていうのは、非常に望ましい形なんですよね。

●アフリカにおける中国と日本の関係

中国がアフリカに求めてるもの、それから日本がアフリカに求めているもの、これはニーズがちょっと違うんですね。
具体的に申しますと、中国はまず原油が欲しいんです。
それからベースメタルっていいましてね、鉄や銅、こういったものをアフリカで主に開発をしています。
日本のほうはまず天然ガスですね。
それからレアメタルっていいましてね、いわゆる先端産業に必要な資源、希少な金属ですね。
ですから今、日中がアフリカに取りにいってるものは違う、いってみると住み分けてる状態です。

●日本がアフリカ進出するときに必要な視点とは

これは日中もそうであるように、実は韓国も同じ状況なんですが、求めてるものは違うとはいえ、中国の巨大化によって、世界のものづくりの中心地である東アジアっていうのは資源が足りなくなってきてるんです。
日本も韓国も、これまで多くの資源を中国からの輸入に頼ってたんですね。
ところが中国が使いますんで、これがだんだんちょっと当てにできなくなってきたんですね。
ですから新たな供給地が必要です。
つまりアフリカという地域と東アジアという地域の関係がこれからどんどん深まっていく、もしかするとヨーロッパよりも深くなっていく。
その中で日本は一体どういう立ち位置を取るのが一番効率的なのかということを、考えなきゃいけないわけですね。

ナイジェリア 人材育成に挑む

高い経済成長で中間層が急増するアフリカ。
拡大する市場を狙って、生産拠点を設ける日本企業が増え始めています。
しかし、ものづくりの現場で直面する課題がありました。
人口1億6,000万、西アフリカのナイジェリアです。
バイクメーカーのホンダです。
一昨年(2011年)から、現地での生産を大幅に拡大しました。

ホンダ 現地法人 工場長 高村誠夫さん
「ボルトは問題なし。」

工場長の高村誠夫さんです。
従業員200人を指導しています。


ホンダ 現地法人 工場長 高村誠夫さん
「生産ラインを止めて。」

3年前着任した当時、従業員のものづくりへの姿勢にがく然としたといいます。

ホンダ 現地法人 工場長 高村誠夫さん
「初めて組んだ車(オートバイ)はですね、後ろのタイヤがついていませんでした。
でも平気で(生産ラインに)流してきましたからね、タイヤがついていないのを。」

部品のつけ忘れを防ぐために、高村さんは工場の壁に写真を貼りました。
従業員たちに一つ一つ確認させたのです。

ホンダがナイジェリアで販売しているオートバイです。
バイクタクシー向けで、価格は5万円。
オートバイに客を乗せるバイクタクシーは、身近な交通手段として広く利用されています。


圧倒的なシェアを占めるのはインド製や中国製のオートバイ。
中国製のこのオートバイは部品が段ボールで届けられ、バイクショップで手作業で組み立てられます。
価格は、1台およそ4万円です。
これに対抗して、ホンダは品質のよさを売りに販売を伸ばそうとしています。
2つの生産ラインでどれだけミスを少なく組み立てられるか競わせることにしたのです。

ホンダ 現地法人 工場長 高村誠夫さん
「配線を間違えていないか?」

従業員
「大丈夫です。」

ホンダ 現地法人 工場長 高村誠夫さん
「今日生産したものが、どういう品質の状況で終わったか終わらないか。」

生産台数や不良品の数を従業員がホワイトボードに記入します。
この日の生産台数は199台。
合格率は95.5%でした。
3年前より30ポイント以上改善しました。
しかし、高村さんはさらに改善が必要だといいます。

ホンダ 現地法人 工場長 高村誠夫さん
「頑張りましょう。」

ホンダ 現地法人 工場長 高村誠夫さん
「やっと今、このレベルまで達したのかなと。
ただこれが満足できるレベルではありませんけど、まだ。
まだ今からです。」

 

マダガスカル 住民とどう向き合うか

アフリカの豊富な資源。
その開発現場でも、日本企業が直面するリスクがあります。
アフリカ南東部の島国マダガスカル。
住友商事がカナダや韓国の企業と合弁で、ニッケルとコバルトの開発を進めています。

住友商事 ニッケル新金属事業部 参事 稲葉誠さん
「いい出来ですね。」

稲葉誠さんです。
8年前の開発当初から携わってきました。
アフリカの資源開発に伴う難しさを感じてきました。
マダガスカルでは、4年前クーデターが発生。
鉱山開発を推し進めた前政権が崩壊しました。
翌年、鉱山でデモが起きました。
施設の建設当初雇われた労働者の一部が、完成後も雇い続けるよう求めたのです。
国の失業保険の制度もなく、不満は直接、企業側に向けられました。
稲葉さんたちはデモや暴動を防ぐために、2万人に手当てを払うことにしました。

住友商事 ニッケル新金属事業部 参事 稲葉誠さん
「『そこまでやるの?』という気持ちも実はあって、次の仕事を彼らが見つけるまでの生活のサポートを出来ないかと。」



要求の内容はエスカレートしています。
この日、行われた住民との定期的な話し合い。
新たな要望が寄せられました。

「私たちは畜産業を始めたいんだ。
あなたたちにお金を出して欲しいんだ。」

「私たちもそんなに資金があるわけではありませんが、私たちも努力していきます。」

アフリカで労働者の不満や地域住民の要求にどう対応していくべきか。
試行錯誤が続いています。

アフリカ進出 住民とどう向き合うか

●進出した企業への要求について

これは大変なコストですよね、それだけ出ている国の行政力がないってことですよね。
その部分を誰かが補わなきゃいけないので、それを投資者、インベスターが補っているという姿ですね。
ただこれは単にコストというだけじゃなくて、リスク管理なんですよね。
つまりこういった問題をそのまま放置しますと、従業員の不満がたまって、それが最悪の場合テロ組織に利用されたりなんてことも、アフリカの場合ままありますから。
そういう意味でいうと、その不満が高まらないように、気持ちよく働いてもらうようにという環境を作っていくっていうのは、これはリスク管理の1つの手法でもあるわけです。
ずっと貧困に苦しんでいたという歴史がありますから、その生活をいかに保障するかというのが、大事な問題として捉えておくべきでしょうね。

●リスクを背負うにはチームジャパンの体制が必要?

そのとおりですね。
アフリカではメガプロジェクトといっていますが、ドルでいうとビリオン単位、10億ドル単位のプロジェクトが今、主体なんです。
ですから非常に大きな半分、公定機能になったようなプロジェクトがたくさん動いてましてね。
そういうところでは国連の開発機関とか、それから各国の開発機関がパートナーで入ってます。
まさに官民連携全盛ですね。

●6月1日からのアフリカ開発会議(=TICAD)に何を期待するか

これまでTICADが始まったときというのは、アフリカの開発について皆さんと一緒に話しましょうという会議だったんですね。
ところが今のTICADに期待されてるのは、日本が一体自分たちのことをどう捉えてるのかということをアフリカの人たちに分かってもらうってことが、重要だと私は考えているんですよ。
というのは、前回のTICADから今回、この5年間で、日本はいろんなことが起きましたね。
東日本大震災もありましたし、福島の問題もありました。
そういうことで日本の、例えば資源、安全保障や、それから食糧安全保障、それから東アジア情勢も、みんな不安定化してます。
そういう問題に日本は本気で取り組むのだと、その取り組む過程の中でアフリカとぜひ協力してやっていきたいんだと、われわれもまたアフリカを必要としているんだということを、強い意思として発信していくっていうことですね。
その発信力がきっとアフリカに届きます。
どれだけ本気度を伝えられるかというのが大事になりますね。
中国は極めて、そのことを何回も発信してきましたから、そういったその努力を日本もこれからは続けていきたい。
その大きな場としてTICADをぜひ活用していただきたいと思いますね。

あわせて読みたい

PVランキング

注目のトピックス