【佐藤優コラム】北方領土問題急展開も

2016年9月25日15時0分  スポーツ報知

 安倍政権が北方領土政策の大転換をしているようだ。<政府は、ロシアとの北方領土問題の交渉で、歯舞群島、色丹島の2島引き渡しを最低条件とする方針を固めた。/平和条約締結の際、択捉、国後両島を含めた「4島の帰属」問題の解決を前提としない方向で検討している。安倍首相は11月にペルー、12月には地元・山口県でロシアのプーチン大統領と会談する。こうした方針でトップ交渉に臨み、領土問題を含む平和条約締結に道筋をつけたい考えだ。/複数の政府関係者が明らかにした。択捉、国後については日本に帰属するとの立場を堅持する。その上で、平和条約締結後の継続協議とし、自由訪問や共同経済活動などを行いながら、最終的な返還につなげる案などが浮上している。>(23日「読売新聞」朝刊)

 東西冷戦期、日本政府は「四島即時一括返還」を北方領土問題の基本政策としていた。その後、1991年8月にソ連共産党守旧派のクーデターが失敗し、共産党体制が崩壊過程に入る中で、実権を握りつつあったロシアのエリツィン大統領が北方領土問題についても戦勝国と敗戦国の区別をつけずに、法と正義の原則で解決するとの姿勢を示した。これを受けて、91年10月に政府は北方領土問題に関する基本方針を、「北方四島に対する日本の主権が認められるならば、実際の返還の時期、態様、条件については柔軟に対処する」と改めた。「読売新聞」の報道が真実であるとすると、平和条約締結の条件として日本政府は四島が日本に帰属しなくても構わないという大転換を行ったことになる。

 その結果、北方領土交渉が急速に動き出す可能性が出てきた。鍵になるのは56年の日ソ共同宣言だ。この宣言では、平和条約締結後の歯舞群島のソ連から日本への「引き渡し」が約束されている。共同宣言という名称であるが、両国の国会で批准されているので法的拘束力を持つ。ロシアはソ連の国際法的継承国だから、日ソ共同宣言でソ連が行った約束をロシアも履行する義務を負う。

 ロシアは、北方四島は連合国との取り決めで合法的にソ連領になったので、「返還」する領土はないと主張している。ここで「引き渡し」という用語を用いているのは、歯舞群島と色丹島をソ連は日本に「贈与」すると主張し、日本は盗まれた土地を「返還」させたと主張し、双方の国内的主張については非難しないという外交の知恵だ。国後島と択捉島の扱いについて折り合いが付けば、歯舞群島、色丹島はすぐに還ってくる。(作家・元外務省主任分析官)

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