「希望は戦争」という意見は、出るべくして出てきた
07年6月26日 ブログ
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「『丸山眞男』をひっぱたきたい。31歳フリーター。希望は戦争。」という赤木智弘さんの主張（論座07年1月号）が話題になっている。
ワーキングプア問題などで活躍している雨宮処凛さんなどが取り上げているし、『論座』の2月号でもそれへの応答が載せられた。彼はその後も同様の発言を、様々なメディアに出て繰り返している。ＷＥＢで、攝津正さんの書いた赤木批判も読んだ。
赤木さんの主張は次のようなものである。
夜勤バイトで8時間働き、昼は寝ている生活で月収は10万円ちょっと。だから親元にパラサイトして、ネットサーフィンしている生活。結婚していく周りの友人を横目に、フリーターを続ける彼は、耐え難い屈辱感を抱えて生きている。そして、この格差を放置している世間のやつたち(経済成長世代)に怒りを向け、こんな状況を変えるには、今の社会で何かを所有していて、私たちを見下しているやつらをあわてさせ、社会が流動化し、上下のものが等しく苦しむことになる戦争になればいいという。そうすれば逆転もあるかもしれない。そうすれば、いま上にいるやつらをひっぱたくことができるかもしれない。失うものがない若者は、戦争では失わずに、何かを得る可能性がある。それぐらい、いまの｢平和な社会｣では格差が固定され、将来の展望がない、と31歳フリーターの自分（赤木）は思っている。｢反戦平和｣というスローガンこそ、われわれを一生貧困にとどめるものだ。私を戦争に向かわせたくないなら、この格差を何とかしろ。
(赤木主張要約終わり)
この主張をどう受け止めるか。
１
私は、まず、彼のような主張が出てきて当然だと思った。一部は共感した。格差社会を多くの人は傍観している。そんな中、固定的で差別的なこの社会に対し、｢下｣のもの、｢経済弱者｣が文句を言うのは当然だろう。何もいわない人が多すぎるのが私はいやなので、文句をいうやつがいるのを好ましいと思う。
彼の戦略も当たっている。フリーターが何を言っても聞いてもらえないなら、「戦争するぞ」でも言って驚かして、何とか聞いてもらおうという戦略は、効果獲得の点で正しいし、実際、多くの反響をもたらしている。彼ら低賃金・非正規労働者たちは、すでにひどい状況にいる。すでに｢戦争的なものに巻き込まれ、犠牲者的なものになっている｣から、生き残りをかけて暴力的に牙をむくのは、ある意味当然だ。
２
だが、私はもちろん、彼の主張を愚かで危険だと思う。彼の主張の｢戦争賛成、右傾化｣を賛美したり持ち上げてはならず、その実際の行動や効果の点では、徹底して、反戦・非戦・非暴力の立場で私は戦うだろう。以下、彼の主張に沿って私の意見を書いていく。
３
先ず、全体としての彼の気持ちには共感する。格差が固定化され、何もしない｢上｣のやつらから見下されているというのは屈辱的で、それに怒りをもつのは当然だとおもう。
赤木に対する反論の一つとして、「今のこの生きづらい社会を作り出しているのは、政府・権力者や経団連など財界の側であり、彼が標的としている、彼よりほんの少し余裕があるといった層の人達の責任ではないはずだ」というのがあるが、私は、「少し余裕がある層」の人にも責任はあると思っている。悪いのは、財界や自民党だけというのは、正しくない。その意味で、赤木さんの主張への上記の批判は、一部間違っている(一部というのは、もちろん政府や財界が第一の責任者であるからだ)。
いまのようなワーキングプア・格差・悲惨な労働現場を生み出した責任は、搾取構造自体を作ってきた企業(財界)、および新自由主義政策を進めてきた与党自民・公明関係者自身と、その自民党・公明党に投票した人たちにある。
と同時に、野党で大きな民主党関係者や労働運動を牽引する連合や全労連など大きな組織は、実際に効果を生みだすことができる戦略を練りあげて行動を提起して、国民全体の大きな反新自由主義的な動きを組織してこなかったという点で大きな責任を負っている。
また政権のほとんどいうなりで、国民を非政治化してきたメディアの責任も非常に大きい。その他、学者や裁判官、官僚その社会的に強い力を持っているものたちの無為無策、時には加担にも責任はある。
だがそれだけではない。私は、大きくいって、このような自体になるまで、大きな反対運動、労働運動などに参加してこなかった国民の大多数にも責任があると思っている(上記の〈自民党に投票した人〉はその典型)。社会問題に無関心で、深く考えず、このような状況をもたらす動きを放置してきたものたち――そのなかには現在、非正規労働者として低賃金で働いている者たちも含む――自身に責任がある。学習し、抵抗し、抗議し、交渉し、裁判やストなども含めて闘うといったことをしてこなたっかものたち自身に責任がある。
女性や障がい者や外国人の低賃金、女性や障がい者や外国人への差別を放置し、無関心で来たものたち自身が、今度は、自分たちがそのような｢地位｣に落とされているのだ。
つまり今までのツケが回ってきたのだ。ある意味自業自得の面がある。自民党や企業がひどいことは、ある意味自明だからだ。
４
さて、そのように、赤木さんの怒りの気持ちには共感する私だが、彼に対してはいいたいことがたくさんある。
まず、もっと論理的に考えてほしい。ちゃんと考えていないから、敵を見誤り、ある意味、いまの社会で権力を持っているものたちにうまく洗脳され、うまく使われている。そういう位置に自分の主張があるということを知ってほしい。
５
そういっても反発するだろうが、私も本気なので、聞いてほしい。まず、｢妻子を養い、普通の結婚をしたい｣だって？ そんな保守的なことを言っているから、社会は変わらないんだよ。戦争というぐらいの極論をいってる割には、なんとちんけな希望と世界観だろうと思う。普通になりたい、結婚したい、妻子を養いたいなどということは、赤木さんが嫌っている「経済成長で恩恵を被って財産を持っている世代」とまさに同じ程度の思想じゃないか。全然ラジカルじゃない。根源的思考じゃない。社会をぶっ潰せといっていうくせに、もっとも保守的な世界観で文句を言っている。俺も仲間に入れてくれよってか？ そんなことだから｢勝てない｣んだよ。以下、そのことを説明していこう。
どうして男が女を養うんだ？ そんなことぐらい考えてみてほしい。フツウというのは、年収300万か、500万か、800万か。子どもは負け組にならないようにお受験させるのか。家を買うのか。そしてここでは簡単に言うが、「男が結婚して妻子を養う」なんて感覚でいるから、年功賃金制度というもの(家族を単位とする賃金)が今でも存続し(年功賃金が崩壊したといっているものは実態を見ていない)、それが｢養われる女性は安い補助的賃金でいい、解雇してもいい｣となって、非正規雇用の労働条件が悪いまま放置されてきたのだ。男の相対的に高い賃金は、女性差別と一体なのだ。
実はフリーターに代表される非正規雇用差別は、女性差別を放置し、家族単位発想を維持してきたことの必然的結果に過ぎない。安くても不安定でもちゃんと働かせることができるなら、経営者なら、そういう非正規労働(派遣やパートなど主に女性が担うもの)を増やしたいのは当然だろう。その女性・非正規の労働条件を悪いまま放置してきたのは、連合などの既成組合である。フツウの多くの労働者が、非正規差別・女性差別に無関心で、事実上加担してきたのだ。
で、話を戻して、赤木さんの主張は、非正規(経済弱者)差別を何とかしろといいつつ、自分が結婚して妻子を養いたいなどという。まったく考えていない。ジェンダー問題にまったく関心を持ってこなかったのだろう。本気なら例えば私の書いた『21世紀労働論』(青木書店)を読んでほしい。1997年にはっきりと性差別問題抜きに労働問題の解決はないと書いている。
そもそも、結婚ってなんだ？それを考えてみてほしい。妻を養うのが結婚か。どうして結婚したいんだ？ フツウって何だ？ 妻を養う変わりに、家事や育児は妻にやってもらうつもりか？ 北欧じゃ、性別役割意識はかなりなくなっているし、生まれた子どもの半分は非法律婚カップルからうまれているが、それをどうおもうのか。北欧諸国は、世界でもっとも女性差別・非正規雇用差別の小さい国であるが、それをどうおもうのか。独身で生きるというのはどういうことなのか。 独身イコール不幸か？ (このあたりの主張として、私はシングル単位論を提唱しており、今年夏にも結婚論を出版する。それを見てほしい)
今回はシングル単位論そのものの説明ではないのでこれぐらいにするが、女性の低賃金という差別を放置してきたから、男でも｢負け組｣は「女扱い」されている。それが非正規フリーター問題の本質である。とするなら、賃金と雇用のあり方をジェンダー組み込み的な家族単位のものから、個人単位的なものへ変更するしかない。なのに、家族単位発想で、結婚して妻を養うなどというから、ダメなのだ。
要は非正規差別を解決するのは、赤木さんのような「結婚して妻子を養う」という｢カップル単位的な考え｣――それは既存ジェンダーに無批判的な生き方――を徹底して見直し、それに沿って労働システムのあり方全体を変革する以外に解決はないのだ。カップルを単位にして考えるから男性の長時間労働もある。正社員もくたくたである状況を変えるためにも、シングル単位発想で賃金や労働時間を考えること。それが必要なのだ。赤木さんは、妻子を養うためにくたくたになって働く正社員男性になりたいのか。
なのにそこを勉強せず、だから「結婚したい／妻子を養いたい」などとマヌケたことをいう。マヌケたというのは、赤木さんが、労働問題に口を出し、戦争まで言い出すほど「考えて」いるつもりだからだ。女性のフリーターは結婚して養われればいいと思っているわけ？ 人としてのまともな尊厳などを、ちゃんと考えたら、そんな見下したことはいえないはずだ。
普通の人の感覚として、「幸せになりたい＝結婚したい」というのはわかる。
でも、その程度で不満だけいっていて、労働運動などもせず、戦争を夢想していちゃ、結局、絶対に｢社会的に排除されたものたち｣に展望はない。結婚して女性を養うのが幸せのカタチなのではない。女性なら、男に養われるのが幸せのカタチなのではない。
私は先ずそのことを言いたい。結婚制度、男女の性分業自体を批判的に考えなくては、非正規差別問題は解決しない。
６
次に、彼の主張のさまざまな問題点や間違いを簡単に指摘しておこう。
まず、｢社会人になった時点ですでにバブルが崩壊していて最初からチャンスがなかった世代｣などと世代論で語るのがマチガイ。非正規雇用差別は構造の問題で、個人の責任を問うとしても、世代では切れない。中高年世代でも格差はある。世代による赤木の論じ方は、荒っぽすぎる切り方だ。
若者でも勝ち組のやつは、いまの格差社会での加害者である。若者でも正社員で働いている人はたくさんいる。正社員といっても低賃金の人もいる。エリートでなくても、一生懸命働いているものはたくさんいる。みながフリーターであるわけではない。ハローワークにいけばたくさん仕事はある。地味な水準ではあるが、アパートを借りて自立することができる場合もある。多くのものはそうしてがんばっている。一挙に戦争などというのでなく、できることはたくさんある。
それでも｢層｣として「みなが座れるほどには正規雇用のイスがない」というのはわかるが、だからこそ、そうした｢弱者差別｣構造を問題にすべきであって、世代できって、上の世代の責任にして、一挙に戦争を語るのはるのはマチガイだ。
これに関連するが、バブルが崩壊していなかった80年代に生まれていれば幸せだったのか。まったく違う。バブル崩壊前は、カネカネで浮かれていたお馬鹿な時代だった。それでも就職できたからいいじゃないかなどというのは、次の問いにも関わるが、生きる質を問わない低レベルの意見だ。なんだ、結局フツウの就職してフツウの収入があれば、それでもう文句はないのか。そんなやつは、いまの時代でも自分だけ「いいところ」に就職できればもう、ワーキングプアやフリーターのことなど考えない。
結局、カネの水準でいきているなら、こんなことを嘆くより個人主義的に能力を伸ばすなり、コネを使うなりで個人的脱出をはかった方がいい。だが問題は、ある少数の個人がいまの時代でも正社員になれるからといって、構造的に大量の労働者が劣悪な労働条件で働かされるという問題は解決されないということなのだ。
だから赤木さんが主張するなら、バブル前とか高度成長時代の人をうらやましく思うことではなく、そもそも、この様な弱肉強食社会に対抗する哲学／世界観をどう確立して、それに基づいて幸せに生きていくかと、問題を立てなくてはならない。
バブル崩壊前にラクに就職できた人にも、最近の就職しやすいときに就職で来た人も、抱えている労働問題、生き方問題がある。そこを問題とするのか、単にそこそこいい条件の正社員に就職できれば、もう考えないのか。赤木さんはどっちなのだ？自分の個人的な怨念・ルサンチマンだけなら、自分だけ就職で切れば、意見を言わなくなるのか。その程度の主張なのか。
また31歳の元気な人が、親元に暮らしていてもいいが、今の社会では必然的にみなが｢自分ひとりの身ですら養えない｣ように簡単に言うのもマチガイである。個人的能力や運にもよるから全員とはいえないが、先にもいったように、安い部屋を借りて自立することは不可能ではない。ここにも、何か自立するといってもそれなりの生活水準というイメージがあるのではないか。妻を養うようなイメージ、それなりに広い部屋などと思うこと自体が問われる。
私は何も貧乏でがまんしろといいたいのではない。みながいまの日本のテレビが煽る消費水準というものを追いかける限り、日本社会はダメだと思っているのだ。環境問題も含めて、いまの社会で現実的にサバイバルするには、流行のものを消費するというような世界観から抜け出て、スロー、スピリチュアルに生きるというようなことこそが必要と思っている。あまり収入を求めず、そこそこの労働時間でそこそこゆっくり暮らすというのが、勝ち組哲学に対抗する、「普通の人々」（エリートでない人）の哲学なのだと思う。それが確立できるかどうか。そのとき、いまの消費水準を前提に嘆くのは、展望のない嘆き方だ。(これについては、最後に再び触れる)
７
次に、上記の世代論とも重なるが、赤木さんは、「上の世代は若者に仕事を譲らない」と怒っている。これは一面正しい批判だが、それに対抗するのは、社会全体で短時間労働を進め、仕事を分け合い、同一価値労働同一賃金・均等待遇にして、短時間労働者も正規労働者として権利を保障していくという、北欧やオランダ・ドイツなどのワークシェアリング社会にしていくことが必要ということだ。このとき、女性も働き、男性も家事をするというシングル単位型の関係にすることも必要だ。これは西欧・北欧型の社会民主主義社会になることこそが、赤木さんの怒りに対する根本的な解決策だということである。
だが赤木さんはその種の方向を待ったく展望できず、サヨクを批判し、右翼的に戦争を待望する。それでは、絶対に非正規雇用・フリーター問題は解決しない。今の日本社会は、新自由主義的経済を志向しつつ、政治的には戦争のできる強権的な統制社会にしていこうとする、国家主義的・ミリタリズム的な新保守主義的路線をとっている。そこでは、赤木さんたちのような、低賃金で働かされる使い捨ての労働者を大量に生み出していく。抽象的にネットで「ウヨ」なんていっていても、すぐには戦争なんてこないし、結局、自民党政権と財界にいいように利用されるだけだ。
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ここは大事なところで、小泉・安倍ときて、かなり憲法改正・国家主義の方向は加速はしているものの、憲法を変えるとなるとやはり大問題で、さらにそれに基づいて実際に世界の戦争にアメリカの後についていってドンパチするのは5年以上先のことで、しかも当面は自衛隊員が行くだけである。国民の多くは当面、戦争になんか直接には巻き込まれない。時にエリートは戦争になんかいかない。つまり、貧乏なフリーターとか負け組的な若者がいやおうなく自衛隊に入って戦争に駆り出されるってわけ。5−10年程度は、戦争といってもその程度だろう。大量の日本人が戦争で死ぬということも当面ない。そんなことに耐えるような意識をいまの日本人は持っていない。
つまり赤木さんが、「希望は戦争、そうすれば流動化する」｢国民全員が苦しむ戦争｣といっているのはマチガイで、当面、右翼的な政治勢力を支持したところで、せいぜい改憲があって、安倍的な右翼が増え、富裕層がいっそう儲かって、格差が拡大するだけ。日本本土で大空襲があり、日本人の多くが軍隊にいって、赤木さんが大学出のエリーﾄの横っ面をビンタするようなことには絶対にならない。エリートが軍隊にいても、防衛大学出身の一部エリートで、そいつらは幹部であり、赤木さんたち一般の兵隊は、けっしてエリートには勝てない。
赤木さんの嫌いな｢高度成長・バブル世代｣は年齢のこともあるのでそのころには戦争には行かないし、財産も失わない。米国を見てみろよ。米兵が3000人以上死んでも、そのほとんどは、貧乏人の若者だ。ブッシュを支持したアメリカ人の多くは、自分が空襲されることを想像できない馬鹿である。自分が911されたらおろおろするが、他国でその何倍も殺しても、痛みを感じない。戦争を続けているアメリカでも、多くの人は、アイスクリームを食べ、デートし、自分が戦争で失ったり死ぬとは思っていないし、実際、失っていない。赤木さんの｢みなが苦しむ平等｣など、絶対にこない。
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次に、赤木さんには見えていないだろうが、90年代の最初から(より正確にはもっと前から)非正規雇用の問題に異議を唱えてその改善にがんばってきた人たちがいた。その典型の一つが、コミュニティ・ユニオンである。最近のさまざまな若者の組合結成の母体となっているものである。
だから「若者が就業機会から排除されることを問題視する声はまったく聞かれない」｢左翼勢力は手を差し伸べていない｣｢社会は我われに何も救いの手を差し伸べていない｣などと赤木さんがいうのは、いいすぎだ。
社会の大勢がフリーター問題に冷淡なのは事実だが、昔からがんばっている人を無視してきたのは、赤木さんなど若い世代を含む｢普通の人たち｣であって、そのツケが自分に降りかかってきたときだけ｢社会の人たちは何もしてくれない｣と嘆くのは、甘すぎる。
つまり、自分を被害者のように赤木さんはいっているが、労働運動をがんばってきた人以外は、加害者なのである。
そのとき、赤木さんが、それを反省して、これからは労働運動していこう、企業や政府に文句を言っていこうというならわかるが、そうではなく、右翼的な政権に加担しようというのだから笑止千万である。
｢若者たちは、不満はあるが、社会運動をやろうとは思わないし、やり方も知らない｣等という姜尚中さんに対して、赤木さんは「若者たちは決して彼らが思い描くような弱弱しい存在ではない」と反論している。というのは、若者たちがネットウヨクの活動をして一定の影響を与えているからだという。それがある種の「社会運動だ」というのはわかるが、その目指すものは何なのか。フリーターなど経済弱者の解放なら、まったくネットウヨのやっていることは、無力で反動的である。ネットでの「反日」批判、『朝日新聞』批判、フェミニスト批判して溜飲を下げているだけでは、何もフリーター問題は解決しない。
ネットウヨなど、ほとんど無力で、少し政権や財界にいいように利用されているだけである。新自由主義の安倍政権が、大多数の正社員労働者の権利を奪い取って、赤木さんなどの若者・経済弱者に分けるなどということは絶対にありえない。せいぜい、富裕層・エリート以外の多くの労働者全体の水準を下げて、大企業・富裕層などを優遇するだけである。既成緩和をいっそうすすめ、ユニオンなどの少数派組合の活動まで制限し、簡単に解雇できるようにし、結果、貧乏な非正規労働者はいっそう増える。小泉や安倍の口先だけの｢公務員の利権を奪って大改革します｣というような戯言にいまだだまされている赤木さんは、あまりにもオメデタい存在だ。
思い起こせば、マルクスは、ルンペン・プロレタリアートは簡単に資本家に買収されて、革命的な組織された労働運動の敵対物になるようなことを言ってきた。これについてはいろいろな議論があったし、これの当否については、時代や文脈にもよるだろう。一般論でこの見解を使うべきではない。事実、日本では、まともなサヨクや支援者は、野宿者、失業者、ホームレスなどを支援してきた。ルンペン・プロレタリアートとは何かということもある。
ただ、三池闘争などでも第二組合が作られ、第一組合の切りくずしが行われるとき、豊潤な資金が第二組合に流れ、ピケラインの破壊などには、ヤクザや貧乏人が買収されて動員されていた。そういう事実は常にある。イギリス映画「ブラス！」でも、サッチャリズムのなかで、カネに切羽詰ったものは、仲間を裏切りピケラインを超えていく。
いま、経済弱者と自認する赤木さんのような立場の人が、右翼的言辞にひきつけられて、やけくそな気分で戦争を望むと叫び、「反戦平和」や｢左翼｣や「バブル崩壊以前の世代の人たち」を憎んでいるのをみるとき、「買収されるほど、目先のカネに弱くて、不安定な人たち」との類似性を思わずにはいられない。
怒りがたまりすぎて、冷静な展望を持てず、とにかく大逆転の可能性を信じて、大流動化・下克上・ガラガラポン・ちゃぶ台ひっくり返しとしての戦争待望をいって、右翼・ネオリベ政権を支持する。歴史は繰り返すかもしれない。
なお、いまメディアに煽られて、不安感が高揚し、危機管理・安全保障が必要だといって、監視国家への流れができつつある。そうした中で諸君・正論・産経的なメディアとかネットウヨ的な言辞も少し盛んだが、天皇制とか保守意識とか国家への忠誠心とか、いのちを駆けて国のために闘うなどといった、「本当の意味での右傾化」などはほんの一部でしかない。
ネートサーフィンしている中で溜飲を下げている人が、この先ずっと右翼をやっていくか。ほとんどは無理だろう。赤木さん、戦場なんて、そんな生易しいものじゃないですよ。学校や職場どころじゃない、厳しいところです。とりあえずは自衛隊に入って訓練を受けなくてはならない。赤木さんは、いまからでも自衛隊に入れるが、入りたいですか。そういうことだ。
赤木さんの主張は、皆が軍隊に入って戦場に駆り出されるイメージだが、まったくそんなことはマチガイであって、赤木さんの主張からは、じゃあ、お前が自衛隊には入れよといわれてしまう。そのとき、赤木さんは、自分のいっていたこととは思惑が大きく違っていることに気づき、絶句するだろう。
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次に、赤木さんは、「私のような経済弱者は、窮状から脱し、社会的な地位を得て、家族を養い、一人前の人間としての尊厳を求めている」という。先に述べたように、このような、一見誰もが反対しないことを疑っていないところに、そもそものマチガイがある。
社会的な地位とは何か。人よりも上か。 みなが社会的地位を得るとはどういうことなのか。家族を養うというのは、女性の視点をどう考えているのか。
あまりにも、古臭い物質的な価値観のままである。高度成長期の価値観のままじゃないか。
赤木さんは、障がい者やコミュニケーションの下手な人や、体力のない人や、女性や、セクシャルマイノリティの人たちや、外国人や、在日の人や、運の悪い人も生きていける社会を少しでも具体的に想像したことがあるだろうか。
そうした人は、いまの優勝劣敗社会では、序列の下位に位置する｢社会的弱者｣｢マイノリティ｣である。｢社会的弱者｣｢マイノリティ｣は、戦争状態の中では、切り捨てられる存在である。戦争に反対する労働運動や平和運動、フェミ運動、つまり少数派の声は潰される。赤木さんは、戦争を抽象的にとらえている。戦争では、赤木さんたちは浮かばれない。
だからこそ、先に少し述べたような、スローな生活、スピリチュアルな生き方というようなことが問題になってくる。
長時間労働、簡単に首が切られやすいなどという労働条件が悪い、賃金が安すぎる、意味を見出せない仕事、過密すぎたり極度に緊張を必要とする仕事、単調なだけの労働、精神が磨り減っていくような仕事、機械のいうとおりにしないといけない仕事、組織や上司の言いなりにならないといけない仕事、人の弱みに付け込んで、必要でないものを売りつけたり、本当より高すぎる値をつけて大もうけするような仕事、環境に悪いものや無駄なものや人を傷つけるものを作り出しているような仕事、など自体を問い直していくしかない。｢ひき肉偽装｣が今は問題になっているが、こんなことは繰り返されてきた。社長だけが悪いのではない。従業員や官僚が偽装に加担していたのだ。
カネではないのだ。赤木さんには、どのような仕事をしていくのかというところがない。
１１
赤木さんは、戦争というものを知らなさ過ぎる。書いているのは、抽象的に「死と隣り合わせ」ということだけで、具体的にはどうも戦争になったら何かが得られると思っている。あーあ。戦争映画やドキュメントを３００本見てほしい。そしてそのとき、殺される側の視点を想像してほしい。
空爆される。爆弾で殺される。痛い。痛い。本当に痛い。恐怖。レイプされる。処刑される。なぶり殺される。飢える。怪我する。非衛生的で、適切な治療も受けられない。寝るところもない。安全がない。暴力がはびこる。殺すか殺されるか。焼き討ちする。爆弾で無差別に殺す。子どもや老人を殺す。法律が機能しない。体力的に屈強なものがのさばる。軍人や警察などがのさばる。異論が封じられる。民主主義が封殺される。戒厳令などが簡単に出される。スパイなどの秘密捜査がはびこる。なんでも機密扱いされる。行動の自由も発言の自由もない。・・・そしてかならず、戦争の中でも権力闘争があり、大もうけするやつがいて、うまいものをたらふく食うやつがいる。『人間の条件』を見よ。
戦争といっても結局は政治であり、その中心は経済なのだ。｢八紘一宇｣とか｢テロとの戦い｣等というのは大衆を動員するための仮面に過ぎない。安倍が人権擁護の意識が高くて拉致された人のことを思って｢拉致問題に熱心に取り組んでいる｣のではないことは明らかだろう。安倍は人権が嫌いなのだ。拉致問題を利用して自分の政治権力闘争をしているだけである。(中山補佐官・拉致問題担当者を今度自民党から出馬させる。まさに拉致を政治利用）
戦争はその大型のものに過ぎない。赤木さんはそんなものに利用されたいのか。
戦死は、国家によって名誉を与えられる死だというが、そんなものが何になる？。 名誉ってなんだ？ 靖国に名前があればそれで幸せか。 もしまともな友人や恋人や家族がいれば、赤木さんの名誉の戦死を望むのでなく、こんな薄汚い社会でも赤木さんが生きのびて、楽しく幸福に生きることを願うだろう。そんなこともわからないのか。
国家は、戦死した兵士などをていねいに葬るふりをする。そうしないと遺族などが怒るからだ。でも、例えばブッシュが本当に死んだ米兵ひとりひとりのことを思っていると思うのか。そんなわけがない。それなら戦争などしない。国家指導者・軍隊の幹部にとって、兵隊のひとりなどコマのひとつに過ぎない。赤木さんがもし戦死したら、それは犬死だ。そしてだれかを殺したら殺人者であり、加害者だ。
｢反戦平和というスローガンが、われわれ（経済弱者）を一生貧困の中に押しとどめる｣と赤木さんはいうが、反戦平和で、社会民主主義の社会にしていけば、赤木さんたち経済弱者を貧困から離脱させることができる。赤木さんの論は、まったく飛躍の連続で、極端に二項対立(あれかこれか)に単純化して、実際的には、愚かな結論(新自由主義政権の支持)に陥っている。
１２
社民主義社会にしていけばいいというのは、長期的にはそうだが、日本ではすぐには無理だ。新自由主義勢力にどのように対抗していくか。
もちろん、一言での解決策などない。
昔は社会革命が論じられていた。それぐらいの大問題だ。簡単で安全な道すじなどない。しかしだからといって、戦争だって？ それも全然、現実的な解決策じゃない。
ではどうするか。先ず、�．好蹇次▲好團螢船絅▲襪棒犬�る、というのが、根本的な対抗策だ。
そして��第二に、抵抗の社会運動、労働組合運動を進めることである。政治的にも、いまの政権に反対する勢力が増えることである。地域のあちこちで、反戦で人権擁護的なＮＰＯなどの動きが高まることである。
この二つならできることである。そして実際にこの1年でも、かなり若者の組合ができている。プレカリアートの運動はすすんできている。企業(ノルマ)や借金に縛られているサラリーマンにできないことをしていけるのが、今の｢弱者｣の強み、つまり自由である。
仕事も大事だけど、仕事は短くして、夫、妻、恋人といったパートナーとゆっくり2人だけで過ごす、子どもと向き合う時間をもつ、親や兄弟や親戚と過ごす時間、それから友人と過ごす時間、をもつ。そういうことなら、カネをかけずともできる。
何なら子どもを持たない選択もありうる。結婚して子どもをもたないと幸せになれないということはない。家を買うのも考えものだ。受験にもカネをかけない。
さらに、自分を健康にするための時間、研修を受けるとか本を読むなどの自己成長のための時間、余暇（趣味）のための時間、瞑想や散歩など自分の精神的安定のための時間などもだいじだしやっていきたいことだ。
そして最後に、これは日本ではあまり言われないのだが、ＮＰＯ活動やボランティア活動、組合活動、平和運動、環境擁護活動などといった他人や地域社会や後の世代の人たちへの貢献のための時間も、豊かな時間だろう。
つまり、カネではなく、時間をどう使うかだ。
すぐに完全な解決があるわけではない。しかし、誇りをもってちゃんと生きるということを考え続ければ、私はこのように思うようになった。幸せを今の社会の表層的な価値観に沿ったものに固定化画一化する限り、｢社会的な弱者｣に展望はない。エリートにはわからないような、別の感覚（哲学）でいきること。エリートたちと同じ土俵で生きる限り、勝ち目はない。土俵は狭い。すでに人はいっぱいだ。31歳でいまだフリーターである赤木さんが、尊厳を持って生きるには、そうした｢勝ち組の土俵｣とは異なる｢別の土俵で生きる｣ことにしかないと思う。
１３
｢ちゃんと生きる｣ってどういうことか。幸せに生きるとはどういうことか。
お金儲けとか「・・・会社の社員」といった肩書きとか出世（地位）が大事だという意見もあるが、でも、あなたはそれだけで本当に満足できるか？ 多くの人の心の奥底には、｢お金や肩書きだけじゃない｣っていう思いがあると、私は思う。
お金とか肩書きなら手に入れている人はたくさんいるし、それを悪いことをして手に入れている人もいる。この世には、育児や介護のように大切なことなのにお金がもらえなかったり、お金が少ない仕事もあるし、人をだますような「ひどい仕事」なのにとてもお金が儲かるようなこともある。つまりお金とはその程度のことである。
「お金が少ないとできることが減る」と、みなが強迫観念を持たされているが、「生活水準を下げてもいい」と思えれば、「お金は少なくていい、出世しなくてもいい」と思える。
お金儲けや出世しなくてもいいと思うと、忙しく、くたくたになるまでがんばって長時間労働しなくてもよくなる。資源を浪費して無駄なものを作ったり買ったり、ごみを多く生み出すことも減る。
えらそうにいわれるようないやな仕事だったら、会社をやめてもよくなる。
遊ぶ時間、自由な時間が増える。
ゆっくりといい仕事を適度にすることができる。なんといっても家族や友人との時間をもつことができるようになる。休息と安らぎがちゃんとあるような仕事になる。生活のリズムがゆっくりになり、うつなどの精神疾患にかかる人も減る。ボランティアなどの社会活動の余裕も生まれる。
お金を稼いでいても、イキイキとできない仕事に注いだ時間は取り戻せない。健康を失うとたくさんのものを失い、簡単には取り戻せない。死んだら元も子もない。
20代30代のときに、本を読むとか、映画を見るとか、デートするとか、子どもと遊ぶとか、そういうことを60歳以降に引退してからやろうとおもっても、若いときの時間を取り戻すことはできない。
テレビを見る時間を減らし、体を動かす時間や、ゆっくり呼吸をする時間や、本を読む時間や何かを作り出す時間をもつこと。笑いを生活に入れ、ゆっくり眠る。夕日を見るとか、庭の花の手入れをするとか、土に触れる、自然に触れる時間をもつ。誰かと心から打ち解けた〈たましい〉が通う深い会話をする。一人で、あるいはときには素敵な人と、散歩をしてみる。サイクリングする。空を見る。子どもと遊ぶ、時にはゆっくりとした旅をする。
そうしたことが、いま本当に働き盛りの労働者には欠けている。
それに、私たちたちの「生きている意味と責任」ってことを、僕は考えざるを得ない。
あなたや私は、さまざまなつながりの中で生きている。あなたは、ただ自分や自分の家族のためだけに生きればいいのではないはずだ。あなたの努力によって、誰かのために役に立つこと、名誉ある行為をすること、情け深くあること、あなたがよく生きることによって多くの人、近所の人や大きく言えば人類が、何らかの恩恵をこうむること、自分が価値あると思うものの実現のためにあなたが努力し、そのことでこの世界によりよい変化をもたらすこと、そんなことが、｢豊か｣って時には入ってくると、私は思っている。
戦争はそうした自分の｢責任｣と対極にあるものだ。自分のために相手を殺す究極のエゴ行為。それが戦争だ。
赤木さんの議論には、そうしたものがない。「そんな余裕はない、そんな理想主義は聞きたくない」、というかもしれない。もちろん、ネットカフェ難民だとか、本当にひどい状況がある。だからこそ、多くのものが労組でつながり、支えあい、住む場所・居場所を共有し、時給を1000円以上にしていき、生活を何とか安定させるようなことがいる。すぐに均等待遇のパート法の根本改正、非正規雇用差別禁止法の成立、最低賃金1000円にすることがいる。そのために組合に入ってどんどん団交していこう。ボーナスや退職金を要求していこう、ということだ。
だが、同時に、同じ土俵ではみなが勝つことはできないからこそ、能力主義的な発想から離脱することがとても大事なんだと私は思っている。理想主義だとすぐに決め付けてしまう、その思考停止を何とかしたほうがいい。
エリートは能力主義を手放せない。そして自分が負けると、矢が折れて尽きてしまう。
だが、負け組だからこそ、能力主義を手放す世界観を持てる。逆に言うとそうしないと負け組系の人はエンパワメントできない。私はそこを問題としている。
大切なことは、お金・組織・スケジュールに縛られずに、好きなことや有意義なことや笑えることをみつけて、自分のペースでそれを行って、少しでもいいから地域・社会・世界をよくすることに貢献し、必要に応じて少し働き、できればその仕事の中で成長すること。それぐらいでいい。急に戦争なんていって、上の世代への鬱憤晴らしやカネに囚われているのはばかげている。
自分には少しであっても世界を変えていく力があると思えること、それをしていくことで、自分が世界とより深く結びつくことができると実感できること。これがわかるようになれるかどうかが、人生の最大の課題だ。これは難しい。でもそれしかない。安易に戦争とか左翼たたきに逃げるな！
「少ない時間働いて、少ない消費で楽しくちゃんと生きる」
それを実践することこそが希望だ。戦争が希望ではない。
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