インターネットには定期的に「自由を謳う人」が現れる。
会社員をディスり、「自由な生き方」こそが正義だと、「好きなことをやって生きる」と宣言する。
起業したり、プロブロガーになる決意表明をして、炎上するまでがワンセットだ。
彼らを駆り立たせている自由の先駆者達は、口を揃えて言う。
「好きなことをやって生きろ。起業しろ。好きじゃないなら会社なんて辞めてしまえ」
そんな自由人になりたい人にとって、
「ORIGINALS 誰もが『人と違うこと』ができる時代」
という本の内容は心に響くかもしれない。
この本のパート1「『最初の一歩』をどう考えるか」が面白い。
膨大な研究結果を元にして、優れた起業家に対する僕たちのイメージが誤っていたことを教えてくれる。
優れた起業家に対するイメージとは?
孫正義やスティーブ・ジョブズに対して抱くイメージそのものだ。
破天荒で、常識にとらわれない。
リスクを取ることに躊躇することなく、いつも全力二階建てで自分の人生を仕事に賭ける。
そんなイメージ。
でも実際は、優れた起業家が皆、リスクテイカーであるとは限らないことがわかっている。
スティーブ・ジョブズと共にアップルを立ち上げたスティーブ・ウォズニアック。
ある投資家がジョブズとウォズニアックに25万ドルの融資をもちかけた。
そのときの条件の一つ。
「ウォズニアックが常勤エンジニアとして働いていたヒューレット・パッカードをやめること」
その条件に対して、ウォズニアックは抵抗した。彼はアップルという素晴らしい会社を立ち上げながらも、ヒューレット・パッカードという安定した職を手放す気はなかったのだ。
経営管理学研究者のジョゼフ・ラフィーとジー・フェンが行った研究結果が面白い。
・起業家が本業を続けるかやめるかは、本人の経済的状況と関係がない
・起業一本で専念することを選んだ人は、自信に満ちたリスク・テイカーであることは間違いない
・本業を続けたまま起業した人は、リスクをなんとか避けたがっていて、自信の程度も低かった
・本業を続けた起業家は、やめた起業家よりも失敗の確率が33%低かった
僕たちは、自分の全てを投げ打って事業に専念することが起業家として成功するための第一の条件だと思ってしまう。
しかし、実際はリスクを嫌い、アイデアの実現可能性に疑問をもっている人が起こした会社の方が、存続する可能性が高いという結果が導かれたのである。
世界最高のエクセレントカンパニーであるGoogleを創業したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン。
彼らは1996年にネット検索の性能を劇的に向上させる方法を見出したが、1998年までスタンフォード大学大学院での学業を継続していた。
1997年、検索エンジンの開発が学業を妨げていることを心配し、二人はなんと、今では時価総額5420億ドルとなったGoogleを、200万ドル以下の価格で売却しようとした。約2億円でGoogleを手放そうとしたのだ。
しかも、購入を検討していた先がそのオファーを断っているのである。
ペイジは「博士課程をやめることが不安だった。Googleはもう少しで創業されないところだった」とまで語っている。
マイクロソフトを創業したビル・ゲイツだって、大学二年のときに新しいソフトウェアを販売していたが、それからまるまる一年間、学業を継続していた。
ホラー小説の巨匠、スティーブン・キングも第一作目を執筆後七年のあいだ、教師やガソリンスタンドの店員をしていた。
そういえば村上春樹も、1979年4月に「風の歌を聴けが群像新人文学賞を受賞した後、2年間はジャズ喫茶を経営しながら小説を書いている。
5年くらい前のソシャゲバブルの時期、GREEの創業者である田中良和さんのキャリアに関する講演を聞いたことがある。
彼は楽天の正社員として勤務しながら、帰宅後の22時からGREEの開発を行っていた。2004年の頃だ。
楽天を辞めたきっかけは「ユーザーから届いた手紙がきっかけ」と本人は言ってるけど、もしかしたらGREEで食っていける目途が立ったからなのではないだろうか?
今はブロガーだけでも年収600万を稼ぐちきりんさんだって、マッキンゼーに勤めながらブログを成長させていった。
藤沢数希さんだって、外資系金融に勤めながらメルマガをヒットさせて、食える目途がついてから独立したはずだ。
皆、ツイッターでは「好きなことをやれ」「ガンガンリスクを取っちまえ」と言っているけれど、言ってる本人たちは軌道に乗るまでは極めて慎重に、リスクを分散していたことがわかる。
心理学者のクライド・クームスの研究によると、成功を収めている人の行動に以下の傾向があることがわかった。
・ある分野で危険な行動をとろうとするのなら、別の分野では慎重に行動することによって全体的なリスクのレベルを弱めようとする
・ある分野において安心感があると、別の分野でオリジナリティを発揮する自由が生まれる
つまり、起業家は一般の人たちよりもリスクを好んでいるわけではないということだ。
もっとも成功を収めている人は、向こう見ずに飛び込む人ではない。
崖の縁までおっかなびっくり歩いていき、降下の速度を計算し、パラシュートは点検に点検を重ね、念のために安全網を設置しておくような人だ。
では、オリジナルなことを実現して成功している人とそうでない人の違いは何か?
「皆と同じような恐怖や不安を感じながらも、それでも行動を起こす」点である。
「失敗することよりも、やってみないことの方が後悔する」ということを身を持ってわかっている人たちが、起業家となる。
今、悶々としながら会社員を続けている人は、リスクが取れない自分に引け目を感じることはない。
大事なのは、行動するかしないかだけなのだ。
最大限のリスクを取りにいかなくったっていい。
誰もが皆、現状に疑問を抱き、改善のアイデアは持っているはずだ。
そのアイデアを実現するための一歩を踏み出すかどうか、それこそが重要だと本では述べられている。
ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代 (単行本)
- 作者: アダムグラント,シェリルサンドバーグ,Adam Grant,Sheryl Sandberg,楠木建
- 出版社/メーカー: 三笠書房
- 発売日: 2016/06/24
- メディア: 単行本
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