週刊SVG

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SVGはいつごろに「誕生」したのか?

#column #W3C

近年SVGが改めて評価されてきたためか、SVGを紹介する記事をよく見かけるようになりました。それ自体はこの「週刊SVG」というブログとしても大変歓迎する傾向ではあるものの、ただそれらの説明を読むと首をひねることがしばしばあります、例えば

SVG(Scalable Vector Graphics)とは、1998年に誕生した、ベクターイメージフォーマットです。

SVGファイル大解剖 : Illustratorによる作成から、Web書き出しまで - PhotoshopVIP

その始まりは1998年と意外に古いのですが、ブラウザ対応が追いついておらず、長い間陽の目を見ることがなかったかわいそうなやつです。

WEBデザイナーのはじめての「SVG」 - ウェブ企画ラボ

SVGは1998年にひっそりとリリースされた画像形式でした。しかし、ブラウザの対応が追いつかなかったためお蔵入りの状態に。

【意外と歴史ある!】webデザイナーはおさえたい!SVGの基本知識 | geechs magazine

そんな便利な事だらけに見えるSVGですが、1998年に誕生、2001年9月にはW3Cの勧告をされた結構昔からある技術にも関わらずここ近年までその普及は進むことがありませんでした。

今こそ取り組むSVGとは - 株式会社オプティマイザー

お蔵入りってどういうことだ?といった点も気になるものの、注目してほしいのはなぜか1998年にSVGが誕生したという記述が多く見られる点です。

また日本語版のWikipediaでも

1998年に発足した W3C SVG ワーキンググループにより開発された。しかし、その時点でマクロメディアとマイクロソフトが VML 、アドビシステムズとサン・マイクロシステムズが PGML として知られる競合形式を提案していた。

Scalable Vector Graphics - Wikipedia

SVGの策定についてはこうした説明をされていますが、これも少し違和感を覚える点があります。特にしかし、その時点での部分など。

SVG黎明期における経緯や時期については誤解が多くあるようなので、この記事ではそれらをまとめてみました。

SVG 1.0策定の流れを整理

SVG 1.0策定の歴史を紐解くとまずは20年前の1996年まで遡ります。

1996年5月

GIFやJPEGのようなラスター画像と異なり、拡大や縮小また編集の容易なベクター形式での表現が将来的に需要が高まると見込まれていましたから、この頃にW3C(World Wide Web Consortium)がベクターグラフィックス描画言語を募集しました。

W3C Scalable Graphics Requirements

1998年

W3Cの募集を受けて、1998年4月にAdobe, IBM, Netscape, SunらがPrecision Graphics Markup Language (PGML)を提案、そして同年5月にはMicrosoft, Autodesk, Hewlett-Packard, Macromedia, VisioらがVector Markup Language (VML)を提案します。

INTERNET Watchでは当時のニュース記事が今でも残っているので、それぞれリンクしておきます。

他にも様々な企業・団体からこれらのベクターグラフィックス描画言語が提案されました。

  • Web Schematics - CCLRC
  • PGML - Adobe, IBM, Netscape, Sun
  • VML - Autodesk, Hewlett-Packard, Macromedia, Microsoft, Visio
  • HGML - Orange, PCSL, PRP
  • WebCGM - Boeing, CCLRC, Inso, JISC, Xerox
  • DrawML - Excosoft

参考:Secret Origin of SVG - SVG

1998年8月

こうした提案を受けてSVGのワーキングループが8月に発足して、SVG 1.0の策定作業が始まりました。(※なお、上述のDrawMLは8月以降に提案されていますが)

つまり提案を受けてからの発足なので、前述の日本語版Wikipediaでのしかし、その時点でといった書き方には腑に落ちない点も若干あるものの、当時Flash擁するMacromedia及びMicrosoftの「VML」と、Adobeらの「PGML」とでは真っ向から対立したように見られていただけに、そうした表現になるのも仕方ないのかもしれませんね。

時系列は少し後になりますが、1998年11月の記事ではAdobe社の森脇氏が

HTMLの次に来る流行は何?――XMLとSMIL - INTERNET Watch - 1998年11月2日

「よく両グループが対立していて、という風に書かれるのですが、実際のところはたいへん協力的です。両者ともにXML、ポストスクリプトということで、だいたい7割は同じ内容なのです。現状では何とも言えないのですが、来年の夏頃には『SVG(Standard Vector Graphics)』という規格に統一されて標準化される見通しです。」

HTMLの次に来る流行は何?――XMLとSMIL - INTERNET Watch

このようにコメントを出して、そうした見方に釘を刺しています。

実際に両陣営の企業・団体が策定に参加していますし、結果的には「PGML」と「VML」の特徴がどちらも取り入られて現在のSVGに繋がっています。

1999年2月

当時、W3Cでの仕様の策定作業はこのように進められていました。特に初めて公開される作業草案(WD)のことをFirst Public Working Draft(FPWD)と呼びます。

  • 作業草案(Working Draft)
  • 最終草案(Last Call Working Draft)
  • 勧告候補(Candidate Recommendation)
  • 勧告案(Proposed Recommendation)
  • W3C勧告(Recommendation)

SVG 1,0のFirst Public Working Draftは1999年2月に発表されました。やはりINTERNET Watchではそのときの記事が残っているので、そちらも紹介しておきます。

W3C、Web上でベクターグラフィックを表示する「SVG」のドラフトを公開 - INTERNET Watch

その後、策定作業が段階的に進められました。見やすいように表でまとめるとこのようになります。

日付内容
1999年02月11日First Public Working Draft
1999年04月12日Working Draft
1999年06月25日Working Draft
1999年07月06日Working Draft
1999年07月30日Working Draft
1999年08月12日Last Call
1999年12月03日Working Draft
2000年03月03日Last Call
2000年06月29日Working Draft
2000年08月02日Candidate Recommendation
2000年11月02日Candidate Recommendation
2001年07月19日Proposed Recommendation
2001年09月04日SVG 1.0 Recommendation

2001年9月

そんなわけで、ついに2001年9月にSVG 1.0のW3C勧告がされました。

当時、W3Cから日本語で公開されたプレスリリースやニュース記事も紹介しておきます。

以上が、SVG 1.0策定の大まかな流れです。

まとめ:SVGの「誕生」とはいつか?

こうして時系列で見ていくと、「1998年に誕生」という表記の問題点が分かりやすいですね。当時はまだワーキンググループが発足した頃で、First Public Working Draftも発表されていませんから、「誕生」とは言えないでしょう。

そもそも仕様における「誕生」はあくまで比喩なので、いつを基準にするかは定義によります。自分独自の定義で言い張るのであれば仕方ありませんが、曖昧な言葉ではなくきちんと書くのが誤解が起きなくてよいでしょう。

例えば

  • 1998年にSVGのワーキンググループが発足した
  • 1999年にFirst Public Working Draftが発表された
  • 2001年にW3C勧告された

など。

ただ特に記載がない場合、W3C勧告を一つの区切りとすることが多いように思います。それで言えば、今年9月でSVG 1.0のW3C勧告から15周年になりますね。CodePenではそれを祝うユーザーの作品の投稿もあったりしました。

Happy 15th Birthday SVG! - CodePen

補足

W3Cの勧告のプロセスについては、SVG 1.0の当時はこのような段階でしたが

  • 作業草案(Working Draft)
  • 最終草案(Last Call Working Draft)
  • 勧告候補(Candidate Recommendation)
  • 勧告案(Proposed Recommendation)
  • W3C勧告(Recommendation)

現在は変更され、Last CallはCandidate Recommendationと統合されています。

ちなみに、SVGの次期バージョンであるSVG2が現在策定中ですが、先日Candidate Recommendationになりました。

これも一つの節目ですね。

参考リンク

Interview with Jon Ferraiolo | Adobe Developer Connection - 2012年10年15日
SVG 1.0のエディターで、当時Adobe社に所属していたJon Ferraiolo氏のインタビュー記事
XML Magazine VOL.04 - 2001年03月07日
SVG 1.0策定で中心的な役割をしていたChris Lilley氏のインタビュー記事がPDFで残っています
Scalable Vector Graphics - Slide list - 1999年9月
そのChris Lilley氏によるSVGについてスライド、当時のイベント資料でしょうか
PGML(Precision Graphics Markup Language)Q&A - Adobe
Adobeに残っているPGMLに関するQ&A、PDF版のタイムスタンプによると1998年5月の内容です
Scalable Vector Graphics - FAQ - Adobe
こちらもAdobeのSVGに関するページ、正確な日付は分かりませんが内容からするとAdobe SVG Viewerがリリースされた2000年6月以降で、2000年後半に書かれたもののようです。