核実験自粛決議 全面禁止に結びつけよ
たとえ小さくても「核兵器のない世界」への着実な一歩と考えたい。
国連安保理が、すべての国連加盟国に核実験の自粛を求める決議を採択した。核実験全面禁止条約(CTBT)の発効に向けて、加盟国の署名、批准も呼びかけた。
決議の背景に北朝鮮の度重なる核実験があるのは言うまでもない。北朝鮮は、核兵器の保有を5カ国(米英仏露中)に限定した核拡散防止条約(NPT)からの脱退を宣言したが、国連には加盟している。やりたい放題の北朝鮮に、国連加盟国としての自覚と自制を求めたわけだ。
米国は当初、決議で「国連憲章第7章」に言及し法的拘束力を持たせたい意向だったが、中露の反対で妥協したとされる。この結果、違反しても同憲章に基づく経済制裁や軍事的措置は発動されず、実質的に罰則のない決議となった。
とはいえ中露の賛成は北朝鮮への無言の圧力になろう。核実験の探知態勢を整備し、実験休止(モラトリアム)を宣言した国にはその継続を呼びかけるなど、心理的にもシステム的にも核実験にブレーキをかけた。決議の厳密な履行が核実験の全面禁止に結びつくよう期待したい。
1996年から各国の署名が始まったCTBTは今年で20年の節目を迎えた。発効には核関連活動をしている44カ国の批准が必要だが、北朝鮮とインド、パキスタンは署名もしておらず、イラン、エジプト、イスラエルと米中の5カ国は署名したものの批准には至っていない。
米国はクリントン政権(民主党)がCTBTにいち早く署名したが、上院は核戦力を重視する共和党の主導で99年に批准を否決し、次のブッシュ政権(共和党)はCTBTの「死文化」を宣言するに至った。
「核なき世界」でノーベル平和賞を受け、被爆地広島も訪れた民主党のオバマ大統領としては任期切れを前に、何とかCTBTを復活させたい。北朝鮮に対して無策だとの批判にも反論したい。かといって共和党主導の議会には期待できず、今回の国連決議を考え出したのだろう。
昨年のNPT再検討会議の決裂に見るように、核兵器保有を公認された5カ国に対して、それ以外の国々の不信は根強い。核兵器を持たない国々は10月以降、国連で核兵器禁止条約の議論を本格化させる構えだ。今回の決議には、それらの国々を懐柔する意図がないとは言えまい。
だが、北朝鮮の核が国際社会全体の脅威となったのは明らかだ。各国が世界の危険な現実を見据え、CTBT発効への署名と批准を進めることは、北朝鮮の暴走を止める効果も持つだろう。まずは米国が批准へ腰を上げて範を示すべきである。