長い時間をかけ、曲折を経てできあがった制度だ。上手に運用し、社会に根づかせたい。

 消費者の泣き寝入りを防ぎ、権利を守るための新たな裁判手続きが10月1日から始まる。

 語学教室との契約を解除したら、法外な違約金をとられた。買った商品に欠陥があった。こういった、多くの被害者がいることが想定されながら、費用や手間を考えると裁判までするのは二の足を踏むトラブルが、身の回りでおきたとする。

 そんなとき、被害者にかわって消費者団体が訴訟を起こし、相手に賠償義務があることを、まずはっきりさせる。続いて、団体が被害にあった人に届け出を呼びかける。その結果を元に個々の被害者が受けとる金額を裁判所が決める――というのが今回導入される手続きだ。

 経済界が「訴訟が乱発され企業活動が滞るおそれがある」と慎重論を唱え、国会が政府に検討を求めてから法律の施行までに10年の月日を要した。

 経営リスクの高まりを心配するのはわかる。だが、回復すべき被害をそのままにしておくことが正義にかなうはずがない。長期的視点に立てば、そんな不健全な社会のもとで経済の進展など期待できないだろう。木を見て森を見ない議論は、結局は自分たちの首をしめる。

 それでも根強い懸念をふまえて、▽精神的苦痛などにもとづく慰謝料の請求は手続きの対象としない▽たとえば欠陥商品から火が出て家財が被害を受けるなどしても、賠償は商品の代金までとする▽訴訟を起こせるのは、十分な活動実績があり首相が認定した団体に限る、などの枠がはめられている。

 企業側がとるべき対応ははっきりしている。

 適切な契約を交わし、順守する。不当な表示で消費者をごまかさない。欠陥のある製品をつくったり売ったりしない。要はごくまっとうな活動をし、万一問題が起きてしまったら真摯(しんし)に対応する。これに尽きる。

 自社のコンプライアンスのあり方を点検する良い機会ととらえ、足元を固め直してもらいたい。それは消費者と企業の双方に果実をもたらすだろう。

 制度づくりをにない、ようやく実施の日を迎える消費者庁だが、課題は山積している。

 現時点で認定団体になれるのは10程度と見込まれ、力量にも地域分布にもばらつきがある。自治体や弁護士会と連携をとりながら、団体の育成・充実に努め、消費者行政の底上げを図っていく必要がある。「魂」を吹きこむ作業は、これからだ。