自分が聴覚障害者で感動ポルノを描いてくれと言われたらこういう作品を描くと思う
ある日、主人公の通う学校にヒロインが転校し、そこから物語は始まる
ある者はそれに加担し、ある者は見て見ぬふりをする
しかしそのイジメがエスカレートし過ぎた結果、大人の介入を招き、主人公は一人全ての罪を背負わされる
ヒロインへのイジメはその後も続くが、主人公はクラスで完全に孤立する
仲の良かった友達に殴られ、上靴を隠され、イジメる側から一転、イジメられる側になった主人公
ある日、朝早く登校してみると、いそいそと自分自身の机への落書きを消しているヒロインを目撃する
やられるばかりでやり返すことのない、そんなヒロインを見て内心馬鹿にする主人公
自分はそんな事はないとばかりに、クラスメイトが上靴を隠す現場をおさえ殴り掛かる
ズタボロになって横たわる主人公、ふとそこへあらわれるヒロイン
「親切ぶるな!言いたいことがあるなら言えよっ!」
一ヶ月後ヒロインは転校する
明くる日の朝、机をみて主人公は気付く
あの日の朝、いやこれまでずっと、ヒロインが必死に落書きを消していたのは彼女の机ではなかった、自分の机だったのだ……と
行き場のない気持ちを抱えたまま、一月、一年と時はたち、主人公は次第に自分の殻へとこもっていく
友人もなく、楽しいことも、したいことも、自分にはただの一つも生きている意味がない
死のう……
死ぬ前に何がしたい?
そうだ、あの女の子に会いたい……
会って……俺は――
そこへ近づくにつれ、鼓動が高鳴る、トクントクンと
そんな自分に動揺しながらも、一歩、また一歩主人公は歩を進める
そして――
髪は少し伸びてる
身長も、いや、でも俺の方が高い
服は?制服か
良かった、学校に行ってるんだ
何か言わないと、何か……
そうだ……一体、俺は……何を――
成長したヒロイン、昔とは何もかもが違う
でも……
ただ一つ、かわらないもの……
そこにはあの頃と同じよう、ただ静かに、そしてやさしく微笑みを湛える笑顔があった……
「ともだちに……なれるか?」
はっと驚き頬を赤らめるヒロイン
心の内側を描く必要もない
ヒロインはただ一人孤独に頑張り、ただひたすらに耐え、ただひたすらに優しく、最後に主人公を受け入れるだけの人形で良い
そして障害というハンデを背負うヒロインが頑張る姿は読者の涙を誘う
障害者の人格を無視して、天使のように扱い、都合の良い部分だけを切り抜き
健常者が成長するための道具としてのみ使う
これが感動ポルノだと思う
ところで
ヒロインをイジメたことで孤立した主人公が成長した後、ヒロインと再会し救われる、そして恋に落ちる
こういう声がある
しかしそれは違うと思う
殆どの人はわかっていると思うが上述した物語は聲の形の導入部だ
しかし聲の形という物語はこの出会い、再会の部分から始まるのだ
そしてその後、感動ポルノでは決して描かれることはないであろうヒロインの内面、その葛藤
決して天使とはいえないようなどす黒い部分、それらが主人公含めその他の登場人物と共に描き出される
ヒロインは静かでやさしいだけの天使ではない、他人に迷惑をかけ、沢山の間違いを犯す
主人公はヒロインに救われるが、同時にまたヒロインも主人公に救われる
聲の形で描かれる主人公とヒロインは分かりやすい勧善懲悪のような関係ではない
脇を固める登場人物達についても同じだ
ただ、聲の形で描き出されるキャラクターはみな、はっきりいって変人ばかりだ