下水管に入らないはずの「不明水」 下水処理施設に被害

本来、下水管には入らないはずの雨水が流れ込む原因不明の「不明水」と呼ばれる水により、下水処理施設の被害などが相次いでいることがわかりました。特に大雨が降った地域では、トイレが使用できないなどの市民生活への影響も出ていて、専門家は「大雨のリスクが高まる中で自治体は対策を急ぐ必要がある」と指摘しています。
国土交通省によりますと、全国の自治体が行っている下水処理の多くは、汚水と雨水を別々の管を通じて処理する仕組みを取り、家庭から出た汚水を流す管には雨水が入り込まない設計になっています。しかし、雨水や地下水が汚水管に流れ込み下水処理施設への被害などが相次いでいることがわかりました。

こうした水の多くは、流れ込む原因がわからないことから「不明水」と呼ばれていて、特に大雨が降った地域では市民生活への影響も出ています。

北海道釧路市では台風11号が上陸した先月21日、市民から「トイレの水が流れない」という苦情が164件寄せられました。
釧路市によりますと、苦情があった地域はもともと地下水の水位が高かったということで、大雨で水位が上がった結果、何らかの原因でできた汚水管の隙間から地下水が入ってたまり、トイレの水が流れなくなった可能性があるということです。
釧路市はトイレが使えない市民のため、市内12か所に仮設トイレを設置する異例の対応を取りました。

また、熊本市では、前線の影響で大雨になった、ことし6月、下水のポンプ場に処理能力を超える大量の水が流れ込み、施設が冠水する被害を受けました。一連の熊本地震のあと、市内の下水処理施設に流れ込む水の量が増え、これに伴い、7月までの4か月間に使用した大腸菌を処理する薬品の量は、去年よりおよそ20%増えるなど運営コストが上がっているということです。
熊本市は一連の熊本地震によって汚水管に亀裂ができ、雨水が入りやすくなっていることが原因ではないかと考えています。

自治体の公共施設の維持・管理に詳しい東洋大学の根本祐二教授は「大雨のリスクが高まる中で自治体が対策を急ぐ必要がある。下水管のどこが劣化しているのかを点検で把握し、更新すべきものと、修繕して長もちさせるものを仕分けしていくことが大事だ」と指摘しています。

不明水=想定よりも多く流れこんだ水

国土交通省によりますと、不明水は、下水処理施設に流入すると想定した汚水よりも、多くの量が流れこんだ水の総称で、流入する経路や原因がはっきりしないため、このように呼ばれています。

日本下水道協会によりますと、不明水は日常的に発生していて、全国の自治体で不明水が発生する割合は、平均で20%程度だということです。
つまり、下水処理施設に流れ込むと想定した汚水の量より、およそ20%多い水が、実際には施設に流れ込み、処理コストが余計にかかっているのです。

その原因は、はっきりわかっていませんが、汚水管の老朽化や地盤沈下により管に亀裂が入ったり、マンホールと管との間に隙間ができたりして、大雨のときに雨水や地下水が入り込むことなどが考えられています。

公共施設の維持・管理に詳しい東洋大学の根本祐二教授は「老朽化が進み、大量に不明水が存在するという状況は今までになく、短時間に大量の不明水が発生すると、下水道の処理がパンクしてしまう。汚水管のどこが劣化しているのか点検で把握して、優先順位をつけて対策を行う必要がある」と指摘しています。

「トイレの水流れない」

北海道釧路市では台風11号が上陸した先月21日、市民から「トイレの水が流れない」という苦情が164件寄せられました。

そのうちの1人、黒瀬満寛さん(69)は、この日の午前9時半ごろ、自宅のトイレを使った際、水が流れない状態に気付きました。黒瀬さんが市に電話すると、担当者は「ほかでも同様の苦情が寄せられていて、黒瀬さんの自宅に伺えるのは、昼すぎになる」と言われたといいます。
トイレが使えない間、黒瀬さんは近所のコンビニエンスストアでトイレを済ませました。
黒瀬さんは「23年こちらで住んで今回が初めてだった。飲み物も飲まないで我慢するという状況でした」と話しました。

前日からの2日間の雨量は150ミリ近くに達し、釧路市は大雨により大量の「不明水」が汚水管に流れ込んだことが原因ではないかと考えています。

釧路市によりますと、トイレの苦情があった地域は、釧路湿原に近い低地の原野を埋め立てた新興住宅街で、もともと地下水の水位が高いうえ、大雨でさらに上昇したと見られています。
そして、何らかの原因でできた汚水管の隙間などに、地下水が流れ込んで汚水管にたまった結果、中の圧力が高まり、トイレの水が流れなくなった可能性があると、釧路市は考えています。

トイレの苦情が相次いだ、この日、釧路市は急きょ、仮設トイレを業者から借り、市内12か所の公園に設置するという異例の対応を取りました。
今後も同じような事態が起きることを想定し、排せつ物を固める携帯トイレを準備して、高齢者などに配布することを検討しています。

釧路市下水道建設管理課の北村秀文課長は「毎年調査をして汚水管の悪い部分は順次修繕しているが、なかなか追いつかない状況にある。汚水管に破損した部分が数多くあったり、何ともない部分が調査のあとに壊れているのが見つかったりして、なかなか対応しづらいのが現状だ」と話しました。

地震でできた亀裂が原因か

熊本市によりますと、市内にある下水の浄化施設やポンプ場の6つの施設のうち半数では、一連の熊本地震のあと施設に流れ込む「不明水」の量が増加しているということです。

一連の熊本地震で震度7の揺れを観測したあとの、ことし5月からの3か月間に、浄化センターなど3つの下水処理施設に流れた汚水などの水の量は、去年の同じ時期より20%ほど増加しました。

これに伴い、下水処理の薬品や電気の使用量も増加する傾向があり、このうち大腸菌を減らすための薬品の使用量は、ことし7月までの4か月間で去年の同じ時期より、およそ20%増えたということです。

また、前線の影響で、ことし6月20日に熊本市で大雨が降った時にはポンプ場に処理能力を超える大量の水が流れ込み、施設が冠水する被害を受けました。高さ7メートルある地下2階の部屋が一時、天井まで水没しました。前日から2日間の熊本市の雨量は250ミリ近くに達していました。

熊本市は、一連の熊本地震によって汚水管に亀裂ができ雨水が入りやすくなったことが原因ではないかと考えています。
熊本市管路維持課の白岩武樹課長は「熊本地震で管路が破損して水が侵入するということは全く想定してなく、驚いている。今後、老朽化した管が増えるので不明水対策を、ずっと続けなければならないと考えており、まずは不明水がどの場所から入り込んでいるのかを特定して補修していきたい」と話しています。

びわ湖に汚水を流さざるをえず

滋賀県内では3年前の台風18号による大雨で、大量の「不明水」が下水の浄化施設に流れ込み、施設の処理能力の、およそ6倍に達したため、十分に処理できなかった汚水を、びわ湖に流さざるをえなくなりました。

簡易放水として、びわ湖に流した汚水の汚濁度は環境基準のうえでは問題ありませんでしたが、びわ湖周辺にある10の市と町が下水道の使用を控えるよう住民に要請する事態になり、トイレの水が流れないなど市民生活に影響が出ました。

また、県内2つのポンプ場では、流れ込んだ汚水があふれて冠水し、およそ5億円の被害が出ました。この時、県内では降り始めからの2日間の雨量が300ミリを超える大雨になりました。

滋賀県によりますと、老朽化した汚水管に亀裂が入ったり、マンホールと管の接続部分に、隙間ができたりして、大雨が汚水管に流れ込んだことなどが原因として考えられるということです。

これを受けて滋賀県内の自治体は不明水の対策を進めています。
守山市は汚水管の保守作業として、小型カメラを管に入れて不明水が侵入する場所を特定する取り組みを進めています。場所を特定したあとは、紫外線を当てると硬くなる特殊なフィルムを管の破損箇所に貼り付けて補修し、コンクリート製の汚水管は、市内全域で補修を終えました。今後は塩化ビニル製の汚水管でも調査を検討しています。

また、草津市はマンホールのふたを最新型に取り替える作業を進めています。草津市によりますと、従来のマンホールのふたには、中にたまった圧力を逃がすため穴を開けて、ふたが吹き飛ぶのを防いでいますが、この穴は雨水が汚水管に流れ込む原因にもなっていたということです。このため、新しいふたには穴がなく、ふたが吹き飛ばないよう金具を付けました。草津市は平成30年度までに、およそ4700枚のふたを交換する計画で、これまでに2000枚余りの交換を終えています。