増え続ける難民 人道危機打開の覚悟を
危険を冒して地中海を渡る難民の遭難死が増え続けている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年1〜9月の死者・行方不明者は3211人に達し、昨年を超えて過去最悪になる見通しだ。
中東やアフリカから欧州を目指す難民の流れが止まらない。バルカン半島経由の陸路が昨年、事実上閉鎖されたため、約450キロの海路を定員を超える密航船で渡る危険な方法が再び急増している。
この絶望的な人道危機を、何としても食い止めなくてはならない。
紛争などで住み家を追われた難民や避難民の数は昨年末、世界全体で6500万人を超えた。第二次世界大戦後最悪の危機を打開するには国際社会の覚悟が不可欠だ。
国連総会の場で開かれた「難民と移民に関する国連サミット」は、難民保護のために国際社会が責任を分かち合い、受け入れ国への支援強化を約束する「ニューヨーク宣言」を採択した。続いてオバマ米大統領の呼びかけで開かれた「難民に関するリーダーズ・サミット」は、難民支援のため45億ドル(約4500億円)の援助増額を表明した。
世界の指導者が危機感を共有しようという姿勢は評価できる。だが、現実を前に実効性ある打開策が進んでいるかといえば、心もとない。
難民の出身国として最多のシリアは内戦の出口が見えず、米露の仲介でようやく実現した一時停戦も崩壊しかけている。米露は政治的な非難の応酬に時間を浪費せず、戦闘の再開を止める努力に力を注ぐべきだ。
シリア難民の多くを受け入れているトルコやヨルダン、レバノンへの速やかな支援強化も急務である。
再び急増している地中海ルートの難民はナイジェリア、エリトリア、スーダンなどの出身者が多い。いずれも経済や治安の悪化、政権の弾圧などが理由とされるが、国際社会の救済策は遅れたままだ。
昨年100万人を超える難民が流入した欧州では、受け入れ分担をめぐって各国が対立し、難民や移民の規制を訴える右派勢力が勢いを増している。積極的な受け入れを表明していたドイツのメルケル首相でさえ政策の見直しを迫られ、各国指導者は難民対策に及び腰だ。
国際機関や支援団体は難民や移民を「負担」ととらえず、経済や社会を活性化するメリットに目を向けるよう、受け入れ側の意識改革を求めているが、浸透していない。
打開への道は険しいが、貧困や紛争がもたらす人道危機の打開こそ最優先とする「人間の安全保障」の考えを改めて思い起こし、日本も含めた国際社会が結束してこの難題に立ち向かわなければならない。