安倍外交 リスク抱えた積極姿勢
安倍晋三首相の外交が活発化している。ロシア、中国、ラオス、米国、キューバでの首脳会談や国際会議が一段落し、年末までに日中韓首脳会談の日本開催やロシアのプーチン大統領の訪日が待ち受ける。
首相は、昨年末の日韓合意で、慰安婦問題についての持論をおさえて、両国の関係改善に道筋をつけた。その効果は、北朝鮮問題など、さまざまな場面で出ている。
安倍外交は、かつてのイデオロギー重視の「価値観外交」から、より柔軟な「戦略外交」への転換をはかろうとしているように見える。
目下、安倍外交の最優先課題は、北朝鮮情勢への対応だ。首相は、国連総会の一般討論演説で、冒頭から北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威を語り、約15分の予定時間の半分をこの問題に割く異例の対応をした。
一方で、首相は一連の国際会議で、オバマ米大統領とは正式な会談ではなく立ち話をしただけに終わり、首脳間の微妙な距離を感じさせた。
米国の相対的な力が低下する中、北朝鮮情勢や中国の海洋進出の拡大など、厳しい安全保障環境にどう対処するか。首相は、日米関係を基軸にしながらも、米国だけに依存することなく、関係構築の幅を広げることで対応しようとしているようだ。とりわけ対ロシア外交への「前のめり」姿勢は顕著だ。
北方領土交渉は行き詰まっている。首相は「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という従来の交渉方針にこだわらず、プーチン大統領との間で「新しいアプローチ」で交渉を進めることにした。
首相が日露関係を重視するのは、自身とプーチン大統領の在任中に北方領土問題を解決したい、という強い思いがあるからだろう。だが、より大きな背景としては、ロシアと中国の連携がこれ以上進めば、安全保障上のマイナスが大きいとの戦略的判断があると見られる。
ウクライナ情勢で欧米から経済制裁を受けるロシアと、南シナ海情勢などをめぐり日米の批判に反発する中国は、連携強化によって対抗しようとしている。行き過ぎた中露連携は、北朝鮮情勢への対応一つをとっても、好ましいこととは言えない。
ただ、日露関係には不安材料も多い。日本としては、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の一方的な編入は、南シナ海や東シナ海での「法の支配」を訴える立場からも、認められない。米国からは日露接近への懸念が出ている。
日露関係の強化は大きなリスクを抱えている。それでも首相は、挑戦する価値があると考えているのだろう。安倍流「戦略外交」は実を結ぶのか、注視していきたい。