東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 9月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

「学校に行きたいのに」 施設や職員不足で虐待、長引く一時保護

「学校に行きたかった」と話す女子生徒

写真

 学校に行きたいのに、通えない−。虐待や非行などで十七歳以下の子どもを緊急的に保護する児童相談所の付属施設「一時保護所」に長期間入所する子どもが、東京都内で急増している。背景には虐待件数の増加に加え、施設や職員数の不足があるとみられる。入所中は通学できないなど、長期化は子どもの生活環境に与える影響も大きい。 (木原育子、写真も)

 「気が休まる場所は、学校ぐらいしかなかった」。現在高校二年の女子生徒は、中学時代と高一のときに一時保護所に保護された経験がある。原因は二回とも父親から母親への暴力。警察が介入する事態となり、両親が落ち着くまで一カ月以上滞在した。

 親や友人など虐待・非行の関係者との接触を避けるため、一時保護所にいる間、子どもたちは通学できず、学習用プリントなどで補う。女子生徒も学習係の職員の指導を受けながら毎日プリントをして過ごしたが、学習の遅れは取り戻せなかった。

 女子生徒が入った一時保護所では、携帯電話や所持金の他、子ども同士が所持品でトラブルを起こさないよう、着ていた下着や文房具まで没収されたという。起床、食事、学習時間など生活は細かく区切られた。通学以外の外出も制限され、相部屋の子どもとの会話も控えるよう言われた。

 学校では、流行のファッションや歌手、テレビドラマなど友人との話に「ほっとできた」が、暴力におびえた家と同様、一時保護所の生活もストレスだった。

 児相が入所後の援助方針を決める参考にするため、就寝前には日記を書かされた。家には戻りたくなかったが、何度も考えた。「『友達に会いたい、学校に行きたい』と書けば、ここを出られるのかな」

写真

◆都内、3割が2カ月超滞在

 一時保護はあくまで緊急的な措置のため、児童福祉法三三条は滞在期間は「二カ月を超えてはならない」と定め、必要がある場合のみ例外的に、児童相談所長か都道府県知事の判断で継続できる。

 都内では近年、これを超えて長期滞在する子どもが増え続けており、都によると、一時保護所に二カ月以上滞在した子どもの数は二〇一一年度は六カ所で計三百三十八人だったが、一四年度は計五百二十一人と約一・五倍に。同年度は約二千人が入所し、三割近くが二カ月以上で、最長九カ月という例もあった。

 一時保護所を出る際、児相は子どもの様子や家庭の状況などから家に戻すか、児童福祉施設に入るかなどを決めるが、入所者の増加に伴い、職員不足からこの手続きも遅れがちで、滞在が長引く一因になっている。保護者が児童福祉施設への入所を拒む場合は、家庭裁判所に承認を求めることとなり、さらに時間がかかる。都によると、家裁による承認件数は十五年前に比べて五倍以上という。

 都家庭支援課の新倉吉和課長は「子どもの最善の利益のため、短期間で退所できるよう努力しているが、困難なケース、複雑なケースも増えている」と明かす。

写真

 家出した少女を保護するなど女性の自立を支援しているNPO法人「BOND(ボンド)プロジェクト」(東京都渋谷区)の橘ジュン代表(45)は「『一時保護所に行きたくない。かくまって』と泣きじゃくる女の子を何人も見てきた。子どもたちが安心して暮らせる一時保護所のあり方を考えてほしい」と訴えている。

<一時保護所> 各都道府県、政令市などの児童相談所に付属する施設。保護対象は17歳以下で、虐待を受けるなど危険な状態にある子ども。非行少年・少女も受け入れる。虐待していた親などが訪れたりするのを防ぐため、所在地は非公開。入所中は個室か数人の相部屋に、年齢やそれぞれの事情などで振り分けられる。厚生労働省によると、2014年度に全国の一時保護所に保護された子どもは、2万人を超える。

 

この記事を印刷する

PR情報