森昭雄(もりあきお)


略歴

1947年2月5日生まれ。北海道出身。日本大学文理学部体育学科教授、親学推進協会評議員、感性・脳科学教育研究会顧問など。著書に曰く脳神経学の専門家である。
著書として『ゲーム脳の恐怖』『ITに殺される子どもたち 蔓延するゲーム脳』『脳の力を高める 脳を育てる睡眠 脳を脅かす電磁波汚染』『子どもたちの幸せな未来 第3期 ③ 子どもの心と脳が危ない! ―テレビを消そう、ゲームをやめよう!』『子どもの脳は食から育つ』『子どもたちの幸せな未来 第4期 ① 子どもが幸せになる6つの習慣』『元気な脳のつくりかた 人間らしさを育んで、すてきな大人になるために』『「脳力」低下社会 ITとゲームは子どもに何をもたらすか』等が知られている。

人物像と「ゲーム脳」

子供や若者がテレビゲーム(以下ゲーム)を慢性的に繰り返し、そうした映像・電子メディアの視覚情報に長時間曝されると、脳の前頭前野の機能が低下して脳波(β波)が痴呆症(認知症)者並みに減衰する。その結果、気力や理性、道徳心、羞恥心、他人を想う気持ち、抑制心を喪失する(要約)」というのが、彼のゲームに対する持論である。また、2002年7月8日付の『毎日新聞』夕刊や同年7月10日に出版した『ゲーム脳の恐怖』(生活人新書/NHK出版)でその状態の脳を「ゲーム脳」であると発表し、上述の著書や本人の講演会等においてゲームを批判することで知られる人物である。

基本的に「全てのゲームとIT(映像・電子メディア)が(子供や若者にとって)害悪である」というスタンスを取っている。著書においては特定のゲームを名指しでクソ扱いしていないが、RPGやダンスゲームといったジャンルに対しては項目を割いて自前の研究成果を述べている。
一方、講演会等では名指しでゲーム批判をする事がある。2004年頃にとある小学校で行われた講演で、『テトリス』を「ソ連の軍隊で人を殺すための教育の1つとして、軍事目的で開発されたもの。人間をロボットにするための人殺しゲーム。簡単に殺戮ができるようにする為の物」と発言している *1
また、脳トレゲームでさえも「これでは脳が退化する」とし、講演会で批判したこともある。ただし他の講演では脳トレゲームを部分的に賛美したこともある。実際にはプレイしていないとの事だが。

彼の主張する「ゲーム脳」は反ゲーム(+反子供・若者)の究極の科学的教育論の1つ…なのかもしれないが、その内容や彼自身の発言が科学的根拠に乏しかったり事実と異なっていたり、あまつさえ嘘まである。主な論拠は下記の通り。

  • 大学生に実際にゲームをしてもらい、その時の脳波を計測する実験を行ったという旨の著述があるが、ゲームと脳波の因果関係を証明するのに必要な数の検証を行ったかどうかが書かれていない *2 。実験結果にしても、普段ゲームをプレイする時間によって4タイプに(独断で)仕分けされた、大学生4人の個人的な脳波データが記載されているだけである。あまつさえ、被験者の「印象」を記載する *3 という、科学者にあるまじき先入観を丸出しにした記述をしてしまっている。また、実験時に用いられた「簡易型脳波計 *4 」なる機器は、後に特許を取得し且つ限定的に認可されたものの、著書を発表した時点では医学会で認可された医療機器ではなかった。森氏は「ブレインモニタEMS-2000」のことをさも高性能かのように語っているが、その性能はα波とβ波しか計れないようで、δ波やθ波が計れる当時の他の脳波計より性能が低い。さらに開発した会社は医療機器メーカーではなく自動販売機や自動券売機のメーカーである。
    • そもそも脳波計の使い方も間違えており、筋肉の動きなど脳波以外のノイズをキャンセルするために脳と少し離れた耳たぶ等につける「不関電極」を額につけている。しかしこれではノイズを拾ってしまい脳波を正確に測定できているとはいえない。
  • 別の実験では調査対象を「6~29歳の男女240人」としているが、年齢や性別、人数、調査に使用したゲームのジャンルといった被験者集団の内訳が示されていない。加えてなぜか30歳以上の男女については調査対象から除外している。さらにその後の調査では、ゲーム経験のある5歳‐30代(原文ママ)の男女約970人を対象に、ゲーム中の前頭前野の脳波の変化を調べたとあるが、この調査に使用したゲームは「積み木並べゲーム *5 」である。そしてここでも被験者集団の具体的な内訳は伏せられたままで、少なくとも40歳以上の男女については調査対象から除外している。これでは実験の透明性と公平性そして再現性を欠いていると言わざるを得ない。
  • 従って、著書における「ゲーム脳」とされる症状は独自研究に過ぎず、科学的にも統計学的にも医学的にも認められるには不十分なものである。このことが「ゲーム脳」に説得力のない最大の原因の1つといえる。
  • もうひとつの主たる原因は、そもそもの脳波に関する記述に独自解釈にすぎないものが多く、非科学的かつ詭弁的推論が散見されることにある。以下にその例を挙げる。
    • 著書に掲載されている「ゲーム脳状態の脳波」と「スポーツをした後の脳波」が同じ波形であるにも関わらず、スポーツをした後の脳波だけが良いとしている
      • ゲーム脳人間とそうでない人とにジョギングをさせて脳波の違いをグラフで表している部分も、それぞれ一人しか計測していないうえ何故かジョギングさせた時間が5分近くも違う。これでは比較にならない。
    • 「ゲーム脳」状態の時に多く出るとされるα波を異常な脳波としている。一般に、α波は主に眼を閉じている時や安静にしている時、すなわちリラックスしている状態の時に多く出るといわれている(ただし睡眠時は減少する)ごく正常な脳波である。逆に異常な脳波というのは普通はδ波やθ波をさす。
      • つまり、「ゲームをするとα波が多く出る」のなら、ゲームをしている時=リラックス状態と言えることになる。「ゲーム脳」論に基づき、リラックス状態が異常で、脳に悪影響を与えるというのならば、ゲームをせずとも眼を閉じたり、安静にするだけで脳がおかしくなる事になってしまう。勿論そんな事はありえない。
      • 尚、「脳波研究の草分け」的存在であり、東大医学部附属病院分院長・日本精神神経学会理事長などを務めた平井富雄氏の研究によれば「仏教の高僧の坐禅において三昧境(非常に精神集中した状態)になった際、前頭部からα波が多く検出された」という。森氏の理論が正しければ、全国の偉いお坊さんもみんな「ゲーム脳」という事になってしまう。
      • さらに言えば、「頭を使うようなことをすると、β波がよく出ます」など脳波に関する知識を間違えている。実際は頭を使うとβ波は減少する。つまりかなり根本的な部分から間違えているのである。

また、彼のゲーム批判発言及び記述の中には、ゲームや医学そのものに関して不見識なものが多い。

  • RPGのことを「自分が敵に見つかって殺されないように敵陣に進入し、相手を威嚇しながら画面上で突き進んでいくというゲーム」と解説している。
    こう聞くとまるで『メタルギアソリッド』だが、言うまでもなく同作はアクションゲームである。広義の意味で捉えればロールプレイングといえなくもないが…。
    • さらにこの"RPG"をプレイすると脳波が増大する(森氏の解釈では脳の活動が活発になっている)としながらも、こういうゲームをすると「異常な行動や心理的恐怖感をもつようになります」と書いている。なにがなんでもゲームを悪者にしたいらしい。
  • 「ゲームはテンポが速く、思考の入るすきまがありません。要素もありません」とも著述している。思考系のゲームの存在を知らないらしい。
  • 前述の『テトリス』はソ連の心理学者が人間の処理能力(内容やコツなどを脳が学習する過程)を研究する一環として開発したゲームである、というのは1980年代から知られている有名な話である。加えて、2009年にアメリカで「『テトリス』をプレイすることで、大脳の感覚器官や複雑な動作を司る部位の皮質が厚くなり、論理的思考や言語を司る部位では効率化が進んだ」という研究結果が明らかになった。森氏の持論とは正反対である。
  • 2002年に自分がゲーム会社に提言した事により、『太鼓のゲーム』や『ダンスするゲーム』が出てきた」と発言している。しかしこれらがゲームセンターで初めて稼働を開始したのは『太鼓の達人』が2001年、『Dance Dance Revolution』が1998年であり、森氏が「ゲーム脳」という造語を一般社会に提唱した2002年7月よりも前の事である。従ってこの発言は事実に反している。
  • 嘗ては将棋・囲碁でも「始めは頭を使うが、慣れると脳の働きがパターン化して働かなくなる」としており(「囲碁・将棋は頭を使わない」と言うと、プロ棋士に怒られそうな気がするが)、脳波も「テレビゲームの時と同じ(β波の低いゲーム脳状態)」であるとした。
    • 後にその考えは撤回したようだが、その理由は「指先だけでなく腕も動かすから」という論拠に乏しいものであった(一方、思考については同じはずのテレビゲームの囲碁・将棋については依然として「ゲーム脳になる」としている)。それならば、指先以外に身体を動かしながらゲームをするだけでゲーム脳にならないともとれてしまうのだが。
  • 「ゲーム脳」の研究を始めたそもそもの発端は、プログラマの仕事風景を見て「ただ画面を見ているだけ」と勝手に思い込んだ事である。見ているだけでゲームが作れるなら苦労はしない
  • 自閉症はテレビやビデオ、ゲームのせいで後天的に起こりうるものである」と講演で発言している。
    • 補足すると、「ゲームで自閉症になる」という旨の発言は、とある講演会参加者が後で記したネット上の日記でしか確認されておらず、実際の音声等の記録が確認されていない。また、森氏当人はその発言を否定している。この発言に抗議した日本自閉症協会も後に抗議を取り下げ、謝罪文をネット上に載せた。しかし「テレビやビデオで自閉症になる」という発言に関しては音声ファイルがネット上に公開されており、事実である。
    • しかし自閉症は、医学上では先天性の脳機能の発達障害によるもの *6 とされており、外的要因により後天的に起こる自閉症は存在しないとされている *7 。加えて自閉症患者の子供を「おかしい子供」と差別的な表現をしている。
    • そもそも、森氏は「自閉症」という言葉について勘違いをしているのではないか、という指摘もある。引きこもりやコミュニケーション能力障害を指して誤用しているのだとすれば、とても真っ当な研究者のする事ではない *8
    • ただし「テレビで自閉症になる」という説はカウンセラー(ルナこども相談所・所長)である岩佐京子氏が1976年(昭和51年)に発売した著書『テレビに子守をさせないで』(水曜社)が元祖とされ、森氏独自の説ではないという点には注意。

ここまでの記述から解る通り、ゲーム脳を謳っている割にはゲームに関しても脳神経学に関しても浅学であると言わざるを得ない。マスコミなどからは脳神経学者と紹介される事があるが、実際は運動生理学者(本職は体育学教授)である為様々な人間から「あなたは脳科学の専門家ではない!」と指摘されている。これを見てほしい。確かに運動不足などにはなるかもしれないが、たったこれだけで知的障害者並になるのなら今の世の中廃人だらけである。

第二の問題として、森氏自身の人間性である。当然、この「ゲーム脳理論」は多くの専門家から上記のような問題点を指摘され信憑性が疑問視されるようになり、この理論と彼は批判を浴びることになった。→府元晶「トンデモ『ゲーム脳の恐怖』(1)」『ゲイムマンのダイスステーション』2002年11月
しかし、彼は自身と自身の理論に対する批判に対し、論理的な反論もろくにしないどころか逆ギレや論点のすり替えをし、挙句の果てには批判する者に対して人格否定までする有様である。

  • 事実、精神科医の斎藤環氏 *9 による科学的反証(→府元晶「斎藤環氏に聞く ゲーム脳の恐怖1」『ゲイムマンのダイスステーション』2002年12月)に対して、「あの人はゲームマニアみたいな人で、脳波を知らない素人で、生理学の知識の無いかわいそうな人。自分は彼より10倍くらい知識がある。対談したら、彼は恥ずかしくて物が言えないと思う。(要約)」と発言。斎藤氏には迷惑かもしれないが、実際に対談してもらいたいものである。
    • 実際には、森氏は「医学博士」ではあるが医師免許を取得していない。「医学博士号」は、大学等の研究室に所属して、それなりの論文を書けば、医師免許を持っていなくても取れる。一方、斎藤氏はちゃんと資格を持った「医師」である。森氏はそんな斎藤氏の事を「脳波に関しては素人以下」と評している。尚、ゲーマーであるとの点については斎藤氏が認めている。
  • また、作家の川端裕人氏が講演会の質疑応答で「(森氏が17歳の頃の)1964年に比べると、(現在の)少年による殺人発生率は3分の1以下で、ファミコンが発売された後も低水準だが、仮にゲーム脳が存在するとしても少年犯罪に影響を与えないほど微弱なものではないか? *10 」と質問した際には、「私は日本人だ。日本の子供が笑わなくなり、キレるようになり、おかしくなっているのを見て、日本のためにやっている。あなたもゲーム業界とつながりのある人間なのかもしれないが、そういうのを問題にするあなたの方が日本人として非常に恥ずかしい。」と、全く質問に答えていない回答をした。
  • 京都大学名誉教授・大脳生理学者の久保田競氏からは「森さんは僕の論文を引用して著書を書いているが、適切に引用できておらず、引用の仕方 *11 が解っていないのだろう。彼には(他に)脳の論文が2つくらいあるようだが、こっちも(引用の仕方が)十分ではない。彼が最初にやるべきなのは、自作の脳波計で正しく脳波が計れていることを学会で発表することだが、それすらもやっていない(要約)」と批判された。
    • これに対して森氏は「京大の名誉教授による誹謗中傷があった。お歳を召されたのではないか? 京大はゲーム会社から70億もらっているから *12 、言いたいことが言えないのだろう。ゲーム会社がらみになってしまうと、まともな人もまともなことを言わない」「京大の名誉教授でもお金がらみに染まってしまうと言いたいことも言えない。私は科学者だから言いたいことを言う」などと講演で発言している。やはり全く答えになっていない。
    • 久保田氏の発言の内容をよく読めば分かるが、そもそも久保田氏が批判しているのは「論文引用の方法」や「脳波計の信頼性」という、「ゲーム脳」理論以前の問題である。70億の寄付云々は全く関与しない事であるし、とぼけた発言でもない。

このように、都合が悪くなると決まって話をすりかえてしまうので、議論はおろか会話というものが成立しない。当然ながら、科学者だったら何を言っても許される訳ではない。きちんとした論法や根拠を述べた上で反論をするのが正しい科学者のやる事である。
因みに、森氏は自らの著書の中で社会的活動において他者とのコミュニケーションを取ろうとしない、または注意されると逆上して議論できない人間を「ゲーム脳」であるとしている。皮肉な事にそれは当人(とそれを無批判に信じる者)にも当てはまっていると言わざるを得ない。

「ゲーム脳」に関する話

上述の通り科学的な根拠の乏しい研究内容であったものの、「ゲーム脳」・ゲームは悪(クソ)という言葉とイメージだけが、普段からゲーム漬けの子どもや若者に不快感を抱いていた、社会の多数派である中高年層向けの雑誌やテレビ番組などで広まった結果、無内容なゲーム批判が相次ぐ原因の一端となった *13 。加えて教育関係者はもとより、評論家、ジャーナリスト、学者、政治家もまた以前から若者文化や若年層のゲーム漬けを嫌悪する言説(子供・若者叩き *14 )を採っていた者や時代に付いて行けなくなった者が、左派・右派の別を問わずに、こぞってこの説を支持または便乗し、自治体などに吹き込む者も現れた。

余談だが、その代表格が明星大学特別教授で教育学者の高橋史朗氏である。保守・右派論客として知られる *15 高橋氏は予てから漫画などにも強い嫌悪感を表明し「有害コミック騒動」で漫画の性表現規制を強く主張している。
また高橋氏は「日本の伝統的子育てで発達障害は予防、改善できる」「発達障害は育児における親の愛情不足や躾の問題」という森氏の後天的自閉症論と同様の *16 非科学的言説を行い非難されている。ただし言うまでもなく、「子育てや躾で発達障害は予防できる」や「映像・電子メディア漬けで子どもが発達障害や自閉症になる、子供の脳が壊れる」という説の支持者は森氏や高橋氏、岩佐氏の他にも多数存在する。一例を挙げると小児科医の片山直樹氏や田澤雄作氏や生物学者の澤口俊之氏、「NPO法人 子どもとメディア」代表の清川輝基氏、精神科医の岡田尊司氏、教育研究家の故・七田眞氏などが代表的な論者である。
尚、高橋氏は森氏が評議員を務める「親学推進協会」の会長であり、森氏と共同で『続・親学のすすめ-児童・思春期の心の教育』や『第三の教育論シリーズ1 親が育てば子供は育つ 脳科学が後押しする親学のすすめ』を上梓したり、単独で「ゲーム脳」の公演を開催したこともある。またここでは深く触れないが、高橋氏の提唱する「親学」の教育論はその非科学性・疑似科学性が批判されているものの、多くの有力な政治家に党派を超えて支持されていることは指摘しておきたい。

話を元に戻すと、2004年には森氏監修の「小学保健ニュース」「中学保健ニュース」「高校保健ニュース」においてゲーム脳が紹介され、学校の教員らに広くゲーム脳が浸透してしまった。一般的に似非科学・疑似科学分類として論破されている現在もなお、ゲーム叩きの為の講演などが行われている有様である。一時は小中学校で、この造語やトンデモ論を持ち出して「ゲームをするな」という教師までいたほどである *17
ちなみにゲーム脳と同種の論を川島隆太教授が先にしていたと言う噂があったが、本人が否定している *18 。その噂を言い出したのはこの件を煽っていた雑誌の1つ週刊現代 *19 であり、何をか言わんやである *20

あらゆる似非科学は、それを信じたい人がいるから広まる。「ゲーム脳」で言えばゲームが悪者であって欲しい人が信じ、スケープゴートとして仕立てあげたり、濡れ衣を着せたりするのだ。森氏はどうしようもないペテン師であり、デタラメやデマを垂れ流すテレビやラジオ、新聞、雑誌などの既存メディアも論外だが *21 、末端のビリーバーである、子供や若者にゲームをやめさせて「勉強」をさせたい、保護者や教育者、中高年 *22 などには一定の理解と同情の余地があると言える *23 。そこにはよく解らない物への嫌悪・憎悪や未知のものに子供を取られること、得体の知れないものに自分たちが築いてきた社会が汚されることに対する恐怖があるのである。

末永くゲームが楽しまれ続けるためには、業界消費者含めてのゲーマー側からの情報発信で理解を求め、各々が歩み寄りとコミュニケーションの気持ちを忘れないことが必要だろう。ただ被害者意識だけを持ち続けても、誰も守ってはくれないのである。一時期はマスコミも彼の「ゲーム脳」を大きく取り上げていたが *24 、当時の騒動にあっても旧スクウェアのヒゲこと坂口博信氏、エンターブレイン社長の浜村弘一氏などは彼のゲーム脳に関して論破している。

現在でも青少年が起こした犯罪をゲームやアニメとこじつけて、概要を捏造してでも批判しようとする評論家有識者は少なくない。識者から見れば犯罪者が『スーパーマリオ』や『ドラゴンクエスト』を持っていたら全てそれらのせいになるのだろうか。ただ、こうした「今までこんな犯罪はなかったのだから新しくできた物(とそれに影響された子供や若者)のせいに決まっている」というヒステリックな批判はゲームやネットに対するものだけではない。以下はその具体例である。

  • テレビ――社会評論家・大宅壮一が1957年(昭和32年)に提唱した「一億総白痴化」説。「テレビばかり見ていると想像力や思考力を低下させる」という主張で、言い換えるなら「テレビ脳」。ただ、テレビで流されたことを無批判に信じてしまう人もいるわけで、そうした人はそのように表現しても無理はないかもしれない。
    その後、カウンセラーである岩佐京子氏が1976年(昭和51年)に発売した著書『テレビに子守をさせないで』(水曜社)では乳幼児期における長時間のテレビ視聴が自閉症の原因であるとされた。
  • 漫画――現在でも「青少年健全育成条例」等で叩かれているが、1950年代には現在よりもはるかに過激で、あの手塚治虫の『鉄腕アトム』まで叩かれ、焚書までされた。中には高速道路・高速列車・ロボットなどの21世紀の描写について、「荒唐無稽であり、こんなデタラメを書く手塚は子供達の敵だ」とした人もいたとか。一方、『赤胴鈴之助』については実物を読みもせずに「ラジオによれば親孝行な内容らしいから良い」と賞賛していたとか。批判・賞賛の対象を公正に分析できない当たり、森氏と似通っているように思える。
  • 娯楽小説――明治時代には「近頃の子供は夏目漱石(前の1000円札の人)などの小説ばかり読んで漢文を読まない。これは子供の危機である」という批判があった。当時、小説や詩などは一般的には「婦人や子供の読むもの」として低く見られていた。
  • 野球――いわゆる「野球害毒論」。1911年、東京朝日新聞(現・朝日新聞)が展開したキャンペーンで、新渡戸稲造(前の5000円札の人)や乃木希典(陸軍大将)等が同調した。それに反論するかたちで「野球による精神鍛錬」という考え方が提唱され、今のように精神的な面をも重視する「野球道」ともいえる教育スタイルが出来た。
  • ロックンロール――1965年10月、栃木県足利市の教育委員会がエレクトリック・ギターは「青少年を不良化する」として「エレキ禁止令」を打ち出し、これが新聞に取り上げられたことにより「エレキギター追放運動」として全国に広がった。また当時ロックンロールは不良の音楽とみなされていたため、1966年6月にロックバンドであるザ・ビートルズが来日した際にも、当時の内閣総理大臣であった佐藤栄作 *25 や細川隆元・小汀利得の保守評論家、右翼団体が「(ビートルズが日本武道の聖地である)武道館でコンサートをやるのは日本の武道文化を冒涜する」「青少年を不良化するビートルズを日本から叩き出せ」等と抗議した。さらに学校からも「ビートルズ禁止令」が出された。

…他にもラジオや純文学家 *26 なども糾弾された *27 。近年の児童ポルノ禁止法成立も似た様な経緯がある。
こうした批判は、新しいメディアや娯楽の通過儀礼とも呼べるのかもしれない。もっとも、このような批判は、対象物への不理解に起因する事も多いのだが。

現在

現在は「ゲーム脳」と言う言葉自体が死語になりつつある *28 。それどころか逆に「ゲームは体に良い」と言うちゃんとした研究成果なども出ており、森氏が突っ込んでいた『DDR』や『太鼓の達人』は海外の教育現場や高齢者のリハビリなどに利用されている。

また、マニアの間では『バイオハザード』が上手い事で有名なフリーアナウンサー鈴木史朗氏も「ボケ防止にいい」「ゲームをやりなさい」と発言。彼のゲーム仲間である加山雄三氏もボケ防止の為ゲームをやり始め、現在は『バイオハザード』でナイフクリアを達成する程の腕前にまで達している。さらに『ドラえもん』の声で有名な大山のぶ代氏はブロック崩しゲーム『アルカノイド』が得意で、ハイスコアは約120万点 *29 に達しており、「アルカノイドっていうのは人生を教えてくれます。」と発言している *30 。女優の淡路恵子氏に至っては『ドラゴンクエスト』シリーズが大好きで、舞台の地方公演の際には携帯ハードはおろか据置ハードまで持って行ったり、「一遍にやったら勿体ない」からとラストダンジョン手前で止めて、主人公の名前を変えて初めからやり直すということを何十回も繰り返したり、『IX』のプレイ時間が300時間以上に達するなどしている。
因みに全員齢70を過ぎている方々である。彼らは情緒不安定か? 全然そんな事ない。寧ろ年齢的に見たらもの凄い方々である。その他にも直木賞作家・宮部みゆき氏はゲーマーとしても知られていたり *31 、極め付けにテレビ番組『ナニコレ珍百景』ではゲーセンで『DDR』をやり続ける老夫婦や『ボンバーマン』をやり続ける90歳代のおばあちゃんが登場するなど例を挙げればキリが無い。森氏にとっては彼らも「ゲーム脳」なのだろうか。そもそもこうした方々の脳波を実際に測定したのだろうか。失礼にも程がある。

但し繰り返すが、常日頃からゲーム・メディア漬けの子供や若者に不安や不満、嫌悪や憎悪を抱いている教育者や政治家からは未だに根強い支持を得ていることは改めて強調しておく。詳しくは「ゲーム脳 site:ed.jp」で各自検索していただきたい。さらにその派生形として「ノーゲーム site:ed.jp」や「アウトメディア site:ed.jp」、「ノーテレビ site:ed.jp」、「ノーメディア site:ed.jp」、「ノースクリーン site:ed.jp」、「メディアコントロール site:ed.jp」、「メディアセーブ site:ed.jp」、「メディアセレクト site:ed.jp」も合わせて検索して頂きたい。

森氏がゲームの次に目を付けたのは携帯電話。2004年7月に出版した『ITに殺される子どもたち 蔓延するゲーム脳』で「携帯電話漬けの中高校生の脳波は(ゲーム脳と同様に)痴呆に近い状態になっている」として「メール脳」を提唱したが、話題になっていないどころか全く相手にすらされていない。

因みに現在も講演を行っているらしい。今の御時世こんな奴の講演に態々赴く物好きが居るとは思えないが、これほどにゲームを毛嫌いする理由は何か? 儲かった有名になったで引っ込みが付かなくなったのだろうか *32
最近ではなんと2012年5月1日放送のテレビ特番『世紀の発見スペシャル“史上最大の美術館! エルミタージュの暗号…2枚のダヴィンチ”』に出演。久々のテレビ出演だが、タイトルから解る通りゲームも電話も全く関係無い内容。もう“なんたら脳”と批判するのはやめたのだろうか?
…と思いきや2012年12月に発売された『ネトゲ脳、緊急事態 急増する「ネット&ゲーム依存」の正体』で「ネットゲーム脳」を提唱している。
曰く、ネットゲームで前頭葉を破壊されたから「インターネットを勝手に解約された事で家族を殺害」「育児放棄による乳児死亡」という事件が起きたとか。確かに両方とも実在の事件で、ネットゲーム依存症でもあるが、ゲーム(映像メディア)で前頭葉を破壊されたというのは森氏の妄想にすぎない。と言うか「『異性脳』はストーカー殺人の原因だから恋愛禁止」とか言えそうな理論だ。


余談

  • ゲーム脳はあまりにも馬鹿らしい理論だからなのか、中立的な立場であるはずのWikipediaにすら、提唱者である森氏本人もろとも酷評されている始末である。根拠のない理論だからこそ仕方が無いのかも知れないが。
  • 森氏が自書で読者に勧めている遊びはお手玉10円玉立てである。ちなみに森氏は「日本のお手玉の会」の顧問でもある。
    なお森氏は上述の「ゲーム脳」状態はお手玉遊びをすれば改善できるとも提言しているが、フォロワーの教育者たちからは全く相手にされていない。
  • 『ゲーム脳の恐怖』は第12回日本トンデモ本大賞にノミネートされたが、残念ながら『歯は中枢だった』に敗れ、次点に終わった。→山本弘「第12回日本トンデモ本大賞決定!」『山本弘のSF秘密基地』2003年6月
  • 2000年代はゲーム(映像メディア)やIT(電子メディア)に子供と若者を絡めたバッシングが社会的なブームだった。類似の書籍や教育論を挙げていくとキリがないが、いくつか例を挙げると『テレビ・ビデオが子どもの心を破壊している!』『人間になれない子どもたち』『テレビ画面の幻想と弊害 むかつく・キレル・不登校の彼方にあるもの』『ケータイを持ったサル「人間らしさ」の崩壊』『ネット依存の恐怖 ひきこもり・キレる人間をつくるインターネットの落とし穴』『壊れる日本人―ケータイ・ネット依存症への告別―』『子どもが壊れる家』『脳内汚染』『いま、子どもたちがあぶない!』『身体を通して時代を読む』『メディアに心を蝕まれる子どもたち』『テレビを消したら赤ちゃんがしゃべった! 笑った!』等がある。
    特に『脳内汚染』(岡田尊司著、文藝春秋、2005年12月)は2006年1月15日付の『毎日新聞』東京朝刊の書評にて評者の鹿島茂氏に「書評のルール違反は覚悟の上で、本書が大ベストセラーになって一人でも多くの人に読まれることを強く願いたい。」と激賞された。
  • 『議論のウソ』では『ゲーム脳の恐怖』で使われている論理的トリックについて解説がされている。また『「ニート」っていうな!』では「青少年が凶悪化した」「インターネットが人間を狂わせる」「映像メディアの進歩が犯罪の凶悪化を招く」「近頃の若者はバーチャル世界と現実の区別がつかなくなった」等のバッシングについて検証がされている。ちなみにこの本でも「ゲーム脳」について軽く触れられており、その問題点が指摘されている。

参考ニュース記事・コラム集・リンク集

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*1 似たような話に「資本主義陣営の生産活動を妨害する為に作られたシステム」というものもある。が、こちらはあくまでジョークとして流布されたもの。

*2 「(前略)複数の大学の学生に協力してもらいました」、「多くの大学の学生に協力してもらい、データが集まりました。」といった記述はあるが、被験者の具体的な人数は書かれていない。一般に、科学的実験のサンプル数を記載するのは常識である。

*3 「C(半ゲーム脳人間タイプ)のようなデータを示す人たちには、少しキレたり、自己ペースといった印象の人が多くなってきます。(P.73)」、「このタイプ(ゲーム脳人間タイプ)にはキレる人が多いと思われます。(P.78)」

*4 「ブレインモニタEMS-2000」なる代物で、自身が開発に携わったとのことである。その名の通りコンパクトな形状をしていて、どこでも手軽に脳波を測れるのがウリとのこと。なお、いくつかの記事では「ブレインモニタEMS-100」「ブレインモニタEMS-200」とも表記されている。

*5 ひょっとすると『テトリス』のことかもしれないが、詳細は不明。

*6 自閉症は発達障害の一種に分類されている。

*7 怪我などで後天的に起こるのは知的障害(いわゆる認知症)と呼ばれる。

*8 詳しくは各々検索して欲しいが、自閉症はコミュニケーションのみならず、身体能力にまで影響が及んでいる。例を挙げると、音や痛みに敏感だったり鈍かったり。名前からは想像もつかないが、単なるコミュニケーション障害で片付けるのは愚の骨頂なのである。

*9 「日本一オタクに詳しい精神科医」を自称している御仁。ゲームラボなどさまざまな場所で活躍中。

*10 注意:「ゲーム脳で前頭前野の活動が低下する」→「キレやすくなる」→「青少年による凶悪犯罪が増加する」というのが森氏の説。

*11 引用部分がそれと分かるように明確にし(かぎ括弧で囲む、前後に空行を作るなど)、注釈として「論文名・著者・年代・掲載雑誌・ページ数」等のデータを記す、というもの。大学生でも、卒論を書く際にこれをきちんとやらないと減点対象になる。

*12 補足すると、「70億」とは任天堂前社長・山内溥氏が、京大医学部附属病院の新病棟の建設費として「個人資産から」寄付した金である。

*13 ちなみに、こうした「ゲーム脳」の存在を無批判に信じる状態を指して逆に「ゲーム脳」と言ったり、または「ゲーム脳脳」と言ったりする。

*14 中高年層による「最近・今時・近頃の若者や子供は○○だから××だ」がその定型文。若者叩きそのものは古今東西問わず存在しているが、社会の少子高齢化が急速に進行している現代日本において、若年層は構造的に少数派であるため、なおさら叩かれやすくなっている。

*15 「新しい歴史教科書を作る会」元副会長、「日本文化チャンネル桜」設立発起人など。ちなみに高橋氏は「アメリカに30才の時に留学して、GHQ文書240万ページ研究をした」ことを喧伝しており、その関連書籍も数多く出版している。

*16 自閉症を含めたすべての発達障害は先天性のものとされ、子育てや躾で予防できない。政府や厚生労働省もこの立場を採択している。

*17 RPGや三国無双のようなゲームを「敵を平気で倒していくから命の価値がわからなくなる」「すぐに生き返ったりするから命の価値が(ry」など。

*18 川島氏は「ゲームの種類により使う脳が違う」「ゲームは脳のリラクゼーション」「ゲームは勉強をする前にするのはよくないが勉強後にするのが効果的」などと発言しており、ゲームに対する理解も深い。そしてなにより自身がゲームに出演までしている。

*19 政治ネタを扱うコミュニティでは「ヒュンダイ(現代)クオリティ」と呼ばれ、評判が悪い。講談社に対する批判が多い原因の一つでもある。

*20 だだしメディアは正確性や公平性よりも速報性と話題性を優先する点には注意。

*21 テレビは商売敵としてブラウン管を奪い合う立場にもある事に注意。既存メディアは他の新興メディア――例えばネット――を叩くのはつまりはそういうことなのだ。その一方で、ウェブサイトの開設や動画の引用という形でちゃっかり利用してもいる。このことはラジオや新聞、雑誌等も同様である。

*22 既存メディアは左派・右派共に社会的な権限を持つ中高年、特に高齢の視聴者や聴取者、読者に迎合する。

*23 もっとも、ゲームをやめさせることが出来たとしても、その時間がどのくらい勉強時間に置き換わるかは全くの未知数である。従ってこの目的が達せられなかった場合、ゲームに替わる犯人をまた新たに捜すことになるだろう。

*24 『ゲーム脳の恐怖』は35万冊売れたベストセラーでもある。

*25 第90、96・97代内閣総理大臣安倍晋三氏の大叔父にあたる人物。ちなみに佐藤の兄であり、安倍氏の祖父にあたる岸信介は第56・57代内閣総理大臣である。

*26 明治の小説の末裔が、それ以外の小説を馬鹿にするという歴史を繰り返している。

*27 他にもファッション(服装の乱れ)やゆとり世代等々……もはや枚挙に暇がない。

*28 日常生活においてゲーム的な思考をしてしまったり、ゲーム用語を使ってしまう事をネタとして「ゲーム脳」と言う事もある。尤も、あまり使われない事に変わりは無いが。

*29 この点数は、同作の公式全国記録の第2位に相当する値である。

*30 氏はとんねるずの某番組で、著名人が各々の自慢をするという企画で『アルカノイドのスコアが凄い』という名目でプレイしたが、番組撮影終了後もまだゲームオーバーにならず続けており、石橋貴明諸氏も苦笑いするしかなかったという逸話もある。

*31 本人曰く「365日のうち360日はコントローラーを握っている」とされ、所持しているゲーム攻略本は300冊以上との事。また、関係者は彼女がネトゲ廃人になる事を恐れ、オンラインゲームをやる事を禁じている。

*32 上っ面は真面目な人でも人類の為や知的探求心ではなく、金と名声が目的の者が居る。勿論それ自体は別に悪い事ではない。結果的には人類の発展に繋がるのだから。悪いのは嘘をついたり、思い込みで出鱈目を語る事、そして非を認めない事である。