社会保障
いざという時のために知っておきたい「生活保護」
老後の暮らしを守る最後の砦
週刊現代 プロフィール

タンス預金までは調べない

生活保護に詳しい社労士の林智之氏は、大きく4つの条件があると話す。

「地域の福祉事務所や市町村の福祉課などを訪れたときに、まず問われるのが、次の4つです。『援助してくれる身内がいないか』、『資産を持っていないか』、『働けないか』、『月の収入が最低生活費を下回っているか』。

第一の『身内』とは、法律で扶養義務のある、3親等以内の親族です。

同居している親族に収入がある場合は、同じ家計として扱われるので、まず申請は通りません。

別居していて、その人を扶養したくない、没交渉だというような親族の場合、かつては『借金があるので扶養できません』と言えば、あまり調べられることもなく、申請が通っていました。しかし、例の芸能人の家族が生活保護を受給していた問題で、平成26年の法改正以降は『具体的にどんな借金があるのか』と問われるようになりましたね」

続いて、2番目の『資産がないか』を見てみよう。前出の林氏は言う。

「資産とは、預貯金や株、有価証券、金や宝石、不動産、自動車などです。

東京近郊では無理でしょうが、車がないと生活できないような地域では、自動車の所有が認められることもあります。

不動産に関しては、自宅に住宅ローンが残っているとアウトです。生活保護費を借金の返済に充てることはできないと決まっているため、売却して清算してください、となります」

ローンがなく、自ら居住している不動産がある場合には、福祉事務所の担当者との相談になる。

売却して賃貸に移り、家賃を払うとしても、心もとない売り値にしかならないと判断されれば、持ち家に住み続けることが許される。前出の高森さんもこのパターンだ。

「ただ財産を調べると言っても現金については、自宅に踏み込んでヘソクリがないかまで調べたりはしません。悪質な受給者の中には預金を引き出してタンス預金にし、数年寝かせて、財産がないと主張する例もある」(都内の福祉事務所職員)

3番目の『働けないか』については、20代、30代ならいざ知らず、65歳を超えた人については問われないのが普通だ。

そして最後が、『最低生活費以下の収入しかないか』。この最低生活費とは、どのような金額なのか。前出の林氏が続ける。

「最低生活費は、厚生労働省が定めているもので、地域ごとに細かく決められています。東京など大都市と地方では、生活費に差がありますから、それを反映しているのです。

たとえば、夫婦とも60代で、東京23区在住の場合を見てみます。すると、1人あたりの生活費が3万8990円。2人世帯では、その88・5%が支給されます。さらに世帯当たりの加算が5万180円。合計11万9190円です。

賃貸暮らしの場合は、さらに住宅扶助が加わります。2人世帯では6万4000円になりますから、計18万3190円。この金額より月の収入が少なければ、生活保護を受け取ることができます」

月単位でも申請できる

もし、この夫婦が2人とも国民年金を満額、月6万5000円受け取っていたとしよう。世帯の収入は月13万円だ。すると、差額の5万3190円を生活保護費として受け取ることができる。

夫婦とも国民年金を満額もらってもなお、生活保護を受け取ることができる計算だ。

「それでも、誰でも受給しているわけではないのは、自宅を売却しろと言われても先祖代々の家でなかなかできないなど、条件をクリアするのが難しい事情があるからでしょう」(林氏)

知っているようで、意外と知らない生活保護の仕組み。若い頃には想像もできなかった長寿を謳歌できる現在だが、一方で70歳以降は家計が火の車という方も多いはず。使えるものは遠慮せず、上手に使って人生を乗り切るしかない。

プチ生活保護のススメ』などの著書がある河西保夫氏は、こう話す。

「これも意外と知られていませんが、本来、生活保護の申請と受給は月単位でできます。たとえば、タクシーの運転手として働いていて、普段は27万円ある収入が、ある月だけ10万円で最低生活費を下回ったとなれば、差額分の生活保護費をもらうことができる。

仕事を持っている人でも、国が目安を定めた最低生活費を下回る収入しかなければ、セーフティーネットの恩恵にあずかれるのです」

年金をもらっていても、収入があっても、条件さえ満たせば月単位で受け取れる生活保護。家計が厳しい日々が続くようなら、「これで我が家も極貧に転落か」と思い込んであきらめるのではなく、まずは福祉事務所の窓口で相談してみよう。

「週刊現代」2016年9月17日号より