東京五輪まであと1400日、最先端ITでテロを対策
2020年東京五輪まで23日で、あと1400日となった。世界中でテロ事件が相次ぐ中、昨年10月に東京五輪・パラリンピックのオフィシャルパートナーとなった警備保障会社「セコム」(東京都渋谷区)は、最先端技術を用いたテロ対策機器の開発に取り組んでいる。今年2月の東京マラソンでは、世界初の民間防犯用の飛行船を実用化するなど4年後に向けて着々と実績を積み重ねている。(江畑 康二郎)
セコム技術開発本部の進藤健輔開発センター長(57)は、東京五輪・パラリンピックの警備について「4年後はこれまでと全く違う機器が導入される可能性がある」と明かした。同社は本番に向けて、すでに実戦訓練を重ねている。中でも最も五輪に近いと想定している国内最大規模の観衆160万人が集まるという東京マラソンで実行した。
今年2月、東京マラソンゴール地点の東京ビッグサイト上空70メートルに、世界初となる長さ19・8メートル、直径5・6メートルの民間防犯用の「セコム飛行船」が現れた。無人飛行船の底部に搭載された複数の高精細カメラで地上の様子を広域で撮影。人の服装から車のナンバーまで識別できる。併載された熱画像カメラで夜間の監視も可能。動力源はガソリンで最大速度時速50キロで2時間飛べる。
飛行船は、“空の目”となり不審者を探知。仮に立ち入り禁止のイベント会場内の建物屋上に人を感知した場合、自動的に真上に移動して撮影し、即座に警察に映像を送信できる。高い評価を受け、5月のG7伊勢志摩サミットでも使用。現在は係留型だが、来年にも自律飛行が可能になるという。課題は風に対する脆弱(ぜいじゃく)さ。風速10メートル以上になると、安定した飛行ができなくなる。
今年の東京マラソンは、警視庁が「東京五輪・パラリンピックに向けた警備の試金石になる」とし、官民共同で1万人以上を配置する厳重態勢を敷いた。背景には、世界的に拡大しているテロへの懸念がある。3年前のボストンマラソンでは、ゴール付近で爆破テロが起き、3人が死亡し約260人が重軽傷を負った。東京はテロの標的になりうる都市とも言われており、五輪における警備上の最大の課題はテロ対策となる。
業界トップのセコムが五輪にこだわる理由がある。飛躍のきっかけが、1964年の東京五輪だった。62年、飯田亮(まこと)取締役最高顧問(83)が学生時代の友人の戸田壽一(じゅいち)氏(故人)と国内初の警備会社となる日本警備保障(現・セコム)を創業。直後は旅行代理店内の巡回などで大きな仕事に恵まれなかった。
そんな折、東京五輪で代々木の選手村警備を受注することに成功。100人態勢で自転車競技場やクレー射撃場も担当し、無事に任務を終えた。警備業という新たなビジネスが全国的に認知された。翌65年に始まった主演・宇津井健のTBS系テレビドラマ「ザ・ガードマン」のモデルになり、最高視聴率40・5%を記録。72年札幌冬季五輪、98年長野冬季五輪の警備も担当した。
56年ぶりの東京五輪の警備要員は約5万人とされている。そのうち警察官が約2万1000人、民間警備員は約1万4000人。もう1社のオフィシャルパートナーの綜合警備保障(ALSOK)や、全国約9000ある警備会社と連携して「オールジャパン」で臨む。「参加できて本当にうれしい。我々は入社した時から、ずっと64年の東京五輪の話を聞かされてきたわけですから。新システム導入へさまざまな研究を行っています」と進藤氏。日進月歩のIT技術。1400日後、まだ見ぬハイテク機器が東京を守っているだろう。
◆セコム 1962年7月、「日本警備保障」として創業。現社名はセキュリティ・コミュニケーションを略した造語。66年、日本初の企業向けオンライン・セキュリティーシステムを開発。セコムグループの会社数は約200社。グループ社員数は約5万8000人。国内契約件数は企業と家庭を合わせて約214万8000件。16年3月期の連結売上高は前期比5%増の約8810億円。本社所在地は東京都渋谷区神宮前。イメージキャラクターをプロ野球・巨人の長嶋茂雄終身名誉監督が1971~72年、90年~現在まで務め「セコム、してますか?」のコピーで知られている。
◆新兵器も続々開発中
セコムには飛行船の他にもテロ対策に応用できそうな機器が開発されている。
《1》セコムドローン ドローンを使った世界初の民間警備サービスを昨年から開始。大きさは幅57センチ、高さ22.5センチ。一般のドローンに比べ、安全性を考慮しプロペラに防具が付き下向きになっている。例えば契約した建物の敷地内に不審者が侵入すると、センサーが感知して敷地内にいるドローンに位置情報を伝達。自動で飛び立ち不審者を追尾し搭載されたカメラで容姿や車種の情報を送信。警備員が駆け付ける。
《2》ドローン検知システム 監視対象の半径100メートル内に接近してきたドローンを素早く感知し、通知する。セコムドローンとともに五輪競技場周辺警備などに適しているといえる。
《3》ウォークスルー顔認証システム カメラの前を通り過ぎるだけで、事前にシステムに登録した人の顔をコンピューターが識別し、建物内の入退室を顔認証で管理できる。歩いている状態や、あらゆる角度からの顔認証が可能。五輪では選手村などで不審者の侵入阻止や、空港などで国際手配犯の入国防止策への活用が期待される。
《4》ウェアラブルカメラ 今年初めて箱根駅伝で警備員の胸に装着。警備員が現場で事件、事故などに遭遇した際、カメラで撮影した映像がリアルタイムで警察本部のモニターに映し出される。早期の事態把握と初動の素早い対応が可能になった。