クーリエ会員限定記事を毎週更新中!

courrier

menu

WORLD

僧侶は現役プログラマーからロボットまで! 中国のIT起業家たちが癒しを求めて集う「超ハイテク仏教寺院」

PHOTO: DRAGON IMAGES

PHOTO: DRAGON IMAGES

  • Facebookで送る
  • Twitterで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

教育系スタートアップのIT部門を統括するスン・シャオシュエンは、毎週日曜日の朝、自宅から北京郊外にある仏教寺院「龍泉寺」に通っている。
寺院に着くやいなや、彼は海老茶色の法衣に着替えて、一心不乱に読経をする。

かつてのスンは自己中心的かつ怒りっぽい性格で、家族や同僚に怒鳴りちらすことも珍しくなかった。
彼は宗教にはまったく興味がなかったが、あるときたまたま龍泉寺での3日間の研修に参加。携帯電話の使用を禁止され、瞑想をしたり僧侶の説法に耳を傾けているうちに、心が安らぎ、気持ちが明るくなるのを感じた。
それ以来ほぼ毎週、夫婦で寺の奉仕活動に参加しているという。

龍泉寺に対する感謝の思いを、スンは米紙「ニューヨーク・タイムズ」に次のように語っている。

「ひとたび寺に入れば、『誰かが私を中傷したり、騙すのではないだろうか?』といった猜疑心が消し飛んでしまいます。私に救いを与えてくださった僧侶の皆さんに、心から感謝しています」

北京郊外の山間部にある龍泉寺

北京郊外の山間部にある龍泉寺


龍泉寺はスンのようなIT業界の人間にとって、「聖地」のような場所だ。ここには中国スマホメーカー最大手の「小米」(シャオミ)や電子商取引の巨大企業「京東商城」(JD.com)など、名だたる有名企業の社員や若手IT起業家たちが集まる。

龍泉寺は10世紀に創建された由緒正しい寺院だが、1966年に始まった文化大革命によって閉鎖に追い込まれた。近年ようやく再建され、特にIT業界関係者の間で知名度を上げている。

彼らが龍泉寺に集まるのは、癒しを得るためだけではない。
実はこの寺院の僧侶の多くは現役のプログラマーや数学者で、修行しながら研究や開発をおこなっているのだ。

同寺院のシュエチョン高僧は、仏教が生き残るためには、僧が寺院に閉じこもってお経を唱えるだけではなく、現代的なツールを活用した積極的な情報発信が必要だと考えた。

そこで優秀な研究者や技術者を僧侶として集めて寺院内のIT化を進め、ウェブカメラや指紋スキャナ、経典を読むためのiPadなどの最新設備を導入。古くから残された文献や貴重な資料も整理して、データベース化した。さらに、寺のウェブサイトや僧侶によるブログも開設。オンライン上には現在、龍泉寺のフォロワーが数万人いるという。

また、通信社「ロイター」によれば、2013年に寺院のアニメーションチームが輪廻転生など仏教思想をテーマにしたアニメや漫画を制作した。
さらに、寺院のITチームが登場キャラクターをもとに、身長60cmのロボット僧「シエンアル」を開発。AIを搭載したシャンナーはお経を唱えられるほか、次のような簡単な質問にも答えてくれる。

龍泉寺の人気者、AIロボットのシェンナー

龍泉寺の人気者、AIロボットのシエンアル


「渋滞のときにはどうしたらいいですか?」
「お経を唱えたらいいよ」

「生きるのが嫌になりました……」
「世界で苦しんでいるのは、君一人だけじゃない」

軽妙な回答が受けて、シエンアルはいまや寺院の人気者だ。

こうした努力が実を結び、龍泉寺は北京でもっとも優秀な開発集団の一つとして、業界関係者から熱い注目を浴びている。
「中国人民網」によれば、世界的なチャットアプリ「微信」(WeChat)の開発者であるチャン・シャオロンが、同アプリ開発のヒントを得たのも、この寺の僧侶と話していたときだったという。

いまでは北京大学や精華大学といった名門大学の学生や数学オリンピックの受賞者が、心の平安と研究のインスピレーションを求めてこぞってこの寺に集まり、ボランティアとして功徳を積んで将来的には出家したいと考えているのだ。

公式には無神論を推進しているものの、近年、自国の伝統文化の復活を後押ししている中国共産党も龍泉寺を高く買っていて、寺院内には習近平国家主席の書が飾られている。

優秀なIT業界関係者にも中国共産党にも一目置かれている龍泉寺の快進撃は、これからも続きそうだ。

  • Facebookで送る
  • Twitterで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る