【Interview 尼子騒兵衛さん】ドライとウエットの間 ちょうど“ええ加減”な街
- 2016/09/21 UP!
子どもから大人まで幅広い年代に愛される漫画「落第忍者乱太郎」。
作者の尼子騒兵衛さんは、尼崎で生まれ、現在も市内に居を構えます。
市制100周年を迎える尼崎の魅力、作品への思いを尼子さんに聞きました。
尼子騒兵衛(あまこそうべえ)さん
兵庫県尼崎市生まれ
尼崎生まれで騒々しいから、ペンネームは尼子騒兵衛。1994年3月まで大手広告会社に勤務し、会社員と漫画家と“二足のワラジ”を履く生活。学生時代には日本史を専攻、 中世(鎌倉時代)に興味を持つ。時代考証には特にこだわり、文献・刀剣・火縄銃なども収集。ときに、忍者装束を着て女忍者(くのいち)になってパフォーマンスを行うことも。女忍者(くのいち)は、年齢不詳です。
母もそのまた母も“尼っ子”
神社や田んぼが遊び場
「母も、そのまた母も尼崎で生まれ、暮らしました。尼崎は、古都といわれる街ほどウエットでなく、大都会といわれる街ほどドライではない。その温度と湿度が、ちょうどええ加減で、私にとっては生息しやすいところです」と尼子さん。
「神社の狛犬さんにまたがり西部劇ごっこをして、銀玉鉄砲を打っていたら宮司さんに怒られた。尾浜に多くあった田んぼにざぶざぶ入って行ったら足が抜けなくなった」など、尽きることのない思い出話は、どこか尼子さんの作品を思わせるようで心が温かくなります。それでも、「震災前は、この周辺に長屋が多く、夏には縁台を出してスイカを食べてタネを飛ばしっこ。出かけるときに、鍵をかけることもなかったけど、震災からこっちは、そういうところはなくなってしまいましたね」と、昔を懐かしむ顔は少し寂しそうです。
時代がかった地名が面白くて
キャラクターの名前に
“忍たま”に登場するキャラクターの名前には、尼崎の地名が使われ、尼崎を訪れる“忍たま”ファンが増えています。「まちおこしなどを考えたわけではなく、尼崎の地名が時代がかっていて面白かったから、時代劇には使えるなと思っていました。“食満”と書いて、“けま”と読むなど、相当古い時代のもの。普段は見えない尼崎の歴史は、掘れば掘るほど面白い」。それも、尼崎の魅力だそうです。
歴史は好きだから、知りたい、調べたいと、集めた資料は膨大な数で、各地へ足を運ぶことも多いそうです。「本当のことを書くには必要なこと。時代劇を見ていたら、使われている火縄銃が左利き用で、気になって物語に集中できませんでした。子どもたちも見ているから、背景の細部まで手を抜けません」
これから、書きたいものはたくさんあるそうですが、いずれもギャグ。「ギャグにこだわるのは、関西人気質。自分が書いたもので、人が笑ってくれるのが、私の幸せ」と話す尼子さん。さらなる“忍たま”の活躍とともに、この尼崎から新しい人気作品が登場するのも楽しみです。
初めての作品は中学生時代
「時代劇のギャグ漫画を描きたい」
尼子さんが、初めてマンガを描いたのは、中学生のときだったそうです。時代劇で、ギャグ。「合戦場で死ぬ間際の侍から、先祖が預かったふんどしを、持ち主の家に届けにいくという話。一緒に旅するのは、しゃべる馬という設定です。馬は小さいときから好きだったけど、書いてみると、細部がわからない。蹄(ひづめ)は?に始まり、侍の髷(まげ)は? 袴(はかま)は? もう、調べることがいっぱい」。もともと歴史が好きだった尼子さんにとっては、調べるのは面白く、楽しいこと。「見る人が見たときに、“やるじゃん”って言われたい。ネットで調べても原点を知りたいから、古い本を探し、見つかれば手に入れます。私、講演会などでよく言うんですよ。“ネットには頼るな。ネットで調べても、必ず自分で裏を取れ”ってね」
乱太郎の誕生秘話
「忍者はかっこいいから好き」
連載が決まったとき、「最初は、お遍路の少年がワル者をやっつけながら旅をする話を考えました。見てくれは、乱太郎に似ています。一見弱そうだけど、戦うと強い少年の話」。それが、編集部からの依頼で忍者が主人公になり、子どもたちが読むということで、学校が舞台になったそう。連載開始から30年。ネタがつきることはないのでしょうか。「忍者の術を、オリジナルで考えるのは大変だから、忍者が実際に使っていた術を子供たちに伝えようと思いました。本当に使われていた術を、“アホな連中”がやると、少しずつ変な方向に進んでいく。大まじめにやっているけれど、正しい道とは少しズレがある。このズレにこそ、笑いが生じます。今は、材料を与えてやると、キャラクターが勝手に動いてくれます」
作品を通して伝えたいこと
「昔の大人はかっこよかった」
「忍者は、かっこいいから好き。子どもの頃、“キラリと光る涼しい目”の赤影をかっこいいなと見ていました。赤影、月光仮面、昔のヒーローはおじさんだった。大人はかっこいい、大人のいうことは正しいと思っていたけど、今は怖い大人が少なくなりましたね」という尼子さんが、作品を通して伝えたい思いも。「“忍たま”では、目上の人には必ず敬語。他所(よそ)の家にあがったら、子供たちが座るのは下座。きり丸は、普段は“オレ”と言うけど、先生の前では“ボク”です」。とりたてて、敬語を使いましょうとは書かないけど、見ていてわかってもらえたらいいなと、思っているそうです。
いつかは書きたい“蒙古襲来”
「竹崎季長(たけさきすえなが)が好き」
「書きたいものはたくさんあるけど、一番は“蒙古襲来”。蒙古軍と奮戦する武士 竹崎季長が好き」。きっかけは、テレビで見た蒙古襲来がテーマの番組。番組中、“モンゴル軍のゲリラ作戦”という解説の一言に、鎌倉時代と“ゲリラ”という言葉のミスマッチがツボにはまり、いつかはマンガのネタにと思ったそう。蒙古襲来で活躍した竹崎季長に引かれ、いつかは戦いたいと、弓道を習ったほどの入れ込みよう。「平安時代の藤原家の役人で、問題解決のために奔走する藤原高房も、面白いキャラクター。時代劇にこだわって、書き続けたいと思っています」。
もちろん、“忍たま”の活躍は続きます。「例えば、“進学して家を出るとき、忍たまだけを持って行った”、“これを読むと元気になれる”と言われるような作品になればいいですね」。
尼崎市役所を訪れる忍たまファン
林珠希さん(写真左)と塩沢彩さん
訪れるファンは、日本全国から。「ウエルカムな雰囲気がうれしい」という声が多いそうです。
長野県から来た林珠希さん(21)は、「市役所で、こんなにはしゃいだのは初めて。好きなキャラクターと、まちの感じが合っているように思いました」。また、愛知県の塩沢彩さん(24)は、「尼崎はまちの人が気さくに声をかけてくれる、皆さん親切です」と、すっかりくつろいだ様子。
シティプロモーション推進部では、「これからもいろいろな企画を用意して、忍たまファンの来場をお待ちしています」と話します。
市役所でもらえる“影の観光特使任命カード”は細工あり
尼崎市役所4階のシティプロモーション推進部には、“忍たまファン”に人気のコーナーが。訪れると出席簿に記入され、出席を重ねると進級できます。2013年の設置以来、約7800人が来場。フォトスポットもあり、地名めぐりのパンフレットなども配布中。
NHK Eテレで「忍たま乱太郎」放送中
「忍たま乱太郎」
ⓒ尼子騒兵衛/NHK・NEP
1986年から朝日小学生新聞に「落第忍者乱太郎」を連載。あさひコミックス「落第忍者乱太郎」(朝日新聞出版刊)は、10月に60巻を発行。1993年NHKテレビアニメ「忍たま乱太郎」放送開始。親子で楽しめる番組として支持されています。