「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー3
私の記事、「埠頭駅定食」を私有地配設置すれば有罪になるのかー2の続きです。今回は、いわゆる「定食」を自己所有地に配置し、それを食べた放し飼いの猫が死んだ場合、定食を配置した土地所有者の行為は器物損壊罪が成立するか否かを論じます。結論を先に言えば、ほぼ不可能です。
2ch生き物苦手板の住民とのオフ会の報告、【弁護士の見解】毒餌は敷地内であっても違法行為から引用します。
(いわゆる「定食」を配置し、殺害を)人に飼育されている犬猫を対象とする場合は、上記の他に、刑法第261条の器物損壊罪に該当します。
二つの犯罪が成立することになるのです。上記のような評価は、自宅敷地であろうとも公共の場であろうとも何ら変わりません。
まず「器物損壊罪」について述べます。器物損壊罪は、刑法第261条に以下の条文があります。「他人の物(=所有物)を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する」。つまり器物損壊罪とは「他人の所有物または所有動物を損壊、傷害することを内容とする犯罪」です。器物損壊罪ーウィキペディア
つまり客体は他人の「所有物」であることが犯罪の構成要件です。客体である物、または動物が現に他人所有されていることが必要です。
動物は民法上、無登録の動産です。無登録の動産は「占有すること」によって、第三者に所有権を対抗できるとされています。法学上「動産の場合には引渡し(占有)が対抗要件とされている。つまり、その動産の占有を取得すれば、その動産の所有者であると主張することができる」とされています。第三者に「この物は私の所有物だ=この猫は、私の飼い猫だ」と主張し、それが認められるためには、その物=猫、を占有していなければなりません。
放し飼いで占有していなければ、「この猫は私の飼い猫」と所有権を主張できないということです。
かなり古い事件ですが、東京で三味線の猫皮革業者が公道上で猫を度々捕獲しました。猫愛誤家らの強い要望により、警察は猫皮革業者を逮捕送検しました。しかし検察庁は、猫皮革業者らが行った行為に、犯罪事実はないとして相次いで不起訴処分としました。猫獲り業者の逮捕容疑は窃盗等でしたが、検察はそれらの犯罪事実が成立しないと判断したのです。
東京新聞1972年記事などを引用。 「猫獲り」と「動物の保護および管理に関する法律」
犯罪事実がないとする根拠は以下の通りと推測します。
・猫皮革業者は、その猫が飼い猫という認識がなかった。つまり猫皮革業者に*不法領得の意思がない。
・猫の飼い主は、所有物(飼い猫)を占有管理せず、放し飼いしていた。つまり所有権が認められない。
*不法領得の意思~他人のものを自己の所有物と同様に、これを利用し又は処分する意思。窃盗罪などの構成要件の一要素とされる。他人のもの(所有物)と知り、かつ悪いとしりながら、自分のものとしてしまうということ。
検察庁は、猫を盗まれたという飼い主の主張を認めなかったのです。つまり猫の飼い主が、猫を占有していなかったことで、猫の所有権を認めなかったのです。窃盗罪等の財産に対する罪は、客体が他人の所有物であることを要件としているからです。
例えば大型家電製品を、長期間路上に放置したとします。そのうちくず鉄回収業者が回収して、スクラップにしました。このケースでは、くず鉄回収業者は窃盗罪等の財産罪は問われません。客観的にその家電は所有権を放置したとみなされるからです。また法学上も、無登録の動産(この場合、家電)は占有することにより、所有権を対抗できるとしています。占有しないことは所有権の放棄とみなされ、そのような状態で所有権を主張することは権利の濫用であり認められません。
つまり猫であっても、無登録の動産であることには変わりありませんから、その所有権(それは私の飼い猫である)ということを主張し、それが守られるためには、占有することが必須です。占有していない、放し飼いをしているということは所有権(=飼い猫)として認められません。ですからそれを殺されたり傷つけられたりしたとしても、器物損壊罪が成立する可能性は低いのです。
ましてや公有地ではなく私有地です。述べた通り、放し飼いの猫は無主物(所有者がいない)です。民法239条では、私有地上の無主物の帰属は、その土地の所有者に帰属するとあります。「定食」の配膳はさておき、放し飼いの猫が入れば、その土地の所有者の意思により所有権が生じます。所有権が生じれば、所有権に基づき、その物を自由に処分できます。保健所に届けるのも、獣医師に安楽死を依頼するのも勝手です。
その動産が、公有地にある場合と他人の私有地にある場合とでは、法的な意味がかなり異なります。【弁護士の見解】「自宅敷地であろうとも公共の場であろうとも何ら変わりません」の記述ですが、本当に弁護士がそのような見解をしたとは疑問です。
さらに放し飼い飼い主は、猫を放し飼いをしたという落ち度も考慮されるでしょう。猫を放し飼いにしなければ、屋外で有害なものを摂取することはありません。動物愛護管理法7条1項は、「動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物を適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならないと定めています。
また猫を放し飼いし、他人の敷地に入れば当然被害を及ぼします。猫の放し飼いは、本条に反します。猫を放し飼いにすることは猫にとっても危険であり、人に被害を及ぼします。努力規定とは言え、それに反することをしておきながら、都合のいい時だけ猫の所有権を主張するのは、権利の濫用としても認められるべきではありません。
以上より、放し飼いの猫が、他人の所有地に勝手に侵入し、そこにある法的規制のない有害なものを食べて死んだとしても、器物損壊罪が成立する可能性はほぼありません。土地所有者が故意に食べさせたとしてもです(その故意の立証すら難しいです。器物損壊罪の構成要件は、客体が他人の所有物であることのほかに、行為者の故意を要件とします)。
なぜならば、本罪の構成要件である、その猫の所有権が放し飼いしている飼い主に認められないからです。法理論上も、検察庁の過去の見解もそうです。また同様のケースで、器物損壊罪での有罪判決はただの一つもありません。
それと蛇足を一つ。問題のブログ記事の「二つの犯罪が成立することになるのです」という記述ですが、法律の専門家である弁護士ならば「併合罪が成立する」とスマートな記述をするでしょう。
いずれにしても、問題のブログ記事は、法律の専門家が関与した形跡は微塵もありません(続く)。
(画像)
某掲示板での推奨不凍液を買ってきました。もちろん愛車の整備用です。ノンリンタイプだから環境にやさしいですが、苦味が少ないのでペットの誤摂取には特に気を付けましょう。
なお、ラジエーター不凍液の主成分、エチレングリコールの法的規制は、4,000リットル以上を保管する場合は届出が必要です(消防法)。なお、ツナ缶の食べ残しにうっかりこぼしてしまって、それを庭に放置したとしても、罰する法律は皆無です。そのようなものを猫が食べれば死ぬ危険性があります。そのような事故が起きないように、ラジエーター不凍液の取り扱いには注意しましょう。
2ch生き物苦手板の住民とのオフ会の報告、【弁護士の見解】毒餌は敷地内であっても違法行為から引用します。
(いわゆる「定食」を配置し、殺害を)人に飼育されている犬猫を対象とする場合は、上記の他に、刑法第261条の器物損壊罪に該当します。
二つの犯罪が成立することになるのです。上記のような評価は、自宅敷地であろうとも公共の場であろうとも何ら変わりません。
まず「器物損壊罪」について述べます。器物損壊罪は、刑法第261条に以下の条文があります。「他人の物(=所有物)を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する」。つまり器物損壊罪とは「他人の所有物または所有動物を損壊、傷害することを内容とする犯罪」です。器物損壊罪ーウィキペディア
つまり客体は他人の「所有物」であることが犯罪の構成要件です。客体である物、または動物が現に他人所有されていることが必要です。
動物は民法上、無登録の動産です。無登録の動産は「占有すること」によって、第三者に所有権を対抗できるとされています。法学上「動産の場合には引渡し(占有)が対抗要件とされている。つまり、その動産の占有を取得すれば、その動産の所有者であると主張することができる」とされています。第三者に「この物は私の所有物だ=この猫は、私の飼い猫だ」と主張し、それが認められるためには、その物=猫、を占有していなければなりません。
放し飼いで占有していなければ、「この猫は私の飼い猫」と所有権を主張できないということです。
かなり古い事件ですが、東京で三味線の猫皮革業者が公道上で猫を度々捕獲しました。猫愛誤家らの強い要望により、警察は猫皮革業者を逮捕送検しました。しかし検察庁は、猫皮革業者らが行った行為に、犯罪事実はないとして相次いで不起訴処分としました。猫獲り業者の逮捕容疑は窃盗等でしたが、検察はそれらの犯罪事実が成立しないと判断したのです。
東京新聞1972年記事などを引用。 「猫獲り」と「動物の保護および管理に関する法律」
犯罪事実がないとする根拠は以下の通りと推測します。
・猫皮革業者は、その猫が飼い猫という認識がなかった。つまり猫皮革業者に*不法領得の意思がない。
・猫の飼い主は、所有物(飼い猫)を占有管理せず、放し飼いしていた。つまり所有権が認められない。
*不法領得の意思~他人のものを自己の所有物と同様に、これを利用し又は処分する意思。窃盗罪などの構成要件の一要素とされる。他人のもの(所有物)と知り、かつ悪いとしりながら、自分のものとしてしまうということ。
検察庁は、猫を盗まれたという飼い主の主張を認めなかったのです。つまり猫の飼い主が、猫を占有していなかったことで、猫の所有権を認めなかったのです。窃盗罪等の財産に対する罪は、客体が他人の所有物であることを要件としているからです。
例えば大型家電製品を、長期間路上に放置したとします。そのうちくず鉄回収業者が回収して、スクラップにしました。このケースでは、くず鉄回収業者は窃盗罪等の財産罪は問われません。客観的にその家電は所有権を放置したとみなされるからです。また法学上も、無登録の動産(この場合、家電)は占有することにより、所有権を対抗できるとしています。占有しないことは所有権の放棄とみなされ、そのような状態で所有権を主張することは権利の濫用であり認められません。
つまり猫であっても、無登録の動産であることには変わりありませんから、その所有権(それは私の飼い猫である)ということを主張し、それが守られるためには、占有することが必須です。占有していない、放し飼いをしているということは所有権(=飼い猫)として認められません。ですからそれを殺されたり傷つけられたりしたとしても、器物損壊罪が成立する可能性は低いのです。
ましてや公有地ではなく私有地です。述べた通り、放し飼いの猫は無主物(所有者がいない)です。民法239条では、私有地上の無主物の帰属は、その土地の所有者に帰属するとあります。「定食」の配膳はさておき、放し飼いの猫が入れば、その土地の所有者の意思により所有権が生じます。所有権が生じれば、所有権に基づき、その物を自由に処分できます。保健所に届けるのも、獣医師に安楽死を依頼するのも勝手です。
その動産が、公有地にある場合と他人の私有地にある場合とでは、法的な意味がかなり異なります。【弁護士の見解】「自宅敷地であろうとも公共の場であろうとも何ら変わりません」の記述ですが、本当に弁護士がそのような見解をしたとは疑問です。
さらに放し飼い飼い主は、猫を放し飼いをしたという落ち度も考慮されるでしょう。猫を放し飼いにしなければ、屋外で有害なものを摂取することはありません。動物愛護管理法7条1項は、「動物の所有者又は占有者としての責任を十分に自覚して、その動物を適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならないと定めています。
また猫を放し飼いし、他人の敷地に入れば当然被害を及ぼします。猫の放し飼いは、本条に反します。猫を放し飼いにすることは猫にとっても危険であり、人に被害を及ぼします。努力規定とは言え、それに反することをしておきながら、都合のいい時だけ猫の所有権を主張するのは、権利の濫用としても認められるべきではありません。
以上より、放し飼いの猫が、他人の所有地に勝手に侵入し、そこにある法的規制のない有害なものを食べて死んだとしても、器物損壊罪が成立する可能性はほぼありません。土地所有者が故意に食べさせたとしてもです(その故意の立証すら難しいです。器物損壊罪の構成要件は、客体が他人の所有物であることのほかに、行為者の故意を要件とします)。
なぜならば、本罪の構成要件である、その猫の所有権が放し飼いしている飼い主に認められないからです。法理論上も、検察庁の過去の見解もそうです。また同様のケースで、器物損壊罪での有罪判決はただの一つもありません。
それと蛇足を一つ。問題のブログ記事の「二つの犯罪が成立することになるのです」という記述ですが、法律の専門家である弁護士ならば「併合罪が成立する」とスマートな記述をするでしょう。
いずれにしても、問題のブログ記事は、法律の専門家が関与した形跡は微塵もありません(続く)。
(画像)
某掲示板での推奨不凍液を買ってきました。もちろん愛車の整備用です。ノンリンタイプだから環境にやさしいですが、苦味が少ないのでペットの誤摂取には特に気を付けましょう。
なお、ラジエーター不凍液の主成分、エチレングリコールの法的規制は、4,000リットル以上を保管する場合は届出が必要です(消防法)。なお、ツナ缶の食べ残しにうっかりこぼしてしまって、それを庭に放置したとしても、罰する法律は皆無です。そのようなものを猫が食べれば死ぬ危険性があります。そのような事故が起きないように、ラジエーター不凍液の取り扱いには注意しましょう。
(追記)
民法239条ですが、判例を探して見ましたがめぼしいものはありませんでした。しかしこのような慣習を挙げておきます。
駅前立地の区分所有マンションなどでは、住民以外が自転車を駐輪するケースが大変多いです。多くの管理組合では、当該マンションの住民の自転車にはステッカーを貼るなどして、外部の者の自転車と区別しています。
外部の者が、当該マンションの駐輪場に自転車をおいた場合、管理組合はその自転車を廃棄物として処分します。そのような場合でも、その自転車の持ち主から器物損壊罪で訴えられたケースを知りません。また有罪判決は皆無です。
民法239条により、外部の者が、マンションの管理組合所有地に自転車を置けば、その自転車の所有権を管理組合が取得できるということです。自転車は多くの場合防犯登録がなされ、完全には無登録の動産とは言い難い面があります。しかしそのような場合でも、他人の土地に自転車を土地所有者の許可なしに置けば、占有を故意に離脱させたとみなされ、所有権の主張は難しくなります。自転車の所有権は土地所有者に取得され、勝手に処分されても文句は言えないのです。
もし自転車を処分された者が、管理組合に対して器物損壊罪で訴えたとしても、権利の濫用として主張は認められないでしょう。自転車を放置した土地が区分所有の管理組合ではない空き地や、一棟所有のマンションアパートでも同様です。
猫を放し飼いにするということは、故意に人の土地に侵入させることです。当然予測できることで、偶発ではありません。故意に占有を離脱させたものでの所有権の主張は、権利の濫用として認められないというのが法律上の解釈です。
したがって、放し飼いの猫が他人の土地に侵入してた場合、その地の所有者が捕獲して保健所に届けて処分しても器物損壊罪は成立しないと考えるのが妥当です。猫であれ自転車であれ、法律上はモノ=器物=無登録の動産、であることには変わりありません。
民法239条ですが、判例を探して見ましたがめぼしいものはありませんでした。しかしこのような慣習を挙げておきます。
駅前立地の区分所有マンションなどでは、住民以外が自転車を駐輪するケースが大変多いです。多くの管理組合では、当該マンションの住民の自転車にはステッカーを貼るなどして、外部の者の自転車と区別しています。
外部の者が、当該マンションの駐輪場に自転車をおいた場合、管理組合はその自転車を廃棄物として処分します。そのような場合でも、その自転車の持ち主から器物損壊罪で訴えられたケースを知りません。また有罪判決は皆無です。
民法239条により、外部の者が、マンションの管理組合所有地に自転車を置けば、その自転車の所有権を管理組合が取得できるということです。自転車は多くの場合防犯登録がなされ、完全には無登録の動産とは言い難い面があります。しかしそのような場合でも、他人の土地に自転車を土地所有者の許可なしに置けば、占有を故意に離脱させたとみなされ、所有権の主張は難しくなります。自転車の所有権は土地所有者に取得され、勝手に処分されても文句は言えないのです。
もし自転車を処分された者が、管理組合に対して器物損壊罪で訴えたとしても、権利の濫用として主張は認められないでしょう。自転車を放置した土地が区分所有の管理組合ではない空き地や、一棟所有のマンションアパートでも同様です。
猫を放し飼いにするということは、故意に人の土地に侵入させることです。当然予測できることで、偶発ではありません。故意に占有を離脱させたものでの所有権の主張は、権利の濫用として認められないというのが法律上の解釈です。
したがって、放し飼いの猫が他人の土地に侵入してた場合、その地の所有者が捕獲して保健所に届けて処分しても器物損壊罪は成立しないと考えるのが妥当です。猫であれ自転車であれ、法律上はモノ=器物=無登録の動産、であることには変わりありません。
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