電通は23日、インターネット広告の代金を一部の企業に過大に請求していたと発表した。故意や人為的なミスによって広告時期がずれたり、広告が掲出されなかったりしていた。運用状況や実績について虚偽の報告をし、実態とは異なる代金を請求。22日までに確認した過大請求額は約2億3000万円に上るという。広告業界の盟主による「不適切な行為」が成長著しいネット広告市場の冷や水になりかねない。
虚偽報告や過大請求が疑われる不適切な案件はこれまでの調査で633件、対象となる企業は111社だという。このうち、広告を掲出していないのに代金を請求していた案件は14件あった。
電通は広告主からの問い合わせをきっかけに8月中旬に社内調査チームを発足、実態の把握や原因の解明を進めていた。不適切な業務が確認された案件については広告主に報告しているという。電通では今後も調査を継続し、年内をめどに対処策や再発防止策などをまとめ、広告主や関係諸団体に報告する予定だ。
今回、問題が発覚したネット広告は、低迷する広告市場にあって唯一の成長市場だ。電通が毎年まとめる「日本の広告費」によると、スマートフォン(スマホ)やタブレット端末などの普及が起爆剤となり、2015年の国内ネット広告費は前年比10.2%増の1兆1594億円だった。市場規模はテレビ(1兆9323億円)には及ばないが、新聞(5679億円)の2倍以上の規模となった。
日本だけではない。米国のネット広告費は日本よりも大きく伸びている。米調査会社イーマーケターによると、16年の米国でにネット広告費は15年比20.5%増の720億9000万ドル(約7兆2700億円)となり、同3.5%増の712億9000万ドルにとどまるテレビ広告を始めて上回る見通しだ。中国では既に14年にネット広告費がテレビを上回っている。
市場の成長と歩調を合わせるように、広告技術(アドテクノロジー)も大きく進歩。従来は表示場所を事前に決めておく「枠売り」と呼ばれる広告が主流だったが、現在は検索内容や閲覧履歴などに応じて特定の消費者に狙い澄まして配信する「運用型広告」に需要がシフトしている。電通が過大請求した広告サービスにも「運用型」が含まれているという。
こうした新しい分野ではビッグデータや人工知能(AI)など新技術を積極的に採り入れ、「広告効果」の底上げが期待されている。もっとも、今回の電通の不適切業務によって、新市場の拡大に歯止めがかかるようなことがあれば、広告業界にとっては大きな痛手。電通にとどまらず、広告各社には事業の透明性を確保するための取り組みが求められそうだ。
(湯田昌之)
