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畳之下新聞

畳の下に敷いてある新聞には、あなたの心を惹きつける言葉が書かれています。

長谷川豊さんの人工透析自己責任論がコピペすぎる

重箱の隅つつきだと思う人は読むだけ時間のムダ 調べてみた

長谷川豊さんのblogが話題です。

megalodon.jp

当然のように炎上し、さまざまな論点から指摘がなされ、転載したBLOGOSは謝罪し記事を削除する事態となりました。
長谷川豊さんのblogが炎上するのは珍しくありませんが、今回に限っては「賛成」「批判」よりも「ドン引き」が目に付いたのは私だけでしょうか。


人には個々の事情があるわけで、自業自得かなんて他人には判断できないでしょう。
長谷川豊さんの問題意識は理解できますが、だからといって「医療費を抑制しなければいけない」と「自業自得の病人は殺せ」は全然ちがう。
これが私の意見です。

さて、そんな長谷川豊さんの記事は、論拠に雑な部分が多いのですが、代表的な2点について指摘してみます。

長谷川豊さんの記事が信用できない2つの理由

障害者手帳障害年金の区別がついていない

障害者手帳障害年金は全く別の制度です。
障害者手帳の等級は自治体、障害年金の等級は日本年金機構がそれぞれ認定します。
どちらも等級が数字であらわされ、数字が小さいほど重度なので混同されがちですが、それぞれの等級は連動していません。*1

長谷川豊さんは、等級について以下のように記載していますが、両者の区別がついていないようです。

人工透析患者は「身体障がい者1級」に該当するようになっています。

で、「1級」なので「障がい者年金」がもらえます。毎月かなりの額ですが、それらは地方自治体によって差があります。

障害者手帳障害年金も、それぞれに等級認定の基準があります。
人工透析の場合、障害者手帳の等級認定が1級、障害年金の等級認定は2級が基本とされていますが、各個人の状況によって変わってきます。

また、身体障害者1級だから障害年金が支給されるというわけではありません。
さらに、障害年金の支給額は全国一律で、地方自治体による差はありません。
というか、そもそも「障がい者年金」という制度はなく、正しくは「障害年金」です。

ちなみに、障害年金の支給対象には、がんやうつ病なども含まれます。
受給するには申請が必要なので、知っておいて損はないと思います。

税と健康保険の区別がついていない

健康保険の自己負担割合が3割*2なのはよく知られています。
大きな病気などで多額の医療費がかかる場合は、自己負担額が一定の金額*3でストップする高額療養費という仕組みがあります。
人工透析は高額療養費の特定疾患に指定されていて、自己負担額が月額1万円*4でストップする仕組みになっています。
つまり、人工透析患者の医療費が年間500万円なら、488万円が健康保険で、12万円が自己負担ということになります。

さらに、自己負担分の月1万円についても、国や地方自治体の障害者医療費助成制度が適用されるので、人工透析は自己負担なしで受けられるというわけです。

年間500万円の治療費を全額税金から支給されてタダで受けられ

治療費の大部分は健康保険で負担されているので、全額税金というわけではありません。
社保の場合は被保険者と事業主と国、国保の場合は被保険者と国や自治体が一定の割合で負担しています。

長谷川豊さんが、所得税も住民税も社会保険も年金もぜーんぶひっくるめて「ひかれものだから税金だ」っておっしゃるのなら、なにも申しませんが。


ちなみに高額療養費は、すべての被保険者に適用される制度です。
健康保険組合の場合は申請不要で払い戻しされる場合が多いようですが、協会けんぽ国保の場合は申請が必要になります。
高額療養費は一定期間さかのぼって申請できるので、最近多額の医療費を払った人は、一度手続きについて確認をおすすめします。

なぜあんな記事を書いちゃうのか

少子高齢化が進んでる、医療費がかさんでる、年金も健康保険もヤバいね というのは、多くの人の共通認識ですし、議論や提言を行うことは非常に有意義な事です。
ただ、批判対象の制度すら正確に把握できていない*5のにもかかわらず、なぜあれだけ過激な問題提起ができるのだろうかと思うわけです。


長谷川豊さんのblogには、身体障害者手帳にはさまざまな特典があるという趣旨のことが書かれています。
そこにも間違いがあったのですが、これを調べていく中で、一つのヒントが見えてきました。

全く同じ文章

以下の文章は、人工透析を受けている一級障害者の方のblogに「障害者手帳には様々な特典がある」として書かれているものです。

これは知っている方も多いと思いますが、障害者手帳を持っていると様々な特典を受けることが出来ます。

これも、地方によって差があるのですが、私の住んでいる地域では、

・映画館の利用が常に半額(者1人同伴も半額)
・公共交通機関の利用料の半額(者1人同伴も半額)
・タクシーの初乗運賃の無料チケットが貰える(1枚1枚にに利用期間の設定有り)
・高速道路の利用料金の半額
などがあります。
http://archive.is/Lusqy#selection-929.0-945.13

1点目と2点目のカッコ内は意味が取れないので、おそらくは(同伴者1人も半額)タイプミスでしょう。
また、3点目のカッコ内が にに となっているのも同じくタイプミスでしょう。

そして、長谷川豊さんのblogにはこう書かれています。

人工透析患者は「身体障がい者1級」に該当するようになっています。
え?身体障がい者
そうです。人工透析患者は「1級の身体障がい者」に認定されます。で、そうなるとどうなるか

・映画館の利用が常に半額(者1人同伴も半額)
・公共交通機関の利用料の半額(者1人同伴も半額)
・タクシーの初乗運賃の無料チケットが貰える(1枚1枚にに利用期間の設定有り)
・高速道路の利用料金の半額

など、様々なサービスが受けられます。もちろん、ディズニーでもほとんど並ぶ必要がありません。だって障がい者ですから。横入りし放題です。
http://archive.is/whJ78#selection-275.1-144.138

人工透析患者を批判する文章のネタを、人工透析患者のblogからそのままコピペしてくるとは、驚きを隠せません。
それとも、たまたま同じミスタイプをしたのでしょうか?

取材者の秘匿義務もあるし、出来るだけ若い方々にも読みやすいように内容をすっ飛ばして書き連ねるところは多々ありますが、私はこういうブログを書くとき、ウソや適当なことは絶対に書きません。
(長谷川氏blog 2016年09月22日 人工透析の現場と現実より)

わかりやすく伝えることと、ウソを伝えることは違います。
また、情報提供元の秘匿と、剽窃することも別だと思うのです。
皆さんはどう思いますか?


魔法のように良く分かる「伝わるプレゼン」の教科書

魔法のように良く分かる「伝わるプレゼン」の教科書

*1:障害年金を受給している場合、障害者手帳の等級認定時に準用される場合があります

*2:70歳未満の場合

*3:具体的な金額は税額や標準報酬月額で変わります

*4:所得によっては2万円

*5:意図的なものである可能性は否定できませんが