無関係の口座凍結487件 08年以降
振り込め詐欺など犯罪利用が疑われる金融機関の口座取引を、強制的に停止できる制度が始まった2008年以降、犯罪とは無関係な487件の口座が誤って凍結されていたことが預金保険機構(東京)への取材で分かった。迅速な口座凍結を可能にしたこの制度は被害の拡大防止に成果を上げているが、全国銀行協会(全銀協)によると、「口座が急に凍結され、生活費が引き出せない」という苦情や相談が増えている。
制度は「振り込め詐欺救済法」に基づき、08年6月に導入。振り込め詐欺やヤミ金など犯罪利用口座を早期に凍結し、預貯金を事件の被害者への返還に充てるのが主な目的だ。
全銀協などには、運転免許証や健康保険証の紛失・盗難により、犯罪グループに個人情報が渡ったために不正な口座が開設され、その名義人の別の口座まで次々と凍結された例が報告されている。
口座凍結は、警察による内偵捜査の情報提供などを基に金融機関が行う。凍結後は金融機関から報告を受けた預金保険機構が、名義人の権利を消滅させる手続きの開始をホームページで公告。60日が過ぎて不服の申し立てがなければ、事件被害者への預貯金の分配手続きに移る。
機構の公告資料などによると、08〜15年度、全国で計35万5508件の口座が凍結され、総額約115億円が分配された。一方、犯罪と無関係だったとして凍結が解除された口座は487件。不服の申し出を受け、結論が出ていない口座も1438件あった。
口座が誤って凍結されれば日常生活に大きな支障をきたすが、名義人は警察や金融機関に自ら「無実」を証明する必要がある。第三者が審査する仕組みはなく、民事訴訟を起こさないと結論が出ないケースも少なくない。
警察庁によると、金融機関に口座凍結を求める情報提供は、15年は振り込め詐欺関連で約1万2000件、ヤミ金など生活経済事犯関連で約3万件に上った。【向畑泰司】
補償の検討を
振り込め詐欺救済法に詳しい上田孝治弁護士(兵庫県弁護士会)の話 救済法は迅速な被害拡大の防止が必要な犯罪に、有効な制度だ。口座凍結に慎重になり過ぎて、犯罪グループを利する状況は避けなければならないが、誤った凍結に対する救済の仕組みが確立されていない。補償を検討してもいい。凍結口座の残金は、返還されないままの余剰金が多くあり、それを活用するのも一案ではないか。