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真顔日記

三十六歳女性の家に住みついた男のブログ

オカムラの10万円のイスにすわる居候

同居人女性との日々

私は10万円のイスに座っている。小部屋ではずっとこのイスだ。三十六歳女性の家に転がりこんですぐ自分で買った。まだバイトの貯金があったからだ。100%自費購入。

だから誰にも文句をつけられる筋合いはない……んだが、居候なのに10万円のイスに座っているという状況を俯瞰すると自分でも笑う。いいご身分ですね!

ちなみにオカムラというメーカーの「バロン」というイス。居候なのにバロンだ。男爵である。爵位をいただいている。本当にいいご身分ですね!

デスクはアマゾンで買った6000円の安いやつを使っている。「とにかくイスに金をかけろ、机は適当でいい」とネットで読んだからだ。これは正しかった。たんなるフラットテーブルだが、問題なく六年使えている。イスがよければそれでいい。

だから私はオカムラのバロンを絶賛するんだが、三十六歳女性はとくに興味を示さない。「あんたのあれ、ほこりまみれだよ」と冷静に言ってくる。正確には「ほこりまるけだよ」と言ってくる。方言なんだろう。聞き慣れない方言で切り捨てられてしまうのだ。まあ、たしかに私のバロンはメッシュの部分にほこりとネコの毛が大量に付いている。定期的に取るがすぐ戻る。ほこりまるけだ。

三十六歳女性は冷めた目で言う。

「大体ああいうイス、すぐ人間工学にもとづこうとするでしょ」

この発言はどうかと思った。難癖の付けかたがひどい。チンピラでもやらないレベルの難癖。「テメエ、人間工学にもとづいてんじゃねえよ」。さすがに言わない。

「あと、すぐアルゴリズムとか言い出すし」

これは違和感があったので「アルゴリズムとか言うか?」と返した。別の言葉と勘違いしてないかと思ったのだ。しかし「じゃあ何なのよ」と問われると、私も分からない。そのまま話は終わった。

あとから調べたところ、「エルゴノミクス」だった。「人間工学」を英語で言うと「エルゴノミクス」らしい。それをあやふやに覚えていたんだろう。しかしまあ、覚えられる気のしない単語だ。エルゴノミクス。ジュラ紀の地球をノシノシ歩いてそう。

私はオカムラのイスと日々をともにしている。何の不満もない。あっさりと最高のイスを見つけてしまった。しかし購入を検討していたときは、他の可能性もいろいろ考えていた。たとえば、バランスボールをイスがわりにする方法はどうなんだろうとか。アーロンチェアというのは、また座り心地が違うんだろうかとか。

それから当時気になっていたのは、この変なイス。

VARIER(ヴァリエール) バランスチェア Multi Balans マルチバランス ブルー RBC-M047

ものすごく妙な形だが、良いらしい。バランスチェアと呼ばれている。値段もかなりする(これは5万円)。しかしとにかく見た目のインパクトがすごい。あまりに得体が知れないので逆に興味がある。

アマゾンのページには色々と理屈が書いてあった。研究に研究を重ねた結果こうなったらしい。要するに人間工学にもとづいた結果なのだ。ちょっと三十六歳女性の言う意味がわかった。たしかにこいつら、すぐ人間工学にもとづこうとする。