コイルガンの基本

 コイルガンの原理は非常に単純である。更に、パーツの入手もそれほど難しくない。つまりは単に作るだけなら簡単なので、製作例が多い。

 鉄片の表面に働く吸引力は、磁力線の本数が多ければ多いほど強くなる。磁力線の密度に差がある場合、鉄片の表面に働く吸引力にも差が生じる。結果として、鉄片は磁力線が粗な部分から密な部分に向かって吸引される。鉄片の大きさを一定とした場合、吸引力は磁力線の密度変化が大きいほど大きくなる。磁力線が密であっても、密度の変化が小さければ吸引力も小さくなる点に注意が必要である。
 磁力線はコイルの壁より芯で密となるため、鉄片は芯に吸い寄せられコイル壁と非接触で加速可能。

 

コイル磁場の基本

 磁力線の密度、早い話が磁場の強さだが、それを知るにはどうすれば良いだろうか?
 コイルが作り出す磁場を知る上で便利なのが、ビオ・サバールの法則である。これは、電流が流れる導線の周囲に作り出される磁場の強さを教えてくれる。しかしコイルガンを作る上で役立つのは、法則の派生として良く知られる円形電流のケースである。

 半径Rのリング状の導線に電流Iが流れている。リングの中心軸上においてリング中心からXだけ離れた場所に発生する磁場の強さは、左図の式で与えられる。
 趣味の場合は証明方法など知らなくても、有り難く利用させて貰えば良いのだ。複雑に見える式だが、パソコンに放り込んでやれば勝手に計算してくれる。便利な世の中になったものだ。

 コイルは1本のエナメル線を螺旋状に巻いて作る。それを、多数のリングが並んだものと近似すれば、この法則によってコイル中心軸の磁場の強さが計算可能となる。
 コイルを構成するリングの磁場を合計すれば、コイルの磁場となる。分かるのは中心軸上の磁場だけだが、コイルガンではそれだけでもかなり役立つ。

 小型模型の搭載に適した短いコイルをモデル化し、磁場をシミュレーションしてみた。黄色がコイル、赤が磁場の強さ、そして緑は磁場の強さの変化であり微小鉄片が受ける吸引力を示す。要するに、赤いグラフを微分したものが緑のグラフだ。
 磁場は当たり前だがコイルの真ん中で最大となる。それに対し、吸引力はコイルの端で最大となる。小学校の理科を思い出して欲しい。棒磁石の吸引力が最大なのは両端だったでしょ?
 コイルも同様であり、コイルガンの設計において頭に入れておかねばならない。

 微小鉄片が取得する速度は吸引力すなわち加速度を積分したものであるから、結局は磁場の強さに一致するのでは?という疑問が出て当然だ。微分したものを積分して元に戻るため、緑グラフのパターンとは無関係にとにかく最大磁場が大きなコイルこそが最大の速度を実現出来るのでは?
 コイルに流れる電流が定常であればその通り。それこそ、最強の磁場を作り出すコイルが最強のコイルガンとなる。

 ところが、実際のコイルに流れるのはパルス電流。流れ始めは電流が小さく、だんだん大きくなって最後はまただんだん小さくなる。この場合、吸引力の変化パターンが無視出来ない。吸引力の強い領域でコイル電流が増大していてこそ、より大きな速度を得られる。
 コイルを流れるパルス電流の強度変化は、コイルのインダクタンスと直流抵抗、そしてコンデンサーの電圧と静電容量で決まる。これらのパラメーターをあれこれ変化させ、最大効率の組み合わせを探さねばならない。磁場の大きなコイルを作れば良いってものではない。

 

コイルガン製作の基本

 まず、高圧電源を用意する。コイルの端には鉄片を置いておく。
 スイッチSW1をONにして、高圧コンデンサーC1を充電する。
 充電が完了したらスイッチSW1をOFFにし、スイッチSW2をONにする。C1に蓄積された電荷がコイルに一気に流れ込み、強力な電磁石となる。その吸引力で鉄を加速するのである。永久磁石や普通の電磁石であれば、鉄がくっついて止まってしまうが、C1が空になると電磁石では無くなって、吸引力も無くなる。それまでに獲得した勢いで、鉄はコイルの中を通過し、飛び出して行く。
 極めて強力な電磁石になると、鉄心を使用すると磁束飽和により磁力の強さが制約される。そこで、コイルガンでは空芯コイルを使うのが普通である。

回路図 鉄がコイルの真ん中に達する前に吸引力が無くなってくれないと困る。真ん中を過ぎると逆に磁力線が粗となり、引き戻されてしまうからだ。上のグラフで吸引力を示す緑のグラフが下側に振れている通り。
 そこで、どんなコイルを用意するか?コンデンサーの容量と充電電圧は?鉄片はどんなものを使うか?というバランスを取るのが難しい。しかし、パーツ自体はありふれているしネットには成功例が公開されているので、前例を参考にパーツのスペックを適当に決めれば誰でも比較的容易に結構強力なコイルガンを製作出来る。

 

パーツの性質と問題点

 コイルガンは単純で手を出し易い反面、極めて奥が深い。そのため、製作で試行錯誤することは非常に物理の勉強になる。実験の楽しさも味わえるので、お薦めの電子工作である。

1)コンデンサーの性質
 コンデンサーはエネルギーを電荷として蓄積する。充電すると次第に電圧が高くなる。放電すると次第に電圧が低くなる。
 安全に蓄積出来る電圧の最大値がある。
 容量が大きいほど電圧の変化が緩やかであり、容量はファラッドで表す。
 電圧の変化を緩やかにする目的で使用されることも多い。

2)コイルの性質
 コイルはエネルギーを磁力として蓄積する。通電すると次第に電流が大きくなる。放電すると次第に電流が小さくなる。
 安全に保持出来る電流の最大値がある。
 容量が大きいほど電流の変化が緩やかであり、容量はインダクタンスで表す。
 電流の変化を緩やかにする目的で使用されることも多い。

3)LC共振
 コンデンサーとコイルを直列に接続して回路を作る(スイッチSW2をONにする)と、コンデンサーの電圧変化やコイルの電流変化が正弦波を描く。以下は、変化の一例である。緑はコンデンサー電圧、青はコイル電流。回路に抵抗があるため、徐々に減衰して行く。

 コンデンサーが放電すると、コイル電流が徐々に増大する。コンデンサーが空になると、今度はコイル電流でコンデンサーが充電される。それを繰り返すのだ。こうして、コイル電流はなかなか消えない。そうなると、鉄片が引き戻されてしまう。
 また、途中でコンデンサーの極性が反転する。コイル電流がコンデンサーに戻る時に、逆極性で充電されるのだ。コンデンサーには極性が決まっているものがあり、逆極性に充電されると著しく寿命を縮めたり破壊されたりする。大きなエネルギーを扱いたいコイルガンの場合、電解コンデンサーしか選択の余地がないことも多い。残念ながら電解コンデンサーには極性がある。

 

フライホイールダイオード

 コンデンサーを逆極性に充電させないこと。これは信頼性確保の基本である。フィルムコンデンサーやオイルコンデンサーなど極性の無いものを使う場合でも、逆電圧充電は大抵の場合寿命を損なう。また、これらのコンデンサーは一般に重くて高価だ。

 コンデンサー充電部は省略した。
 逆極性の電流を通過させるダイオードD1を付加。

 コイルを流れる電流は、すぐには停止しない。D1が存在すると、それを通過して電流がぐるぐる回る。回路に存在する抵抗により徐々に減衰するが、この電流の状況がさながら弾み車のようなイメージなので、D1をフライホイールダイオードと呼ぶ。

 この状態で先と同じLC共振のシミュレーションをやってみる。コンデンサーは逆極性にならず、コイル電流もスムーズに収束している。めでたしめでたし・・・?
 実際、模型用の超小型コイルガンであれば、これで充分に使い物になる。極めて簡単な回路でありながらトラブルを起こし難く、お薦めである。注意点として、D1には極めて大きな電流が流れること。それに耐えられるスペックのダイオードを使用せねばならない。

 

鉄片の形状

 弾丸として使用する鉄片は、どんな形が良いか?
 鉄片の表面に働く吸引力は、磁力線の本数が多ければ多いほど強くなる。つまり、鉄片の前後で磁力線の密度に大きな差があるほど推進力が大きくなる。磁力線のパターンを一定とした場合、鉄片が前後に長いほど有利である。

 これはコイルの長さを17ミリとし、プロジェクタイルの前後長が変化した場合に単位断面積あたりの推進力がどう変化するか計算したものである。重量と材質が同じ場合、前後に長くなれば断面積が減り、それに比例して推進力も減ってしまう。つまり、コイルが同一であれば、前後に長くても有利にならない。
 しかし現実には、断面積が減るとコイル内径も小さくすることが出来る。コイル銅線と鉄片の距離が接近し磁場が強くなる。やはり前後に長いのは有利なのだ。正確には・・・細いほど有利なのだ。

 穏当なコイルガンとも言えるソレノイドを見ても分かるが、通常は細長い円柱形の鉄片が使用される。ネットで公開されているコイルガンの多くでも採用されている。素材としては鉄以外の弾丸も使用されているが、形状は円柱が殆どである。
 ところが、弾丸として飛び出さないソレノイドなら良いが、実用性を考えた場合にそのような弾丸は飛行姿勢が安定しない。自動装填装置を製作するのも大変である。また、弾丸は基本的に消耗品であるから、手作業で手間を掛けて製作したくはない。

 実験室レベル研究室レベルでパワーや効率を追求するなら円柱プロジェクタイルに限るが、実用性を考えると鉄球を使用したくなる。
 ただし、鉄球は太いとも言えるため、大きな推進力を得るのが大変である。実用的なパワーを得るには苦労する。使い勝手は良いが性能的に不利となる鉄球を使用し、いかに使い物となるコイルガンを作るか?それはなかなかエキサイティングな挑戦である。

 これは、コイルの長さを倍の34ミリとした計算。長いプロジェクタイルは長いコイルの恩恵を受けるが、短いプロジェクタイルは大して影響を受けないことが分かる。必要以上に長いコイルは直流抵抗が増大しロスが増える。鉄球を使うならコイルは短くて良い。

 

鉄球の初期位置

 シミュレーションはまた現実に合わない結果も示している。吸引力はコイル端より手前でも強力に働くとの結果である。もしこれが正しいのであれば、プロジェクタイルの初期位置をコイルより手前にするのが良さそうである。

 つまり、右図のCの付近である。これならば、吸引力の大きな区間を有効に加速に使用出来る。
 一方、Aのようにコイルの奥から加速を開始したのでは、吸引力の小さな区間しか使えず、まるでパワーが出ない。

 ところが、現実には初期位置をBの付近にするのがベストなのだ。
 初期位置を変えながら射撃してみればすぐ分かるが、プロジェクタイルの半分がコイルに入っていて半分が出ている。そんな位置に置いてから撃つのが最もパワーが出る。
 Aではパワーが出ないのも現実に経験可能な事実である。ところが、Cでもまたパワーが出ない。シミュレーション結果からは納得出来ない。しかし、磁場の強さはビオ・サバールの法則に基づいた信頼性の高いものだ。それがなぜ現実と合わないのか?

 恐らくは、コイルに挿入されたプロジェクタイル自体が鉄心としても働くからだろう。
 コイルガンでは弾道を確保すると同時に磁気飽和を防ぐため、通常は空芯コイルを使う。だが、実射時は必然的に鉄心入りコイルとなる。この場合、磁気飽和の問題が生じる代わり、コイルが発生する磁場も強化される。
 特に初期位置直後すなわち放電直後は、まだコイル電流が増大し切れていないため磁気飽和し難い。つまり、鉄心の効果が存分に発揮される。

 Cではプロジェクタイルが鉄心とならないため磁場が強化されず、磁場の差も小さいままで吸引力が小さくなる。それに対し、Bはコイルに侵入した半身が鉄心となり磁場が強化される。ただでさえ磁力の大きな進行方向側だけ更に強化されるため磁場の差が大きくなり、大きな吸引力が働く。
 プロジェクタイル内部を磁力線が誘導されたりヒステリシスの存在など、複雑怪奇な現象が磁力にはつきまとう。そのため、厳密なシミュレーションが極めて難しい。

 

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