愛着という言葉を聞いたことがありますか?
「この家に愛着がある。」、「物に愛着が湧く」など、愛着は、慣れ親しんだ人や物に対して強く深い思いを抱くこととして、世間一般に浸透している言葉です。
しかし、心理学の世界における愛着は、人や動物との情緒的な結びつきのことで、乳幼児期にパパママとの愛着が十分に形成されているかどうかで、その後の人生に大きく影響すると考えられています。
これまで、愛着が形成される過程や、愛着が障害された時の症状について、たくさんの学者が研究結果を発表していますが、中でも、心理学者・精神分析学者ジョン・ボウルビィが確立した愛着理論は有名で、現在でも愛着に関する研究の土台になっています。
愛着について知ることは、子供との適切な関わり方を知ることであり、ひいては知育のあり方にもつながるものです。
この記事では、ボウルビィの愛着理論について、愛着の概要、愛着の形成過程と愛着障害を中心に紹介します。
愛着とは
愛着とは、ボウルビィの愛着理論の中に登場する概念の一つで、人や動物との間に築く特別な情緒的な結びつきのことです。
乳児期の赤ちゃんから幼児期の子供が、ママ(身近にいて育児をする人)との間に築く情緒的な結びつきを意味して使用されることが多いものです。
愛着は、英語のattachment(愛着、愛情、傾倒などの意)の訳語です。
ボウルビィの愛着理論では、人は生理的早産(動物学に、他の哺乳類の生まれた時の状態に比べて未熟な状態で生まれてくること)で生まれてくると考えられます。
実際、赤ちゃんは、目がほとんど見えず、自力で身体を動かすこともできない状態で生まれてくるので、あらゆる面で他人にお世話してもらわないと生きていけません。
そうした未熟な状況で生まれてくる赤ちゃんが、他人に自分のことを守ってくれるよう仕向けるための仕組みが愛着だと説明されています。
つまり、愛着は、身近な大人との情緒的な結びつきを持つことで、心と体の安全を得るための「本能的な生きる知恵」だと考えられているのです。
愛着関係を築いた相手に対する愛着行動
愛着行動とは、赤ちゃんや子どもが、ママなど愛着関係を築いた特定の相手に対して行う、相手の関心を得てお世話してもらうための行動のことです。
愛着行動は、次の3つです。
- 発進行動:泣いたり、ぐずったり、微笑んだりしてママの注意を引き、近くに来てもらおうとする行動
- 接近行動:抱きつく、後追いするなど、自らママに近づいて注意を引く行動
- 定位行動:パパママを目で追ったり、声のした方を振り向いたりして、ママの居場所を確認する行動
愛着の発達段階
愛着は、生まれた時から身につけているわけでも、ある日突然獲得するわけでもありません。
愛着の形成には、乳幼児期に、ママとのノンバーバルコミュニケーション(言葉を使わない相互のやりとり)が継続的かつ密接に行われることがとても大切です。
赤ちゃんは、愛着行動を駆使してママの注意を引き、ママから愛情のこもったお世話をたくさんしてもらうことで安全や安心を感じ、ママとの愛着関係を築いていくと考えられています。
ボウルビィの愛着理論では、愛着の形成が4段階に分類されています。
第1段階(新生児期~生後2,3ヶ月)
新生児期の赤ちゃんは、生まれ持った原始反射で周囲の刺激に反応します。
原始反射には、手の平に触れた物をギュッと握る手掌把握反射、唇に乳首が触れると吸い付いて母乳を飲む哺乳反射などがあります。
また、生理的微笑(新生児微笑、自発的微笑)という、外からの刺激とは関係のない偶発的な微笑みを見せることもあります。
これらの行動を見ると、ママをはじめ周囲の大人の多くは、赤ちゃんをかわいいと思い、積極的に関わりお世話しようとするようになるでしょう。
第1段階は、赤ちゃんが生まれ持った反射や微笑で周囲の大人の心をわしづかみにし、ママ(お世話してくれる人)の自発的な関わりやお世話を引き出すことで、やりとりを広げていきます。
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第2段階(生後3ヶ月~生後6ヶ月)
赤ちゃんは、生後3ヶ月~4ヶ月頃に原始反射の多くが消失すると、刺激に対して無差別に反応することは減り、いつもお世話をしてくれる人を選んで関心を引こうとしたり、反応したりするようになります。
例えば、ママに話しかけられると歓声をあげて微笑み、喜んで反応しますが、見知らぬ人の場合はけげんそうな顔をして後ずさり、泣き出すこともあります。
第3段階(生後6ヶ月~生後2、3歳)
愛着行動がはっきり行動化されてくる時期です。
生後6ヶ月頃の赤ちゃんは、ママとそれ以外の人を区別できるようになり、見知らぬ人に対しては興味と不安という相反する気持ちを抱いて葛藤するようになります。
いわゆる人見知りの始まりです。
パパとの関わりが乏しい赤ちゃんの場合は、「パパ見知り」を始めることもあります。
また、ズリバイやハイハイを覚えるとママの後追いを始め、ママに付きまとい、しがみつき、身体によじ登ろうとして、ママに抱っこしてもらえるまで落ち着かなくなります。
泣き叫ぶこともありますが、ママの反応やママとの距離によって泣き方や叫び方を変えるなど、本当に泣いているわけではなく、注意を引くための行動のことも多いものです。
愛着関係が十分にできている場合、子供は、ママに接近するだけでなく、ママを心のよりどころ(安全基地)として周囲に積極的に働きかけていけるようになります。
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第4段階(生後3歳~)
愛着関係に問題がない場合、この時期の子供は、ママの気持ちや感情に気づき、それを受け入れられるようになります。
例えば、ママが用事でそばを離れても、「幼児が終わればまた戻ってきてくれるだろう。」と思って待っていられますし、自分のそばにいない時のママの様子を想像できるようにもなります。
つまり、物理的にママと一緒にいなくても、ママが自分のことを大切に思ってくれているという気持ちを心の中に持っておくことができるようになっているのです。
愛着障害とは
愛着障害とは、乳幼児期にママ(主にお世話する人)との愛着関係が形成されなかったことによって起こる障害のことです。
愛着障害が起こる原因の最たるものは、虐待(身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト、性的虐待)です。
中でも、育児放棄をはじめとするネグレクト環境に置かれていた子供の愛着障害については、社会問題となっています。
愛着障害のある子供は、衝動性の高さ、物事への過敏さ、反抗的な態度や破壊的な行動が見られる傾向があります。
また、自尊心が低く、相手の立場に立って考えたり、他人と情緒的な交流をしたりするのが苦手なことも特徴と言えます。
愛着障害は、抑制型-脱抑制型(反応性-脱抑制性)に分類されます。
- 抑制型:人との関わりを過剰に抑制・警戒し、人間関係がうまくいきにくい(他人との愛着形成に拒否的)
- 脱抑制型:特定の人と情緒的で親密な関係が築けず、誰にでもベタベタ甘える(他人との愛着形成に無警戒)
愛着障害のある子供は、万引き、薬物、暴力などの非行、自傷行為、学校不適応など日常生活でたくさんの問題を抱えやすい傾向があります。
まとめ
ボウルビィの愛着理論を中心に、愛着と愛着障害について紹介しました。
知育を行う上でも、知育へのモチベーションや知育効果を高めるという観点から、赤ちゃんとの愛着関係ができているかどうかは重要なポイントになります。
赤ちゃんとの愛着関係が築けているかどうかは、赤ちゃんがパパママの気を引こうとしているか、パパママが近づくと嬉しそうにするかなど、何気ないことから確認できるので、注意深く観察してみてはどうでしょうか。