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マスター:シチミ大使
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/09/16


みんなの思い出

1
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オープニング

 赤いテールランプが延々と続いている。
 市街地を貫く縦貫道は夜半、渋滞を引き起こしていた。
「早く進まないもんかねぇ」
 誰もがそうこぼす中、一台の先頭車両から前を覗き込んだ男は、奇異なものを見つける。
 テールランプのそれより赤く輝く、霧であった。
 その霧が車に接触した瞬間、瞬く間に赤錆が侵食し、中に乗り合わせている人間と共々、死の彼方へと追いやった。
「おいおい、何だあれ!」
 覚えず車両から降りた男が視界に入れたのは獣であった。
 霧が煙る中、全身に亀裂を走らせた獣が黄色い眼窩をぎらつかせている。
 それが三体、それぞれ霧を発生させつつ、車を薙ぎ倒していくのだが、時折悲鳴のような声が漏れた。
 人間の、ではない。
 獣の、である。
 よくよく目を凝らせば全身に走った亀裂から霧が発生しているのであり、その霧はむしろ自然発生というよりも……。
「血、なのか……」
 血潮が霧のように吹かれ、車を赤錆に追いやっている。男はそこで理解した。
 この獣は自壊しているのだ。
 自壊しながら、進行先の物質を破砕する恐るべき存在なのだ。
 獣が爪を立てて車両を叩きのめした。
 その威力だけでも充分に脅威。
 人々が道を下りへと逃げ出し、駆け出す中、自壊する獣はゆっくりと、車を赤く煙る景色の向こう側に消し去って行った。

「依頼です」
 久遠ヶ原学園の事務係の職員の女性が淡々と告げる。
「この世で死に向かって突き進んでいるのは何も人間やその他の生命体だけではないようです。これを。空撮されたものですが」
 映し出されたのは赤く濁った霧である。半径は十メートルほどであろうか。
「これはディアボロの血潮によって発生した濃霧です。この霧を調査したところ、触れるだけで毒素が回るようにできているようです。しかしながら、追跡調査の結果、この根源であるディアボロそのものが自壊……つまり死に行く存在であることが証明されました」
 それでも、久遠ヶ原が討伐を急ぐ、ということはただ単に死ぬのを待ってはいられないのだろう。
 示し合わせたように女性が首肯する。
「自壊するディアボロはしかしながら強力な爪と牙を有した二足歩行の獣型、その移動速度から概算して、市街地に入る可能性を考慮に入れました。つまり人的被害がこれ以上に出ると。結果として、市街地に入るまでに、この自壊するディアボロを崩壊に導くことが正答と思われます。悪魔の活動領域はなく、自律型と思われます。この依頼を引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いします」


プレイング

ちのうしすうがたかい・雪室 チルル(ja0220)
高等部2年4組 女 
心情:
「もうボロボロね!でもあたいがもっとボロボロにしてやるわ!」

目的:
敵が市街地に到達する前に撃破

準備:
・作戦
足止め役と攻撃役に分かれて行動。
足止め役が2体をそれぞれ足止めしている間に、
攻撃役が足止めされていない敵から順々に撃破を行う。
基本的には市街地に入られる前に食い止めなければいけないため、
速攻を主軸として攻撃を行っていく。

・準備
戦闘終了後に備えて救急箱を用意。

行動:
・基本
前衛攻撃役として行動。
基本的には真正面から積極的に急所を狙って攻撃を仕掛けていく。
その際、相手からの攻撃は受け止めながら殴りあう形を取っていく。

・具体的な行動
接近時は封砲を急所に向けて発射し、
その衝撃波で急所までの移動ルートを確保しつつ攻撃を加え、
その後霧が晴れる前に一気に接近。
そのまま急所に向けて積極的な攻撃を仕掛けていく速攻を目指す。
特に、足止めできていない相手は、
そのまま放置すればどんどんと前に出てしまうことも考えられるため、
奥義の使用も視野に入れた上で確実に撃破を行うことを考慮する。
以下、2体目以降も封砲で道を開けた上で接近・撃破を行うという作戦を取る。

・戦闘終了後
救急箱を使用して全員の治療を行っていく。
また、放置された車などを調べていくことで、
避難しそこねた人がいないかどうかを確認していく。

インチキおじさん・狩野 峰雪(ja0345)
大学部5年12組 男 
放っておいても、そのうち勝手に死んでしまうけど
放置したら、市街地を破壊されてしまうってわけだね

作戦としては、2体を回復して霧を晴らしつつ足止め
1体を集中攻撃で倒してしまって
その後も1体ずつ倒していく、という感じかな

僕は特殊抵抗も防御もあまり高くないから
回復スキル等を使わなくていいように
弓の射程(16)ギリギリから遠距離攻撃するよ
遮蔽に隠れて常に位置を変えていけば、敵も攻撃を読みづらいかな?

まずはマーキングして、濃霧の中でも位置を特定できるようにしておくよ
敵の位置はみんなと共有するね

その後は、破魔の射手→デスペラードレンジの順にスキルを使うよ
早期撃破を目指して、肩口から腹部の亀裂を狙っていくよ

最後の1体には、破魔の射手→バレットパレードでいくよ
範囲攻撃だから、普段は最初に使うんだけど
今回は足止めの敵を傷つけないようにしないといけないからね

歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
大学部7年9組 男 
目的
被害者を出さないように依頼の達成

行動
阻霊符使用

事前に可能なら自分達の前方や後方に車で道を塞ぐ壁をいくつか作る
OPから敵は車を避けるより破壊する方を優先するようだからある程度の足止めに使えるはず

敵の一体の足止め担当
「抵抗力は高い方だからね」
「そういえば毒で昏倒した味方を見たことはないのだが、神の兵士で復活できたっけ?」
「それなりの年季を経ているのに、こういう調査不足をしちゃうからダメなんだよなぁ」

最初は敵に向かう前に濃霧の範囲内に入る抵抗力が低い人に聖なる刻印
それから審判の鎖や幻影の鎖で敵の動きを封じて掌底で分断する
分断すれば濃度がそれだけ落ちるので行動し易いだろうから
ただし、敵が障害物で足止めされているようなら、遠距離から討伐優先の敵に攻撃

戦闘
前衛
近は槍、遠は本
魔法攻撃をする時は本の使用考慮
防御優先なら浮遊盾

シールドは現HP次第で糸込
神の兵士とLヒール(0でヒール)を使い分け
スキル交換は連携で

補足
臨機応変
怪我人は手当

崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
大学部3年4組 男 
このまま勝手に潰れるのを待っていたい所だが……
まぁ、そう都合よくいかないって事だな

■行動
基本方針としては、敵を分断して各個撃破を狙う。
足止め役と撃破役に分かれて行動。
戦いやすい位置、彼我距離の近さから撃破する敵を選定。
それ以外の敵は一度回復させて霧を止め、合流されない様に足止め役が動きを止める。
倒す敵は足止め中の敵から引き離すように撃破役が誘導し、霧が広範囲に拡散する前に一気に仕留める。

俺個人の行動としては、撃破役として行動。
倒す敵に近接戦闘を挑んで注意を向けさせ、足止めする敵から引き離すように
交戦位置をずらしながら誘導。
アーマーチャージも併用して強制的に移動させる。
ダメージを与える時はフルメタルインパクト、あるいは近接攻撃を使用。
なるべく亀裂を狙って、早期撃破を目指す。
敵の攻撃はシールドで受け、生命力の少ない味方は庇護の翼でカバーリング。
毒を受けたらレジスト・ポイズンで回復だ。



クラッカーマイスター・葛城 巴(jc1251)
大学部2年5組 女 
自壊を見て)哲学する事は死ぬ事を学ぶ事である、って何処かで聞いたけどね…

全体)敵1体ずつ個別撃破、その間残る敵は足止めする

個人)攻撃隊・龍崎が狙うのとは別の個体を狙う
敵の前で自身の首筋に鋏チラつかせ挑発「ちょっとだけ、天使の血、味わってみない?
扇風機の風が自分の後ろから吹くように、作動は単独行動時のみ
他の敵2体と血霧の重なりが途切れていれば審判の鎖
足止め後ヒール掛けて自壊抑制
極力霧から距離を置き血霧の射程2〜3になるよう様子見ながらヒール・審判の鎖や
足元中心に糸で絡めつつ牽制「私だけを見て…ね?
仲間が他の敵2体を倒すまで挑発・審判鎖・回復・牽制繰り返し
仲間の応援が来た時点で、糸の効果低いようならルーンに持替
攻撃が途切れないようタイミングを仲間に合わせて攻撃

常時)
極力、車の上に居て戦場全体をマメに見ながら行動/仲間から5マス以上離れない/
風上に立てるようにする
味方・自身への回復:生命力半減時、ダメージ大の者優先・ヒール優先で使用
仲間のBSにはクリアランス。優先度:麻痺>毒。
優先度:私の担当個体の足止め>クリアランス
スキル残0でライトヒールに入替

戦場の紅鬼・鬼塚 刀夜(jc2355)
高等部3年90組 女 
前回は首置いてけ武者で今回は自壊するマゾな獣君か、ホント風変わりで面白そうな敵が多いね天魔って

僕の役割は敵の撃破だね
触れるだけでアウトだし意味は無いだろうけど
念の為にマスクをしておくよ

中距離の遠斬りがあるけど射程が濃霧の範囲内だし突撃あるのみだね
ただ味方が遠距離中心になったら遠斬りで狙うよ

なるべき亀裂を攻撃して早期撃破を狙おうか
爪は可能な限り回避を試みるけど難しいなら迷わず受け流しに切り替えるよ
出来れば爪じゃなくて腕を刀で受け、相手の怪力を利用して切断してみたいね
それと攻撃後は左右や背後に回って味方の射線を塞がないよう気を付けるよ
必要なら蹴りで遠ざけたり爪の攻撃を利用して後ろに飛んで距離を置くよ



リプレイ本文


「毒の霧って奴か……。ここから見る限りじゃ、一面赤ってわけでもないし、到達範囲は三体纏めて、って感じだな」
 双眼鏡を覗いて向坂 玲治(ja6214)がそうこぼす。三体の霧の射程はその移動距離と相互間を示しており、自壊が拡大すれば広がる恐れはあるものの、今のところ拡張するとは思えない。
 むしろ、戦闘時だ、と玲治は身構えていた。
 自壊し、血潮が迸ればその分、霧の範囲も広がる可能性がある。
 それも視野に入れて今回、事に望まなければならないのだが――。
「あいつね! あのもうボロボロな奴ら! でも、あたいがもっとボロボロにしてやるわ!」
 元気いっぱいに声を発したのは雪室 チルル(ja0220)であった。玲治はこほんと咳払いする。
「事前情報通り、あれは自壊しながら進んでいる。つまり、壊すなら一瞬でやらないとやばいかもしれないってことだ」
「あたいに限って、斬り損ねることはないもの!」
 自信満々なのはいいことだが、玲治の懸念は別のところにある。
 市街地に入るまでのカウントダウン。
 迅速な行動が求められるが、相手は三体。連携を密にしていると仮定すれば、霧の中を進む心積もりでいなければならない。
 つまり、肉を切らせて骨を絶つ。
 相手の領域に入り込むことは戦法では下策。
 だが恐れている場合ではない。自分たちは撃退士。戦い、その先に勝利を掴むことこそが本懐である。
「俺は、まぁいいとして、問題なのはそうじゃないメンバーもいるかもしれないってことだな。その場合、サポートに回ってもらう必要があるわけだ。足止め役と、分散した相手を屠る役目。俺はもっぱら、孤立した奴から狩っていくつもりだけれど、雪室さんは……」
「一匹になった奴をぶちのめすわ! 当たり前じゃない!」
「だよなぁ……」
 後頭部を掻きつつ、玲治は今回の標的が目指す方向を指で示した。
「俺たちは、絶対に市街地までの侵入を防がなければならない。まぁ、恐れ知らずくらいのほうが、今回は合っているか」

 恐れ知らずだね、と狩野峰雪(ja0345)は評していた。
 葛城 巴(jc1251)は何が、と揺れるバスの車内で聞き返す。
「いや、今回のディアボロ、自壊しながら進んでいるというじゃないか。自らの命に関して、の話だよ。自分が死に行く、と分かっていても、それでも破壊を続けざるを得ないのは、ある意味では皮肉だな、と」
 ディアボロの宿命から逃れられない、ということを端的に示している。
 巴は少しばかり、今回の敵がどう動くのか興味はあった。
「自壊、ということは命を削りつつ戦うということですよね。そりゃ、生物何もかもが、広義では自壊しつつ生きているのかもしれませんが、他の生命体に被害を及ぼしつつ、自らの生命を縮めている存在を、私は二種類しか知りません」
「一種類は今回みたいなのだとして、もう一種類は何だい?」
 巴はため息と共に吐き出す。
「人間、ですかね」
 その言葉に狩野はなるほど、と手を打った。
「久しぶりに納得いく答えだ」
「哲学みたいなものだと思っているんです。自壊する、というのは結局、命ある生物の行き着く先なんじゃないかと」
「哲学するのは僕も好きだよ。ただ、市街地への被害が出るまで哲学するわけにはいかないね」
 巴も同意見であった。哲学は机の上でもできるが、今回のような敵を倒すのは机の上のペンでは決してできない。
 ある意味では今回、ペンは剣より強しの真逆である。
 剣でしか、この哲学の盤面を進めることはできない。
「放置して、自壊の結果を見るのもある種ではありますが、市街地を巻き込めません。情報にあった通り、回復での霧封じを試させてもらいます」
「僕もあまり毒ってのは苦手でね。遠距離攻撃になるけれど、構わないかな?」
「毒が得意な人なんていませんよ。蛇だって、己の毒で死んじゃうんですから」
「毒を撒いてそれで生きているほうがおかしい、か。それこそ、毒を撒いてそれでもしぶとく生き残るのは、人間くらいなものだろうね」

「僕はさぁ、今回の霧みたいなので刀が錆びないかが一番心配」
 そうこぼしたのは鬼塚 刀夜(jc2355)である。念のためにマスクをつけているも、恐らく無駄であろうと当たりをつけていた。
「抵抗力は高いほうだから、俺はできるだけ廃車で壁が作れないか試してみよう」
 龍崎海(ja0565)はそう返し、霧によって生じた戦闘地帯を眺める。高速道路に不意に湧いた赤銅の空間。
 その中で戦うのが自分たちの仕事である。
「血なんだよねぇ。面白い敵が多くって興味深いよ、天魔って」
「天魔なんて、気紛れと薄気味悪さがいつだって同居する存在だ。俺はいくつも見てきたけれど、風変わりには違いない。自分から壊れているのを分かっていて、戦い続ける獣なんて」
「僕は嫌いじゃないけれど、どうかなぁ……。刀が刃毀れしないかどうかが不安だね」
 そう言いやりつつ提げた刀に手を沿わす。
 ――銘刀、鬼羅。その存在感は刀剣にはあまり造詣の深くない海でも唾を飲み下したほどだ。
 それを伴い戦うというこの少女に手だれの予感をひしひしと感じ取る。
「突破口を開き、俺が足止め係に入る。その間に、攻撃班は各個撃破。成されればさほどの脅威ではないだろう」
「でも今は、そんなことは重要なことじゃない。問題なのは、敵にこの刃を届かせられるかどうか」
 刀夜が鞘に包まれた刀を肩に担ぐ。
 ――恐らく、今回の作戦において相手取れるかどうかを純粋に考えているのか、彼女くらいだな。
 そう海は判じつつ、敵の足踏みを見やった。
「行こう」

 自壊する獣たちがその視界に留めたのは、車両の向こう側に佇む玲治であった。
「そんじゃま、空気清浄機の代わりに頑張るとしますかね」
 コキリ、と首を鳴らした玲治が槍の穂を突き出す。
 三体の獣は敵性存在であると認識する前に、関知領域の外から飛んでくる矢に一体が大きく弾かれる形となった。
 連携陣を崩したのは狩野の矢である。
 今も射程外から相手を狙い澄ましていた。
『向坂君。ラベルをつけておいた。こいつをまず、霧の外に出す』
 狩野からの通信に玲治が耳を指差して笑みを浮かべた。
「こっちにゃ、その霧を破る手だれがいるんでね」
 濃い霧の中を駆け進むのは海であった。縦貫道に踊り上がり、鎖を一射する。
 初撃は錆び付いた車両を壁につけるためのもの。積み上げた車両でまず、獣の視野を潰した。
「そして今度は、こっちだ」
 弾き出された二つ目の鎖は一体の獣を絡め取った。自壊する獣が血潮を撒いて吼える。
「まだ活きがいいじゃないか。でも、三体の連携は面倒なので、ねっ!」
 勢いをつけて二体から引き剥がす。
 そのうち一体の射線へと潜り込んだのは玲治だ。
「ちょっとツラ借りるぜ。拒否権はなしだ」
 振るわれた白銀の一撃が濃霧を突き破った。
 二体の獣が両脇に剥がされ、狩野によってマーキングされた一体のみが居残る形になった。
「あたいが、突破する時ね!」
 薄らいだ血潮の霧を破ったのは剣閃。陽光を受けて煌く大剣を突き出したチルルが残った一体へと特攻を仕掛ける。
 後部に残る錆びた車両ごと、チルルの膂力が弾き飛ばしていく。
 獣が激痛に悶絶し、爪を振るおうとした。
 その爪へと正確無比な弓矢が突き刺さる。
 爪が剥がれ、攻撃は空を切った。
『爪を剥がす程度じゃ、血は出ないだろう? それに、意外と地味に痛いんだ。爪をやるのはね』
 狩野の通信領域に応じて攻撃の種類を変えていく。チルルが袈裟切り、突き上げと獣の急所を的確に狙い、なおかつ霧を物ともしないアタッカーとなって渾然一体と攻め行く。
「雪室さんには俺が既に布石を打っておいた。半端な霧は通用しない」
 海の声音は引き剥がした獣への応戦に対する余裕にあった。玲治との連携で一体は確実に距離を稼げている。
 もう一体が応援に向かおうとするのを阻んだのは巴であった。
「自壊する……、死に行くとは即ち学ぶ事とは聞いたことがあるけれど、今回ばかりは、悠々と哲学させてはくれなさそうね。さて、天使の血、味わってみない?」
 巨大なハサミを首筋にちらつかせる。獣が起き上がろうとした瞬間、風圧が血飛沫を嬲った。
「一応の備え。扇風機、ってのは古典的だったかもしれないけれど、玲治さんたちがうまくやってくれるのは分かっていたから。さぁ、ディアボロさん。死に行くことで戦うあなたは、回復すればどうなるのかしら」
 アウルの光がオーロラのように送り込まれ、獣につけられた無数の傷が修復していく。それにしたがって、霧の濃度が薄らいだ。
 獣は如何にしてでも同種の討伐を抑えたいはずだ。進もうとするその足をハサミの柄で払う。
「駄目よ。私だけを見て。ね?」
 回復は獣からしてみれば無間地獄かもしれない。なにせ、回復したとは言っても、その向かう先は討伐なのだから。
「これでっ! 吹き飛ばすわ!」
 突き上げた一体目が中空に舞い上がり、チルルが刀剣を大きく引いて真っ二つに両断した。
 瞬間、巻き起こったのは血潮のベールだ。
 玲治は最悪の想定がこの獣の討伐の先にあることを予感した。
「倒しても、血潮の霧によるフィールドが広がるって寸法か……!」
 倒すのならばそれこそ圧倒的な一撃で、なおかつ一刀の下に葬らなければならない。
 玲治は視線の先にいる獣を睨み据え、槍を構え直す。
「悪いが、あまり時間をかけるってタイプじゃないらしい。行くぜ」
「でき得る限り、引き剥がしを継続する」
 海が言葉尻を引き継ぎ、獣へと鎖を撃ち放つ。束縛された獣の首裏に玲治が回った。
 その時、背部の筋肉が増長し、一挙に弾け飛ぶ。
 肉ごと引き裂いた捨て身により、霧の範囲が拡張した。
 玲治はまともにその毒霧を浴びたことになったが――。
「悪いな。俺は生半可な毒の霧程度じゃ沈まねぇからよ」
 弾けた肉腫へと玲治が鋭い一撃を突き刺す。呻いた獣を内奥から発するアウルに任せ、玲治は引き上げた。
 瞬間、獣の急所へと突き刺さったのは狩野の弓矢である。
 的確に心臓を狙い澄ましており、通信先で狩野が指を弾いたのが聞こえた。
『バン、だ』
 その一声と共に獣の傷口が広がり、心臓が抉り出された。海の槍による一撃が狩野の矢が貫いた箇所を射抜いたのである。
「心臓を潰せば!」
「血は出ねぇ!」
 二つの白銀の槍が交差し、心臓を完全にこの世から消滅させた。
 残る一体は巴が相手取っていた。狩野の広域通信が入る。
『残り一体』
「あなただけみたいね。自壊する獣さん。もう霧は出せないの?」
 完全に回復を果たした獣からは最早濃霧は生じなかった。
 仕留める、と巴がハサミを担いだ瞬間、今までにない速度で獣が肉迫する。
 ハッとしたその時にはハサミで攻撃を受け止めていた。
 そのパワーが先ほどまで相手取っていた時とは違う。
「一人になって本気を出した……? それとも、回復したってことはこういうことなのかしらね……」
 獣が腕の筋肉を二倍以上に膨れ上がらせ、巴へと攻撃を見舞おうとした。
 その瞬間、銀色の閃光が舞い遊ぶ。
「もう霧が出ないって言うのなら、僕でも射程に入れる」
 刀夜が刀を翳し、獣の直上を取っていた。
 空間に残った銀色の残滓が、銘刀、鬼羅の軌道を僅かに物語る。
 斬られたことすら気づかないほどの切れ味。
 全ての事象が遅れを取ったかのように時間差で発生する。
 巴へと殴りかかろうとしていたその腕が瞬時に細切れと化した。
 血潮が舞い散り、再び濃霧のフィールドが発生したのを見て、刀夜は額に手をやっていた。
「あっちゃー、しまった。斬ったら同じか」
「気をつけて! 回復し切った獣は、情報以上の――」
 情報以上の機動速度だ。そう言い切る前に獣は跳躍する。もう一方の腕による薙ぎ払い攻撃を刀夜は翳しただけの刀で受け止めた。
 直後、粉塵が発生し暫時、何もかもが赤銅の彼方へと追いやられる。
 唸りを上げた獣が棚引く煙へと爪による一閃を放った。
 切り裂かれた空間には果たして、刀夜の姿はなかった。
 どこへ、と首を巡らせようとした獣の首筋に、すぅっと刀身が添えられる。
「これで一死、だ」
 反応した獣が背後を切り払った。破壊の爪先に刀夜が静かに降り立つ。
「悪いけれど、時間はかけられないみたいなんだ。刀が錆びたら困るし、終わらせるよ」
 獣が片腕の断面を突き出し、放射した。
 毒霧を一射したことで瞬間的に射程範囲を広めたのだ。
「それって血管に負荷かからない? まぁ、僕の気にするところじゃない、か」
 踊るように刀夜が獣の横腹へと肉迫する。刀を担ぎ上げ、勢いをそのままに残ったほうの腕を肩口から切り裂いた。
 刀についた血を払い、刀夜がその切っ先を獣に据えようとする。
 獣は瞬間的に、独楽のように回転した。濃霧の範囲を少しでも拡張し、刀夜を引き剥がす寸法である。
 それを阻んだのは巴であった。湧き起こったアウルの光が、瞬時に獣の傷口を閉ざしていく。
「修復には自信がある……! 今のうちに」
「僕がとどめを差す」
 刀を担ぎ上げ、刀夜がその柄頭へと指を添えた。
 すぅっと瞑目し、一撃への集中力を高める。
 見開いた瞬間、アウルの輝きが刀夜の額から鬼の角となって顕現した。
 獣が吼えて特攻するのと、刀夜が駆け抜けたのは同時であった。
 一閃、二の太刀、三つ巴の剣筋――。
 ありとあらゆる方向から獣を縫い止めるのは四方八方の剣の網。
 獣が中空に固定されたように攻撃網の虜となった。
 舞い上がった刀夜がその網をガラス細工のように砕き、獣の視野へと真っ逆さまに両断の太刀を見舞う。
 立ち昇った血潮の煙が獣の断末魔と相乗し、この戦闘の終わりを告げた。
「随分とでかい発破を上げたな……。ともあれ、情況終了!」

「自壊するってのは結局、死に向かうってことだろ。それって何も、珍しい話じゃないんだよな」
 学園に後処理を任せた玲治がそう呟くと狩野は顎に手を添える。
「そうだねぇ。でもさ、獣にできなくて人間にはできることがある。それは、死を哲学にすることだ。死の悲鳴を撒き散らすのは能のない獣にもできるけれど、死について考えるのは――」
「人間にしか、できませんからね」
 巴が言葉尻を引き継ぎ、撃退士は散り散りに去った。
 少なくとも、壊れることに酔うのだけでは、それは獣の所業である。
「自壊する上で、なおかつ死と戦えるのは、人間だけの特権か」
 死に取り込まれずに、立ち向かえるのは、人間だけだ。
 二律背反の皮肉に微笑むのを他所に人々の営みは戻りつつあった。


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:成功面白かった!:4人
MVP一覧
 崩れずの光翼・向坂 玲治(ja6214)
 戦場の紅鬼・鬼塚 刀夜(jc2355)
重体一覧
 −

ちのうしすうがたかい・
雪室 チルル(ja0220)

高等部2年4組 女 ルインズブレイド
インチキおじさん・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部5年12組 男 インフィルトレイター
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部7年9組 男 アストラルヴァンガード
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

大学部3年4組 男 ディバインナイト
クラッカーマイスター・
葛城 巴(jc1251)

大学部2年5組 女 アストラルヴァンガード
戦場の紅鬼・
鬼塚 刀夜(jc2355)

高等部3年90組 女 阿修羅


依頼相談掲示板

相談卓
葛城 巴(jc1251)|大学部2年5組|女|アス
最終発言日時:2016年09月12日 23:03
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年09月09日 21:22


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