一瞬にして凍りついた男子部幹部会。
その様子は、どんなだったのでしょう。男子部経験の長かった僕ですが、そんな経験はありません。
「それから、どうなったんですか。」
「しばらく、誰も動けないし、声も出ない。静かな会場やったけど、大場が、言うたんや。」
「それは今、何を目的として話してる?今は、会合の場や。後で話しを聞くから、少し待っているように。」ってな。
「なるほど。会合はきちんと済んだんですか?」
「きちんと?きちんとと言えばきちんとやろうけど、何の指導も入らんわなあ。指導の時間も短かった。大場も動揺してたんやろ。」
それはそうやろ。会合の場で、そんなこと、想定には全く無いはずや。
「で、その後、その弟さんと話たんですか?」
一番、気になることやった。そこで、話が解決に向かうかもしれない。
「全部終わってから、二人だけで、話してたわ。怒鳴り声も聞こえてた。結局、あいつは、丸山のお姉さんの被害妄想やと、主張したみたいや。
ところで、齊藤はどう思う?これは、真実か?それとも、妄想なんか?どっちやねん。お前知ってるか?」
少しの時間考えました。本当のことを言うべきか、どうか。
まさか、彼女の弟さんが、隣の区・圏にいるとは知らなかったし、ましてや、会合の場で叫ぶとは。ということは、彼女は、弟さんに全てを話している、ということやろうし。。。。。
色々考えても、嘘をつく理由は無かった。
「知ってます。実は、今日、本人から聞きました。」
「本人から?てことは、間違いなく本間のことなんやな?」
「間違いないと思います。」
そう言ったとき、黒田さんが、うっすら笑った。
勘違いか?いや、間違いない。しまった、いらんこと言うてしまったかもしれん。
咄嗟に僕は、そう考えましたが、既に遅し。吐いた言葉は、戻らない。
こいつは、どうしたもんかなあ。早く帰ったほうがいい。そんなことを考え出した時、黒田さんがどこかに電話をかけ出した。少し離れたところで、小声で話している。
内容は、全く分からない。誰と話してるんやろう?
そう思ったとき、呼びかけられた。
「齊藤くん、ちょっと電話に出てくれるか?」
なんやあああああ、と思いながら、
「あ、はい。」と子機を受ける。
「もしもし、齊藤ですが。」
「あー、齊藤くん。私です。山形です。」
「はい、えーーーー!総県長ですか?」
このときのびっくりは、文字にできない。それくらい驚いた。
「そうです。ところで齊藤くん。大場の件やけど。本当に間違いないのかな?」
「は、はい。今日、昼間に本人から話を聞きました。個人的には、客観的な証拠は無いのですが、彼女の涙に嘘は無いと思っています。」
「そうか、で、どうするつもり?」
「は、はい、方面の男子部長に指導を受けようと思っています。」
「いつ?」
「は、はい、アポを取ったわけではないんですが、3日後に、まず、彼女から話を聞いた男子部と二人で、直接当たってみようと思っています。」
「そうか、分かった。」
いつもの総県長の声で、間違いありません。話し方も同じ。
しかし、総県長が、なんで、と考えていると。
「ところで、齊藤くん。齊藤くんは、よく大場と行動を共にすることがあるよね。」
「はい。」
「普段の彼は、どうなんや?ちらっと、聞いたんやけど、彼は、金城会であることを自慢にして、あちこちでその話をしていて、将来は県長になる、とか、役職に対して執着がある、と聞いたんやけど、君の目からみて、どう思う?」
なんで、そんな話ばれてるんやろ?大場さんは、あちこちでおんなじ話をしまっくてるんやなあ。と考えながら、
「はい、そうです。間違いないです。」
「そうか」
「で、今回のストーカーまがいの行動も間違いないと?」
「はい、そうです。」
「そうか、わかった。ありがとう。黒田くんに電話を代わってくれるかな?」
「はい」
急いで、電話を黒田さんに返しました。
少しの間、話していましたが、電話を切ると
「ありがとう、齊藤くん」
「あ、はい。じゃあ、もう帰っていいですか?」
「うん、ありがとう。色々助かったよ。」
そういわれて、私は、逃げるように黒田さんの家をあとにしました。
なんやったんやろう?あれは、あそこで、何を考えてるんやろう。
しかし、どっちにしろ、本人から直接話しをきいたのは、僕やから、これは、責任もって対処しないと。そう思いながら、帰り、お題目を上げました。
なんで、大場さんは、そんなことしたんや。これから、どうなるんやろう。
池田先生なら、絶対にこんなこと許すはずがない。このことが全面に出たら、大場さんは、どうするんやろう。いろんなことを考えているうちに、朝になってしまいました。
そのまま朝の勤行をして、家を出て、一日普通に仕事をしていました。
仕事が終わる夕刻、携帯が鳴りました。
この時間からは、いつものことなので、普通に電話に出ました。
「はい、齊藤です。」
「齊藤さん?山田です。」
「おおおーどうしたん。また、何かあったか?」
「あったどころやないですよ。えらいことです。
区・圏の部幹部以上の家に、怪文書がFAXされまくってるんですわ。」
「怪文書?なんやそれ?」
「大場の件が、全部そこに書いてあるんですよ!で、こんな幹部を、幹部としておいておいていいのか!みたいな内容ですわ。」
「まじで?本間に?だ。だれがそれ送ったんや!?」
「いやいや、それが、分かりませんねん。」
それもそうだ。昨日の男幹で、弟くんが、叫んでしまってるから、出席者は少なくとも知っている。それと、山田と僕と、本人と、あとは、総県長。
「分かった、その文書は、山田くんは持ってるの?」
「いや、聞いただけですわ。けど、大騒ぎになってます。齊藤さんとこは、来てませんか?」
「いや、来てないと思うわ。」
このことをもう少しきちんと考えていればよかった。何故、僕のとこには来なかったのかを。しかし、そのときは、なんだか慌てていて、その部分に思考をめぐらす余裕も無かったのです。
詳細を確認していくと、間違いなくFAXは送信されていました。大半の幹部の家に送られていて、地元組織は、大騒ぎになっていました。
そして、送信者の欄には名前が無く、誰から送信されたものか、全く分からない状況だったのです。
そして、そこに書かれている内容は、僕が、彼女から聞いた内容と全く同じで、まさに、大場男子部長の所業が、広く世間に知れ渡った瞬間だったのです。
しかし、これは、僕にはどうしようもありません。
ただ、大きな波が動いてるような気がしていました。
まるで、誰かの意志で、大場を取り囲むかのような大きな波が。
そんなことを考えていると、また山田くんから、電話がありました。
「もしもし、今度は、何やろ?」
そろそろ、何があっても驚かなくなっている自分がいました。
「齊藤さん、明日なんですけど、昼間に少し時間取れますか?」
「明日、えーと、午後一番なら、なんとかなるかな?どうしたん?」
「金城会が、会いたいって、丸山さんとこに連絡があって」
「え!」
「それで、丸山さんが、齊藤さんの名前を出して、齊藤さんが、大場さんのことは詳しいし、全て話してるので、齊藤さんも一緒なら会いますって、言うたらしいんですよ。」
「えーーーーーーーー!」
翌日。近くのファミリーレストランで、僕と、山田と、丸山さんは、金城会の2人と、一緒にコーヒーを飲んでいました。