カウンターへの暴行傷害警察官書類送検のご報告
2016年3月27日に発生した、新宿ヘイトデモへのカウンター抗議に参加していた女性3名に対する警備の警察官らによる暴行傷害事件について、実行犯とされる司法警察職員らが2016年8月31日付で書類送検されました。
2016年4月15日付で警視庁新宿警察署に刑事告訴を行った後も被害女性らや事件目撃者らは捜査に協力しており、9月9日に被害女性らに上記書類送検の連絡が入りました。
書類送検とは、警察による捜査が終わり、事件書類が起訴・不起訴の判断権者である検察官に送られた、ということを意味します(刑訴法246条参照)。ちなみに、捜査過程において対象者の身柄拘束(逮捕・勾留)が行われることなく、在宅事件として取り扱われている、ということも意味します。
今後、検察官による追加の取調べ等が行われた後、最終的に本件に関する起訴・不起訴の終局処分が下されます。
今回の事件は、ヘイトデモを警備する警察官が、カウンター抗議者女性3名に対し、女性Aに対しては「のど輪」をかけて頸部挫傷(全治約1週間)させ、また、シットインをしていた女性Bに対してはコンクリートに頭部を打ち付けて頸椎捻挫(全治2週間)や急性ストレス障害に至らしめ、同じくシットインをしていた女性Cに対しては引きずり上げた後に突き飛ばし転倒させて頸椎捻挫、頭部打撲傷(1週間の加療)させた、傷害事件です。
C.R.A.C.としては、今回の事件は、平和的抗議を行う市民に対して警察官が違法不当かつ卑劣な暴力を行使したものであり、断じて許されないと考えています。
この事件では、被害者の3名は事件当日に新宿署に被害届を出しましたが、受理されませんでした。しかし国会での質問があり、福島みずほ参議院議員が警察庁の幹部4名を呼び出して事情を聞いた直後(わずか30分後)に、新宿署は態度を一変させ、担当刑事より「被害届を受理する」と連絡があったものです。
東京地方検察庁の担当検察官が、適切な判断を下し、市民を受傷させた警察官らについて、傷害の罪責(刑法204条)を問うべく公判請求することを求めます。
1 事件に至る経緯
(1) 本件は、2016年3月27日、新宿区柏木公園(東京都新宿区西新宿7丁目14番地)を出発し、東京都道302号新宿両国線の北新宿百人町交差点から新宿七丁目交差点までの区間(所謂「職安通り」)を経路に含みながら開催された「日本人差別をなくせ!デモ実行委員会」主催(現場責任者・「菊川あけみ」氏)による「日韓スワップより日本へのヘイトに制裁を!デモin新宿」との名目でのデモ行進(以下、「本件ヘイトデモ」という。)が実施されていた最中に発生した事件である。
(2) 本件当日、本件ヘイトデモは、午後2時30分頃に新宿区柏木公園(東京都新宿区西新宿7丁目14)を出発した後、小滝橋通りを北上してきた後に新宿百人町交差点を右折し、職安通りに進入した。職安通りにおいては、沿道に本件ヘイトデモに抗議する多くの人々がいた。また、本件ヘイトデモの職安通りへの進入を阻止しようと車道上への座り込み(所謂「シットイン」)を行う者も多くいた。
2 女性Aに対する暴行
(1) 本件ヘイトデモが小滝橋通りを北上している午後2時39分頃、女性Aが抗議のために歩道から車道に出ると、本件ヘイトデモ行進を警備する職務に従事していた警備の警察官(上掲写真)が、個別の警告もなく女性Aの頸を締め、ガードレールに押しつける暴行を行い、もって同人に頸部挫傷(全治約1週間)の傷害を負わせた。
(2) 警備の警察官は、女性Aに対して正面から向き合い、その右手で告訴人に所謂「のど輪」をかけて告訴人を後方に大きくのけ反る状態にせしめたまま、ガードレール付近まで数歩程度歩きながら押し込んだ。
警備の警察官は、所謂「引き手」も取らずに本件犯行に及んでおり、かりに、「のど輪」を仕掛けられ顎を持ち上げられ身体をのけ反る状態にされたまま後方に押されていた女性Aが、何かのはずみで後方に転倒した場合、後頭部をかばうこともできないままアスファルトに叩きつけられる事態に至った可能性もある。本件行為は、女性Aの生命に極めて深刻な結果を生じさせかねない危険行為であった。
(3) ちなみに、警視庁は、報道機関による本件事件に関する取材に対し、警備の警察官による本件犯罪行為について、「執拗に車道上に止まる者らを歩道に戻すために、必要な措置を講じていたところ、偶発的に警察官の片方の手が相手方の首に当たってしまったものであり、適正な職務執行と考えています」と回答した(ハフィントンポスト日本版・2016年4月2日付記事)。
また、2016年4月5日に開催された参議院法務委員会において、警察庁・斉藤実審議官(当時)は、議員からの質問に対して「警察官が歩道に戻るように警告をいたしましたが、女性が道路上に留まり過ぎたために、同時に複数の人を歩道に戻そうと、女性の肩に手を伸ばしたところ、結果的に女性の首にあたってしまい、そのまま歩道まで押してしまったものでありまして、首を絞めたというわけではありません。」と回答した。
しかし、先述したような態様による行為を「偶発的に…片方の手が相手方の首に当たってしまったもの」「女性の肩に手を伸ばしたところ、結果的に女性の首に当たってしまい」などと意味づけすることは不可能であることは言うまでもなく、警視庁及び警察庁による回答が事実に反していることは明らかである。
3 女性B、女性Cに対する暴行
(1) 本件ヘイトデモが所謂「職安通り」を進行していた午後2時45分頃、女性Bと女性Cは本件ヘイトデモに対する抗議のために歩道から車道に出て、シットインを行っていた。
女性Bに対して警備の警察官は、背後から個別的声かけを行うこともなく近づき、唐突に同人の襟首及び右腕を掴んで同人の身体を持ち上げた後に放り投げ、後頭部をアスファルト状の地面に打ち付けた。また、女性Cは、警察官に足を掴まれ引きずられて車道から排除され、歩道付近で立ち上がって振り向いた直後、突然警察官に両肩を突き飛ばして転倒させられた。
(2) 2016年4月5日に開催された参議院法務委員会において、本件に関し、河野太郎・国家公安委員会委員長(当時)は、「警備に行きすぎた点があったとしたら誠に申し訳ない。道路上に寝そべったり座り込んだりという違法状態を解消することは警察もやらざるを得ないので、けがをさせないよう指導したい」と述べた(朝日新聞・2016年4月5日付記事)。
しかしながら、そもそも本件犯罪行為は、以下に詳述するとおり警備の必要性など一切存在しない状況下で行われた事案であり、デモ警備という職務との関連性すら疑わしい。
4 警備の警察官らによる職務執行の適正性について
(1) 人種差別撤廃条約とヘイトデモ・街宣の関係
本件ヘイトデモにおけるように、排外主義・人種主義的主張を掲げ人種等特定の属性を有するマイノリティ集団へのヘイトスピーチを主目的とするデモ行進又は街頭宣伝活動(以下、「ヘイトデモ・街宣」と総称する。)は、現在の日本国内においてひろく行われている。しかしながら、日本国も加入している『あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約』(以下、「人種差別撤廃条約」という。)第4条(c)においては、「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。」が締約国の責務として定められている。
そもそも日本国内各地で毎週のように開催されているヘイトデモ・街宣が行政当局により許可され現場警備が展開されているという事態は、人種差別撤廃条約に違反するものであって違法である。加えて、本件での職安通りのように、ヘイトデモ・街宣が所謂マイノリティ当事者の集住地域に接するかたちで行われる場合、前記責務が果たされるべき緊急性・違法性は飛躍的に高まる。
(2) 警備対象たる「ヘイトデモ・街宣」参加者らの特質
本件ヘイトデモを主催した「日本人差別をなくせ!デモ実行委員会」は、警察白書において「極端な民族主義・排外主義的主張に基づき活動する右派系市民グループ」(平成26年度『治安の回顧と展望』24頁参照)とされる排外主義的極右団体のネットワークである「行動する保守運動」に属し、近年その過激化が危ぶまれてきた。そして、かかるヘイトデモ・街宣行為者らが、抗議者や通行人、「ヘイト」の対象となるマイノリティらに対する物理的な攻撃に及ぶ事例も多々みられている。
(3) 警備の警察官らによる「カウンター抗議」者警護の必要性
かかるヘイトデモ・街宣に対しては、当然のごとく一般市民からの対抗抗議が行われるものであるが、カウンター抗議者らは、自身らのカウンター抗議表現によって、人種差別撤廃条約に基づき国や地方行政、警察等の公的機関がなすべき責務を肩代わりして行っているといえる。
したがって、ヘイトデモ・街宣の現場を警備する警察官らとしては、先述のようなヘイトデモ・街宣参加者らによるカウンター抗議者らに対する物理的暴行等の危険を防止し、カウンター抗議者らの安全を十分に確保しつつ、カウンター抗議表現の自由に配慮しながらその職務を遂行しなければならない。以上は、人種差別撤廃条約の要請であると共に、憲法21条1項の要請するところでもある(ちなみに、本件事件後のことではあるが、所謂「ヘイトスピーチ解消法」が2016年5月に成立したことは周知のとおりである。同法は、国や地方自治体に対してヘイトスピーチ解消に向けた責務を定めたのみならず、その3条において国民に対してもヘイトスピーチのない社会の実現に寄与するべき努力義務を課している)。
なお、ヘイトデモ・街宣の現場において、カウンター抗議者らに対して「お前ら(カウンター抗議者ら)が帰ればいいんだ。」等の暴言を吐く警察官らがいるが、かかる言説は、所謂「トラブル」(ヘイトデモ参加者によるカウンター抗議者らへの物理的攻撃))の要因を人種差別・排外主義に反対するカウンター抗議者らに見出すものであり、論外である。
5 本件における犯行の悪質性について
(1) 「シットイン」の歴史的意義
以上のことを踏まえて本件及びその前提状況を見るに、女性B及び女性Cは本件犯行行為の直前まで、職安通り路上において「シットイン」を敢行していた。
これは、道路交通法に表面上は違反する事態ではあるものの、再三「現行法では対処できない」と言われる事態に一般市民が対処するための非暴力平和的な態様による抗議表現であり、法の欠缺を埋めるべく、米国公民権運動等の過程においても行われてきた民主主義の歴史に位置付けられる営為である(ちなみに、ヘイトデモ・街宣に対して「現行法では対処できない」とする上記見解は、人種差別撤廃条約も含む法の解釈適用を誤ったものである)。
さらに言えば、道路交通法に「シットイン」状態にある市民を警備の警察官らが実力をもって排除することを許容する規定は存在しない。百万歩譲って「シットイン」状態を解消する緊急性・必要性が生じたとしても、警備の警察官においては万が一にも市民に「けがをさせないように」注意を払わなければならないし、ハラスメントに至らないよう、女性に対しては女性警察官によって説得等の行為がなされるべきである。
(2) 本件における「シットイン」前後の具体的状況について
本件においては、職安通りにおけるシットインは片側一車線の極一部分においてのみ行われていた。他方、本件ヘイトデモ隊は、警備の誘導のもと、シットイン状態にあるカウンター抗議者らと物理的に接触しないよう、職安通りのもう一車線にデモ行進の軌道を先んじて変更させられるなどしていた。かかる状況下では、本件ヘイトデモ参加者らとカウンター抗議者らとが物理的接触に至る可能性はきわめて低かった。
(3) 本件における犯情の悪質性
警備の警察官らによる、女性B及び女性Cに対する本件行為は、職務執行という目的と手段の権衡を一切欠く、たんなる犯罪行為である。かかる行為によって、女性B及び女性Cにおいて人体の枢要部である後頭部をアスファルトに打ち付けられる等という深刻な事態が生じているのであり、本件犯罪行為は彼女らの生命に危害を生じさせかねない、極めて危険で犯情悪質な行為であった。
さらに、本件においては、本件ヘイトデモ参加者と女性B及び女性Cとの間に防止すべき「トラブル」(ヘイトデモ参加者による抗議者らへの物理的攻撃)が発生しようもない場所において、「適正な職務の執行」の名目で、市民を守るべき職務に従事していた警備警察官によるカウンター抗議者女性らへの物理的攻撃として犯罪行為が行われたのであり、その犯情は幾重にも幾重にも悪質である。
6 結論
以上のとおり、本件に関する警備の警察官らの行為は、警備の警察官としての「適正な職務執行」をはるかに逸脱した犯罪行為であることは明らかである上、そもそも同人らの従事していた本来の職務との関連性すら見出し難いものであることから、「行き過ぎた警備」と評価することすらできない。
傷害罪に及んだ警備の警察官らに対して、適正にその罪責を問うべく、公判請求の終局処分を求める次第である。
Counter-Racist Action Collective
弁護士:原田學植
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