近藤大介の威海レポート【前編】はこちら(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49756)
コリアタウンへ来て知ったが、威海に旺盛に投資している韓国企業の代表格と言えば、ロッテグループである。そして威海の旧市街の中心部に、ロッテデパートの旗艦店があるという。そこで足を伸ばしてみることにした。
26路バスに揺られること40分、旧市街の中心である威高広場に着いた。バスを降りると、目の前に4階建てのロッテデパートが建っていた。入口には、「8月15日 オープン3周年」の垂れ幕が掛かっていて、8月13日から15日まで3日間限定の大セールをやっていた。
店内は、先ほどのゴースト・コリアタウンに較べればだいぶマシだったが、それでも年に一度の大セールにしてこの程度かと思うほどだった。例えば、1階から地下へ降りる長いエスカレータには、私が乗った時、前方に二人しか乗っていなかった。
地下の食品売り場の一角に、ワインショップがあったので覗いてみた。「高いワインを見せてほしい」と言ったら、特別のワインセラーに案内された。そこには、サンジュリアンやポーイヤックなど、1本3000元前後のフランスワインが20本近く並んでいた。その品揃えを見る限り、威海には一定の富裕層が存在する気がしたが、ワインショップに客は皆無だった。
ロッテホテルに隣接した歩行者天国の地下が、「韓潮街」と書かれた200mほどの韓国商店街になっていた。だが地下へ降りると、そこは「ゴースト地下街」だった。打ちっぱなしの荒々しい灰色の鉄骨が広がっているだけで、店どころか道もない。
この地下街を挟んでロッテデパートの向かいに建つ威高広場の3階建てデパートも、すでに店舗は畳まれていて、廃墟と化していた。スマホで検索してみると、ここには2013年4月15日に、ロッテマートという威海第二の巨大スーパーマーケットがオープンしたが、2年後の2015年7月末に閉店していたことが判明した。
眼前の電柱には、「韓国との提携の新たな1ページを切り拓こう」「中韓のベストの貿易の道を打ち立てよう」「韓国からの輸入品の集積地を建設しよう」といった勇ましいスローガンが貼られている。どれもがいまや虚しいスローガンだ。
こうしたことから、ロッテデパートは相当、危機感を抱いているようで、3周年の大セールが済んだと思いきや、今度は8月22日から丸々1ヵ月に及ぶ韓国物産展を始めた。月曜日から木曜日までは毎日、各種景品が当たる抽選会、金曜日から日曜日までは50元以上の買い物をした先着500人に、韓国直輸入の500mlのシャンプーかリンスを1本プレゼントするという。
ロッテグループは本国で、創業者重光武雄(辛格浩)氏の長男・重光宏之(辛東主)元ロッテグループ副会長と、次男・重光昭夫(辛東彬)会長によるお家騒動が泥沼化している上、税務査察が入って8月26日には、グループのナンバー2である李仁源副会長が自殺した。韓国第5位の巨大財閥は、本国でも威海でも、岐路に立たされているようだ。
その一方で、同じ韓国に関係ある「デパート」でも、ロッテデパートの近くに人気スポットを発見した。海浜北路を5分ほど北上したところにある「韓国服装城」(韓国商品城)である。この「デパート」は、186㎞離れた大連港と結ぶ定期便が出入りする港の駐車場脇に建っている。
この港には、毎日10時半に大連港を出港した「生生2号」が、17時半に到着する。そして毎晩9時半に「生生2号」がこの港から出港し、明け方の4時に大連港に到着する。チケットは200元の「散座」から1880元の「賓客套間」まで11種類ある。
大連から毎日、定員2200人もの客を乗せた「生生2号」が到着すると、客たちが真っ先に立ち寄るのが「韓国服装城」なのである。私がこの「デパート」に入った時が、まさに大連からの船が到着した直後で、店内は遼寧省から来た中国人客たちで「人山人海」(黒山の人だかり)だった。
だが、入ってみて驚いたが、この「デパート」で取り扱っているのは、「韓国製もどき」なのである。
例えば、バッグ屋のオバサンに、韓国製高級カバンの値段を聞くと、何と80元(約1200円)だという。どうみても桁が一つ違う。私が店を出て行こうとすると、オバサンが、「ならば60元にするから買っていきなよ」と言って、私の袖を引っ張る。そこで、「これ本当に韓国製なんですか?」と聞いたら、「ここに韓国製なんてあるわけないでしょう」と苦笑したのだった。
裕福な山東省(威海)の人々は韓国製品に靡(なび)かず、それより所得が低い遼寧省(大連)の人々はニセ韓国製品に飛びつく。威海で見ていて痛感するが、中国人は日本製品に対して抱いているような畏敬の念を、韓国製品に対しては抱いていない。結局、中国製品のレベルが上がってきた段階で、ポイ捨てされるのである。
新威路のロッテデパートの向かいで、26路バスを待っていたら、そのバス停は多くの路線バスの集積地になっていて、夕方の家路につく人たちでごった返していた。するとその人々の腰元のあたりから、「ポップコーン、おいしいポップコーンだよ」という声が聞こえた。
見ると、小学校低学年くらいの女の子二人が、それぞれポップコーン売りをしているのだった。二人は顔に薄化粧をしていて、バスを待つ大人たちに笑顔を振り撒いては、ポップコーンの入った袋を渡していく。そのうち一人の女の子に聞いたら、ポップコーンは1袋10元で、1袋売るたびに4元のお小遣いをもらえるのだという。
別のところでも、1個3元のアイスキャンディーを立ち売りしていたのは、やはり小学校低学年の男の子だった。威海の子供たちは、こうして商魂たくましく育つのである。
また、これは青島でも感じたことだが、中国の港町の人間というのは、カネに対する執着が半端でない。それは、命懸けの危険な航海によってビジネスをしてきた先祖から受け継いだDNAではないかと思う。
ともあれ、こうした海千山千の中国商人たちを相手にして、しかも彼らのホームグラウンドで、ともすると利害損得よりもプライドが優先する韓国人たちが太刀打ちできるはずもないのである。
北京で改めて、韓国と中国の外交関係者に話を聞いたら、それぞれ次のように述べていた。
韓国人: 「威海はその代表だが、われわれ韓国人は、中国各地に進出して、初めて国外に植民地を持ったような気分になったのだ。ところが気分よくいられたのは束の間のことで、いつの間にか中国人に掠め取られて、あげく引き揚げるザマになってきた。THAADを配備するから中国人が嫌韓になったということも、一部にはあるだろうが、それよりももっと根本的なところで負けていた気がする」
中国人: 「中国と韓国のこの間の蜜月関係は、不自然な片務的関係だったのだ。すなわち韓国は中国を絶対的に必要としているが、中国は韓国を特に必要としていないため、ひとえに中国側の温情によって成り立っていたということだ。それが7月に韓国が、THAAD配備を発表したことで、中国は以後、韓国に温情をかけないことにした。わが国にミサイルと軍事レーダーを向けてくるような国を優遇する義理などないからだ」
威海最大の新華書店には、朴槿恵大統領の3冊の本が、堆(うずたか)く積まれていた。3冊とも、朴槿恵大統領が微笑んでいる表紙だ。書店員に「これらは売れているのですか?」と聞いたら、渋面になった。
中韓関係の「潮目」はいま、確実に変わりつつある。