NY市、情報Kioskのブラウザ機能を停止

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いろんな意味で世界最先端の街、ニューヨーク。羨ましいなあ、と思いつつ、今年3月に紹介した最新サービスがありました。それがこれです。

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写真中央にあるのがLinkNYCが、公衆電話ボックスに替えて、今年1月から設置を進めている情報Kioskです。高さ3メートルのスリムで洒落たタワーには、ネット時代にふさわしい機能が詰め込まれています。こうなっています。

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機能を番号順に紹介します。①は超高速のWi-Fi発信部②ビルトインされたタブレットで、ブラウジングが出来ます③無料電話機能です。タブレット画面でIP電話のVonageのアプリを使うか、タブレットの右下にあるテンキーとマイクで米国内ならどこへ掛けてもタダ。公衆電話機能が無料になって残っています。④電話用のボタンの左にある赤ボタンは日本の110番にあたる「911」専用です⑤モバイル機器の急速充電が出来るUSBポートが二口あります。

そして⑥このステキなハブのデザインは<Antenna>による、と誇らしげ。そのAntennaというデザイン事務所は宇多川信学(うだがわまさみち)氏という日本人工業デザイナーの事務所です。⑦ハブの両面には55インチの高精細ディスプレーを備えています。ここに広告を流し、設置費・運営費を賄う仕掛けです。最初の12年間で少なくとも5億ドルを目論んでいるそう。

これは、「市民のデジタルデバイドを解消する」というデブラシオ市長の公約をベースに導入されたものです。市内4分の1に達する、ブロードバンド回線がない家庭にもWiFiで高速インターネットの恩恵を届けようという狙いから、市内全域に7,500台ものKioskを網の目のように設置する計画です。合わせて、街行くビジネスマンや観光客も利用出来る便利機能をたっぷり用意したわけです。

が、設置台数が400台に達した現在、事態は「想定外の結果を生んだ」と認定され、タブレットからブラウザ機能が除外され、ネットアクセスが不可能になってしまいました。何があったのか。

運営母体LinkNYCが9月14日に公表した文書にはこうあります。

some users have been monopolizing the Link tablets and using them inappropriately, preventing others from being able to use them while frustrating the residents and businesses around them.

「何人かのユーザーがタブレットを独り占めして、かつ不適正に使い、他の人が使えなくしている。近所の人も迷惑している」とし、だから、タブレットからブラウザ機能を外す、という決定をした、と続きます。

これだけでは要領を得ません。どんな人がどう不適正に使っているのか。情報サイトMotherboardの女性記者が、8月の土曜日の午後、4時間かけて3番街を歩いて下っていった経験をルポ風の記事で描写しています。

3番街には、各ブロックの角ごとにKioskがあるとのことですが、15人が利用していました。彼女によれば「LinkNYCの宣伝文句に沿う使い方をしていたのは、ほんの2、3人」だった。ちゃんとした服装の女性が電話し、カジュアルな服装の旅行者が携帯電話の充電をしていたそう。

それ以外の利用者は、ほとんどが、野宿しているような若者でした。自分の持ち物に囲まれて、新聞ボックスを転がして椅子代わりにし、Kioskの前に陣取り、Youtubeで音楽ビデオをブラウジング、Facebookをチェック、電話をかけたりしていたということです。

若者に聞くと、警官から嫌がらせを受けることもほとんどないとか。そこで記者は書きます。「Kioskはホームレスを惹きつけている。この明らかな自由放任主義は驚きだ。公的インフラの旗印的存在というブランドを守るために市当局は取り締まりに出ると想像される」

この女性記者は見なかったのかもしれませんが、他のメディアがこぞって指摘するのが、Kioskを独り占めするホームレスたちが、日中から、ポルノ動画をビルトインされたタブレット画面で堂々と見ているということです。子供がそばにいようが御構い無しに。

NewYorkPostによると、さる11日の日曜朝、犬の散歩で歩いていた女性が、3番街31丁目にあるKiosk前で、ひっくり返したバケツに座った浮浪者がマスターベーションをしているのを目撃したとのことです。

また、DNAinfoによると、17日夜、爆発騒ぎのあったチェルシー地区で、ホームレスの若者が、マリファナを吸い、酒を飲みながらポルノを見ていたり、そばの歩道に店を広げたりしていて、住民からの苦情が地元選出の市会議員に殺到していると伝えています。

YouTubeで音楽ビデオを流しながら、大声で卑猥な歌を歌ったり、踊ったりして、Kiosk前がすっかりホームレスの”陣地化”しているという指摘もあります。さらにNew York Timesは、「ホームレスたちはネットへの無制限アクセスというアドバンテージを活かし、何時間でも映画を見、音楽を流すという、絵に描いたようなリビングルームにKioskを変えてしまった」と皮肉っています。

そんなこんなで、各方面から苦情が寄せられる中、LinkNYC当局は、実は6月からポルノ映像をブロックするソフトウェアを入れていた、とWashington Postが報じています。企業、学校、図書館で使われているコンテンツモニタリングシステムを元にしたものだったそうです。

しかし、それでもNewYorkPostが報じるようなマスターベーション事件が未だに起きているのはなぜか。ここはWashingtonPostの記事でも、いまいち理解できませんが、LinkNYCの担当者は「ある人々にとっては問題ないとみなす内容と、Kioskの有用性を最大化することとのバランスをとるのが難しい」とPostに語っています。要は、フィルタリングのレベルが弱かったということでしょうか?

いずれにせよ、デジタルデバイド解消のためのWiFi機能はそのままですが、ブラウザがなくなったので、ホームレスのみなさんは、もうポルノもYoutubeもKioskのビルトインタブレットでは見られません。

「俺たちのデジタルデバイドをどうしてくれる!」という抗議の声はまだ報じられていないようです。

 

 

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