5068482159_c0bf58c6d9_b少しの間、日本に帰っていました。日本滞在中は、おかげさまで充実した時間を過ごすことができました。

そして日本にいる間に、改めて「なぜ移住したのか?」ということを多く聞かれました。

そこで今回は日本イエナプラン教育協会で福岡の久保さんにもお目にかかることができたり、オランダからの留学生とも交流できたので、今回はそれらも踏まえながら、「なぜ教育移住したのか?」といったことを書いてみたいと思います。(久保さんにお引き合わせいただいた吉塚さん、ありがとうございました!)

■子どもが世界一幸せな国オランダ、だけど、学力は特に高くない?

「子どもが世界一幸せな国」と言われているオランダ。ご存知の方も多いと思いますが、これはユニセフの指標です。実際にこの内容を見てみると、複数の指標(「物質的豊かさ」「健康と安全」「教育」「日常生活上のリスク」「住居と環境」)の総合評価で1位になっており、日本は6位です。

また、日本からわざわざオランダに教育移住したからには、さもオランダは学力が高いのだろう、と思われるかもしれませんが、実は決してそんなことはありません。

よく「教育移住なんてする必要はない。日本の方が学力が高いのに移住するなんてバカだなあ」と言われることがあります。実は、自分も実際にそのように感じる面もあります。

特に小さい子どもの学力は、日本は高いと思います。実際、先のユニセフの指標でも、オランダより日本の子どもの方が学力が高いと評価されています。(日本が1位、オランダは2位)

では、なぜ移住したのか?

それは、我が家が大事にしたい「学力」と、いわゆる日本でいう「学力」が違うからです。

いや正確に言うと、日本的な「学力」、つまり算数の問題が正しく解けて、暗記ができて、国語の文章問題であっても、すべてに正しい(と思われる)解釈ができて、テストで100点を取ることが求められることも必要だと思っています。

第二次大戦後、世界的に見ると歴史上でも稀に見る驚異的成長を成し遂げた日本の基礎はこの「学力」の高さにあるからと思うからです。

ただ、こうした学力が必要とされた「高度成長期のキャッチアップモデル型社会」はすでに終焉した、というのが我が家の捉え方です。

だから必要とされている「学力」の定義が大きく変わったと思っているのです。

移住してまで、オランダの教育を受けさせようと思ったのは、こういうことが前提になっています。

実際、オランダでは、小学校ではテストもなければ、宿題も全くありません。そもそも、学校では正解を教えるという授業は最低限しかなく、日本的な視点から見ると、心配になるほどめちゃくちゃ少ないのです。(ここで毎回のようにお伝えしていますが、オランダでは「100人いれば100通りの教育がある」と言われているくらいバラエティに富んでますので、我が家の経験からくる感覚のみです。あしからず。)

■これからの時代に求められる「学力」とは何か?ということまで立ち戻って考えた

自分自身が日本の学校教育を受けたのは、おおよそ20~30年前。よく言われていることですが、この日本の「教育」、ざっくり言うと戦後70年、ほとんど変わっていないのはないでしょうか?

もちろん、多くの先生が教育を変えようと、いろんな努力をしているのも知っていますし、実際に物凄い頑張っていて新しい学校や教育もできてますよね。

でも、全体で見るとなかなか変えられないように感じます。少なくとも全体でスピード感を持って変革をしている、というようには見えません。(それに対して、子どもの成長は驚くほど早いですよね!)

先に記しましたように、戦後のアメリカに追いつけ追い越せの「高度成長期のキャッチアップモデル型社会」はすでに終焉していて、世界も大きく変わっている。なのに教育が全く変わっていない。学校が変わっていないと感じています。

ご存知CANVAS代表の石戸奈々子さんの著書『子どもの創造力スイッチ!』(2014 フィルムアート社)にはこう書かれています。

<私の親の世代の話によると昔の学校は先端の場所だったそうです。-(略)-現代になりました。今はどうでしょうか? テクノロジーが進化し、モノの値段が下がり、最先端のものは学校よりもむしろ家庭に先に入るようになりました。-(略)-いつの間にか学校は遅れた場所になっていたのです。>

子どもは「未来」そのものだとすると、その「未来」である子どもこそ、先端の存在で、先端の教育を受けなければならないと思います。何十年も前から変わっていない教育を受けることは、何十年も前の社会にしか適応できない人間を作っているのと同じことです。

日本の「学力」は、前近代的な工業社会に適応するために求められた学力であって、これからの時代に求められ、必要とされる学力ではない、と思ったのです。

■「考える力」はあるのか?

ライフネット生命の会長兼CEOの出口治明さんの著書『人生を面白くする本物の教養』(2015 幻冬舎新書)に、「考える力」について面白いことが書かれています。

出口さんのロンドン在住の友人のお子さん(12歳)の宿題の話です。

中世に書かれたサセックス地方の農家に嫁いだお嫁さんの日記と、その農村を仕切っていた地主の執事が書いた記録、それから19世紀にその時代の農村を調べたオックスフォード大学の教授が書いた「中世の農家の形態」という論文。この3つを読むのに、どういう点に注意すれば良いのか?というのが宿題です。

皆さんだったら、どう答えますでしょうか? ここで少し考えてみてください。

それでは本書に描かれているロンドンで学ぶ12歳のお子さんの解答をちょっと引用してみます。

<「嫁いだ女性が書いたことには嘘はないと思う。村で起こったことがありのままに書かれているだろう。でも、自動車も電話もない時代だから、自分の目で見える範囲のことにとどまっていると思う。地主の執事が書いた記録は、おそらくより多くの年貢を取りたいという気持ちが働いているだろうから、作物の収穫量などを加減して書いている可能性がある。それからオックスフォード大学の教授の論文は客観的なように見えても、どこかで自分の学説に都合のいいように脚色されている恐れがある。だから頭から信じないようにしたほうがいいと思う。」>

これが12歳の子の答えです。出口さんはこれを受けて次のように書いています。

<つまりこの宿題が目指しているのは、子どもに「考える力」を身につけさせることです。「イイクニ(一一九二)つくろう鎌倉幕府」などと、「覚えさせる」ことや「正しい答え」ばかりを求めがちな日本の教育とは根本が異なっています。>

これが「考える力」を重視した教育、世界での「学力」だというのです。そして、この「学力」は日本と世界でとても大きい差があるとも書かれています。

これ、我々が子どもの教育で最も重要だと思っていることと同じなんです。これからはこうした「学力」が必要だと思っているのです。そして、これこそがオランダのイエナプランでも重視している項目の一つでもあったのです。

ですから移住したのは、語学だけが理由ではないのです。多様性のある環境に早くから慣れる、ことだけでもありません。(もちろん、それらもありますが)

この「学力」が身につく環境が大事だと思ったのです。もちろん、実際に身につくかどうかは本人次第です。親としては、少なくとも、そうした環境を作ることを最重視して移住をしたのです。

ということで、改めて教育移住した理由を書いてみました。

もちろん、日本人にとって移住がしやすい国などという現実問題もあります。それらをトータルで考えた時に、オランダのイエナプランは素晴らしいなあ、と思ったのであります。

オランダだけではなく、日本も含めて世界には多くの素晴らしい教育がありますよね。先の吉塚さんは、オランダ在住経験もあり、福岡でイエナプランを取り入れた学童保育「OAK AFTER SCHOOL」を実践されています。

また最近は、いろいろな人がこちらに教育の情報を寄せてくれています。そんなことも皆さんと共有していければ、と思っています。

ま、うちの場合は、子どもよりも、まずは自分がもっと「考える力」を身につけないとダメなんですがね。。。

Judit Klein

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