まるで映画のよう!がん細胞をピンポイント攻撃するナノマシンが登場
2016.08.30 |- WRITER:
- あずさゆみ
日本人のふたりにひとりが罹るといわれるがん。40代から80代の死因のトップでもありますが、治療法も日々進化しています。今回は、血流に乗って体内を移動、がん細胞を選択的に攻撃できるナノマシンをご紹介します。
がん治療の代表は、外科療法(手術)、化学療法、放射線療法です。手術でがんを摘出した後、全身に散っているかもしれないがん細胞を叩くために抗がん剤を投与するのが、スタンダードな治療のひとつでしょうか。
抗がん剤は、がん細胞だけをピンポイントで攻撃することはできません。正常な細胞もダメージを受けるため、造血幹細胞が減少して貧血になったり、吐き気や脱毛に苦しんだりという副作用が出るのは、いたしかたないことでした。
ところで、がん細胞は普通の細胞より速いスピードで増殖するので酸素の消費量が多く、がん組織内部は低酸素状態になっています。そして、この低酸素領域には抗がん剤が効きにくく、放射線治療の効果も出にくい、という問題がありました。また、低酸素領域のがん細胞は転移・浸潤能が高まるともいいます。「低酸素領域」というのは、がん治療にとって大きな意味を持っているんですね。
抗がん剤が効きにくい(届きにくい)なんて、憎たらしいですよね。正常な細胞が受けるダメージの方が大きいなんて、許せない話です。
ところが、カナダのマクギル大学、モントリオール大学、モントリオール理工科大学によって開発されたナノマシンを使えば、がん細胞にピンポイント攻撃をしかけることができるんです。
がん細胞をピンポイント攻撃するナノマシン
ナノマシンはウイルスぐらいの大きさで、鞭毛を使って自力で移動することができます。磁場に引っぱられる性質があるので、コンピュータで磁場を制御してナノマシンを誘導することもできます。
また、このナノマシンはがん細胞に特有の低酸素環境を検知することができます。おおまかに誘導してやれば、自動でがん細胞を見つけて移動し、そこに留まることができるんですね。
こちらの動画で、磁場を使ってナノマシンをコントロールする様子が見られます。
右に移動させたり左に移動させたり、一箇所に集めたりと、自在にコントロールしています。ピラミッド型に積みあげるなんてこともできるんですね。
こちらはモントリオール理工科大学のマルテル教授が研究成果を紹介する動画『シルヴァン・マルテル教授のミクロの決死圏』です。フランス語(英語字幕付)ですが、映像だけでナノマシンのコンセプトがよく理解できます。映画『ミクロの決死圏』をご存じない方には、特におすすめですよ。
腫瘍を攻撃するための、総延長1000キロにものぼる人の血管内の移動は、まさに”Fantastic Voyage(『ミクロの決死圏』の原題)”、途方もない旅だといえるでしょう。
同様のナノマシンは、日本でも研究開発が進んでいます。
こちらは東京大学のサイト。ナノマシン治療について、詳しく解説されています。
『ミクロの決死圏』では体内に入った医療チームが「異物」として白血球に襲われるシーンがあります。
今回開発されたナノマシンは、どうして食われてしまわないんだろうと思っていたのですが、こちらの動画の解説で納得できました!
医療ロボットの進化、心強いですね。今後の動向に注目したいです。
《画像ソース》
Science News Journal