閑古鳥です。
一条工務店の家は標準で長期優良住宅の基準に適合しています。
長期優良住宅の認定を受けることで、一般住宅に比べてさまざまな固定資産税をはじめとする様々な税の優遇を受けることが出来ますが、一方で申請に係る費用が発生するとともに、維持保全計画に沿ったメンテナンスの義務も発生します。
認定を受けなくても長期優良住宅の適合基準を満たす性能をもった家を手に入れることが出来る一条工務店で、敢えて申請するメリットがあるのかについて考えました。
このページの目次
長期優良住宅とは
定義
平成21年に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」によれば、長期優良住宅とは 「長期にわたり良好な状態で使用するための措置がその構造及び設備について講じられた優良な住宅」と定義されています。
このような高い資産価値を維持できる住宅の普及が「住生活の向上及び環境への負荷の低減を図る」とされています。
長期優良住宅の認定条件
認定を受けるためには、戸建では次の項目について条件をクリアしていなければなりません。
劣化対策 | 100年継続使用可能な高い耐久性を持った躯体が使用されている。
木造住宅の場合
|
耐震性 | 建築基準法レベルの1.25倍の地震力に対して倒壊しない耐力(住宅性能表示の耐震等級2以上) |
維持管理・更新の容易性 | 構造躯体に影響がなく設備配管の維持管理(清掃・点検・補修・更新)ができる |
省エネルギー性 | 次世代省エネルギー基準をクリアーしている(住宅性能表示の省エネ対策等級4に該当) |
住戸面積 | 良好な居住水準を確保するために必要な規模を有する
一戸建ての住宅では75㎡以上(2人世帯の一般型誘導居住面積水準) |
維持保全計画 | 定期的な点検・補修等に関する計画が策定されている
維持保全計画に記載すべき項目については
点検の時期・内容を定めること。 少なくとも10年ごとに点検を実施し、地震時、台風時には臨時点検を実施すること。 |
居住環境 | 所管行政庁が定める地区計画・条例などの内容と調和が図られていること |
詳細については国土交通省の告示をご覧ください。
参考(PDF) 「長期使用構造等とするための措置及び維持保全の方法の基準(平成20年国土交通省告示第209号)」
なお可変性、バリアフリー性は一戸建て住宅では認定条件の対象外項目です。
ただ気を付けたいのは長期優良住宅はあくまで書類上の審査だけです。書類上では優良な住宅でも実際の施工が悪ければ欠陥住宅が建つ可能性もあります。
認定による金銭的な損得
長期優良住宅の認定を受けることで、どのくらいの金銭的なメリットが発生するのか?我が家の実例で見ていきたいと思います。
固定資産税の軽減
我が家の場合、試算するとこの2年分の軽減額126,000円が長期優良住宅の認定によるメリットとなっています。
詳しい税額の計算方法はこちらの記事に掲載していますので、よろしければご覧ください。
不動産取得税の軽減
家屋の不動産取得税の課税額の算出式は
となります。このことから
家屋評価額が1200万円以下…一般住宅、長期優良住宅に関わらず取得税はゼロ
家屋評価額1200万円超1300万円以下…一般住宅は1200万円を超えた部分に3%の課税、長期優良住宅の課税額はゼロ
家屋評価額1300万円超…一般住宅、長期優良住宅ともそれぞれ1200,1300万円を超えた部分に3%の課税
となりますので、評価額1200万円超1300万円までの金額の3%が長期優良住宅の認定によるメリット分となります。
我が家の場合家屋評価額が1573万円だったので、長期優良住宅の認定による税額の軽減額は
(1300万円-1200万円)×3%=3万円
となり3万円が長期優良住宅認定によるメリットとなりました。
住宅ローン減税の拡大
ローンを組んで住宅を取得した場合、10年間所得税から住宅ローン控除を受けることができます。
控除対象借入限度額 | 控除期間 | 控除率 | 最大控除額 | |
一般住宅 | 4000万円 | 10年間 | 1% | 400万円 |
長期優良住宅 | 5000万円 | 10年間 | 1% | 500万円 |
(注意:入居年が平成26年4月からへ一斉31年6月末まで、当該取得住宅に係るの消費税率が8%または10%の場合)
一般住宅と長期優良住宅では10年間で最大控除額が100万円も違うのです…などどメリットを強調しているサイトも見かけます。
でもよ~く考えてください。500万円の最大控除額を受けるためには住宅ローンの借入残高が10年後でも5000万円ないと受けられません。一般住宅でも4000万円必要です。
さらに最大控除額に達するには一定の所得が必要です。
月額給与の総支給額が50,60,70万円の場合で源泉所得税がいくらになるか試算してみます。
総支給額 | 社会保険 | 社会保険料控除後の総支給額 | 源泉所得税 | 差引支給額 | ||
雇用保険 | 健康保険 | 厚生年金 | ||||
500,000 | 2,000 | 34,043 | 53,637 | 410,320 | 14,250 | 396,070 |
600,000 | 2,400 | 40,967 | 56,364 | 500,269 | 23,430 | 476,839 |
700,000 | 2,800 | 45,583 | 56,364 | 595,253 | 39,530 | 555,723 |
(試算の条件)40歳(介護保険あり)、社会保険の標準報酬月額はそれぞれ590、710、790千円、扶養人数1名
シミュレーションしてみると源泉所得税は総支給額700千円(年収840万円)でも月39,530円です。
つまり住宅ローン減税が一般住宅の年間最大控除額40万円を超えるためには、住宅ローンの残高が4000万円あることに加えて年収でも800万円ほど必要になります。
住宅ローン減税の制度拡充によって、長期優良住宅の認定による最大控除が100万円増額になっているメリットはほとんどないに等しいことが分かります。
登録免許税の税率の軽減
新築の場合には、まだ固定資産評価額が定まっていないことから、地方法務局ごとに定められている「新築建物課税標準価格認定基準表(前橋市の場合)」から計算をします。
我が家の場合これを使って計算すると固定資産評価額は
146.86㎡×80,000円=11,748,800円
になりますので、長期優良住宅認定による軽減分0.05%の金額は約5,800円となります。
参考(PDF) 登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ(国税庁HP)
このほかにも「住宅取得等資金の贈与税の非課税限度額が500万円増枠になる」、現金で購入した場合の減税措置として「投資型減税の特別控除」などがありますが、ここでは割愛させていただきます。
フラット35Sの金利優遇
一条工務店のHPを見ると認定取得のメリットとしてフラット35Sの金利優遇が挙げられています。
フラット35Sの金利Aプラン(10年間0.3%優遇)は省エネルギー性、耐震性、バリアフリー性、耐久性・可変性の4つのうち1つ以上の当該基準を満たすことを証する書類があれば利用可能です。
長期優良住宅の認定通知書の写しがあれば耐久性の証明になりますが、設計住宅性能評価書による耐震性の証明も可能です。
したがって標準仕様でフラット35Sの基準を満たしていることから、金利優遇は長期優良住宅であることのメリットにはならないと思います。
参考(PDF) 「設計住宅性能評価」または「長期優良住宅」を活用する場合の物件検査(一戸建て等)
申請手続き等に関する費用
一方で我が家の申請にかかった費用は
長期優良住宅申請手続費用 15万円
長期優良住宅建築確認等計画認定手数料 1.8万円
申請関係にかかった費用の合計は16.8万円でした。
申請による損得は?
126,000円(固定資産税の軽減)+30,000円(不動産取得税の軽減)+5,800円(登録免許税の軽減)-168,000円(申請費用)=▲6,200円
えっ!赤字…でした。
標準で長期優良住宅に適合する家が建つのであれば、敢えて費用をかけて長期優良住宅の申請をする必要性があるのか、思わず考え込んでしまいそうです。
認定後に行わなければならない義務
長期優良住宅の認定を受けた場合には、長期的な利用を可能とする優良な住宅を実現するために、
- 認定を受けた長期優良住宅建築等計画に基づく維持保全を行うこと
- 維持保全状況に関する記録を作成し、適切に保存すること
- 所管行政庁の求めに応じて維持保全状況について報告を行うこと
が、法律によって義務付けられています。
維持保全に関しては愛知県が作成したマニュアルが非常に分かりやすいと思います。これから取得を計画されている方もどんな維持保全が発生するのか、軽く目を通されると参考になるかと思います。
参考(PDF) 長期優良住宅維持保全マニュアル
維持保全状況の報告
所管行政庁からの報告については、平成21年6月に法が施行されて7年が経過していることから、既に各自治体で抽出調査も始まっています。
宮城県のHPによれば調査は「平成21年10月から平成22年9月の間に完成したものを対象とし、その中から1割程度を目安に抽出」とあることから、調査対象になる可能性は思ったより高い気がします。
またこの報告については
報告をしない、又は虚偽の報告をした場合…30万円以下の罰金に処せられることがある
等の罰則や、改善命令に従わない場合には長期優良住宅の認定の取り消しなどもあります。
修繕資金
私の認定申請書の内容を確認すると、維持保全に係る資金計画について
と記述があります(そんな計画が盛り込まれていること自体、後で渡された長期優良住宅申請図書を読んで初めて知ったのですが…)。
将来発生する修繕を考えれば年10万円の積み立てではとても賄いきれないわけで、当然準備しておくべき部分であることから、極端に気にする必要はないかと思います。
いずれにしても長期優良住宅の認定を取得した場合、維持保全履歴を残す手間や点検にかかるコストは負担増になります。
最後に
これまでご覧いただいた通り、長期優良住宅の認定を受けたことによる我が家の金銭的なメリットはありませんでした。
新築であっても10年、20年と経過するなかで維持保全や修繕を怠れば、その資産価値は低下しますし、何より住みにくい家になってしまうことは明らかです。
高いお金をかけて手に入れた住宅ですからしっかりとメンテナンスを行って、いつまでも資産価値の高い状態を維持していきたい思いは誰でも同じです。
これに強制力が加えられるのが長期優良住宅認定のメリットでありデメリットであるかと思います。
この義務をどう感じるかは人それぞれですが、いずれにしても長期優良住宅の概要を把握したうえで意思決定されることをお勧めします。