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1596年、フランドル人の地理学者アブラハム・オルテリウスはある日地図を見て、ふとある事に気付いた。「全ての大陸の海岸は繋げれば元々一つの大陸だったのではないか?」という事である。オルテリウスのこの仮説が証明されたのは、彼がこの仮説を立てた300年後の事である。
1人の人が一生涯をかけても終わらない実験は数多い。ここではそのうちの12の長期間に及ぶ科学実験を見ていくことにしよう。
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1. ピッチドロップ実験 86年(現在も進行中)
オーストラリア、セイントルーシア
1927年、クイーンズランド大学のトーマス・パーネル教授はピッチという固体が実際には「室温では極めて粘性が高い液体である事」を証明しようとした。
トーマス・パーネル教授は漏斗にピッチを入れて熱し、液体状になったところで蓋をした。そこから約3年の月日をかけて室温へと戻ったピッチが漏斗から出てくるように、漏斗の底を切り落としたのである。
1930年から始まった実験だが、トーマス・パーネル教授が存命中に落ちたピッチは2滴だけである。ピッチの落下速度は1滴に対しておよそ8.5年である事が現在確認されており、パーネル教授が1948年に亡くなって以来、この栄光ある実験はまだ続けられているのだ。2009年までに落ちたピッチの数は8滴で、80年たった今、9滴目が徐々に出来上がっているのだ。
あまりにも突然起こる現象のため、ピッチが落ちる瞬間を見た人物は未だかつて居ないのである。2000年にウェブカメラが設置された事もあったが、技術的トラブルに見舞われ、8滴目を逃してしまった。
2. べヴァリー時計 152年(現在も進行中)
ニュージーランド、ダンデイン
アーサー・べヴァリー氏によって考案されたこの時計は永久機関とも呼ばれていた。密閉されたガラス空間の中は外部の大気圧によって影響され、その変化によって時計が動かされているのだ。この極めて精巧に作られた時計は1864年に制作されて以来、一度も止まっておらず、時を刻み続けているのだ。
内部の機械である錘を1ポンド上げ、時計が1日分動くには摂氏プラスマイナス6度の気温変化が外部で起きなくてはいけない。この時計の量産型として有名なのが「アトモス時計」である。
3. オックスフォード・エレクトリックベル 170年(現在も進行中)
イングランド・オックスフォード
170年前から常に一定間隔で鐘を鳴らし続けているのがオックスフォード・エレクトリックベル(別名グラレンドン・ドライ・パイルとも)である。
2本の乾電池(何で出来ているかは不明)の下に繋がれた2個の鐘から成るこの機械は、1840年に発明されて以来、常に等間隔に両方の鐘を鳴らし続けているのだ。乾電池の残り残量が無くなれば機械は停止するはずだが、それが何時止まるのかは誰にもわからないのである。
常に音を鳴らし続けるこの機械は、まるで誰かがスヌーズモードを解除させないようにしているかのように厚い二重構造のガラスで守られている。
4. ビール教授の発芽実験(現在も進行中)
ミシガン州、イーストランシング
1879年、ウィリアム・ジェームズ・ビール教授はミシガン大学のキャンパス内にこっそりとある物を埋めた。それは50種の植物の種を湿った土に混ぜた物を含んだガラス瓶である。教授は当時20個のガラス瓶を口の開いた状態で逆さまに埋め、数年後に再度掘り起こしすことで「どういった種類の植物の種が発芽能力を何年維持し続ける事が出来るのか」という事を実験したのだ。
ビール教授がガラス瓶を最後に埋めたのが137年前である。彼はこの実験がこれほどまで長く続く物だとは到底思っていなかった事だろう。本来は5年ごとに掘り返される筈だったガラス瓶も、ビール教授の後継チームが冬季に「土が硬すぎる」という理由で掘り返すのを断念して以来、20年ごとに掘り起こすように実験内容が変更されたのである。
これによりビール教授が最後に埋めた20本目のガラス瓶が掘り起こす作業は今から80年以上あとの西暦2100年の事になるのだ。
5. ヘンリエッタ・ラックス女史の細胞実験 66年(現在も進行中)
世界各国
ヘンリエッタ・ラックス自身は1950年に子宮頸がんで亡くなり埋葬されているが、彼女の分身は今世界中に存在している。
彼女の死の間際、彼女の細胞は彼女の知らない所で採取され、科学者たちの間で「ラックス腫瘍」として実験に使用されていたのである。
彼女の細胞は「ヒーラ細胞(HeLa細胞)」という不死の細胞群としての可能性を秘めている事をとある医者が発見して以来、彼女の細胞は株を分けられては育てられ、無限に増殖を続けているのだ。彼女のこの細胞は極めて稀であり、現在に至るまで何の問題なく「人間の細胞の模型」として使用されている。
当初はポリオワクチンの実験に使用されていたこの細胞は現在癌、AIDs、放射能や化学物質の細胞への変化、ゲノムマッピング等、多岐にわたる分野で使用されている。現在ヒーラ細胞の使用をめぐり、1万1000種類の特許が存在しており、科学者が過去50年に作ったヒーラ細胞の総量はおよそ20トンにも及ぶ。
しかし、ヒーラ細胞の増殖率力を問題視する事件も幾つか存在する。
ヒーラ細胞はその増殖力ゆえに、何度かラボのヒーラ細胞汚染が発生しているのだ。ヒーラシア細胞は取扱いに気をつけねば、少しでも意図しない場所に紛れ込んでしまった場合、全ての実験が有効性を失う可能性を秘めているのだ。
6. レンスキーの「長期的進化論実験」 28年(現在も進行中)
ミシガン州
進化の速度は一定ではなく、環境によって変わってくる。その変化を人間の一生で見る事は非常に難しいのかもしれない。しかし、科学者たちはそれを可能にしようと「長期的進化論実験」という実験を考案した。
1988年、リチャード・レンスキーによって考案されたこの実験は、彼が大腸菌であるE.coliを20年かけて別々に培養した事から始まる。彼の実験チームは新しいE.Coliが増殖するたびに、その内の1%を新しいフラスコに移し、それを幾度となく繰り返したのである。これにより彼は12種類の別々の世代の大腸菌の培養に成功したのである。そして驚くべき事にその内の1種は他の大腸菌には見られないクエン酸への耐性を獲得していたのである。
未だに続けられているこの実験は過去に数百から数千万の進化による多様性を見せて来たが、大腸菌が継続して獲得し続けるに値する進化は10個から20個しか無く、他の進化は後の世代で消えてしまっていた。
2011年2月、実験はおよそ5万種の世代を作り上げた。ちなみに私達ホモサピエンスがこれまで獲得した進化の世代は7500種のみである。
7. 火星環境研究「バイオスフィア・ツー」
アリゾナ州、オラクル
過去2年に渡り、科学者たちは火星環境の研究の為、バイオスフィア・ツーという施設に精神を注いでいた。ついに完成したこの施設の内部は火星の環境に類似していた。このバイオスフィアは世界中で行われているバイオスフィア実験の中で最も長い実験内容を持つバイオスフィアなのだ。
だがこの実験は最終的には失敗したそうだ。
それは人為的・心理的な要因からだ。この環境下で生活し始めたバイオスフィアン(バイオスフィア内で暮らす人々)は時間と共に憂鬱になり、お互いを嫌悪し始めたそうだ。この実験結果は別段珍しい物ではなく、閉ざされた環境に人間が置かれると、こういう問題に直面するのはよくある事なのだという。
近年行われた8ヶ月に及ぶスペースステーション疑似体験実験でも同じような事が起きている。実験が始まってからおよそ6ヶ月経つと、実験に参加していた二人の宇宙飛行士は拳での殴り合いをしてしまった。話によると、カナダ人の女性はロシア人の男性宇宙飛行士にキスされそうになり、セクハラによる喧嘩が起きたのだという。
その後バイオスフィアの一件もあり、こういった閉ざされた空間での心理現象に対する学問を「環境心理学」と呼ぶようになったのだ。
8. 人間スピーチオム・プロジェクトとボーイフッド (まるまる3年)
マサチューセッツ工科大学のデブ・ロイ教授によって始められた「人間スピーチオム・プロジェクト」という実験は、子供が3歳までにどうやって言語を獲得するのかを調査する研究である。彼は自身の息子を実験の被験者とし、家にマイクとカメラを設置し、息子の行動を1分1秒も逃さぬように記録し、子供が言語を獲得する段階を記録したのだ。
この環境下での実験はおよそ1024テラバイトの実験データを必要とし、教授が獲得した実験データは今も彼の地下倉庫に眠っている。
9. ラボラトリー・オブ・アダルト・デベロップメント 144年
マサチューセッツ州 ボストン
「縦断的研究」とは個人や集団を一定期間追跡し、その発達や変化を調査する為の研究の総称である。時には数十年という長いスパンでの追跡を必要とする研究法だが、中でも人目を引くのはハーバード大学の「ラボラトリー・オブ・アダルト・デベロップメント」によって行われる実験で、ハーバード大学を1939年から1944年までに卒業した生徒と同じ時期にボストンに居た人々たちを対比した研究である。
2年毎に被験者には社会的地位、肉体的健康などの数多くの分野のチェック項目があるアンケート用紙が渡され、ストレス・幸福度・病気の遺伝等の記録が行われた。72回目の実験結果が収集された時、科学者たちはこの研究で「本当の幸福とは何か」を確かめようとしたのである。
10. オルガン2/ASLSP (2001年〜2640年終了予定)
ドイツ、ハルバーシュタット
聖ブキャルディ教会で演奏されているASLSPという楽曲は世界で最も長い演奏曲である。2001年に始まった演奏は2640年に終了する予定であり、人間が如何に長い間一つの音楽作品を演奏し続けられるかという実験と言えるかもしれない。
11. 動物の家畜化実験
動物を家畜とするのは人類始まって以来、最も長く続けられてきた実験と言えるだろう。
記録に残っている家畜化実験の中で最も記録が残っているのは銀狐に関する実験群だ。1959年にソビエト連邦の科学者であるドミトリ・ベルイェブは「狼が犬になった」現象を理解しようとしていたのだ。その後彼は51年間にわたり、捕えた銀狐を育て、ペットとしての銀狐を作り上げたのである。
via:Atlas Obscura's Guide to the Longest Running Scientific Experiments/ translated riki7119 / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ヒーラ細胞は本人の許可なく接種培養されて、これほどまでに
ありとあらゆる実験に使われているという事を遺族にも説明していなかったんだよね
遺族側には不快感をしめすものもいるけど、判明した時点でもうヒーラ細胞の使用を止めることはできない状態で
ある意味科学のために犠牲になったと言ってもいい
2. 匿名処理班
気になってASLSPの動画見たけど、廃教会の中にポツンとオルガンが1つ。
それが1つの音を発し続けているのが、不気味で怖かった。
3. 匿名処理班
あると思ったらやっぱりあった>・10オルガン2/ASLSP
しかしまあ、完全無音の曲を作曲(?)したり、こんな長すぎる曲を作曲したり、ジョン・ケージって人はナニ考えてたんだろうかねぇ
4. 匿名処理班
ピッチドロップ実験、ドモホルンリンクルを見る人の超上級者向けって感じだな
5. 匿名処理班
ドミトリ・ベルイェブはドミトリ・ベリャーエフの英語読みだろうか?
6. 匿名処理班
心臓病専門医のおいらとしてはフラミンガム研究(68年 現在進行中)も入れてほしい。
7. 匿名処理班
このすべての研究者ってドモホルンリンクルが一滴ずつ
出るのを見つめていても飽きずに観察できそう
8. 匿名処理班
陽子崩壊は?
9.
10. 匿名処理班
後半しょぼいけど
日本のショウジョウバエの
暗闇閉じ込め進化実験は?
11. 匿名処理班
明治神宮の森だっけ、あれも壮大な人工林実験とも言えるような
12. 匿名処理班
京大の「暗黒バエ」もまだ進行中みたい。
完全な暗闇でショウジョウバエを繁殖・世代交代を繰り返し行って、遺伝子の変異を調べる実験。かれこれ60年・1500世代以上も続いていて、嗅覚などに変異が見られるけど、肝心の「視力喪失」には到ってない模様。
どれだけ途方もない時間を掛けて生物が進化していったのかを知る、物凄く有意義な実験だと思う(*'-')
13. 匿名処理班
竜骨座ベータだったっけ超新星候補ナンバーワン、ずっと観測してる人が居るんだろうな。