大理石でできた池と噴水は水が干からびてカビが生え、噴水部分は斜めに傾いたトルコ庭園

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 平成2年に日本初の国際園芸博として開催された「国際花と緑の博覧会(花博)」の理念を受け継ぐ「花博記念公園鶴見緑地」(大阪市鶴見区)内の「国際庭園」が、“残念な事態”になっている。

 現在も国や地域を代表する55の庭園が点在しているが、そのほとんどが放置されたような状態で“廃墟化”。一部の建物は心ない来園者らに破壊され、倒壊などの恐れがあるとして立ち入り禁止になっている庭園もある。大阪市建設局は「今年度から予算がついたので、少しずつ改修していく」と話しているが、整備順や日程などは検討中としている。(北村博子)

建物内は立ち入り禁止、草木は伸び放題…

 花博開催から26年−。鶴見緑地を訪れると、植物園「咲くやこの花館」や「いのちの塔」など当時の記憶を呼び起こす建物が目を引くが、大池北側の「山のエリア」内にある国際庭園に行くと異様な光景が目に飛び込んでくる。手入れが行き届いておらず、木や草が伸び放題で建物などもあちこち劣化。廃墟と化した庭園は、当時のにぎわいが嘘のようだ。

 「トルコ庭園」は、大理石でできた池と噴水が魅力だったが、すでに池の水が干からびてカビが生えている。噴水も傾いている。

 花博開催中に現地の職人が造園作業を行って話題になった「パキスタン庭園」は、大理石でできたオリエント調の建物が放置されたまま。心ない来園者らによって階段の手すりなどが壊される被害もあって頑丈なフェンスが張り巡らされ入ることはできない。

 赤れんがに囲まれた「ネパール庭園」は民族調の置き物が出迎えてくれるが、ほこりや木のくず、カビなどが目につき、荒れ果てている。同国の仏教美術を感じさせる本格的な木造建築物もあるが部品や彫刻などがあちこち破損し、手前でガッチリと施錠。こちらも、何者かが火遊びをしていたことが判明したための措置という。

 このほか、「中国庭園」についても、建物が強度不足のために危険として立ち入り禁止に。こちらもまた、龍のウロコのような屋根瓦が破損する被害を受けたとの報告がある。

 こうした惨状に、元関係者の間からは「外国人観光客が急増しているこのご時勢に、自分の国の庭園がこんな状態になっていることを知ればガッカリするだろう」との声も挙がる。その一方で、さびれたテーマパークのような非現実的な雰囲気に目をつけ、現在では“コスプレーヤーたちのたまり場”にもなっているという。

深刻な劣化にも「基金」は充てられず…

 このような事態に陥った背景として、経年劣化や資金不足、市の管理体制の問題などが指摘されている。

 元関係者によると博覧会後、鶴見緑地は大阪市が譲り受け、一部の施設や国際庭園の展示を生かして再整備された。有識者らを交えた未来計画も策定。だが、国際庭園については日本人になじみのない特殊な植物や建物が数多くあるにもかかわらず、その維持管理についての細かなマニュアルは作られなかったという。

 中には意識の高い職員もいたが、数年単位の人事異動で職員が次々と入れ替わり、デリケートな作業や知識を要する整備は後回しにされていった。その結果、気がつけば廃墟同然にまでなった。当初はまだ貴重な植物もたくさん残されていたが、栽培方法を間違えたり、安易に樹木を切り倒したりして、その多くがなくなっていったという。

 実際に園内を見て回ってみると、庭園に付属する建物や部品の経年劣化は深刻だ。木の色がはげ落ち、腐植している部分も確認できる。コンクリートや大理石、レンガについても、長年放置してきたためにひび割れやカビが目立つ。だが、材料をわざわざ現地から取り寄せたものも多く、修復するだけでもかなりの経費負担となる。国際庭園をめぐっては、平成24年から大阪市造園業協会が年間約150万円相当分の寄付行為として改修工事を行っている。これまでにオーストリア、トルコ、イギリス、モロッコの庭園の改修を手がけたという。

 また、花博の余剰金は基金として「花博記念協会」が管理。基金は、理念である「自然と人間との共生」の継承発展・普及啓発につながる研究開発や活動に対しての助成事業などに活用されている。ただ修繕工事などについては基金の対象項目にはなっていないため、大阪市から国際庭園の整備のための助成金申請をしたことはないという。

「ようやく予算ついた」というが…

 そんな中、同公園内の植物園「咲くやこの花館」で、ハワイ文化と植物について情報発信しているボランティアグループ「虹の名残を救う」が、管理事務所「鶴見緑地パークセンター」の許可を得て、昨夏からハワイ州庭園の清掃活動に乗り出した。

 草むしりやタイル磨き、高圧洗浄機を使って階段のカビ除去などを行っている。月1回ペースで清掃を続けたおかげで、ハワイから運んだ溶岩石の階段や海に見立てた水色のタイルが色鮮やかに蘇ってきた。

 メンバーを取りまとめる裕子カンブラさんは「ハワイ州庭園を訪れる人も減り、雑草やゴミが目立ってきて、これ以上見て見ぬふりはできないと思った」と振り返る。美しさを取り戻した庭園で、公園の利用者とハワイ文化の魅力を共有できるイベントを開くことを目標にしており、「音楽を聴きながらお昼寝したり、ピクニックしたりしてのんびり過ごす“本場のハワイの休日”を一緒に楽しみたい」と夢を描く。

 資金よりも庭園への親しみや愛着こそが、庭園の美観を次世代につないでいく手がかりになると考え「国際庭園内の他の庭園でも、私たちの行ってきたことがモデルケースになってくれれば」と願う。

 このほかタイや韓国、日本庭園など、寄付などによって手入れが行き届いている庭園もあるが、それはほんのひと握りだ。

 大阪市建設局公園整備担当課は「今年度からようやく約2千万円の予算がついたので、リニューアルとまではいかないが、今ある施設を快適に使ってもらえうよう少しずつ修繕していきたい」と説明。建設基準を満たしていない建物やポンプの壊れた噴水などについては撤去するかどうかを検討するという。

 鶴見区は外国人観光客らの来園を受けて、昨年の花博25周年を機に国際庭園を舞台にしたイベントを主催。スタンプラリーや各国の民族舞踊のステージなどの内容で「とてもきれいだった当時と寂れてしまった現在との落差は大きいが、面白い場所なのでスポットを当てていって良い方向に持っていければ」(区役所担当者)と少しずつではあるが、活用に向けた動きが見えはじめている。

 会期中は2300万人を超える来場者を集め、世界中の注目を集めた花博。しかし四半世紀を超えるときを経て、外国人観光客をガッカリさせないためにも、早急な対策が求められている。