南米初の開催となったリオデジャネイロ五輪・パラリンピックは全日程を終了したが、国民の十分な支持は得られなかった。連載最終回は「かけ離れた指導者と市民の思い」。五輪直前に大統領の汚職疑惑による弾劾決議が行われ、政治家の足の引っ張り合いにより不況は進み、ブラジル国民は冷めていった。東京大会も同様の問題をはらんでいる。

 「警察だ! 逃げろ!」。リオ市の観光ビーチ、コパカバーナの露天商が叫ぶと、10人ほどが一目散に逃走した。そんな中、大風呂敷を広げて金メダルのおもちゃ、各国の小旗などを売っていた男性が逃げ遅れ“御用”となった。違法行為ではあるが、貧困層にとって観光客相手に商売することぐらいしか、五輪と関わる機会はなかった。

 五輪が政争の具に使われ、国民の熱は下がる一方だった。リオ市内外で「一部の人間がもうけられるだけだ」と怒りの声を上げる市民が多かった。

 例えば15競技が行われた五輪公園。敷地の75%が大会後、リオ市から建設会社に譲渡される。リオ五輪組織委担当者によると、譲渡を条件に民間が整備費の一部を負担しているという。

 似ている事象が東京都にもある。晴海の選手村予定地、約13万4000平方メートルを129億6000万円で三井不動産レジデンシャル、住友商事、三菱地所レジデンスなど11社に売却。1平方メートル当たり約9万6000円だ。銀座から3キロ圏内で、同単価は110万円前後と言われており破格。都はさらに約410億円をかけ、防潮堤、上下水道、道路などを整備するまで面倒を見る。事業者は選手村を整備し、大会後は計約5650戸の住宅と商業施設を再整備し、販売する。

 豊洲市場問題も含め、不明瞭な税金の使い道が市民の五輪熱を奪う。共同通信の調査でも豊洲問題が解決するなら「五輪計画に影響してもやむを得ない」との回答が74・5%に達した。

 怒りの声と同じ数だけ聞いたリオ市民の声がある。「スポーツは大好きだ。会場には行かないがテレビでブラジルを応援する」。サッカー男子でブラジルが優勝した夜、リオは確かに歓喜した。だが市民の心は戻らなかった。今後の「五輪負債」に不安が膨らむ。

 政界と財界だけが突っ走っても成功はない。東京も教訓になる。市民の目は一層厳しくなっている。【三須一紀】