(英エコノミスト誌 2016年9月17日号)

「オバマ大統領は米国生まれ」 トランプ氏、ついに事実認める

米首都ワシントンのトランプ・インターナショナル・ホテルで記者会見するドナルド・トランプ氏(2016年9月16日撮影)。(c)AFP/Mandel Ngan〔AFPBB News

ドナルド・トランプ氏は憎悪に満ちた異端者をいかにして主流派に導いたか。

 最初におわび、いや遺憾の意を表したい。本誌(英エコノミスト)としては、人種差別主義者や変人ががなり立てる言葉を宣伝するのは本意ではない。だが残念なことに、そしていささか驚いたことに、「オルト・ライト」という思想運動が米国の政治に徐々に入り込み、無視できなくなっている(オルト・ライトの支持者は烏合の衆だが、常に嫌悪感を抱かせる行動を取る運動で、これまでのところはインターネット上でのみ勢力を伸ばしている。なお、この呼び名は紛らわしい)。

 この不気味な伸長ぶりは、イデオロギーの面でもメディアにおいても傍流である運動が主流派に影響を及ぼしていることを示唆するものだ。またこれは、ドナルド・トランプ氏が選挙戦で見せている思慮の足りない冷笑主義の反映でもある。

 ポピュラー文化の中でもあまり日の当たらない傍流の分野に不案内な人々には、オルト・ライトの言動の大半は、わけの分からない変なものにしか見えないだろう。この運動は、インターネットの掲示板やテレビゲーム、ポルノグラフィーなどに由来する固有の図像や言葉を持つ。例えば、支持者たちが用いる代表的な侮蔑の表現は「cuckservative(カックサーバティブ、寝取られ保守の意)」という。自由主義やカネで骨抜きにされたと言われる共和党員に使う言葉だ。

 また、彼らのお気に入りのアバターは、ある漫画に登場する「かえるのペペ」というキャラクターで、他人を侮辱するシナリオで勝手に利用されている。9月半ばにはこのペペの画像が、ドナルド・トランプ氏の長男と、トランプ氏の有力な支持者ロジャー・ストーン氏によってソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿された。この一件は、トランプ氏の支持者とトランプ氏本人がオルト・ライトのミーム*1やでっち上げの統計データをばらまいている最新の証拠にほかならない。

 ちなみに、ツイッターに投稿するときにユダヤ人であることを示すために名前を三重括弧でくくり始めたのも、このオルト・ライトだ。

*1=インターネットなどを介して伝達、増殖していく文化情報のこと