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【社説】

パラリンピック 4年後の先を見つめる

 リオデジャネイロ・パラリンピックは、四年後に東京大会を控える日本でかつてない盛り上がりを見せた。今だからこそ一人一人の意識を変え、真のバリアフリー社会を目指したい。

 パラリンピックの語源は下半身不随を意味するパラプレジアとオリンピックを併せたものだ。しかし近年はパラレル(並行)との造語であることに定義が変わっている。

 日本にとって今回のパラリンピックは、その言葉が意味する通り「もう一つのオリンピック」といえるものだった。

 新聞、テレビなどのメディアは大会前からこぞってパラリンピアンを取り上げ、これまで録画中継が中心だったNHKは連日の生中継で競技を放映した。競技団体・選手に協賛する企業も急増し、テレビCMにはパラリンピアンが次々と登場した。

 これらは四年後に東京大会が迫っていることと無関係ではない。資金調達に奔走してきた競技関係者にとっては喜ばしいことだ。

 だが、その一方で不安もある。二〇二〇年を終えれば障害者スポーツに潤沢な予算はつかなくなり、注目度も減って尻すぼみになるのではという恐れだ。

 パラリンピック熱が高い今だからこそ、二〇二一年以降の社会も見据え、本当の意味での人にやさしい社会を構築するビジョンを立てていく必要がある。

 大会後のレガシーとなる建造物や交通機関のバリアフリー化、障害者スポーツ施設の充実などに取り組むのは当然のこと。ただ、それ以上に求められるのは一人一人の意識の変化ではなかろうか。

 これまで二十個のメダルを獲得し、今大会も四十六歳で出場した競泳の成田真由美選手は、東京都内の駅の階段で車いすに乗ったまま身動きが取れなくなったことがある。その時に助けてくれたのは、スマートフォンの翻訳機能を使って声を掛けてくれた米国人の女性だったという。

 「他の人は通りすぎるだけだった。『手伝いましょうか?』のひと言でいいのに…」

 教育制度の改革、地域の取り組みなど、意識の変化を促す方法はいくつもある。企業も、障害者雇用の壁を取り払う絶好の機会としていきたい。

 パラリンピアンたちは自らの限界に挑み、輝きを放つ人間の強さを教えてくれた。今度は私たちの社会が、心とともに一歩前に踏み出す番だ。

 

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