東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

豊洲盛り土問題 「食の安全」は譲れない

 東京都の豊洲新市場の地下空洞を巡る問題は、官僚組織の恐ろしさ、無責任さを物語る。首都圏の台所の安全安心を蔑(ないがし)ろにした“病理”を徹底究明するとともに、市場参加者の救済を尽くすべきだ。

 築地市場の移転先となっている豊洲市場は、土壌や地下水の汚染が懸念された東京ガスの工場跡地に完成し、開場を待っていた。

 ところが、土壌汚染対策を委ねた都の専門家会議が、敷地全体に盛り土を施すよう求めていたのに、都は勝手に主要建物の地下に空洞を造っていた。

 有害物質を浄化したり、配管や配線を管理したりするための作業空間を確保しようと考えたらしいが、目的ははっきりしない。

 都の責任者だった元中央卸売市場長が、盛り土を施さない工事の発注を決裁したという。けれども、盛り土はなされるとの認識のもとで、発注仕様書の中身を吟味しないまま押印したようだ。

 事実であれば、監督責任を問われてしかるべきだが、それにしても地下空間化の案はどこから持ち上がったのかという疑問は残る。

 これでは、都民はもとより、具体の工法を検討した都の技術会議も、市場参加者も、揚げ句の果てに都の責任者までもがだまされた形になるではないか。結果として、官僚機構の“暴走”を見過ごした都議会も反省するべきだ。

 まずは生鮮食料品の安全性を担保できるのか、早急に確かめねばならない。想定外の空洞によって、水や空気の汚染を防ぐ効果は失われないか。地震に伴う土壌の液状化による衝撃も気にかかる。

 土壌汚染対策の再評価のために再招集された専門家会議は、予断を排してよく調べてほしい。

 共同通信の世論調査では、築地市場の移転延期で、二〇二〇年東京五輪の計画に影響を与えてもやむを得ないとの回答は七割を超える。食の安全安心は譲れない。

 全く落ち度のない業者が受けた経済面、心理面の打撃は計り知れない。引っ越し準備を中止したうえ、当面の商売の先行きさえ見通せない。築地の場外市場の経営にもしわ寄せが及んでいる。

 設備機器のリース契約や雇用計画の狂い、資金繰りの悪化への対応をふくめて、都と都議会は救済に万全を期さねばならない。

 消えた盛り土の問題と並行して、主要三棟の工事入札を巡り、予定価格に対する落札率が不自然に高かったことも問題視されている。談合の疑いはないか。公正取引委員会は調べるべきだ。

 

この記事を印刷する

PR情報