マーケットプレイス:4つの落とし穴

ネットワーク効果だけでは成功は難しい

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イーベイやアリババ、さらにはウーバーなどの成功を見る通り、オンラインマーケットプレイスは、低コスト構造で利益率も高く、いろいろな意味で完璧なビジネスモデルである。しかし、十分な買い手と売り手をどう確保するかなど、その構築には難題も多く、それを安定して運営するにもさまざまな課題がある。本稿ではマーケットプレイス事業が陥りがちな4つの問題──性急すぎる成長、信用と安全性の構築、仲介飛ばしの予防策、規制リスク──に焦点を当てて、成功への方策を論じる。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2016年10月号より1週間の期間限定でお届けする。

オンラインマーケットプレイスの構築:
問題点は何か

 オンラインマーケットプレイス(eコマース市場)は、さまざまな意味で完璧なビジネスモデルである。商品やサービスを保有したり、それらに責任を負ったりせず、サプライヤーと顧客の取引を円滑にすることだけを生業とするため、低コスト構造で利益率が非常に高い。たとえばイーベイの利益率は70%、エッツィは60%だ。

 ネットワーク効果のおかげで防衛面も優秀である。アリババ、クレイグズリスト、イーベイ、楽天は設立から15年以上を経てもなお、その産業分野内で支配的な地位を占めている。

 ありとあらゆる商品・サービスのカテゴリーで、起業家や投資家が次のイーベイ、エアビーアンドビー、ウーバーを生み出そうと躍起になるのも無理はない。

 米国では過去10年で、時価総額10億ドルを超えるマーケットプレイスの数が2つ(クレイグズリストとイーベイ)から12以上(エアビーアンドビー、エッツィ、グルーポン、グラブハブ、レンディングクラブ、リフト、プロスパー・マーケットプレイス、サムタック、ウーバー、アップワークグローバルなど)に増えた。シリコンバレーを拠点とするベンチャーキャピタルで、本稿執筆者の一人(サイモン・ロスマン)がパートナーを務めるグレイロック・パートナーズによると、この数は2020年までに倍増する見込みである。

 しかし、オンラインマーケットプレイスの構築は依然として非常に難しい作業である。多くの起業家はこれを「ニワトリが先か卵が先か」の問題ととらえている。クリティカルマスに達する規模の買い手を獲得するためには、クリティカルマスに達する規模のサプライヤーが必要だ。ところが、サプライヤーを引き付けるためには多数の買い手が必要なのである。実際にこの障害でつまずいているマーケットプレイスは多い。しかも、たとえクリティカルマスに達する売り手と買い手を確保できても、それだけでは順調な航海にはほど遠い。

 本稿で紹介するものも含め、数百ものマーケットプレイス事業について評価、助言、投資を行ってきた我々の経験から言うと、ほかにも事業を頓挫させかねない落とし穴がいくつも存在する。たとえば、性急すぎる成長、信用と安全性の構築不足、アメよりもムチに頼る仲介飛ばし予防策、規制リスクなどである。本稿ではこれらの落とし穴を回避する方法を考察する。

成長

 マーケットプレイスがクリティカルマスの分岐点に到達すると、ネットワーク効果が発動し、成長の軌跡が直線的ではなく指数関数的な上昇カーブを描き始める。

 ネットワーク効果は新規参入を防ぐ壁もつくり出す。多数の買い手と売り手が一つのマーケットプレイスを利用するようになると、ライバル企業がそれを奪い取ることは困難になる。そのため起業家は、できるだけ早く指数関数的な成長フェーズに入らなければならないと思い込みがちだ。しかしたいていの場合、あわてて急成長を追い求める必要はない。それどころか、いくつかの理由で急成長が裏目に出ることもある。

●マーケットプレイスにおける先行者利益の重要性が誇張されている

 起業家が本当に集中すべきなのは、そのセグメント内で他社に先駆けて流動性のある市場をつくり出すことである。勝利を収めるのは売り手と買い手の互恵的な取引の方法を真っ先に見つけたマーケットプレイスであって、真っ先にスタートした企業ではない。

 実際、有名なマーケットプレイスの多くは先行者でなかった。エアビーアンドビーの創業はVRBOの10年以上も後である。アリババは中国でイーベイに次ぐ2番手だった。ウーバーのウーバーXは、リフトのピア・トゥ・ピア配車サービスのビジネスモデルを模倣したものである。

 先行者の利益が一般に思われているほど大きくないのはなぜだろうか。その理由は、マーケットプレイスが買い手と売り手に提供する価値をきちんと証明する前に成長を追い求めると、後発企業と競争になった場合にもろいからである。

 もし買い手と売り手のどちらかが十分な価値を安定的に得られなければ、彼らはたちまち船を降りてしまうだろう。逆に、買い手側に魅力的な価格の商品・サービスの選択肢が十分にあり、売り手側に魅力的な利益がもたらされる状況ならば、彼らがそこを離れる理由はない。そして強力なネットワーク効果が速やかに始動する。買い手が増えれば売り手も増え、売り手が増えれば買い手も増えるのである。

 グルーポンやリビングソーシャル──小売店の割引クーポンを消費者に提供するプラットフォーム──のストーリーは教訓になる。両社は積極的に事業を拡大し、何百万ものユーザーと何千もの業者を引きつけた。ところが、成功は長続きしなかった。グルーポンやリビングソーシャルを使った割引ではリピート客が獲得できないということがわかり、業者がほかの多くのライバルサイトに流れたのである。

 その結果、2011年のIPO(新規株式公開)実施時に180億ドルだったグルーポンの時価総額は、現在では20億ドル未満に激減している。リビングソーシャルは2011年に100億ドル規模のIPOを申請したが撤回し、アマゾンドットコムに買収された。2014年末時点の企業価値は2億5000万ドルにも満たない。

●拙速な成長はビジネスモデルに負荷をかける

 スタートアップ企業の初期のビジネスモデルには、修正を要する欠点が必ず含まれるものだ。しかしマーケットプレイスの場合、時に成長ペースがあまりにも急激になるため、通常の商品・サービスの企業が徐々に成長する場合と比べてビジネスモデルにかかる負荷がはるかに大きくなり、欠陥の影響が増幅されて修復が困難になることがある。

 実際に、急成長を遂げている最中にビジネスモデルを変更しようとすると、破滅を招くリスクが高まる。したがって未熟な状態のまま成長すると、指数関数的な成長フェーズへの分岐点に到達する確率が下がる場合もあるのだ。

 これらの理由を踏まえて、マーケットプレイスの起業家は、最適な需給バランス──買い手が商品・サービスを購入して得る満足と売り手が商品・サービスを提供して得る満足が釣り合う状態──が判明するまで、成長を加速させたいという誘惑に負けないようにすべきである。そのためには、従来型の企業が新商品・新サービスの規模拡大に移行する期間よりもずっと長く待つ必要があるかもしれない。

 たとえばエアビーアンドビーの場合、個人の住宅をまったくの他人に貸し出す──しかも双方が満足できる条件と料金で──方法を編み出すまでに2年かかった(同社の最初のサービスがエアマットレスと朝食の提供だったことを思い出してみよう。これらは多くの場合、旅行者が求めていないか、ホストが提供したくないかのどちらかだった)。

●不適当な種類の成長は業績に悪影響を及ぼす可能性がある

 多くのマーケットプレイスは「パワーセラー」──趣味や副業のレベルで始めた取引をフルタイムの事業に拡大した人たち──の力を借りて成長したいという誘惑に囚われる。なぜなら少数のパワーセラーを誘致したほうが素人の売り手をたくさん集めるよりもコスト効率がよいし、取引が円滑に進む傾向があるからだ。

 しかしパワーセラーが支える成長は好ましくない場合がある。イーベイの当初の成長は、大部分がパワーセラーのおかげで実現した。しかし同社はやがて、パワーセラーの力が強いために、彼らを優遇して買い手の経験を犠牲にするような施策を取らざるをえないことに気づく。

 たとえばパワーセラーは「バルクリスティング」(多数の商品の自動出品)を可能にすることを求めた。これは売り手側の効率性を高める機能である。しかしイーベイ側には弊害が生じた。バルクリスティングによって売り手側にコモディティ商品の出品を重視する偏ったインセンティブが働くため、販売商品の多様性が失われて、ユニークな商品が締め出されたり標準的な出品物の質が低下したりした。そのうえバルクリスティングによって、パワーセラーがイーベイに出品一回当たりの手数料の引き下げを要求する余地が生まれた。年月が経つうちにイーベイの供給サイドがパワーセラーに占領され、プロではない売り手が競争することが難しくなった。

 タイプの異なるマーケットプレイスでも同じような問題が生じている。たとえばエアビーアンドビーならば、複数の物件を持つホストが一部の物件の写真だけをウェブサイトにアップし、到着した旅行者をホスト側のスケジューリングの都合で写真とは違う物件に案内するかもしれない。あるいは、エアビーアンドビー専用に物件を購入して貸し出すホストは、旅行者が求めるその土地ならではの体験を提供できないかもしれない。そうなると同社は、たとえ短期的に成長に悪影響が出ても、複数物件を保有するホストに何らかの制限を課さなければならなくなる可能性がある。

 結論を示そう。プラットフォームは、供給サイドの産業化によって成長を加速させるという誘惑に負けないようにすべきである。

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