と き
たおやかな時間


 窓の外に見えるプラントの街の明かりが、マリューの頭越しにムウの目に映っていた。

「……ムウ、愛してるわ。世界中の誰よりも、あなただけを……」
「俺も。マリューの事を愛してる」
 優しいトーンでムウに囁かれ、マリューは更に強く抱き締められる。


 マリューはその胸に身体を預けると、トクン、トクン……と、ムウの鼓動が耳をくすぐる。
「こうしてると……」「ん?」
 マリューは、ムウの胸に耳を押し当てたまま、ポツリと漏らした。
「あなたが、本当に私の側にいるって事を実感するの」
「なんだよ、それ」
 ムウが笑いながらマリューの耳元でまた囁く。
「ムウの鼓動を聞いてると、すごく安心するわ」
「そんな事で安心してくれるのなら、いつだって抱き締めてやるぜ」
 そう言うと、チュッとマリューの耳にキスを1つ落とす。
 ムウの行動を予想していなかったマリューは、小さく「ひやぁっ……」と声を上げてしまう。
「あ〜、もうっ……そんな声出されたら、俺、理性飛びそう」
 妖しげな笑みを浮かべたムウが、マリューの顎をクイッと持ち上げる。
「えっ?」
 突然、目の前に迫ってきたムウの瞳に、マリューは驚きの声を上げた。
 が、それは最初の一言だけで終わってしまった。

 いきなりの深いキス。
 あまりにも突然で、マリューは瞳を閉じる事さえ忘れていた。
 固まったままの唇をこじ開け、ムウの舌が侵入してくる。
 そのまま、マリューの舌に自分のそれを絡めると、きつく吸い上げ始めた。
 その行為に、マリューの思考も溶け始め、瞼がゆっくりと閉じられて行く。
 求め、求められ……そんなキスをとめどなく繰り返す。

 唇を重ねたまま、ムウはドレスの細い肩紐を片方ずつ外していく。
 そして、ゆっくりとマリューの背中を撫でながら、ドレスのホックを外しファスナーを下ろす。
 その行為に抵抗をしようとマリューが身じろぎするが、ムウは構わず露になった背中に手を差し入れる。
 と、そこでムウは違和感に気付いた。
 いつもならば手に触れるはずの物が、今日は見当たらない。
 もしかして……と思い付いたムウは、耳元から首筋へと唇を移動させる。
「やっ……だめっ……」
 やっと自由になった唇で、マリューが抵抗の意を口にした。
 しかし、ムウは聞こえないフリを決め込み、そのまま彼女の肩口にキスの雨を降らせている。
 そして、自分の手を差し入れた場所をその目で確認すると、マリューの耳元で囁いた。
「マリューが下着を付けてないなんて、珍しいじゃん」
 もしかして挑発してんの?と、マリューの耳たぶを甘噛みすると「ぁっ……」と小さく声を上げる。
「ち、違うのっ!」「何がさ?」
 真っ赤になって否定するマリューを、ムウは妖しい笑みを浮かべて見つめ返す。
「まさか、こんなドレスを着せられるとは思ってなかったから……」「だから何?」
 恥ずかしさに、途中で説明を止めようとしたマリューに、ムウはニヤニヤしながら続きを促す。
「……今日付けていたのは、ストラップの外せない下着だったの」「ふ〜ん。それで?」
 ムウの手が背中をやさしく撫で回す度、声が裏返りそうになるのを必死に耐えながら、マリューは説明を続けた。
「だ、だから……仕方なくって……下着を付けないまま、ドレスを着たんです」
「マリューさんって、案外、大胆なんだ」「ち、違いますっ!」
 クスクスと笑いながら耳元にキスを繰り返していたムウは、抵抗しようとしたマリューを更にしっかりと抱き締める。
 そして、ゆっくりとスカートをたくし上げると「こっちのも脱いじゃおうよ」と囁きながら太ももに手を這わした。
「ちょっ……こんな所でっっ……ダメよっ……んっっ」
 唇を塞がれ、舌を絡められる。その間も、ムウの手が太ももをゆっくりと撫でている。
 マリューは必死になってムウの胸を押し返そうとするが、執拗に口内をかき回され、腕の力が抜けていく。
「いいじゃん。綺麗な夜景を見ながら……ってのもさ」
「ダメですっ。外から……見えちゃうわ」
 真正面で艶っぽい笑みを浮かべるムウに、マリューは涙目になりながら訴える。
「大丈夫。最上階なんだから、下からは見えてないって。それに照明もあのスタンドだけなんだし」
 夜景が綺麗に見えるように……と、ムウが部屋の照明を全て消し、部屋の隅にあるオレンジ色のスタンドだけにしていたのだ。
 確かに、そのおかげで眼下の夜景が、ひどく綺麗に目に映っている。
「でも……」
 それでも抵抗しようとしたマリューに、ムウが「俺を挑発した罰」と笑いながら、途中で止まっていたドレスのファスナーを一気に下まで下ろした。
「やあっっ!!」
 ハッとしたマリューが胸元を押さえようとしたが、その手をムウに掴まれてしまう。
 その途端、マリューの胸の上で止まっていたドレスが、重力に負けてズルッと下がる。
 掴まれた腕でドレスの肩紐が引っかかっているが、形の良いマリューの胸が露になった。

「ん〜、いい眺め」
 ニヤニヤしながら、ムウは目の前で顔を赤らめる恋人を見下ろしている。
「……な、何がいい眺めなんですかっ!」
 半分怒りながらマリューが叫ぶと、ムウはしれっと「何がって、夜景もマリューさんも」と涼しい顔で答えた。
 そして、そのままマリューの胸元に唇を這わす。
「ふぁっっ……だ……だめぇっ……」
 両腕を掴まれ自由を奪われたまま、マリューはムウに翻弄される。
 ムウは片腕でマリューの両手を掴み、窓に押さえつけると、空いた方の手で片方の胸を揉みしだく。
 そして、もう片方の胸の頂きを口に含み、ちゅっと吸い上げる。
「……はぁっ……やぁ……っ」
 途端にマリューの口から、艶っぽい声が漏れ始めた。
 それを確認したムウは、再びドレスの裾をたくし上げ、その細い腰に手を這わすとゆっくりと下着に手を掛ける。
 そこで、マリューが身に付けているのが、両サイドをリボンで結ぶタイプの下着だという事に気付いた。
「これ、ほどいてもいい?」
 胸元から顔を上げたムウが、マリューを見つめながら訊いてくる。
「やだ……」
 マリューが抵抗の意思を口にするが、ムウはそんな答えにお構いなしの様子でリボンに手を掛けると、ゆっくりと引っ張った。
 あっけなくリボンはほどかれ、抵抗力を失くした下着は、ムウの指先から下に落ちる。
 そのままゆっくりと、ムウの指先がマリューの中心を捉えた。
「ゃぁっ……ぁっ……」
 固く立ち上がった胸の先端を舌先で転がされ、感覚の中心を撫で上げられると、マリューの身体が細かく震え始める。
「嫌だって言ってるのに、もうこんなに濡れてるぜ」
「……っっ」
 声にならないマリューの唇を、再び自らのそれで塞ぎ口内を執拗に攻める。
 そしてマリューの溢れ出ている部分に指を沈め、ゆっくりとかき回し始めた。
「すっげー綺麗だよ、マリュー」
 上気した頬に潤んだ瞳でうっすらと目を開けたマリューが、艶っぽい眼差しでムウを見つめる。
「はぁっっ……あぁんっ……」
 マリューの中をかき混ぜていたムウの指が1本から2本へと増えると、途端に嬌声があがった。
 と同時に、それまで抵抗していたマリューの両腕も、徐々に力をなくしていく。
 それを確認したムウは更に指の動きを早め、マリューの一番敏感な部分を容赦なく攻めていく。
「やっ……ぁっ」
 ムウの指の動きに呼応したかのように、マリューの腰も自身の意識とは裏腹に動き始めた。
 
 マリューの背中がしなるまでに、それほど時間はかからなかった。
 足の先から順に緊張していくのを見てとったムウは、イジワルそうな笑みを浮かべると、付き立てていた指をあっけなく抜いてしまう。
「あぁっ……」
 もう少しで昇りつめる……という直前でその行為を止めてしまった恋人の顔を、マリューは上気した表情で見つめていた。
「どーしたの?」「ぃやぁっ……」
 未だに両腕を押さえつけられたままの状態で、マリューは切なげな声をあげた。
 ムウは先ほどまでマリューを翻弄していた2本の指を口元に持ってくると、マリューを見つめたまま、濡れそぼったそれを舐めている。
「どうして欲しいの?」
 どうしたいのか、どうして欲しいのか……もう分かりきっているのに、あえてムウはマリューの口からその答えを待っていた。
「……シて……」「何を?」
 恥ずかしさを我慢してやっと口にした言葉を、ムウは簡単に切り捨てる。
「抱いて……」「ココでいいんだ?」
 イジワルな恋人の質問に、もう止まらない所まで来ていたマリューは小さく頷く。
 それを確認したムウは、タキシードの上着を床に落とし、片手で器用に自身のシャツのボタンを外していく。
 そして、首元のスカーフを外すと、それでマリューの両手首を軽く縛ってしまった。
「やっ……外してっ」
 これではムウに抱き付けない……そう思ったマリューは涙目で訴える。
「こうしてればいいから」
 そう言うとムウは、縛ったマリューの両手を自分の首に掛けさせた。
 そして、再びドレスの裾をたくし上げると、マリューの右脚を持ち上げる。
 そのままタキシードのファスナーを下ろし、ムウ自身をマリューの中心にあてがうと、ゆっくりと焦らすようにマリューの中に分け入った。
 粘着質な水音が、マリューの耳にまではっきりと届く。

「はあぁっ……」
 先程までとは比べ物にならない質量が、マリューの内側を擦りあげる。
 右脚と腰をムウに支えられ、片足で立っているマリューの膝が、次第にガクガクと震えていく。
 が、それに構わず、ムウは緩急を付けては腰を動かし続けた。
「すっごくキツイよ、マリューの中」
 ムウは、ニヤリと口の端だけで笑うと、更に動きを早めて行く。

 広い部屋の中に響くのは、マリューの喘ぎ声と、2つの身体がぶつかり合う音。
 左脚の力が抜けそうになるのをこらえる為、マリューはムウの首にしがみ付いていた。
 2人の動きに合わせて、窓ガラスもカタカタと響き始める。
 首にしがみ付くマリューの、その軟らかい胸の感触を素肌で感じていたムウにも、限界が近づき始めていた。
「ぃ……クぅ……はあぁぁっっ!!」「クッ……」
 マリューの身体が大きくしなり、その中心がムウ自身に絡み付く。
 そしてムウも、背中から頭へと何かが突き抜ける感覚に襲われ、全てをマリューの中に注ぎ込んだ。

 ぐったりとムウに身体を預けているマリューの手首からスカーフを外すと「ゴメン」と小さく耳元で囁き、上気した頬にキスを落とす。
 そして、まだ息の上がったままのマリューを抱きかかえると、ムウはバスルームへと姿を消した。