ムウが来るまでに……と、身体を洗い、そのままシャンプーも済ませたマリューは、髪の毛をバレッタで軽く止め、身体にタオルを巻きつけた姿のままバスダブに身を沈めた。
 足を伸ばして入れる物がいいだろうと選んだ、ロングサイズのバスタブでゆっくりと足を伸ばす。
「ふぅ〜」
 ラベンダーの淡い紫色のお湯に身を浸しながら、ほっとする。
 マリューにしてみれば、ムウが待っているバスルームへ入っていくのは、実はかなり恥ずかしい。
 正直、バスルームの扉を開くのに、少しばかり勇気が必要だったりもするのだ。
 以前、その事をムウに話したのだが「何を今更言ってるんだよ。マリューの事は、頭のてっぺんから足の先まで全部知ってるのにさ」と返されてしまった事がある。
 それとこれとは、また違うのに……男の人にとっては、恥ずかしくない事なのね……と溜息が出た事を思い出していた。

 だが今日は幸か不幸か、マリューの方が先にバスルームで待つ事になった。
 扉を開ける勇気は必要ないが、いつムウがやって来るのかという緊張感が付き纏っている。
 なかなかやって来ないムウを、ドキドキしながら待っている自分に気付き、急にマリューは恥ずかしくなった。
「はぁ〜っっ」
 真っ赤になりながら、ブクブクと鼻の辺りまでお湯の中に浸かる。
 その時、ガラッと扉が開き、タオルを腰に巻いたムウが姿を現した。
「ゴメンゴメン!待ったか?」
 その声でハッと気付いたマリューは、入り口に視線を向ける。
 ムウと視線が合った途端、マリューはその視線を慌てて自分の足元に戻した。
 彼の姿を、その素肌を、マリューは見る事が出来なかったのだ。
 
 マリューの知らない、彼の身体中にある傷跡。
 その傷跡は、ストライクで陽電子砲の前に立ちはだかった時に付いたものだという事は、マリューにも容易に想像できる。
 自分を守った代わりに、彼は身も心も傷だらけになってしまった。 
 だからマリューは、ムウの身体中の傷跡を目の当たりにすると、心が締め付けられるように痛いのだ。
 
「あ、あんまり遅かったら、私……お風呂から出ようかと思ってたのよ」
 少々強気な発言をして、本当の気持ちをムウに悟られないようにしたかった。
「あ〜、もしお風呂から出てきていても、連れ戻すからさ」
 約束は守ってもらわないと……と笑いながら話すムウは、掛け湯だけをしてバスタブに入ろうとした。
「バスタブに入る前に、ちゃんと身体を洗ってっ!」
「ん〜、じゃあさ、背中流してくんない?」
「はぁぁっ?!」
 まるで交換条件かのようなムウの提案に、マリューは思わず大声をあげた。
「いいじゃん。誕生日の日ぐらいサービスしてよ」
 そう言いながら、ムウは泡立てたスポンジをマリューの手に半ば無理矢理握らせる。
 スポンジを手にしたまま、マリューは困ってしまった。
 背中を流してあげる事ぐらいたいした事ではないのだが、そうする事によって、彼の傷跡を嫌でも見なければならなくなる……。
 黙って考え込んでしまったマリューにムウが気付き、静かに問いかける。
「なぁ……そんなにイヤか?」「えっ?!」
 少し淋しそうな声が頭上から降ってきて、マリューは驚いて顔を上げた。
「そんなに嫌な事だったら、無理強いしたくないしさ」
 と、ムウは言いながら、マリューの手からスポンジを取り上げようとする。
 が、マリューは意を決したようにバスタブからザバッと立ち上がると「そうじゃないの……」と真っ直ぐにムウを見つめる。
 そして、スポンジを手にしたまま、ムウの後ろで膝をつくと、その背中を流し始めた。

 しばしの沈黙の後、マリューがおずおずと口を開く。
「あのね……恐かったの」
「ん?何が?」
 ムウの背中を優しく洗いながら、マリューはポツリと呟いた。
「あなたの傷跡を目の当たりにするのが……」
「……そっか」
 目の前にある鏡越しに、ムウはマリューの目を見つめる。
「もしかして、俺の傷跡にマリューが責任感じてたとか?」
「……」
 マリューは、鏡越しのムウから目線をそっと外す。
「これはマリューの責任なんかじゃないよ。俺が好きでやった事なんだからさ。だから、気にするな」
 そう言い終わらないうちに後ろを振り返ると、マリューの肩を抱き寄せる。
 そして、彼女の背中を軽くトントンと叩きながら、優しく抱き締めた。
 その行為にマリューは、スポンジを握り締めたまま、ムウの背中に手を回す。
「痛かったでしょ?」
 胸の奥から絞り出すかのようなマリューの問いかけに、ムウは「忘れたよ」と耳元で囁く。
 マリューは、抱き締めたその背中に走るいくつかの傷跡に、ゆっくりと指を走らせていた。
「この傷跡はさ、俺とマリューが再会する為の道標だったんだよ」
「え?」
「この傷跡があったから、俺はムウとしての記憶を思い出せたんだ」
 だから、これからはそう思ってくれないか?と、再びマリューの耳元で囁く。
 ムウの声がマリューの身体に響いて行き、心に開いていた穴を塞いで行く。
「道標?」「そう、道標」
 それまでムウの胸元に顔を埋めていたマリューが、ふとムウを見上げる。
 それを待っていたかのように、ムウはマリューに優しい口付けを落とし、その口内へゆっくりと舌を侵入させる。
 始めはこわばっていたマリューの舌が、しばらくするとムウのそれに纏わり付いてきた。
 必死にしがみ付こうとしていたマリューだが、ムウの背中に残るボディーソープの泡がそれを許さない。
 背中でもがくマリューの腕に気付いたムウは、最後にきつく吸い上げると、一旦唇を離した。
「ここじゃ、身体が冷えちまうよ」
 そう笑うと、シャワーのコックをひねり、熱い水滴を自身に浴びせる。
 流れ落ちていく泡が消えてなくなるのを確認すると、マリューを抱きかかえたままバスタブへ身を沈める。

 ありのままの姿のムウを受け入れようと思ったマリューは、その首に腕を回したまま、口付けに応えていた。
 ムウは、自身の膝の上に横向きで乗っかるような状態のマリューの身体に手を這わせる。
 ゆっくりと、その身体に巻かれているバスタオルの隙間から、マリューの素肌を探し出し、優しく撫でる。
「んっ……」
 途端に、マリューの口からは甘い声が発せられる。
 その反応に気を良くしたムウは、そのまま胸元まで手を進めた。
 そして手から溢れんばかりのマリューの胸を、やわやわと揉みしだき始めると、その行為にマリューの身体が素直な反応を見せる。
 微かに身体をくねらせ、ムウの首に回したままの両腕に力が入ってくる。
 すぐに、マリューの胸の先端が存在を主張し始めたのをバスタオルの上からでも感じ取ったムウは、指先で優しく摘みあげた。
「ふぁ……っ」
 密着したままの唇の端から、マリューの吐息が漏れ始める。
 それを確認したムウは、唇を滑らせて、マリューの耳から首筋へと移動を始めた。
 そのまま、彼女の身体を支えていた右手で、身体に巻き付けられていたバスタオルを剥ぎ取る。
「やぁん……っ」
 マリューの口からは否定の言葉が出てくるが、彼女自身、抵抗する様子は見られない。
「嫌じゃないんだろ?ん?」
 ムウの手によって剥ぎ取られたバスタオルが、ゆらゆらとバスタブの中を漂う。
 そして明るい光の中に露になったマリューの素肌を、ムウは改めてじっくりと眺める。
 自分と比べると、滑らかで白い肌。
 その身体に似合わない程の豊満なバスト。
「そんなに見ないで……恥ずかしいわよ」
 顔を赤らめたマリューが、小声でムウに告げるが、当の本人は相変わらず舐めまわすかのようにマリューを見つめる。
 手で胸元を隠そうとしたマリューの手をムウは掴み、それを許そうとはしなかった。
「隠すなよ」と言うと、マリューを抱え上げ、向かい合わせになるようにと、自分の足の上に座り直させる。
 膝をついてムウの前に立つような格好になったマリューを、ムウは少し下から見上げた。
「やっぱり綺麗だ」
 ムウは満足気な笑みを浮かべると、自分の目の前にあるマリューの胸元に唇を這わせた。
「あっ……ムゥ」
 左手でマリューの腰を支えたまま、右手は彼女の胸を揉みしだく。
 そして、もう片方の胸の先端を、舌先で転がし始めた。
 途端に、ムウの両肩に置かれていたマリューの手に力が入る。

 煌々とした灯りの下、さほど広くない室内に響くのは、マリューの喘ぎ声とバスタブの水音。
 バスルームという特異な場所なだけに、反響したマリューの声が、いつもよりも艶かしくムウの耳に届く。
「はぁぁ……んっ」
 ムウの手がリズムを刻むように、マリューの肌の上を滑っていく。
 そして、彼女の敏感な部分を順番になぞるたびに、マリューの身体が悩ましげに震える。
 その姿を下から見上げていたムウは、手をゆっくりとお湯の中にあるマリューの下腹部へと進めた。
 ムウの足を跨ぐようにして膝をついているマリューのヒップからその奥へと手を差し入れる。
 ゆっくりとやさしく触れた先は、敏感になっていたその先端。
「あっ……ぁん」
 ムウの指先がその先端をなぞる度に、マリューの腰がピクリと動く。
「お湯の中だってのに、すんげー濡れてるのが分かるんだけど?」
 妖しい笑みを浮かべたムウが、マリューを見上げながらそう話しかける。
「いやぁ……い、いわな……いで……っっ」
 ムウの指の動きに反応し、自らの意思と反して動いてしまう腰をどうする事もできないマリューは、切れ切れになりながら反論する。
 が、そんな彼女の反論も、ムウの愛撫にかき消されてしまう。
「ほらほら、そんな事言っても、身体は素直に反応してるでしょ」
 クスクスと笑いながら、ムウはその指を彼女の中心に滑らせる。
「はっっ……あぁぁ……」
 溢れてきているその場所にムウの指が難なく滑り込むと、マリューがクッと喉を仰け反らせて、切なそうな声を上げた。

 ムウの長い指が彼女の内側を擦り上げる度に、マリューの脚がガクガクと震え出す。
 そんな彼女の震える腰を支えると、一度抱きかかえる。
「ム……ウ?」
 突然抱きかかえられたマリューは、うつろな瞳でムウを見つめている。
「立ってられないだろ?」
 ムウはマリューを抱きかかえたまま、彼女をバスタブの縁に座らせた。
 すっかり力の抜けた状態のマリューは、そのまま背中をひんやりとした壁に預けると、ほうっと溜息をつく。
 すると、マリューの目の前にしゃがみ込んだムウが、彼女の脚に手をゆっくりと走らせる。
「脚、開いてよ」と再び妖しい笑みを浮かべたムウがマリューを見上げる。
 その蒼い瞳に魅入られたマリューは、ムウの言葉に反抗する術もなく、ただ言われるがままになってしまう。
 マリューが抵抗しないと分かったムウは、彼女の脚の間に自身の身体を割って入る。
 そして、マリューの片足を持ち上げると、その中心に唇を寄せた。
「あっ……や……ムゥ……っ」
 先端を弄ばれ、内側を擦り上げられる。
 再び襲ってきた甘い刺激に、マリューが過敏な反応を見せた。
 身体をくねらせ、自身の下半身に顔を埋めているムウの頭を、両手でぐっと掴む。
 舌と指で攻め続けるムウに、マリューは声を上げながら彼の髪の毛をグシャグシャと掻き毟る。
「やっ……もぅ……ダメぇ」
 息も絶え絶えのマリューがそう叫ぶと、それを合図のように、ムウは最後にきつく吸い上げると唇を離した。
「あぁ……あぁぁんっっ!」
 ギュッとムウの頭を掴んだまま、マリューはくたっと全身の力を手放したのだった。

 ムウは、すっかり力の抜けたマリューを再び抱き起こすと、その手を窓枠に掛けさせ、後ろからぎゅっと抱き締めた。
 そして、まだ軽く息が上がったままのマリューの中心部に、ムウは熱を帯びた自身をあてがい、ゆっくりと内部に侵入した。
「ぅあっ……はぁっ……」
 マリューの背筋がビクッと震える。
 奥まで行きついたムウは、ゆっくりと彼女の中を擦り始める。
「いつもより……締め付けがすごいんだけど?」 
「やぁぁっ……んっっ……」
 ニヤリと口元に笑みを浮かべてはいるものの、ムウの額にも汗が滲んでいる。
 マリューの反応に気を良くしたムウは、そのまま勢いに任せて腰を叩きつけた。
 口ではイヤと言ってはいるものの、マリューの腰はムウのリズムに合わせて動き出す。
 その衝撃で、バレッタで留めていた髪が一束はらリとマリューの頬にかかり、彼女を更に美しく見せる。
 そんな艶かしいマリューの姿態に、ムウの理性が弾け飛んだ。

 二人の動きに合わせて、バスタブのお湯がピチャピチャと波音を立て続ける。
 それと一緒に、別の水音も2人の耳には届いていた。
「マリューさんはどう?気持ちいい?」
 余裕がありそうにそうは言ったものの、ムウ自身にも限界が近づいてきていた。
「き、聞か……ないでぇ……そ……な事ぉ……」
 頬を赤らめて俯くマリューがたまらなく愛しく感じ、ムウは動きを更に加速させた。
「ふぁ……イっ……ちゃうっっ……」
「俺も……いいか?」
「やぁ……ああぁぁーーーーーっっ!!」
「くっ……」
 そうムウが唸った次の瞬間、マリューの体が弓のようにしなり、ムウの中心を締め上げる。
 そのままムウは、全てをマリューの中に注ぎ込んだ。

 窓枠からずるっと手を離したマリューを、まだ繋がったままのムウは慌てて抱きかかえる。
 そして、そのままバスタブの中にしゃがみ込み、目を閉じたまま肩で息をしているマリューを優しく抱き締めていた。
 上気した頬に張り付いたままの髪をはらい、その頬に手を添える。
 自分の肩に頭を預けているマリューを少し上から見下ろしていたムウは、しっとりと濡れた唇に再びキスを1つ落とす。
「あっ……ムゥ……」
「ごめん。マリューが可愛くて、つい……」
 蒼い瞳が、すまなさそうな笑顔でマリューを気遣う。
「だったら……離れようとか……思わないの?」
 まだ息が上がったままのマリューが、少し怒った表情でムウを見上げた。
「だってさ、離してくれないの、マリューの方だけどなぁ」
 締め付けたままなんだけど?とニヤニヤしながら再びその手をマリューの胸元に伸ばそうとする。
 が、マリューは、その手をピシャリと叩き落とすと、大慌てでムウから身体を離す。
 マリューの中から抜け出たムウ自身は、意外な事にまだそのままの状態を保っていた。
「なっ?!」
 それを目にしたマリューは、フラフラした足取りながら、慌ててバスタブから出てゆく。
「なあ、もう1回しない?」
 バスタブの中からマリューの腕を引っ張りながら、ムウは妖しい笑みを浮かべていたが、当のマリューはそれを阻止せんとばかりに、声を張り上げていた。
「これ以上お風呂にいたら、私、のぼせちゃいますっ!」
 バスタブの中に漂っていたタオルを素早く拾い上げると、絞ったそれで身体を拭き始める。
「じゃあ、続きはまた後でって事で?」「ありませんっ!」
 マリューは、真っ赤になったまま、間髪入れずに否定の返事を返した。
「ん〜、俺としては、2年分マリューを愛したいんだけど……」
 ダメか?と真顔でマリューを見上げるムウに、反抗できないのかもしれないと少し悟ったマリューは「知りませんっ!」と再び強気な返事をする。
 そして、簡単にタオルを巻きつけると、バスルームの扉を開ける。
「ちゃんと身体も洗ってから出てきて下さいね。そうじゃなければ、もう相手しませんから!」
 このままマリューが出て行くと、きっと身体も洗わずに追いかけて出てきそうな勢いのムウを振り返り、きっちりと言い渡す。
「お?!って事は……?」「だから、知りませんっ!」
 マリューは、満面の笑みで聞き返すムウに背を向けて、バスルームを後にした。
 あ〜っ、もう……と思いながら下着を身に付け、バスローブを羽織る。
 扉を一枚隔てた向こう側では、どうやらムウが鼻歌交じりに身体を洗っているようだ。
 そんな姿のムウを目の当たりにして微笑ましく思ってしまう自分は、やはりムウを愛しているのだわ……と苦笑すると、そっと寝室へと向かった。


よ、ようやくアップできました(苦笑)
ムウマリュで、初めて裏モノを書いてしまいました!
こんなんでいいのかしら??(^^;
とりあえず、書き逃げって事で、ダメですか?<Kさま