単純で複雑な感情


 正式にオーブ軍の一佐を任命されたネオは、エリカ・シモンズからアカツキに関するマニュアル一式を受け取る為に、ここモルゲンレーテの工廠にやって来ていた。
「単なるモビルスーツの操縦でしたら、訓練すれば誰でも出来ますが、このシラヌイユニットには、高度な空間認識力が必要ですからね」
 微笑みながらそんな事を言われたネオは「それで、俺が適任って訳か?」と苦笑しながら聞き返す。
「そうね。シュミレーターであなたが叩き出した結果は、こちらの予想以上でしたし」
 正直、驚きましたわ、色々な意味で……と、妙に意味深な発言をしつつ、エリカは黒い表紙のファイルをパタンと閉じる。
「まぁ、あっちにいた時、エグザズにも乗ってたからさ……こんなに読まなくてもさ、大丈夫だろ?」
 受け取った3冊の分厚いマニュアルの背表紙を眺めながら、ネオが皮肉交じりにそう漏らすと、深い溜息をつきながらエリカが振り返った。
「あなた達に出撃命令が下るまでには、まだ時間があるんですから、ちゃんとマニュアルは読んでおいて下さい!……今度こそ、この艦とあなた自身を守る為にも」
 そう告げると、ガラス越しに見える白亜の艦を見上げる。
 彼女のその言葉で、初めてマリューと対面した時の、あの辛そうな顔がネオの脳裏に浮かび上がり、胸の奥の方にナイフを突き立てられたような痛みが走る。
 そして同じ様にその艦を見上げると「この艦を守る為か……なら、ちゃんと読みますか」と小さく呟いていた。

 それから毎日、アークエンジェル内や工廠内の至る所で、マニュアルを読みふけるネオの姿が目撃されるようになった。



 今日もアカツキの調整を終えたネオは、マニュアルを抱えてモルゲンレーテ内の食堂にやって来た。
 適当に空いている席を見つけると、そこにマニュアルを置き、食事のトレイを持ってくる。
「いただきますっ」
 ボソッとそう言うと、左手でマニュアルを捲りながら、右手のフォークをせわしなく口元に運ぶ。
「……あ〜、ちくしょ〜っ。実践した方が早ぇよなぁ……」
 静かに食事をしていたかと思えば、突然ブツブツと文句を言い出すその姿を、周囲にいる作業員達は恐る恐ると言った様子で遠巻きに眺めていた。

「どう?アカツキの調整は上手く行ってます?」「……ん?あぁ……」
 う〜んと唸りながらも、マニュアルから目を離さないまま生返事をしたネオの様子に、声を掛けた人物はクスリと笑いながらその正面に腰を下ろした。
「どうにもこうにも……こんなの読んでるより、実際に乗ってみないと分かんねぇっつーの……ぅわぁぁ〜っっ?!」
 ネオはブツブツと呟きながら顔を上げ、声のした方を見上げた途端、右手に持っていたフォークがその手から滑り落ちる。
「か、か……艦長?!」「はい?」
 フォークが床に落ちる音がすると、マリューは「あら、フォークが落ちましたよ」と苦笑しながら立ち上がる。
「いゃ、あの……今の俺の発言は、その……独り言ですから……」
 1人でオタオタしているネオを尻目に、マリューは笑いながら「新しいフォーク、貰ってきますね」と、落ちたフォークを拾い上げると、カウンターから新しいフォークを持ってくる。
「はい、どうぞ」「……あ、ありがとう……ございます」
 フォークを手渡したマリューは、再びネオの正面に座ると、自分も食事を取り始める。
 何事もなかったかのように食事をするマリューをポカーンと見ていたネオは、その様子でふと我に返ると、思い出したかのように再びマニュアルに目を落とした。

「やっぱ、早く実践したいんだよぁ〜」
 すっかり食事を終えたネオが、マニュアルをパタンと閉じつつ独り言を呟く。
「……一佐……」
 溜息混じりにマリューに呼ばれたネオは「ん?」と不思議そうに振り返った。
「マニュアルを読まれるのはいいんですけど……没頭しすぎじゃありません?」
「えっ?……そう?」
 自覚症状ないんですか?!と、マリューは呆れながら再び溜息をつき「ここ、よ〜く見て下さい」と、ネオの食べていた食事のプレートの周りを指先でトントンと指し示す。
 そう言われ、改めて目の前のプレートを見たネオは「あ……」とバツが悪そうに声を漏らした。
 マリューに指し示された自分のプレートの周りは、パンくずやコロッケにかけたソース、おまけにサラダのレタスまでがテーブルの上に散らばっている。
「せめて食事の時ぐらいは、マニュアルを読むのはやめたらいかがです?」「……は、はぃ……」
 少し怒ったような口調で「パイロットは食べる事も仕事のうちだと聞いた事ありますけど?」と告げたマリューは、ネオの返事を聞く前に席から立ち上がると、カウンターから布巾を持って戻ってくる。
 そして、ネオが汚したテーブルを拭きながら「食事をしながらマニュアルを読んでいたら、胃も脳もまともに働きませんよ」と、またもや溜息をつく。
「……すみません……」
 何と言うか、口うるさい母親みたいだな……と、そんな事を思ったネオに、マリューは「それに……」と少し困ったような表情で顔を上げる。
「マニュアルに没頭するのはいいですけど……そのしかめっ面、何とかなりません?他のクルー達が怖がってるんですよ」
 そう言うと、ネオの眉間に走る2本の縦ジワを人差し指でツンと突付く。
「……えっ……俺、そんなに……怖い顔してた?」
 突然のマリューの行動に驚いたネオは、しどろもどろになりながら、突付かれたばかりの自分の眉間に指を走らせる。
 と、確かにそこには、深い縦ジワが刻まれた跡があった。
「えぇ。誰も寄せ付けないような……鬼みたいな表情してました」
 そう言われたネオは「えぇ?鬼ぃ?!」と力が抜けたような声で聞き返し、両手で頭を抱えるとガックリとうなだれてしまった。
「没頭するのもいいですけど、たまには気分転換した方がいいですよ」
「気分転換って言われても……」
 そう言われ、ネオはグルグルと記憶の奥を探ってみる。
 が、まだよく分からない環境の中で気分転換をする方法に思い当たらず「う〜ん」と、頭を抱え込みながら唸っている。
「大体、そんなに没頭してマニュアルを読まれるのでしたら、自室の方がいいんじゃありません?」
「……部屋で1人きりでマニュアル読んでると、その……イヤになるっつーか……」
 ボソボソと小さい声で言うネオに、マリューは三度溜息をつくと「もぅ……」と困ったような笑顔を見せる。
「要するに、飽きっぽいって事ですか?」
 そんな質問を投げかけられたネオは、思わず「いや、そーじゃなくて」と、声を荒げた。
 突然、大きな声を出したネオに、マリューは一瞬目を丸くする。
「俺、どっちかってーと、マニュアルを読むよりも実践主義だからさ。だから、読んでるだけじゃ納得出来なくて、こう……イライラするっつーか、何と言うか……」
 大慌てで説明するネオの様子に、マリューは思わずクスクスと笑い声を上げてしまう。
「マニュアル読んでるだけじゃイライラして、それで鬼のような表情になってるんですね」
「……ぅっ……まぁ、そうそう事になる……か……」
 申し訳ない……と、頭を下げるネオに、マリューは「じゃぁ、たまには気分転換しません?」と声を掛ける。
 えっ?と、驚いた声を上げたネオに「これから艦長室に行きますけど、一緒にいらっしゃいません?コーヒーでもご馳走しますよ」と微笑を向けると、マリューは目の前の食事のプレートと布巾を手にさっさとカウンターへ歩いて行く。
「あ、ご馳走になります!!」
 何故か丁寧に返事をすると、ネオも慌てて食事のプレートとマニュアルを手に、弾かれたように立ち上がった。


 艦長さんからのお誘いだからなぁ〜と言う、無意味な理由を自分の中で位置づけて、ネオは艦長室のソファーに腰を下ろしていた。
 簡易キッチンでコーヒーを淹れているマリューの後姿を眺めつつ、ゆっくりと何かを確認するかのように室内を見渡す。
 その時、ベッドサイドに作りつけられている本棚に目が留まった。
 小難しいタイトルの背表紙がぎっしりと並ぶ上段の棚に対し、下段には淡いピンクの背表紙の本が1冊立てかけられているだけ。
 その背表紙が気になったネオは、おもむろに立ち上がるとその本棚に手を伸ばした。
 そして思わず最初のページを捲ると、そこには真っ黒なドラゴンが血のような赤い目を光らせ、目の前にいるお姫様と剣を構えた勇者に襲い掛かろうとしている挿絵があった。

「あ、それ……」
 コーヒーの入った2つのマグカップを手にしたマリューが、ピンクの本を開いているネオの姿に気付く。
「ぁあ、スマン。勝手に手に取って……」
 なんか気になったもんで、と言い訳しながら、ネオはその本を元の位置に戻そうとした。
「小さい頃に両親からもらった、他愛のないおとぎ話ですけど……読むと私も頑張ろう!って思えるから、手放せなくて……」
 少し恥ずかしそうな様子のマリューは、マグカップをテーブルに置くとネオに近付く。
「良かったら読まれます?」
 気分転換にはなるかも……と、笑みを浮かべながらも「でも、こんなお話、男性は読みませんよね」と、すぐにそれは苦笑に変わる。
「……読んでもいいってンなら、貸してもらえるかな?」
 棚に戻しかけた本の表紙をじっと見ながらネオがそう問い掛けると、彼女は「ぇっ……えぇ、いいですけど」と少し驚いた様子で答えた。
「サンキュ」
 マリューを見つめてそう微笑みかけたネオは、そのまま艦長室のソファーに腰を下ろすと、すぐさまその本を開く。
「って、ココで読むんですか?」
「ん?いいだろ?」
 驚いた顔をしているマリューにネオは微笑みかけながら、その指はすでに本のページを捲っていた。
「……ダメと言っても、聞かなさそうですわね」
 そう言ったマリューに、ネオは「艦長さんも一緒に読まない?」と自分の右隣のソファーを手で軽く叩く。
「私は何度も読んでますから、お1人でどうぞ」
 そう丁寧に断ったマリューが、ネオの正面に腰を下ろす。
「ありゃ。そっちに座るの?」
 なんとも不満そうな表情を見せたネオは、本を手にしたまま立ち上がると、さも当たり前のようにマリューの左隣に腰を下ろした。
「本を読むのに、何故、私の隣に座るんですか?!」
 驚くと言うよりも呆れたような声を上げたマリューは、隣に座るネオをマジマジと見つめる。
 が、すでにその人物は手にした本に視線を落としていた。
 あらあら、読み始めたら何でも没頭する人なのね……と、心の中で呟いたマリューは、ネオの読書の邪魔をしないように、静かにノートパソコンを起動させた。


 本部に提出するデータを整理し終わったマリューは、それを入れたディスクを取り出し、パソコンの電源を落とす。
 そしてそのパソコンをテーブルに置くと、飲みかけのコーヒーに口を付けた。
 少しぬるくなっていたコーヒーを一気に飲み干したマリューは、ふと自分の左隣を振り返る。
 そこには、無言でピンクの表紙の本に視線を滑らせているネオの横顔があった。

 彼の右側からその横顔をじっくりと眺めていたマリューは、知らず知らずのうちにその横顔に懐かしい面影を重ねてしまう。
 ……こちら側から見ると、傷跡が見えないから……ね。きっと……
 2人を重ね合わせるのはやめようと決めているのにもかかわらず、つい脳裏をかすめるのは、同じ顔をした懐かしい横顔。
 あぁ〜っ、もぅ……私ったら……と思いながら小さく溜息をつき、改めてネオの横顔を見つめた。

 きゅっと結ばれた、形のいい唇。
 スッと通った高い鼻筋。
 切れ長の瞳と睫毛。

 少し伏せ目がちで文章を追う度に、その瞳と睫毛が微かに動く。その様子に、マリューは何故かドキリとする。
 ……やだわ。なんで私、ドキドキしてるのかしら?……
 自分の耳に響く胸の鼓動が、マリューの意思と反してどんどん激しさを増していく。
 ……ネオに聞こえたら、どうしよう?……そんな事を思っていると、今度は顔まで熱くなってくるようだった。

 ネオの視線が、本の左端から右端に移動するだけで、何故だかコチラをチラチラと見られているんじゃないかという錯覚さえ覚えてしまう。
 こんなにドキドキするならば、見なければいいのに……そうマリューは心の中で思っているのだが、不思議とネオの横顔から自分の視線を剥がせないままでいた。

 その時、ネオの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「……ぇっ?」
 予想をしていなかったその涙に、マリューが思わず小さく声を上げた。
「ん?」
 その声で現実に引き戻されたかのようなネオが、彼女を振り返る。
「一佐……涙が……」
 そう呟きながら、マリューは思わず彼の涙を指先で拭っていた。
 そんな彼女の行為に驚きながらも、ネオは「俺……泣いてた?」と少し驚いた表情で聞き返す。
「えぇ……」
 少しだけ頬を赤くしたマリューが、優しくネオに答える。
「泣いていたなんて……俺……分からなかった」
 マリューが触れた自分の目尻を、ネオはその後をなぞるかのように自分の指で触れると、確かにそこには涙があふれ出た名残が残っていた。
「……俺の中にも、涙が出てくるような……そんな感情が残ってたんだ……」
 そう呟くネオの瞳からは、次々と透明の雫が流れ落ちていく。
 もう、そんな感情……忘れちまったと思ってたんだけどな……マリューに聞こえるかどうか分からない程の小さな声で呟いたネオは、左手で顔を覆うようにして両目を拭う。
「何が貴方の琴線に触れたのか分かりませんが……泣ける時は、泣いていいんですよ」「えっ?!」
 マリューは囁きかけるようにして告げると、俯き加減のネオの頭を優しくその胸に抱きとめた。

「うっ……くっ……」
 声を押し殺すように嗚咽しながら、ネオはマリューの胸で涙を流し続けていた。
 そんな彼を、マリューは優しく抱きしめる。
 彼の髪を優しく梳くように手を滑らせ「好きなだけ泣いていいですよ」と、声を掛け続けていた。

 

「俺は助けてやりたかったんだ、アイツらを……この勇者のように」
 どれくらいの時間、そうしていたのだろうか?
 そんな事も分からない程長い間、ネオは涙を流し続けていた。
 ようやく落ち着きを取り戻したのだが、明らかに赤いだろう目元を隠す為、ネオはマリューの胸元から顔を上げないまま、くぐもった声で呟く。
「それは、私達が生きているから……そう思うんです」
 優しく暖かい声が、耳から身体中に染み渡るように広がって行くのを、ネオは感じ取っていた。

 ネオ自らの意思で黒い軍服を脱ぎ捨てる時、それまでしてきた自分の贖罪を、全てマリューに話していた。
 無論、エクステンデッドであった、部下と呼ぶには幼すぎた3人の子供達の事も……。
 その話をした時、マリューは「私も同じですから」と、少しだけ悲しそうな笑顔を見せて、ネオの思いを受け入れた。

 ネオの言う「アイツら」は、その幼い3人の部下の事だと悟ると、マリューは再び彼の肩をギュッと強く抱きしめる。
「だからこそ……その悪しき循環を断ち切るために、貴方は自分の意思で戦うんでしょ?」
「……ぁぁ」
 マリューの問い掛けに、ネオは掠れた声で肯定する。
「アイツらみたいな犠牲者を、もうこれ以上出したくないんだ」
 そう告げたネオは、伏せ目がちなままマリューの胸元から顔を上げると「すまなかったな」とマリューに礼を述べた。
 未だに顔を伏せたままのネオに、マリューは「いいえ」と言うと、彼の膝の上に置かれていたピンクの表紙の本を手に取る。
「そう言えば……このお話には、続きがあるんですよ」「えっ?」
 柔らかい笑顔を浮かべたマリューは、そう言いながら、本の一番最後のページを開く。
「悪いドラゴンがいなくなったこの国は平和になったけど、それから随分後に、戦争でこの国は別の国に占領されてしまったんです」
 マリューは話しながら、その本をネオの方に向けると、あとがきに書かれている文章を指し示す。
「また、平和じゃなくなったのか?」「えぇ」
 不思議そうに聞き返しながら、ネオはマリューが示した文章に目を走らせた。

 他国に侵略されたその国は、母国語を使う事を禁止されてしまう。
 でも、その国の人達は、勇者がドラゴンを倒した日に母国語の本を贈り、倒したドラゴンの瞳を思わせる赤いバラをお礼に送る。
 人々はそんなやり取りの中に、再び独立できる事を夢見て……。
 そして、侵略した独裁者が亡くなると、国の人達は力を合わせ、母国を復活させたのだ……と。

「1人の力は小さくても、みんなが集まれば、それは大きな力になるの」
 本のあとがきを目で追っているネオの真剣な表情を見ながら、マリューは言葉を続けた。
「この艦だけじゃ、どうにもならない事でも、同じ志を持つ者が手を取り合えば……」
「夢は叶う……って事か?」
 彼女が口にしようとした最後の一言を、ネオが先に言葉にする。
「えぇ」
 その言葉に嬉しそうに頷いたマリューは、本に添えられていたネオの手を自らのそれで優しく包み込む。
「貴方の思いと、私達の思いは一緒ですわ。もちろん、キラ君やアスラン君、それにカガリさんの思いも……」
「同じ思いを持つ者同士に、ナチュラルやコーディネィターなんて垣根はないんだな」
 そう呟きながら、ネオは重ねられたマリューの手を取る。
「えぇ。みんな同じ人間ですから」
 笑顔で自分を見上げるマリューを見つめ、ネオは「そうだよな」と、まだ赤い目元をほころばせた。

「なぁ……」「はい?」
 ようやく腫れた目元が治まったネオは、テーブルの上に置かれていたピンクの表紙の本を見つめながら、マリューに声を掛けていた。
「この本、しばらく貸してもらえないかな?」
 もう一度、じっくりと読んでみたいからさ……と、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべて、ネオはそう彼女に問い掛ける。
「……えっ、えぇ……いいですよ」
 そんな様子のネオに少し驚きながらも、マリューはその本を手に取りネオに手渡す。
「サンキュー、艦長さん」
 なんとなく恥ずかしそうな、はにかんだ笑顔でそう礼を述べると、ネオはソファーから立ち上がる。そしてマリューの方を振り返ると「この本を借りた事、他のヤツには内緒な」と、慌てて付け加える。
 その様子がなんとも可愛らしく見えたマリューは、思わずクスクスと笑いながら「分かりましたわ」と答えた。

「あ〜……それからさぁ」「はい?」
 ドアに向かって歩きだしたネオは、マリューに背を向けたまま突然問い掛けた。
「また、ココへ……気分転換しに来てもいいか?」
 その声に、少しだけ遠慮のようなものを感じ取ったマリューは「いつでも歓迎しますわ」と、振り向かない背中に微笑みながら答える。
「……あ、アリガト……な」「いえ」
 少し嬉しそうにそう告げたネオは「じゃあ……」と片手をヒラヒラ振りながら艦長室を後にした。


 その数日後。
 艦長室に戻って来たマリューは、誰もいない部屋の中に、あのピンクの表紙の本と共に1本の赤いバラの花が置かれている事に気付いた。
 その隣には、ご丁寧……と言うにはお粗末な走り書きのメモまで添えてある。
『素敵な本をありがとう。  
 それから……俺達の夢が叶うように、赤いバラに願いを込めて   ネオ』……と。

「うふっ」
 意外とマメな性格だったのねぇ……と、感心しながら走り書きのメモを手に取ると、それを大事そうに本の間に挟み、ベッドサイドの本棚に立てかけた。
「でも、こういう所は変わってないのかも……」
 マリューはそう呟きながら、無造作に置かれている赤いバラを手に取ると、クスッと笑みを漏らす。
 そしてそのバラをガラスの一輪挿しに飾ると、自分のデスクに置いた。

「さて……そろそろコーヒーでも淹れようかしら?」
 部屋の時計を見上げたマリューは、そうひとりごちると簡易キッチンに向かい、手馴れた様子で2人分のコーヒーの準備をする。
 ……あと5分もしたら、分厚いマニュアルを手にしたネオがやって来るわ……と思いながら。



みづき様からのブログキリバン『10000』のリクエストが……
『読書してるネオさんの横顔萌えなマリューさん』で『出来れば、記憶戻る前で…』という事でした。

読書と聞いてふと頭に思い浮かんだのはサンジョルディの日(え?
サンジョルディについて調べてみたところ、とある物語に行き着きました。
それが、赤い目を持つドラゴンから人々を助けた聖ゲオルギウスの話。
その物語の本をマリューさんが持っている……という設定にしてみました。

『横顔萌え』タイムが少なくなってしまいましてごめんなさいっっ!m(__)m
みづき様!このようなお話でもよろしければ、どうぞお持ち帰り下さいっっ(汗



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