モエビアなSEED


「今夜も素敵な萌えの世界へ誘います。モエビアなSEED、司会のアーノルド・ノイマンです」
「萌えという言葉とは程遠いキャラクター、ダリダ・ローラハ・チャンドラU世です」

 チャンドラの自己紹介に、出演者の方々が笑いながら拍手。
 本日の品評会会員の皆さんは……
 会長は、もちろんムウ・ラ・フラガ氏。
 その隣には、カガリ・ユラ・アスハさん、マリュー・ラミアスさん、ラクス・クラインさん、そして、キラ・ヤマト氏と並んでいる。

 ちなみに……本日の影ナレは、ギルバート・デュランダル氏である。

「なぁなぁ、何で俺の隣がこのお嬢ちゃんなワケ?」
 ちょっと不満そうなムウが、司会者達にいきなり噛み付くと、隣の席のカガリが「お前の隣がマリューさんだと、放送出来ない事になるからだっ!」とキッパリ言い切る。
「放送できないような事はしないからさぁ〜」
 いかにも怪しい笑みを浮かべたムウが反論するが、当のマリューは無視を決め込んでいる。
 しかし司会のノイマンは、それに気付かないフリで「それでは、早速参りましょう。本日のモエビアは、こちらです」と笑顔でカメラに告げた。
「あっ、おいっ!俺の言い分はどうな……」
 無常にも、ムウの言葉は途中で切られ、画面が暗転する。
 そして、その画面に<オーブ軍所属 ペンネーム 元ジャーナリストさんからの投稿>と言う文字が浮かび上がる。

 
『アカツキの表面は……』


「おっ、アカツキかぁ〜」
 気を取り直し、目の前のモニターを見つめていたムウが、ボソッと呟く。


『ヤタノカガミという名の、特殊コーティングがされている』


 モニターを見つめていたムウが「そこから引っ張ってくるのか〜」と笑いつつ、手元のボタンに手を伸ばす。
 そして、そのボタンを押す度に《うひょ〜っ!》という声がスタジオに響き渡る。

 ボタンを押しているのは、ムウだけではなく、マリューやラクス、そしてキラもである。
 そんな中、ただ1人ボタンを押す事もなく「そんな事が、どうして萌えに繋がるんだぁ?!」と、突然大きな声を出したのはカガリ。
「まぁまぁ、落ち着いてカガリさん」
 今にも立ち上がりそうなカガリを、隣の席から苦笑しつつも嗜めたのはマリューだった。
「おぉ!会長は《8うひょ〜っ!》ですね」
 満足気な表情でそうノイマンが言う。
「ってか、アカツキで萌えのポイントって何さ?」
 笑いながらそう訊ねてきたのは、会長のムウ。
「僕も一度乗ってみたいですね」と、キラは興味津々である。
「では早速、検証VTRをご覧下さい」
 好き勝手に話し込んでいる会員に、困ったような笑みを浮かべていたノイマンがそう言いながら、VTRスタートの合図を手で示した。


『アカツキの特殊コーティング<ヤタノカガミ>が、どうして萌えに繋がるのか……開発担当者である、モルゲンレーテのエリカ・シモンズ氏に聞いてみた』

 インタビュアーである、レイ・ザ・バレルの後姿が画面の端にチラリと映り、真ん中には笑顔のエリカが映る。

 レイ  「アカツキの特殊コーティングは、どういった過程で出来上がったのでしょうか?」
 エリカ 「こちらから攻撃しなくても、相手に脅威を与えるような機体にしたい……と言うのが、ウズミ様の遺言でした。
      ですので、ビームが当たっても、それが相手に跳ね返る……という発想……<ヤタノカガミ>に結びつきました。
      結果的に、見た目にも脅威を与えてるでしょ?」
 レイ  「その<ヤタノカガミ>の仕組みは、どういった物なんですか?」
 エリカ 「ウフフフフ。それは、企業秘密v」
 レイ  「はぁ……」

 ウィンクしながらそう答えるエリカの顔が、画面にアップになる。

 レイ  「(気を取り直して)では、その<ヤタノカガミ>が、どうして萌えに繋がるのですか?」
 エリカ 「アカツキには、2人のパイロットが搭乗しているわ。まずは、1人目のパイロット、カガリさんの映像をご覧になります?」

     暗転した画面に、オーブ沖での戦闘シーンが浮かび上がる。
     オオワシ装備のアカツキが、デスティニーガンダムと対峙している。
 
    「コイツに来られたら、オーブはっ……!」
     デスティニーに向けて発射されたビームライフルは、あっさりとかわされてしまう。
     それと同時に、すでにアカツキはその機体にロックオンされており、すぐさま反撃のビームが目の前に迫り来る!
    「あッ……!」
     反射的に身体が硬直するカガリの顔に、恐怖の色が濃く浮かぶ。
     シールドを!と思い、機体の左腕を動かそうと必死になるが、まるで凍りついたかのように自分の身体が動かない。
     デスティニーから放たれたビームがアカツキの胴体を今、まさに貫こうとしている。
     身じろぎさえも出来ない恐怖感の中、カガリは身体中を貫くような『死』と直面していた。
     ただ、目を見開く事しか出来ない……。
     「もうダメだ」と思われた次の瞬間、そのビームはアカツキのボディを覆いつくす<ヤタノカガミ>で跳ね返り、同じ弾道を通って撃った相手の元へと戻って行く。


 エリカ 「ついでに、この時の状況をアークエンジェル内で見届けていた証人もいるのよ」

 エリカの一言で画面に現れたのは、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべたアスラン・ザラの姿。


「ア、アスランっ?!」
 またもや、自身の席から立ち上がりそうな勢いで、目の前のモニターを見つめたカガリが、大声を上げる。
 思わずテーブルについた手が、勢い良くボタンを押し《うひょ〜っ!》という音声がスタジオ内に響く。
「カガリさん、落ち着いて!」と、マリューがその腕を引っ張っている。
「あら、アスランですわ。いつの間にインタビューなんて収録されたのでしょう?」
 マリューの右隣では、おっとりとした話口のラクスがキラに問いかけつつ「では、アスランにもおひとつ」と《うひょ〜っ!》ボタンを押している。
「この間、慌てて自宅に帰った日じゃないかな?」
 カガリが動揺している事を気に留める様子もなく、キラはラクスを見つめ返して答えていた。


 アスラン「あの時、俺は……アークエンジェルのCICの席で、戦闘の様子を見ていました。
      カガリが向かっていった相手があのシンだと気付いた時、なんとしても止めさせたかった。
      ですが、無鉄砲な彼女ですし、怪我人の俺がCICの席からそれを叫んでも、彼女には聞こえるはずもありませんし……。
      シンのライフルがアカツキをロックオンした時、本当に俺の心臓は凍りつきましたよ……もう、生きた心地が……」



「誰が無鉄砲だってぇっ?!」
 その一言に反応したカガリが、テーブルを叩く。
 が、それはまたしてもボタンをかすり《うひょ〜っ!》という音声がこだまする。


 突然、アスランの話が途切れて、場面が暗転。
『話が長くなりそうなので、エリカ・シモンズ氏に簡潔に説明していただいた』

 エリカ 「この時のカガリさんの表情!これが1つ目の萌えポイントです」
 レイ  「(淡々と)なるほど、そうですか」
 エリカ 「続いて、2人目のパイロット、ネオ・ロアノークさんの場合は、こちらですわ」


 ウキウキとした表情のエリカのアップから、別の映像に切り替わる。

     カガリの時と違い、シラヌイを装備したアカツキがアークエンジェルから飛び出し、真っ暗な空間で光り輝いている。
     更に場面が切り替わり、アークエンジェルと対峙していたミネルバの艦主砲が、青白く臨界する様子が映し出される。
    「ぁぁっっ……!!」
     もうダメだ……。
     艦長席のアームを握り締めたマリューの青ざめた表情が、画面に大写しになった。


 
「うひょ〜っ、マリューさんじゃないの!」
 ヒュ〜と口笛を吹いたのは、他でもないムウだ。
 もちろん、その手は迷わず《うひょ〜っ!》ボタンを叩いている。
「ちょっと、ムウッ!」
 マリューは恥ずかしげにムウをひと睨みするが、当のムウは全く気付いていない。


     マリューが覚悟を決めた瞬間、目の前の白い光はネオの駆るアカツキによって遮られていた。
     陽電子砲をその身で受け止めているアカツキを、その勢いに押されまいと操るネオの姿が画面いっぱいに映し出される。
    「アークエンジェルはやらせんっ!!」
     真っ赤になるコクピットに差し込む真っ白な光。
     鳴り続けるアラート音。
     フルスロットルに踏み込まれる、スラスターのペダル。
     歯を食いしばるその唇の端に、ほんの少しの笑みが浮かぶネオの横顔。


「ムウ……」
 思わず、その場面を目にしたマリューの口から、涙交じりの声が漏れ聞こえた。
 その声にムウが気付かない訳がなく、すぐさま「大丈夫だから」と優しい笑みを彼女に投げかけている。
「……うん」そう返事をしたマリューもまた《うひょ〜っ!》ボタンを何度か叩く。


     金色のアカツキを包み込んだ真っ白い光が、突然、蒸発するかのように爆散する。
     そして、目の前の光の塊の中から、輝く機体が傷一つ無い姿を現し、すぐさまそのライフルがミネルバの艦主砲を打ち抜いた。

     全てが一瞬の出来事のように思え、声も出せない状態だったマリューの目の前で、モニターが懐かしい人物を映し出す。
    「大丈夫だ……」
     モニターの画像が、画面に大写しになる。
     そこにいたのは、ネオではなくムウだ。
    「ぁっ……」

     マリューを見つめたまま、シラヌイのドラグーンを飛ばし、アークエンジェルにシールドを張り巡らす。
     そして、懐かしく優しい微笑を向ける。
    「終わらせて帰ろう……マリュー!」
     切り替わった画面には、涙を浮かべたマリューのアップ。
    「ムウ……!」


「……ムウ、カッコいいvv」
 少し頬を赤らめたマリューがそう小さく呟くと、嬉しそうな表情でボタンを連打する。
 ムウも「マリューのあの表情は、俺だけの物だな」と何故か言い切り、こちらもボタンを連打している。
「この場面は、何度見てもいいものですわね」「そうだね」
 ラクスとキラも、画面に釘付け状態で、ボタンを叩いている。
 無論、スタジオ内には《うひょ〜っ!》という音声が、これでもかという程響き渡っていた。


 画面が暗転し、再びエリカの笑顔に切り替わる。
 エリカ 「この場面が、2つ目の萌えポイントになるわね」
 レイ  「特に、どの場面がですか?」
 エリカ 「……この部分は、全てにおいて高純度の萌えが配合されているわ。まあ『愛あっての萌え』とでも言っておこうかしら?」
 レイ  「1つ目の萌えポイントには『愛』はないのですか?」
 エリカ 「そうねぇ〜、2つ目と比べると、いくらか『幼い愛』だわね。
      こう言っては何だけど、アスラン君がちょっと……ねぇ。助けに行けなくて「カガリッ!」って叫んでるだけだし。
      まあ、そのヘタレ具合も萌えポイントの1つだけど」

 
 クスクスと笑いながら答えているエリカに対し、レイは心の中で「やっぱりアスランさんだ」と呟いているようだ。


「俺達の愛は、高純度なんだってさぁ〜」
 妙に嬉しそうな笑顔を浮かべたムウが、何度も《うひょ〜っ!》ボタンを押している。
「嫌だわ〜、恥ずかしい」
 そう照れながらも、マリューもついつい《うひょ〜っ!》ボタンを叩き続けていた。

「やはり、ムウさんとマリューさんの恋模様は、素晴らしい萌えポイントですわね」
 素敵ですわ〜と言いながら、ラクスも《うひょ〜っ!》ボタンを押している。
 そして、キラの方を振り返りながら「私の危機には、キラが助けて下さいますよね?」と微笑みかける。
「あぁ、もちろんだよ。僕だって、ムウさんみたいにラクスを護り切ってみせるから」
 そう優しい笑みをラクスに返すと、キラも《うひょ〜っ!》ボタンを連打する。

 相変わらず、ただ1人そのボタンを押していないのはカガリだ。
「なんだよお嬢ちゃん、自分が出てきたってのに、ボタン押さないのか?」
 不思議に思ったムウが、隣のカガリに話しかける。
「あ、あまりにも……アイツが不甲斐ないから……」
 ボソッと告げられた言葉に、ムウがすぐさま反応する。
「だから可愛いんだろ?アスランの事が」
「バッ、バカ言えっ!そんなんじゃないっっ!」
 途端に真っ赤になって反論するカガリに、余裕綽々なムウが「素直じゃねぇなぁ〜」と、彼女の頭をガシガシと乱暴に撫で回す。
「な、何をするっ!!」
 立ち上がってその手を払いのけようとした時、右腕が再び《うひょ〜っ!》ボタンを叩く。
「あっ!!」
「ほら、そのまま押せばいいだけじゃないか?」
 そのやり取りを真横から眺めていたマリューは、ひたすら笑いをかみ殺していた。

「カガリさん以外は、みなさん《満うひょ〜っ!》ですね」
 それぞれの後ろに灯った青いランプが一番上の20を指しているのを見たノイマンが、楽しげに話している。
「カガリさんは《3うひょ〜っ!》ですか?」
 チャンドラが身を乗り出してカガリに詰め寄ると、全員の視線が彼女に集まった。
「ほら、カガリさん。素直に押したらどうです?」
 ついにはマリューがそう口を開く。
「う……っ……」
「アスランもわざわざ出てくれたんだろ?お嬢ちゃんの為にさぁ」
 更にムウも追い討ちをかける。
「そうですわ。カガリさんに内緒で収録されていたようですし……ねぇ、キラ」
「そうだよ、カガリ。素直になった方がいいよ」
 全員に促され、逃げ場の無くなったカガリが「あ〜っ、もうっっ!押せばいいんだろ、押せばっ!!」と顔を真っ赤にしてテーブルのボタンを叩く。
 その度に《うひょ〜っ!》という声が響き渡る。
「ってか、このボタンの音、なんとかなんないのか?何で《うひょ〜っ!》なんだよっ!」
 真っ赤になったままのカガリが、自分への追求から逃れようと、話題の矛先を変えようとした。
「なんなら、俺が直接叫んでやろうか?」
 ニヤリとしながら、ムウが両手を口元に持って行く。
「うひょ〜っ!!今日のマリューも綺麗だぜっ!」
 スタジオ中に、ムウの雄叫び?が響き渡った。
「ちょっと、ムウッ!!」
 その内容に驚いたマリューが、ムウを睨みつけながら真っ赤になって叫ぶ。
「みなさん、今日はラッキーですね!生《うひょ〜っ!》が飛び出しましたよ!」
 楽しくてたまらないといった表情のチャンドラが、拍手をしながら喜んでいる。
 それにつられて、ラクスとキラも楽しげに拍手をしている。

「……なんだか、言うだけ無駄だったみたいだな」
 えぇいっ!何でもいいやっ!とばかりに、半ば呆れたカガリが《うひょ〜っ!》ボタンをバシバシと叩く。
「みなさん、ご覧下さい!全員が《満うひょ〜っ!》です!」
 司会のノイマンが満面の笑みでそう発表すると、全員が「おぉ〜っ!」と拍手をする。
「会長、今日の萌えはいかがでしたか?」
 変わってチャンドラがムウに訊ねる。
「そうだなぁ。お嬢ちゃんの恐怖に歪んだ表情と弱アスランのセット萌えだね。
 あとは、やっぱり俺とマリューの純粋なる愛の萌えだろ?
 やっぱ『愛と正義と平和を守る』為に戦ってる俺達だからな」
 最後に、カメラに向かってウィンクをすると、そのモニターを見ていたマリューがポッと頬を染めた。
「おやおや、マリューさん。何、赤くなってってんのさ?」
 マリューの変化に気付いたムウが、すかさず突っ込むと「な、何でもありませんわっ」と苦笑する。
「あ〜っ、ちっくしょぉ〜っっ!いいよなぁぁぁ〜。俺も萌えるような相手が欲しいよぉ〜っっ!」
 ムウとマリューのやり取りを見ていたチャンドラが、思わず本音を口にすると、その場が笑いにつつまれる。

「では、また次回、良質なモエビアを準備してお待ちしております」
 笑顔のノイマンが、カメラら向かってそう告げる。
「次回は、新たなる『眼鏡萌え』キャラとして生まれ変わりたいと思います」
 チャンドラが妙に真面目な表情で眼鏡の端を持ち上げる。
「でも、その眼鏡じゃムリだろ?!」
「会長〜っっ!そりゃないでしょぉ〜っ!」
 ムウの鋭いツッコミに、ガックリと肩を落とすチャンドラに、再びスタジオの中は笑いの渦に巻き込まれたのでした。



この話は、某T様のブログを拝見した時に「ちょっと書いてみようかなぁ〜」と思った物です(^^ゞ
どんな事かと言うと「ムウ声で”うひょ〜っ!”というボタンがあるといいなぁ」というネタ。
えぇ、あの『トリ○アの泉』の”へぇ〜”ボタンの”うひょ〜っ!”バージョンって事で(爆)
そんなボタンがあったら、私は即購入でしょうねぇ〜♪

そんな訳で『トリ○ア』ならぬ『モエビア』という話にしてみました(何じゃそりゃ

次回は、品評会会長にアーサー・トライン氏をお迎えして
”え゛ぇ〜っ?!”なネタをお送りしたいと思います(ウソ


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