嬉し恥ずかし、初めての……   後編


 11月に入った頃、マリューはムウの誕生日に何をプレゼントしようかと1人悩み始めていた。
 その胸元には、あの日ムウから貰ったお揃いのネックレスが今日も揺れている。
 ゆったりとした時間の流れる休日の朝、部屋の掃除を終えると買い物に出かける事にしたマリューは、玄関先の鏡に写り込んだネックレスを見つめるとふわりとほほ笑む。
 今日はそれぞれバラバラの1日だけど、でもこのネックレスでつながっているような気がするわ……そんな事を思いつつ、マリューはショッピングモールへ出かけた。

 1人だから、ゆっくりとウィンドウショッピングも兼ねるつもりでやって来たのは、いろいろな店舗が入っているヒミコショッピングモール。
 食料品から衣料品まで何でも揃うから、ムウへのプレゼントも見つかるかもしれない……そう思いつつ、マリューはモール内を歩きまわる事にした。

「ん〜、色々と見すぎて、逆に分からなくなっちゃうわ」
 カフェの店内でランチのベーグルを頬張りながら、マリューは今まで見たお店の商品を色々と思い起こす。
「どちらにしても、今年の誕生日はムウの出張最終日だから、帰ってくるのは夜になるだろうし……」
 とりあえずケーキはガトーショコラを焼くつもりだけど、プレゼントはどうしようかしら?……そう考えながらベーグルを食べ終わったマリューは「本屋で何か情報誌でも見てみようかしら?」と思いつく。
 そう思ったら彼女の行動は早い。
 残っていたカフェオレを飲み干すと、ショッピングモールの2階にある本屋へと向かった。

 早速、色々な情報誌を立ち読みしていたマリューは、とある女性誌の広告のページに目が留まった。
「これ……いいかも!」と呟いたマリューはその雑誌を棚に戻すと、別の分野の本が並ぶ棚から目的の本を探し出す。
 その場で中をペラペラと捲ると、あるページではたと指を止める。
「……うん、これがいい」
 開いたページに書かれていた事に一通り目を通すと、納得したのか本を持ってレジへと向かった。

 その後、ショッピングモール内のとある店に行くと、大きな袋いっぱいの買い物を済ませて自宅へと戻るのだった。


「しかし、今年はお互いの誕生日に1日中一緒に過ごす事が出来ないなんてさぁ……ツイてないよなぁ〜」
 エレカのトランクからスーツケースを降ろしながら、ムウはブツブツと文句を言っている。
「そんな事言っても、貴方の出張が中止になる訳ないわよ」
 困ったような表情で溜息をつきながら、マリューも荷物を降ろすのを手伝っている。
「でもさぁ、なんでわざわざ俺の誕生日に出張入れるのさ?」
 これはきっとあのお嬢ちゃんの策略だな……と、大真面目な顔で言っているムウに、マリューは「カガリさんは、そんな公私混同するような人じゃないでしょ」と窘める。
 が、それでもまだブツブツと「だけどなぁ」と文句を口にしようとするムウに「いつまでもそんな事言ってるなら、ケーキ焼くのをは止めますけど」とマリューは言い放つ。
「あ、それは作ってくれよ〜!ちゃんと仕事はするって!」
 彼女の一言に慌てたのか、ムウはマリューの両肩を掴むと焦ったような表情でそう訴えた。
「誕生日には、ちゃんとケーキ準備して待ってますから」
 ムウのあまりの慌てぶりに思わずマリューがクスクスと笑いながらそう言うと「良かったぁ」と、ホッとした表情に戻る。

「んじゃ、あとよろしくな」
「えぇ、行ってらっしゃい。気をつけてね」
 見送りの挨拶をすると、2人はいつものようにキスをしてムウはカガリ達との待ち合わせ場所へ。
 そんなムウの後ろ姿を見届けると、マリューはエレカに乗り込んで自宅へと戻った。

 ムウの出張は今日から1週間。
 自身の誕生日に帰ってくる予定だ。
「下準備は出来てるし……1週間あれば、なんとか仕上げられるわね」
 自宅に戻ったマリューは、先日ショッピングモールで買出ししてきた大きな袋の中から色々な材料を取り出すと、腕まくりをして嬉しそうにそれを広げ始めるのだった。


 そして1週間が過ぎた11月29日の夜。
 空港に到着したムウは、カガリ達と挨拶を済ますと転がるようにタクシー乗り場へと急ぐ。
 その後姿を見たカガリは「アイツ……マリューさんに会えるとなると行動力が違うな」と少々呆れたような声を出す。
 隣にいたキサカが、フッと笑いながらカガリの左側に視線を向けると、嬉しそうな表情のアスランがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「……あぁ代表の大切な方も、待ち切れなかったようですよ」
「わ、私は迎えに来いとは言ってないぞ!!」
 アスランの姿に気づいたカガリはとたんに顔を真っ赤にすると、その気持ちを否定するかのような言葉を口走る。
「素直に『ありがとう』と言った方が良いですよ」「う、うるさい!分ってるっ!」


 タクシーでムウが自宅に到着したのは、夜10時を過ぎた頃。
「ただいまーっ!!」
 夜だというのに大声でそう言いながら玄関に入ったムウは、リビングから聞こえる「お帰りなさい」というマリューの声で途端に顔がほころぶ。
 ガラガラとトランクを引きずりながらリビングに入ると、ふんわりと甘い香りがムウの鼻腔をくすぐった。
「お、この香りは……ガトーショコラ!」
 焼き上がったガトーショコラを乗せた大皿を手にしたマリューが「うふふ。正解」と言いながら、それをテーブルまで運ぶ。
 ケーキの大皿をテーブルに置くと同時に、ムウは「1週間ぶりのマリューだ」と、彼女をギュッと抱きしめた。
 そんなムウの行動に「もぅ、ムウったら……」と困ったようにマリューは笑う。
「お誕生日、おめでとう」「ん、ありがと」
 囁くような声でお互いに告げると、マリューは軽く背伸びをするようにしてムウの頬にキスをする。
 そんな予想外の彼女の行動にムウが少しだけ驚いていると「とりあえず、私からのお祝いね」と、いたずらっ子のような笑みをマリューは投げかける。
「もっと欲しいな。マリューからのプレゼント」
 ニヤリと笑いながらそう告げたムウに、マリューは「じゃあ……まずは、ケーキ食べるでしょ?」と、するりとその腕を抜け出てしまう。
「あ〜……うん、食べる」
 腕の中から消えたマリューの温もりに少しだけ落胆しつつも、とりあえずはケーキを食べたいと思ったムウは、素直に椅子に腰を下ろした。

 マリュー特製のガトーショコラを食べつつ紅茶を口にしたムウは、満面の笑みを浮かべていた。
「やっぱりマリューと一緒に飲む紅茶が、一番ウマいな」
 ムウはしみじみと呟きながら、ティーカップを持ち上げてアールグレイの香りを楽しむつつ口に含む。
「紅茶だけじゃないわよ」
 自身も紅茶を一口飲んだマリューは、ガトーショコラを頬張る恋人を見つめて微笑む。
 そして、ムウの口に端に付いた生クリームを自分の指で拭き取りながら「やっぱり、1人で食事するのって美味しくないって思ったわ……私も」と告げた。
「マリューと一緒って事が、何よりのスパイスだな」
 そう言うが早いか、生クリームが付いたままだったマリューの指先を捕まえるとペロリと舐めとる。
「……もぅ……」
 マリューは、ムウのそんな行動に少し頬を赤らめると、それでも嬉しそうに「ムウが「美味しい」って言ってくれる事が、私にとっても最高のスパイスよ」と答えた。
「マリューが俺の前に座っていて、ニコニコとしていてくれるだけでいい。それ以上は何も望まないよ」
 そう言うと、ムウは触れたままだったマリューの手を引き寄せると、その手の甲にキスを落とす。
「俺の誕生日にマリューがいてくれて……ありがとう」
「これからもこうして、お互いの誕生日をお祝いしましょうね」
 約束よ?とマリューが笑顔で問いかけると、ムウは「当たり前だろ」と微笑みを返した。

 デザートの後片付けをしようとしていたマリューは、スーツケースと共に寝室に向かおうとしたムウに声を掛けた。
「お風呂、沸かしてあるからどうぞ」
「お、サンキュー」
 ムウが嬉しそうに返事をしたのを確認すると、マリューは「うふふふ」と1人で微笑みながら後片付けを始めた。

 寝室に入ったムウはスーツケースを部屋の片隅に置くと、クローゼットから自分の着替えとパジャマを取り出してお風呂に向かった。
「んじゃ、先にお風呂入らせてもらうよ〜」「どうぞ」
 洗い物をしているマリューに向かって声を掛けたムウは、リビングのドアに手を掛けながら振り返る。
 そして思い出したように「良かったら一緒に入らないか?」と、ウキウキした声で問い掛けた。
「出張の疲れを取るならば、1人でゆったり入る方が良いんじゃない?」
 マリューは、ムウからのお誘いを笑顔でやんわりと返すと「え〜、俺はマリューと一緒に入った方がだなぁ……」と口走る。
 が、そんな事にはお構いなしといった様子で鼻歌混じりで洗い物をしているマリューの姿に、ムウは「チェッ」と残念そうに舌打ちするとバタンと扉を閉めた。
 どうやら説得する事を諦めたムウが、大人しく1人でお風呂に入ったようだ。
 洗い終わった食器を拭きながら、マリューはそっとリビングを見渡し、ムウの姿がそこにはない事を確認する。
「やっとお風呂に入ってくれたわね」
 今度はマリューが悪戯っぽい笑みを浮かべると大慌てで食器を片づけ、キッチンを後にした。

「俺にとっちゃ、マリューと一緒にお風呂に入る方が、絶対に癒しなんだけどなぁ〜」
 ムウはその頃、ぶつぶつと文句を言いながらガシガシと頭を洗っていた。
「あ〜、こうなったら、後で覚えてろよ〜」
 ぜってー寝かせないからな!などと言いながら、ムウは勢いよくシャワーのコックを捻ると、激しく床に叩きつける水音がバスルーム内に充満する。
「うぉりゃ〜」と叫びながら、ムウはシャンプーの泡を洗い流していると、シャワーから出るお湯の湯気で、バスルーム内が白く霞んで行く。
 そんな様子を、更衣室越しのドアの向こうで聞き耳を立てていたのは、他の誰でもないマリュー。
「……今がチャンスね」
 勢いあるシャワーの音が廊下まで漏れているのを確認すると、マリューは静かにドアを開けて更衣室に忍び込んだ。
 そして擦りガラスの向こう側のムウに気付かれないように気配を消しつつ、棚の中身を入れ替えると、再び気付かれないように更衣室から出て行った。
 ゆっくりと更衣室のドアを閉めたマリューは、ふうっとため息をひとつつくと「作戦成功ね」と、くすりと笑みを漏らすと、急いでリビングに引き返した。

 マリューとは一緒に入浴出来なかったものの、ゆっくりとバスタイムを満喫したムウが、身体中から湯気を立ち上らせてバスルームから出てくる。
 置いてあったバスタオルで体を拭くと、棚の上に置いてあった着替えに手を伸ばす。
 下着を身に付けパジャマに手を伸ばした時に、ムウは「あれ?」と首を傾げた。
「おっかしいなぁ?俺が持ってきたのって、水色のパジャマだったよな?」
 目の前にあるパジャマは、どう見ても淡いオレンジと黄色のチェック柄。
 不思議に思いつつ、ムウはそのチェック柄のパジャマを目の前で広げてみた。どうやらサイズからすると、ムウの物で間違いはなさそうである。
 そして、そこで再び首を傾げたのだ。
「どう見ても俺のサイズだけど……こんな色のパジャマって、あったっけ?」
 う〜んと唸りつつも、とりあえずはそのパジャマに腕を通す。そして「マリューに聞けば分かるか」と呟くと、タオルで頭を拭きながらリビングに向かった。

「なぁ、マリュー」「はぁい?」
 リビングのドアが開くのと同時に、ムウはソファに座ってテレビを見ていたマリューに声を掛ける。
「このパジャマって……」
 ムウが口を開いた瞬間、振り返ったマリューがムウの姿を見て「良かった。サイズ、ピッタリね」と微笑んだ。
「って事は、コレは新しく買ってきたヤツ?」
 嬉しそうなマリューの様子を確認しつつ、ムウは冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し口を付ける。
「うぅん、違うの」「へっ?」
 うふふふふと少し恥ずかしそうに笑うマリューの真横に腰を下ろしたムウは「どういう事?」と、片手で彼女の肩を抱き寄せた。
 突然抱きすくめられたマリューは、彼の温かい身体から立ち上るボディソープの優しい香りに思わず深く息を吸い込む。
 そして少しだけ上目遣いでムウを見上げると「実はね、ムウのサイズに合わせて、自分で作ってみたの」と、恥ずかしそうに頬を染める。
「えっ?コレ、マリューが作ってくれたのか?」
 そんな告白に驚いたムウは「すげー!」と感嘆の声を上げると、両腕でマリューを思いっきり抱きしめた。
「ムウ、苦しいわよっ!」と笑いながら彼の肩口に顔を埋めると「このパジャマが、私からのもう一つのプレゼントよ」と呟く。
「マリュー、ありがとう」「いいえ、気に入ってもらえたのならば、頑張った甲斐があったわ」
 お互いに見つめあい言葉を交わすと、ムウはマリューに優しく口付ける。
 しばし無言の時間が過ぎ再び視線を合わせると、ムウは「それにしても、よくこんなピッタリに作れたよなぁ」と感心する。
「貴方のサイズは全て把握してるわよ」「そうなの?」
 にっこりとほほ笑んだマリューは、自らムウに腕を回し抱きつくと「だって、私はムウの奥さんですもの」と小声で囁く。
「さっすが、俺のマリューだな!」
 再びマリューを抱きしめたムウがそう笑うと「何よ、それ」とマリューも思わずクスクスと笑っていた。

「じゃぁ、私もお風呂に入ってくるわ」そう告げてソファを立ったマリューに、ムウは「それにしても、いつの間にパジャマなんて作ってたんだ?」と問いかけた。
「ムウが出張に行ってる間によ」
 マリューが答えると「えっ?たった1週間で?」と、驚いたムウの声が返ってくる。
「でも、その前から少しずつ準備してきたし、この1週間で縫って仕上げたって感じね」
 ムウがいなかったから、たっぷり時間があったし……とマリューが笑うと、ムウは「えっ?じゃあ、俺がいたらマリューの時間が無いって事?」と聞き返す。
「だって、あなたって家にいたら、ずーっと私の傍にくっついてるじゃない?」と、ムウの質問にマリューは少し意地悪な表情で答えた。
「そりゃあ、いつだってマリューを近くに感じていたいからなんだけどなぁ」
 いかにも当たり前だという表情で話すムウに返す言葉が見つからなかったマリューは、少し呆れたようにため息をつくと「……お風呂に入ってきます」とリビングの扉を閉めた。
「おーい、早く入ってこいよ〜」というムウの言葉を背に受けて、マリューはちょっと困った笑みを浮かべると「はいはい」と返事をしてバスルームに向かうのだった。

 30分程して「あ〜、気持良かったわぁ」という声と共に、マリューがリビングに戻ってきた。
「マリューの好きなトーク番組が始まるぞ〜」
 それまで1人でテレビを見ていたムウは振り返りざまにそう告げると、そこにいたマリューの姿を見て「おっ?!」と驚いた声を上げた。
 濡れた髪をタオルでまとめ、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出していたマリューが身に纏っていたのは、ムウと同じチェック柄のワンピース。
 更にその上には、同じ布で作られたボレロ。
 スカートの裾と胸元、更にボレロの襟にもやわらかそうなレースが縫いつけられていて、同じ布地なのにフェミニンなイメージを与えていた。
「マリュー……もしかして、それって……」
 思わずソファから立ち上がったムウは「俺とお揃いって事?」と、1か月前にも2人の間で話題に上った単語を口にする。
 するとマリューは「えぇ……せっかくだから、同じ布で作ってみたんだけど……」と、恥ずかしそうに頬を染めた。
 その言葉に何も返さず、ムウはマリューの全身をゆっくりと見つめる。
「若い子のを真似て、ロングキャミソール風にしてみたんだけど……やっぱり、こういうのって似合わなかったかしら?」
 何も言ってくれない事に不安になったマリューが、恐る恐るムウに訊ねる。
 するとムウはマリューの目の前に立つと「……むちゃくちゃ可愛いよ、マリュー」と告げながら、ギュッと彼女を抱きしめた。
「なんだか、可愛いなんて言われると……ちょっと恥ずかしいわ」
 抱きしめられた腕の中で、マリューは恥ずかしそうにうつむく。
「そんな風に恥ずかしがると、もっと可愛いんですけど?」
 そう彼女の耳元で囁くように言うと、その頬にキスを落とす。そんな行為にマリューはますます顔を赤らめる。
「……もぅ」
 更に恥ずかしそうにするマリューを見て、ムウはニヤニヤと妖しい笑みを浮かべる。
 が、次の瞬間、急に真顔になったかと思うと「初めてのマリューとのペアルック、嬉しいよ。しかも手作りだし」と言うと「ありがとう」と礼を述べた。
「……喜んでもらえたかしら?」
 ちょっとだけ心配そうな表情でマリューが訊ねると、ムウは優しい笑みを浮かべて「当たり前だよ」と答える。
「この歳になると、ペアルックで出かけるなんて出来ないけどさ、パジャマだったら誰にも知られずに2人の時間が楽しめるしな」
「えぇ、私もそう思ったの。家の中だけならば大丈夫かな?って」
 ムウの言葉にマリューはホッとしたように微笑むと、それを合図にしたかのように「ありがとう」と再び囁くように言うと唇を重ねる。
 お風呂上がりでしっとりと濡れたマリューの唇を堪能したムウが、名残惜しそうにそこから離れると、マリューが頬を染めたまま「でも、ちょっとだけカガリさんの気持ちが分かったかも……」と呟いた。
「え?何が?」
 優しいトーンでムウが訊ねると、マリューは「だって……」と、少し困ったような笑顔で蒼い瞳を見つめた。
「誰にも見られていないけど……でも、ペアルックだとなんだかちょっぴり恥しい感じがするわ」
 そんな言葉を聞いたムウは「何を今更……」とクスクスと笑いだした。
「何よ、笑わなくてもいいじゃない?」
 先程までは恥ずかしそうにしていたマリューが、今度はちょっと拗ねた表情でムウを見上げている。
「だってさ……」「なぁに?」
 ちょっと怒った様子のマリューがまた可愛いと思いつつ、ムウは相変わらず笑いながらその耳元で囁く。
「ペアルックの下のマリューさんの事も全部知ってるのに、なんで服装だけで恥ずかしがるのさ?」
 その言葉を耳にした途端、マリューの顔が一気に真っ赤になる。
「ちょ……ムウッ!何を言い出すのよっっ!」
 そう怒りだすと、マリューはそれまで大人しく抱きしめられていたムウの胸元を力いっぱい押し戻そうとする。
 が、それを許さないとばかりに、ムウは抱きしめる腕に更に力を込める。
 そして「ごめん、ごめん」と笑いながら謝ると、優しい表情でマリューを再度見つめる。
「もうっ……」
 少し不貞腐れたように顔を背けるマリューに、ムウは「このペアルックは、2人だけの秘密だな」とクスッと微笑む。
 するとマリューもその一言に納得したように「確かに、誰にも言えない2人だけの秘密ね」と微笑みを返す。
 そして「私がお揃いでパジャマを作っただなんて、絶対に誰にも言わないで下さいね」と、マリューはムウに念を押すと「あぁ、言わないよ。だってこんな可愛い姿のマリューは、俺だけのものだからな」とウィンクをするのだった。


そんな訳で、先月のマリューさんのお誕生日から引き続き『後編』のムウさんのお誕生日バージョンになります。
なんとなく、ベタベタあまあまなお話が書きたくなった結果が、こんなお話です(笑)
……って、よーく考えたらこの2人って、きっと四六時中ベタベタであまあまでしょうけどね(^^ゞ


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