主寝室の天窓から差し込む光が、白いシーツに包まれて眠る2人を照らす。
 その眩しさに気づいて先に目を開けたのはマリューだった。

 まだぐっすりと眠っているムウを起こさないように気を付けながら着替えると、そっと階下のキッチンに下りる。
 そしてコンシェルジュに電話をすると、10分もしないうちに玄関のチャイムの音がした。
 慌てて玄関に行くと、きっちりと制服を着たコンシェルジュの女性から、大きな箱を受け取る。
 キッチンに戻ったマリューは、その箱の中から朝食の材料を取り出すと手早く調理を始めた。

 30分程でテーブルの上に朝食を並べ終えると、エプロンをしたまま2階の主寝室に向う。
 扉を開けると、未だにベッドでぐっすりと眠ったままのムウに声を掛けた。
「ムウ、朝食の準備出来たわよ」
 シーツから露わになっている肩を揺り動かすようにして起こすと「うぅ……ん〜っ」と、まだ眠そうな声が返ってくる。
「ムウってば!起きなきゃ、私1人で食べるわよ」
 なかなか目を開けないムウを更に強くゆさゆさと揺らすと、両手を頭上に突き上げて「う〜んっ」と大きな伸びをした。
 そして、目を瞬かせながら開けると「おはようのちゅー、して?」と、目の前のマリューを腕の中に閉じ込めてしまう。
「ち、ちょっとっ!朝から何するのよっ!」
 ある程度予想していたとは言え、寝ぼけていても素早いムウの行動を避け切れず、マリューは彼の上に乗るような形で抱きしめられる。
「ちゅーしてくれなきゃ俺、目が覚めないから」
「もぅ、何言ってるのよ〜」
 はぁっと溜息をつきつつも、わざわざ目を閉じて待っている相手にマリューは「仕方ないわね」と苦笑し、自分からキスをする。
 触れるだけのキスをして唇を離したマリューに、ムウは片目を開けて「ちゃんとしたちゅーしてくれなきゃ、起きられねぇなぁ」と、ニヤリと唇の端を上げて笑う。
「……朝からそんなキスさせるの?」「甘〜い1日の始まりには、甘〜いちゅーが必要だからな」
 訳が分からないような独自の理論を展開するムウに、さすがのマリューも諦めた様子で「もぅ……」と小さく怒ると、今度は甘いキスをその唇に落とす。

 ゆるく開いてマリューの舌を受け入れたムウは、されるがままの甘いキスを堪能する。
 甘い疼きが脳髄を刺激して、思わずムウは彼女のブラウスに手を伸ばそうとするが、その直前でマリューは顔をあげてムウから離れてしまった。
「はい、貴方のお望みのちゅーをしてあげたわよ」
 少しばかり紅くなった頬のままでマリューがそう告げると、ムウは少し残念そうな表情を浮かべながらも「人魚姫のキスで、王子様は目が覚めましたとさ」とおどけてみせる。
「もう……は、早く着替えて降りて来てくださいねっ」
 人魚姫と言われた事でマリューは更に顔を赤くすると、恥ずかしそうに寝室を出て行った。


 ゆっくりと朝食を食べながら、ムウはこのホテルのパンフレットを眺めている。
「なぁ、今日はこれからどうする?」
 パンフレットから視線を上げたムウは、目の前の恋人にそう訊ねた。
「特に何も考えていなかったけど……何か面白そうなものでもあるかしら?」
 そう言いつつ、ムウが広げているパンフレットをマリューも覗き込んだ。
「サイクリングってのも、いいかなぁ〜って俺は思ったんだけど」
 ムウはそう呟くと、レンタルサイクルがあると書かれている、コテージの管理棟を指さす。
 よく見ると、島内の海岸線沿いを1周できるサイクリングコースが書かれている。
「2人でサイクリングっていうのもいいわね」
「ほら、こっち側には展望台もあるってさ」
 サイクリングコースを指で辿りながらムウが告げると、マリューは「じゃあ、午前中はサイクリングに決定ね」とほほ笑む。

「で、その後はどうする?」
 オレンジを食べて汚れた手を拭きながらムウが訊ねると、マリューは「う〜ん……」と言いながら、パンフレットをめくった。
 そして、あるページで手を止めると「ねぇ、ムウ……」と、少しだけ甘えたような声で話しかける。
「ん?どうした?」
 そんな話し方をするマリューにちょっとドキドキしながら、ムウは彼女が広げているパンフレットを覗き込んだ。
「……エステに行きたいんだけど……」「エステ??」
 これ……と言って差し出されたパンフレットには『日頃の疲れを癒す贅沢な時間を』と書かれたエステのコースが色々と書かれていた。
「へぇ〜。さすが高級リゾートホテルだなぁ」
 エステの説明に目を通しつつ、ムウは感心した声を上げる。
「でも……これ女性専用だし……ムウを1人で待たせちゃう事になるわよね……」
 やっぱりいいわ……と言おうとした瞬間、ムウが「せっかくだから、行っておいで」と微笑みかけた。
「えっ??」
 驚いた表情のマリューに、ムウは「その間、俺は隣のフィットネスクラブで汗を流してくるさ」と告げる。
「本当に……いいの?」
 マリューは恐る恐ると言った様子で、再度ムウに確認するが「3日間何もしないで身体が鈍っちまったら、パイロット失格だろ?」と笑う。
 たった3日で彼の身体が鈍るとは思えないのだが、その言い訳はムウの優しさだろうと感じ取ったマリューは、素直に「ありがとう」とほほ笑みかけたのだった。



 朝食を済ませた2人は、エレカに乗ってコテージの管理棟に向かう。
 そして2人乗り自転車をレンタルすると同時に、マリューはエステの申込を、ムウはフィットネスクラブの利用申請をしたのだった。


 黄色い2人乗り自転車の前にはムウが。その後ろにはマリューが乗り、息を合わせてペダルを漕いでいく。
 周囲の景色を楽しみつつ、のんびりとサイクリングコースを回り、展望台へ向かう。
 自転車を降り、階段を登って辿り着いた先は、一面が空の青と海の青という世界。
「目に映るもの、全てが青一色だなぁ〜」
 大きく深呼吸をしながら青い世界を堪能していたムウがつぶやくと、マリューも「海と空の青って、癒されるわね」と嬉しそうに胸いっぱいに空気を吸い込む。
 そしてムウの顔を覗き込むとニッコリほほ笑んで「貴方の瞳と同じ色だから、余計に癒されるのかもね」と、少し赤くなりながらつぶやく。
 その言葉を聞いたムウは、そっと彼女の肩に手を回すとゆっくりと自分の方に引き寄せて抱きしめる。
「俺は、マリューがそばにいてくれるだけで癒されてるぜ」
 甘い香りのするマリューの耳元でそう囁くと、彼女がくすぐったそうに「もぅ……」と照れた声で答えた。
「なぁ、俺も癒してくれない?」「えっ?」
 そう言うと、マリューの顎先をクイッと持ち上げて唇を重ねる。
 優しく触れるキスをすると、ムウは「やっぱこうしてる時が、俺の一番の癒しの時間だな」と、妖艶な笑みを浮かべる。
「……誰かに見られたらどうするのよっ!」
 顔をさらに赤くしたマリューが怒った口調でムウを見上げるが、当の本人は「ちゃんと確認したから大丈夫」と、飄々と答えた。
 その上「俺とキスすんの、嫌か?」とまで聞いてくると、さすがのマリューも思わず口籠る。
「嫌いじゃないけど……でも、あまり人前でされると恥ずかしいわよ」
 そう告げたマリューを再び抱きしめると「分かった。今後は人前は避けるようにするよ」と、笑いながらムウは約束した。

「それにしても、どうして2人乗り自転車にしたの?」
 展望台からの帰り道、ムウと息を合わせてペダルを漕いでいたマリューが不思議そうに背後から訊ねる。
「だって、これだとマリューと絶対に離れないだろ?」
 と、少し後ろを振り返りながらムウが理由を説明し始めた。
「え?」
「それぞれ別の自転車だとバラバラになっちまうから、マリューを近くに感じる事が出来ないけど、コレならずーっと背中でマリューを感じていられるからな」
 そんな理由を告げられたマリューは、なんだかくすぐったい気持になりクスクスと笑うと「心配しなくても、離れないわよ」と、ほんの少し甘い言葉を返していた。


 サイクリングを終えた2人は、エレカでホテルの本館に向かう。
 そこで昼食を済ませると、マリューは予約しておいたエステサロンへ。
 ムウは同じフロアにあるフィットネスクラブへ、それぞれ別々に移動した。

 それから2時間後。
 たっぷりとトレーニングをした後にシャワーも浴びてさっぱりしたムウと、全身のエステで艶々の肌になったマリューは、ホテル内のラウンジでちょっと遅めのティータイムを過ごしていた。
「さすが高級ホテルだけあるぜ。軍のトレーニングルームにもまだ導入されてない、最新のマシンがあったし」
 少々興奮した様子でフィットネスマシンの説明をするムウを見つめながら、マリューは紅茶を飲んでいる。
「あの新しいマシン、軍のトレーニングルームにも入れてもらいたいなぁ」
「じゃぁ、帰ったら早速申請書を書かないとね」
 ほほ笑んだままのマリューの口から『申請書』という名前が出てきた途端、ムウは飲みかけていた紅茶を吹き出しそうになった。
「し、書類書くのは……俺、苦手だしなぁ……」
 今まで意気揚揚としていたムウの声が急に小さくなった事に、思わずマリューは笑ってしまう。
「申請書は、手伝ってあげるから……ね」
 そのしょげた様子があまりにも可愛らしく、ついマリューが助け船を出すとムウの表情がパッと明るくなり「サンキュー!愛してるよ」とウィンクをする。
「全く……調子良いんだから……」
 ムウのおどける姿に、マリューは少々呆れ顔。と同時に、ムウが紅茶のカップを置いたマリューの手を取る。
「なんかマリューの肌、プルプルだなぁ」
「だって全身エステしてもらったんだもの。それに最後のアロマオイル・マッサージは、本当に最高だったわぁ」
 ムウはマリューの腕を撫でながら「だからこんなにしっとりしてんのかぁ〜」と関心する。
 そんなムウにマリューが「せっかくだから、マッサージ用のアロマオイル買ってきたの」と言うと「じゃあ、俺にもマッサージして?」と聞き返す。
「そうねぇ……考えておくわ」
 そう笑いながら言ったマリューに、ムウは「前向きに考えてくれよ〜」と苦笑していた。



 ラウンジを後にしようとした2人は、フロント近くの柱に『花火大会』と書かれた鮮やかなポスターを見つけた。
「ねぇムウ、花火大会って、どうやら今日の夜みたいね」
 そのポスターを立ち止まって見たマリューが、振り返りながらムウに話しかける。
「本当だなぁ。偶然にしてはラッキーかもな」
 ふんふんと頷きながらムウもそのポスターを見ると、端の方に『浴衣のレンタルもございます』と書かれている事に気づいた。
「マリュー……浴衣って何だ?」
 ほら、これだよ……とムウが指さす文字を見たマリューも「何かしら?」と首を傾げた。
「分からないなら聞いてみるか?」
 そう言うが早いか、ムウはマリューの手を引くとフロントの従業員に声を掛ける。

 従業員の話によると、今日はこの花火大会の為に、わざわざニホンから花火師がやってきたとか。
 更に、花火大会の見物客達が好んで着るというニホンの伝統的な夏の着物……浴衣もあるので、希望者には着付けをしてくれるという事だった。

「こんな機会、滅多にないからさ。せっかくだから浴衣ってのを着せてもらったらどうだ?」
 従業員から浴衣の見本写真を見せてもらったムウは、絶対にマリューに似合うと確信し、ニコニコしながら勧める。
「ん〜、そうよねぇ。せっかくだから着せてもらおうかしら?」
 すんなりと浴衣を着る事を承諾したマリューは、そのまま従業員から説明を受ける事になった。



 昨日よりも少し早いディナーを終えた2人は、そのままコテージの管理棟にある着付け室に向かった。
 ここで事前に2人で選んだ浴衣を着付けしてもらえるのだ。
 お互い別々の部屋に案内されると、準備してあった浴衣を着付けしてもらう。
 一足早く部屋から出てきたのは、当たり前ではあるがムウだ。
 黄土色と紺色の細かいストライプ状の浴衣に濃紺の帯を締めたムウは、用意されていた下駄に足を入れる。
「へぇ〜、木で出来た履物なのかぁ〜」
 そんな事に感心しつつ、エレベーターホール前のソファに座ると、未だに着付け室から出てこないマリューを待つ事にした。

 それから20分後。
 ようやく着付けを終えたマリューが、少し恥ずかしげな様子でムウの前に現れた。
 濃紺にピンクと白で百合の花が描かれた浴衣に、紅色と黄色の帯。
 さらに、髪の毛もきれいにアップされていて、その白いうなじが濃紺の着物に映えて眩しいくらいだ。
「……どうかしら?」
 口をぽっかりと開けたまま自分を見つめているムウに、マリューはモジモジとしながら恐る恐る訊ねる。
 その声でふっと我に帰ったムウは「あんまりにも綺麗で、言葉が出なかったよ」と、慌てて彼女の手を取った。
「もぅ、ムウったら……」
 ストレートなムウの感想に、マリューは更に顔を赤くして恥かしがる。
 そんな彼女の姿に、いつもよりもドキドキしている自分に気づいたムウは、それを悟られまいと努めて平静を装い「んじゃ、行きましょうか、お姫様?」とおどけてみせる。

 何処で花火見物をしようかと悩んでいた2人に、コンシェルジュの女性が「レインボーコテージでしたら、2階のベランダからでも見られますよ」とアドバイスをしてくれた。
「真下から見る花火も綺麗ですが、遠くから全体を眺めるのも素敵ですよ」と言うコンシェルジュの言葉にマリューも納得したので、そのまま2人はエレカでコテージに戻る事になった。
 ……それに何より、ムウ自身はマリューと2人っきりで花火見物をしたい……と言うのもあったので、嬉々としながらエレカのハンドルを握っていたのだ。

 コテージに戻ってきた2人は、早速花火見物の準備に取り掛かる。
 ムウは2階のベランダにテーブルと椅子を運び出す。
 その間にマリューは、先程のコンシェルジュから「浴衣姿でスイカを食べながら花火を見るのは、夏のちょっとした贅沢ですよ」と聞いた事を思い出し、朝食の残りだったスイカをカットする。
 が、カットしたスイカを盛りつけながら「でも、最初はやっぱりビールよねぇ」と思い、そのスイカは冷蔵庫に入れる。
 逆に缶ビールを数本取り出すと、おつまみになりそうな物と一緒にトレイに乗せた。
 そのトレイ手に2階に上がって行くと「マリュー、そろそろ始まる時間だぞー!」という声がした。
「はいはい。今、行くわ」
 せっかちなんだからぁ……と笑いながら、ムウが準備していてくれたベランダへと向かった。

 気付けば辺りはすっかり暗くなり、心地よい風も吹いている。
 マリューは持ってきトレイをテーブルに置くと椅子に腰かける。
「さて、そろそろだぞ」
 腕時計を見ていたムウがそう言った次の瞬間、ピュルルルという音と共に、地上からひとすじの白い光が空に向かって伸びて行く。
 その光が見えなくなった途端、目の前に色鮮やかな光の大輪が花開き、大きな破裂音がズシンとお腹に響いてくる。
「うわぁ〜!すごい!素敵だわぁ!」
 思わず拍手をしながらつぶやいたマリューは、次々と打ち上げられる花火の光を浴びて微笑んでいた。
「すげー迫力だなぁ〜!」
 その花火に圧倒されたムウは、手にしたビールに口をつける事も忘れ、ただ漆黒の夜空に花開く鮮やかな大輪を眺めていた。

 しばらくすると、それまでとめどなく打ち上がっていた花火がなくなり、辺りは再び漆黒の静寂を取り戻す。
「あ〜、ちょっと休憩ってヤツだな」
 そう言いながらムウは缶に残っていたビールを一気に流し込む。
 マリューは空になった缶を手にすると「まだ飲む?それともスイカでも食べる?」と、ムウに問いかけた。
「ん〜、スイカってのもいいなぁ」
 飲み干したビールの空き缶をマリューに渡すと「じゃぁ、少し待ってて」と言い残して階下のキッチンへ行く。
 しばらくして「お待たせ」と現れた彼女の手には、食べやすい大きさにカットされたスイカが盛られた皿があった。
「一口で食べられるサイズにカットしておいたけど」と、マリューはフォークを差し出す。
 それを受け取りながらムウは「スイカって、ざっくり切って豪快に食べるのがいいけど……さすがに今日は借り物の浴衣だからなぁ」と笑いながら早速スイカにフォークを突き立てた。
「豪快に食べて、せっかくの浴衣を汚しちゃったらいけないものね」
 パクリとスイカを一口で頬張るムウを見て、マリューは嬉しそうにほほ笑む。
「ほら、マリューも食べな」
 そう言うとムウは、フォークに刺したスイカをマリューの口元に差し出す。
「じゃあ……いただきます」
 ムウのフォークに刺さったスイカを一口齧ると、さわやかな甘さと冷たさが口内を満たす。
「夏の外で食べるスイカって、美味しいわね」
 そうニッコリしながら答えると、ムウはフォークの先の齧られたスイカを自分の口に放り込む。
 それをゆっくりと味わうと「マリュー風味のスイカは、格別に美味いなぁ」とニヤリとする。
「もぅ……何言ってるのよ……」
 程よく回ったビールの酔いと恥ずかしさから、頬を赤く染めたマリューが小さな声で呟く。
 と同時に、今まで静かだった夜空に、再びきらびやかな花火が打ち上がり始める。
 パッと開いた花火は、キラキラと瞬きながら光のシャワーのように2人の頭上に降り注ぐ。
「……素敵ね……」
 花火が打ち上がる音に気づいて顔を上げたマリューに、ムウは「マリューも素敵だけどね」と、またもや甘い言葉を紡ぐ。
「わ、私は花火の話をしてたのよっ!」
 そんなムウの言葉に思考がとろけそうになるのを感じながら反論したマリューは、目の前のスイカを口にする。
 照れ隠しで慌てて齧ったスイカの端から、1粒の種がこぼれ落ちそうになった。
「ぁっ……」
 その種はスイカを食べる時に添えていたマリュー左手で弾かれ、浴衣の襟元の合わせの奥に入り込んでしまった。
「やだっ!種が入っちゃったわ」
 そんな様子を一通り目撃していたムウは、すかさず「んじゃ、俺が取ってあげようか?」と席を立ち、マリューの後ろに回り込む。
「じ、自分で取れるわっ!」
 背後から伸びてきたムウの手から胸元を守ろうと、マリューは慌てて襟元を両手で引き寄せるようにして防御する。
「いいからいいから、遠慮しないの〜」「別に、今取らなくても、着替える時でいいのよっ!」
 身を屈めるようにしてムウの魔の手から逃れようとするマリューに「でも、浴衣が汚れちゃうでしょうが?」と理由を付けて覆いかぶさる。
「は、花火……見ましょう!」「マリューの方こそ、下向いてたら花火が見えないでしょ?」
 マリューの白いうなじにフッと息を吹き掛けるようにしてムウが囁くと「だめぇ……」と、小さな声が返ってくる。
 が、そんなマリューの声は、花火の音にかき消されてしまうのだった。



 濃密な2泊3日を過ごした2人は、3日目の昼過ぎには自宅に戻ってきた。
「あ〜、玄関を開けると現実に戻るよなぁ……」
 エレカのトランクから荷物を下ろして玄関に運び入れながら、ムウがため息をついている。
「はいはい。残念なのは分かるけど、仕方ないでしょ」
 思わず苦笑しながらそう言ったマリューは、玄関先で座り込んでいるムウの肩をポンポンと叩くと「荷物、リビングに運ぶの手伝って」と一気に通常モードの口調に切り替えた。
「へいへ〜い」
 仕方ないとばかりに立ち上がったムウは、トランクを両手に持つとリビングに運び込む。

 先にリビングに入っていたマリューは、3日間締め切ったままだったリビングの窓を開け放ち、海からの風を部屋に入れている。
 そしてどっかりとソファーに座りこんだムウに「ご苦労さま」とほほ笑むと「何か冷たいものでも入れるわね」とキッチンに移動した。
 しばらくして、マリューがよく冷えたジンジャーエールの入ったグラスを2つ持って戻ってくる。
「はい、どうぞ」「ん、ありがと」
 受け取ったグラスを軽く揺らすと、カラランと澄んだ氷の音がする。
「港からずっと運転させちゃったから、疲れたでしょ?」
 ジンジャーエールを飲みながらマリューがムウに訊ねると「ん〜、まぁね。でも大した事ないよ」と笑ってみせる。
 その時、マリューは「そうだわ!」と、運び込まれたトランクの片方から小瓶を取り出した。
「何、それ?」
 不思議そうに問いかけてきたムウに、彼女は「ほら、ホテルで買ったマッサージ用のアロマオイルよ」と言うと、その小瓶の蓋を開ける。
 するとふんわりと柔らかいラベンダーの香りが、海風に乗ってムウの元にも届く。
「へぇ〜、なかなか良い香りがするんだなぁ」
 そう関心しているムウに、マリューは「後で、アロマオイルでマッサージしてあげるわね」と微笑む。
「そりゃ、楽しみだなぁ」
 何か良からぬ事を考えていそうな笑みを浮かべてそう言うムウに、マリューは少しばかりの不安を感じるのであった。



久々の更新は、某サイトマスター様へのプレゼントでございます。
サイトマスター様からのリクエストが『戦後ムウマリュで、舞台は夏で、思いっきりラブラブしてる』という事でしたので
もう、これでもか!ってぐらいのリゾートを妄想してみました(笑)
それにしても、無駄に長いですね……(^^ゞ
その上、絶妙にR−15指定だしなぁ……(苦笑)
とにかく、真夏に周囲が引くぐらいのアツアツ・ラブラブを目指してみましたが、いかがでしょう?
……って、もう8月終わってるっつーの(自爆)



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