ディナーを食べ終えた2人は、そのままショッピングモールを後にすると、少し離れた岬の公園まで移動した。
「ここから街を見下ろすなんて事、初めてかも」
 岬の展望台から見下ろす街の夜景に、思わずマリューが興奮する。
「ココ、意外と穴場なんだよ」
 ちょっと風が出てきたな……と言うと、ムウは着ていたジャケットをマリューの肩に掛けてやる。
「あ、ありがとう」
 肩に掛かる上着の温もりに、マリューはムウを振り返り、ふわりと笑う。
「なぁ、もし良かったらさ、もっといい夜景見てみないか?」「え?」
 展望台からの夜景を微笑みながら見ていたマリューは、ムウの言葉に不思議そうな声を上げる。
「誰も見た事がない夜景、マリューだけに見せてやるよ」
「きゃぁっ!!」
 ムウはそう言うとマリューを抱き上げ、そのまま薄暗い裏山の遊歩道に入っていく。
「ち、ちょっとムウ!自分で歩けますから!」
 突然のムウの行動に驚いたマリューは、そう声を上げるが、ムウは「いや、山の中をそのハイヒールで歩かせられないよ」とそのまま遊歩道を登っていく。
「危ないから、ちゃんと捕まってろよ。5分もすれば着くからな」
 ムウはそうマリューに囁くと、「でも……」と、彼女はまだ迷った声を上げる。
「忘れた?俺はパイロットなんだぜ。そんなヤワな身体してないってーの」
 ムウが笑いながらそう言うと、やっとマリューも諦めた様子で「でも、気をつけてね」と声を掛け、その首筋にぎゅっと抱きついた。

 しばらくして薄暗かった視界が、急に開ける。
「ほら、着いたぜ」
 そう言うと、ムウはマリューをそっと下ろした。
「……スカイグラスパー」
 マリューの目の前に現れたのは、月光に照らされているスカイグラスパーの姿。
「ちょうどココに、ヘリポートがあるのを思い出してさ。合宿所からココまで、ひとっ飛びしたって訳」
 そう言うと、ムウはマリューの手を取りスカイグラスパーに歩み寄ると「ちょっと待っててよ」と言い、身軽にコクピットへと登っていく。
 そしてそのキャノピーを開け、スチール製のはしごを取り出すと、マリューの元に降りてきた。
「何で俺が、今日はワインを口にしなかったのか、分かってくれた?」
「もしかして……私をこれに乗せる為?」
「そういう事!」
 マリューの問い掛けに対し、ムウはウィンクをしながら答えると、再びその白い手を取り、はしごに足を掛けた。
「ちょっと待って!」「ん?」
 はしごを昇ろうとしたムウに、マリューは慌てて静止を求めると、肩に掛けられていたジャケットを脱ぎ「ありがとう」とムウに手渡す。
 そして、履いていたハイヒールを脱ぎ始めると、ムウがそれを手に取る。
「はしごを昇るのに、やっぱりハイヒールは不安定ですもの」「そうだな」
 お互いに見詰め合って微笑むと、ムウはするするとはしごを昇り始める。
 その後に続いて、マリューもコクピットへ。

 副座式のコクピットの前にはムウが、後ろにはマリューが座る。
 シートベルトを締め、積んであったヘルメットも被った。
「準備いいか?」「えぇ、大丈夫よ」
 ヘルメット内のスピーカーから直接聞こえるムウの声が、まるで囁いてくるかのように甘く、マリューは少しだけ酔いそうになる。
 次の瞬間、スカイグラスパーのエンジンが始動し、体中にその振動が伝わってきた。
「じゃ、離陸するぜ」「はい」
 そう言うと機体がふわりと真上に浮き始め、ゆっくりと高度を上げていく。
「では、特別夜間飛行と参りましょうか」
 楽しそうに言うムウに、マリューも「えぇ、お願いします」と返事をする。
 そして機体は、普段感じることにない重力を2人に与えつつ、真っ暗な大空に飛び出していった。

 最初は、身体にかかる重力に驚いていたが、しばらくすると機体も水平飛行に入り、マリューもホッと胸をなでおろす。
「ほら……左側、見てみな」
 再び聞こえたムウの声に「左?」と呟きながら振り返る。
「ぅわぁ〜っ!すごいっ!」
 そこに見えたのは、島の稜線に添って様々な色の光が溢れるように輝いている、スペシャルな夜景。
「宝石を散りばめたみたい……」
「だろ?」
 溜息のようなマリューの呟きを、ムウは少しドキドキしながら聞いていた。
「こんな夜景、普通の人じゃ見られないぜ」
 俺とマリューだけの秘密な?と囁くように告げると「うん」という、マリューの嬉しそうな声が返ってくる。
 見えていないのにもかかわらず、マリューの嬉しそうな表情を感じ取ったムウは「せっかくだから、オーブを1周すっか」と、操縦桿をゆっくりと倒す。
 ふわりとした動きで旋回を始めたスカイグラスパーの中、マリューはただ感嘆の溜息ばかりをあげていた。

「あの光の中で、私達も暮らしているのね」
 旋回を続ける機体に身を任せたまま、マリューがうっとりとしながら呟く。
「1つ1つは小さい光でも、集まるとこんなに素晴らしい輝きを放つんだ」
 噛みしめるようにそう告げたムウに、マリューは「本当にそうよね」と、夜景に目を細めながら答えた。

「俺はさ……」「え?」
 しばしの沈黙の後、突然ムウが口を開いた。
「自分1人じゃ、輝けないんだよ。……マリューと一緒にいるから、輝けるのさ。この夜景のように」
「……ムウ?!」
 突然の告白に、マリューは驚きの声をあげるが、すぐに「それは、私も一緒よ」と、優しい声で囁く。
「マリューが産まれてきてくれて、そして俺と出会ってくれて……本当にありがとう」
「私の方こそ……ムウと出会えてよかった」
 そう答えながら、マリューは自分の顔が熱くなるのを感じた。
「もう、絶対に離れないからな」
 約束したから、と言うムウに「離すもんですか」とマリューが答える。

「あ〜、ダメだ!降りるぞっ!」
「えっ?!急にどうしたのよ?」
 そう言うが早いか、ムウは操縦桿をぐっと押し込む。
 すると途端に機体が急降下を始め、マリューは思わず「きゃぁ〜っ!」と声をあげる。
「何があったの?!」
 機体にトラブルでも起こったのかと思ったマリューが、シートにしがみ付きながらムウに訊ねた。
「マリューにそんな事言われたら、すっげー抱きしめたくなった!」「何よ、それっ?!」
 だから、地上に降りるのっ!と言いながら、ムウは素早く通信回線を開き、軍の管制と繋げる。
「こちらスカイグラスパー、ムウ・ラ・フラガ。予定より少し早いが、今から着陸したい」
<こちらオーブ管制塔。了解しました。B滑走路を使用してください>
「了解」
 着陸許可をもらったムウは、そのままライトアップされた滑走路へスカイグラスパーを導く。
 その間、後ろのシートのマリューは、降下していく独特の重力に耐えながら、ムウの相変わらずの行動力に呆れていた。

 しばらくの後、機体のタイヤが地面と接触した激しい揺れと、同時にかけられたブレーキによって、思わず全身に力が入る。
「もう大丈夫だぞ」
 完全に停止した機体の中で、振り返りながらそう告げたムウは、コクピットのキャノピーを跳ね上げた。
 そしてヘルメットを外すと、先程と同じようにスチール製のはしごをそこに掛け、途中まで足を進める。
「降りられるか?」「えぇ」
 にこやかに返事をしたマリューは、ゆっくりとはしごに足を乗せて、1段、また1段と降りていく。
 一足先に地上に降りたムウは、赤いドレスを風になびかせながら降りてくるマリューを、その真下で待ち構えた。
「きゃあっ!」
 あと5段で地上という所でマリューが足を滑らせ、そのままはしごから手が離れてしまった。
「マリューッ!!」
 背中から落ちてくるマリューの身体を、ムウはしっかりと自身の全身で受け止めると、その勢いで地面に倒れこむ。
「だ、大丈夫か、マリュー?」
 いててて……と言いながらも、腕の中にいるマリューを気にかける。
「ご、ごめんなさいっ!」
 顔面蒼白になったマリューが慌てて彼の方を振り返ると、ムウは微笑ながら上半身を起こし「マリューが無事なら良かった」と、改めて彼女を強く、強く抱きしめる。
「ムウこそ……大丈夫?私の代わりに怪我してない?」「だから……俺は、そんなヤワな身体してないって」
 彼の笑顔を見たマリューは「ごめんなさい、ありがとう」と言うと、そっと唇を重ねる。
「いっさぁ〜!ありゃぁ?もう降りたんですかぃ?」
 その時、スカイグラスパーの整備の為に待機していたマードックの声が、格納庫の方から聞こえ、マリューは慌ててムウの上から立ち上がる。
「あ〜、こんな時間に悪いなぁ〜」
 立ち上がりながらスーツの汚れをパンパンと手で払っているムウが、駆け寄ってきたマードックにそう声を掛ける。
「いえいえ、点検と補給だけですから、1時間もありゃ終わりますし。気にしないで下せぇ」
 そう言うと、後ろからやって来た牽引車に向かって片手を挙げる。
「ごめんなさいね、ムウの我儘に付き合ってもらう事になっちゃったみたいで……」
 少し顔が赤いままのマリューが、そうマードックに声を掛けると「こちらは任せてもらっていいですから、一佐達は、お帰りになって頂いていいですぜ」と親指を立てながら答える。
「じゃ、このお礼はまた今度……な」「……期待せずに待ってますぜ」
 ガハハハと豪快に笑うマードックに「すまんな」と再度謝ると、ムウはマリューの腰に手を回し「んじゃ、行こうか?」と、駐車場へ足を向けた。
「このまま合宿所に帰るんじゃなかったの?」
 彼の休暇は今日だけのハズだと思っていたマリューは、ムウを見上げながらたずねる。
「ん?一応、明日の朝9時までに合宿所に戻る約束だからさ……今夜はマリューと一緒にいられるの」
 そう言うと、嬉しそうにマリューの頬にキスを1つ落とす。
「そ、そんなの、私は聞いてませんっ!」
 驚いた顔でムウを睨みつけたマリューが、そう言い放つが「いいからいいから。さっ、帰るぞ!」とニコニコしながら停めてあったエレカの助手席を開ける。
「ほら、乗って」
「……もぅ」
 嬉しそうに微笑みながらエスコートするムウに、マリューは呆れて溜息を付きながらも、帰路についたのだった。


ぐちゃぐちゃ、ごちゃごちゃのお話になってしまった感は否めないのですが
どうしても、スカグラにマリューさんを乗せてあげたいムウさんが書きたかったんです(苦笑)
それに、昨年のムウさんの誕生日のストーリー等に出てきたハイヒールとドレスが
どういった経緯でマリューさんに贈られたものだったかというのも
自分として、ちゃんと書きたかったもので(^^ゞ
久々に、かなりのハイスピード仕上げだったかも(笑)


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